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すぐそこに迫る「命の選別」~クラスター支援の現場から、坂田医師にきく~

日本中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症。
各地でクラスターが発生し、一部の地域では医療崩壊が始まっています。
この状況下で、本来受けられるはずの医療が受けられず、救える命が救えないということが起きています。

私たち空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は、2020年4月から医療チームを派遣していますが、昨今のクラスター発生施設の状況は特に深刻です。
今回は、クラスター発生の現場に何度も支援に入っている坂田医師からの報告です。


──坂田先生は、数多くのクラスター発生施設に支援に入られています。どんな現場に入り、どんなことを現場で感じられたかお聞かせください。

坂田医師:「これまで小規模から大規模までの高齢者施設、精神科や一般病床の病院へクラスター支援に入ってきました。
支援を開始すると、クラスター発生直後はどこの現場でも切迫感があり、スタッフも緊迫状態でした。ただ、スタッフは数少ない支援・資源の中で一生懸命、できることを模索し、工夫して患者や利用者のケアを行っていました。
しかし、コロナ患者の対応は初めてのところも多く、終わりの見えない状況の中で職員も減ったり、通常業務がどんどん大変になっていくので現場はとても疲弊しています。こうしたことから、スタッフの精神的ケアとして、コロナ対応をする際の心構えのお話しをしています。」


施設での講義


──どのような経緯で支援に入られることが多いですか?

坂田医師:「行政やDMAT、施設から直接SOSをいただくこともあります。NGOの私たちにも声がかかることが増えてきました。
各保健所の情報を集約して全体で把握することが重要だったので、情報共有のために保健所にも入ることになりました。」

──実際に外部支援が入ったことでクラスター施設の様子はどう変わりましたか?

坂田医師:「近くの病院から看護師の感染対策のために支援が入っていたりしますが、現場によって建築構造やスタッフと患者の状態・人数を考慮した対策を行う必要があるため、ゾーニング等の感染対策が異なってきます。
従いまして、他の施設や病院のクラスター支援で得た経験が、現場に応じた指導・提案に活かせてます。結果として、スタッフの業務や感染対策の無駄を省くことができていました。
外部の支援が入ることでコロナ対応の方針が決まるので、現場のスタッフからは『もっと早い介入が欲しかった』という声をたくさん頂きました。」

──具体的にはどのような支援をしますか?

坂田医師:「診療支援・ゾーニング・PPE着脱講習・物資支援・施設スタッフサポート・感染症対策講座などを実施してきました。
講座では個人防護着(PPE)着脱のコツを業務に合わせて細かく説明し、実演して見せることでビデオで学ぶより理解度が深まります。
また、例えば手指消毒が必要と言われてますが何故、必要なのか、直接伝えることを大切にしてきました。そうすることで、スタッフの不安や疑問を一緒に解決できると考えています。」


PPE着脱訓練の様子

──高齢者施設や精神科の病院の方々はどのような状況でしょうか?

坂田医師:「私たちが支援に入るのは、認知症の高齢者がいる施設や精神疾患の患者がいる病院が多いのですが、一般の病院に比べクラスターが発生しているという状況を認知することが難しい場合もあります。
徘徊してしまったり感染対策に協力を得られないこともあるため、感染した際に入院することが難しいことがあります。
入院すると病院側で感染管理ができなくなり、入院先で感染が拡大してしまうリスクがあるからです。
こうした入院できない方々に対しても、命の選別が行われないよう、私たちのような外部支援が必要であり、支援に入るべきだと思っています。」

──認知症や精神疾患を持つ方々がいる現場へ支援に入る際はどんなことを心がけていましたか?

坂田医師:「そのような方々は、病院という『治療』を行う場にいるのではなく、自分たちの『生活の場』で感染しています。
そこで生きて、そこで生活をしている人たちなので、そこを感染対策のために病棟のような無機質な状態にしてしまうのはスタッフにとっても利用者にとっても抵抗があります。人の家を勝手に変えることと同じで、倫理に反することだと思っています。
だから、私は支援現場では、感染対策を白黒はっきりさせることが全てではなく、『人間らしさ』を大切にしつつ、感染対策としてどこまで許容できて、できない場合は代替案を出して、現場に寄り添うことを心がけてます。」

──現在、一部の地域では医療崩壊が現実のものとなり、誰もが平等に医療を受けられるという日本の医療体制は崩れてしまいました。これは決して、他人事ではありません。これを読んでくれている方々に伝えたいことはありますか?

坂田医師:「今、現場は逼迫していて、いつ誰がこうなってもおかしくないという状況を一人でも多くの人に知ってほしいからこそ、今回、話をさせて頂きました。
実際、行政が出している病床使用率よりも現場は逼迫しています。例えば、病床使用率50%、60%というあの数値をみて、残り40%あると思わないでほしいです。
もし、病床が空いていても満床にすると本当に重症の人が入院できなくなってしまうのです。症状は人それぞれ違いますし、ベッドを満床にして上手く回すことは困難です。その状況では既にとんでもない数の人が入院できない状況になっています。
だから、そういうことを知って、自分のおじいちゃんやおばあちゃんが専門家に診てもらえずに施設で亡くなってしまう、もしくは、自宅で亡くなってしまう可能性があるということを知っていただきたいですね。」

WRITER 坂田 大三

ピースウィンズ・ジャパン 空飛ぶ捜索医療団 医師 千葉県習志野市出身。外科専門医。 2019年2月から現職、バングラデシュ国ロヒンギャ難民キャンプ診療所運営に携わりつつ、平時は広島県の僻地診療所、災害時にはARROWS医師として現場へ派遣。

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