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Google本社でAndroid開発を経験した後、社員5名のベンチャーへ
ーー本日はよろしくお願いします!前半は宮川さんのご経歴に焦点を当ててお話を伺います。新卒ではGoogleに入社されていますが、大学時代に進路を決めたきっかけや理由を教えてください。
東京大学に入学した後にコンピュータ系のサークルに所属し、ゲームやLinuxに触れる機会があったこともきっかけで、理一から情報科学科に進学しました。
情報科学科ではいわゆるコンピュータ・サイエンスを学んでいたのですが、実は当時は、今言われている「AI」の技術要素となる数学・統計全般については苦手意識を持っていました。その苦手意識とサークル活動で触れた技術が相まって、システム系の研究室の方へ興味を持っていくようになったんです。結果として京や富嶽などのスパコンで大活躍している石川裕先生の研究室に入り、修士までLinuxを中心にOS周りの研究をしていました。
大学時代は同期にPFNの創業者、後輩にはTreasure Dataの創業者がいるなど、周囲の人は総じてレベルが高く、コンプレックスに感じたこともありましたね。
Googleへの入社ですが、実はGoogle新卒採用は私が卒業した年に始まりました。運よく新卒採用が始まり、じゃあ受けてみようかということで、これも運よく受かったんですね。昔からコンピュータやITが大好きで・・・というよりは、色々な縁があってGoogleに入社したと自分では思っています。
ーーGoogleではどのようなことをされていたのでしょうか。
大学時代にOS周りの研究をしていたこともあり、初めは分散コンピューティング『Borg』のプロジェクトに配属され、ソフトウェア開発者としてのキャリアをスタートしました。
それから少しして、Androidがちょうど日本でリリースされる流れだったこともあり、自分で手を挙げてAndroidの開発プロジェクトに異動をしました。入社直後は海外との会議に出るのが怖いくらいに英語が苦手だったのですが、プロジェクトを主導する本社のメンバーとの関わりが多くあったこと、関わってみると本社の方が働きやすいと感じたことから、アメリカの本社への異動を希望して渡米しました。
今振り返ってみると、Androidを日本に持ってくることに自分から手を挙げて関わることができたのも、縁があったからこそだなと思っています。現在ではAndroidは世界中に普及していますが、当時はiPhoneが先行しており、Androidの成功には懐疑的な見方もありました。これはAndroidに限らず、Googleのプロダクト開発はローンチしてはシャットダウンして、というのを繰り返していますから。
ーーその後、日本に帰国してベンチャー企業の取締役に就任されていますね。Googleというビックテックから、数名のベンチャーへ移る際はどのような意思決定だったのでしょうか。
渡米はしましたが、元々アメリカに永住するつもりまではなかったんです。修行しに行ったというイメージが強かったですかね。Googleにいる間も、Googleのような会社が日本にあれば良いよね、その立ち上げに貢献したい、という感覚を持っていたと思います。
ですので、Android開発の行く末をある程度見届けた後、帰国することにしました。そしてまずは日本で仕事をしていく上での力をつけようと考え、知り合いの先輩が立ち上げたmokhaという会社に取締役としてジョインしました。こちらは当時5名くらいのベンチャー企業で、受託やコンサルティングがメインの事業でした。
大企業やメガベンチャー、いわゆるビックテックに所属している方は、企業の看板や後ろ盾がなくなったとき、果たして自分の力が外部に通用するのか、と考えたことのある方も多いと思います。
自分も、Google社内での仕事の能力が社外でそのまま活かせるかは疑問に思っていましたし、実際小さな会社に所属してみて、仕事の仕方は全然違いました。クライアントとのやり取りや案件の取り方はもちろん、経理上の問題も自分で取り組まなければいけないなど、私としてはmokhaで学ぶことは大変多かったです。
PKSHAでは得意と苦手が混ざった環境を選んだからこそ、重要な経験ができた
ーーその後、PKSHAに転職した経緯と、学んだことを教えていただけますか?
mokhaで5年ほど働いた後、ソフトウェア技術者としての経験値を上げるための次のステップを考えるようになりました。
それがちょうどAI技術が台頭してきた頃です。私は大学時代には現代の言う「AI」にはほぼ触れていないですし、冒頭でもお話しした通り、数学・統計への苦手意識や不安を持っていました。
一方で、AIは今後ソフトウェア開発の世界でも重要なパーツのひとつになると考えていましたし、その裏側にある数学・統計へチャレンジする必要も感じていました。そこで、そういった分野にチャレンジすることにしました。
ただ、ビッグデータやAIといった領域についてつきつめるには、小規模の企業では難しいと感じたのが正直なところでもありました。座学ならまだしも、業務レベルの経験を積もうとしたとき、データ量でも、それに対するAI・数理科学的な体制面でも、ビッグテックやAIベンチャーの方が恵まれています。そこで、このタイミングで新しいキャリアへ一歩踏み出す決断をしました。
実は偶然なことに、mokhaと、次に入社したPKSHAと、JDSCは全て徒歩圏内にオフィスがあるんですよね。東大時代からずっと本郷にいます(笑)それで、AIをやりたいと言いつつ当時PKSHAのことを知らなかったのですが、近いところにAIベンチャーの雄のような企業があるらしいぞということを知り、ご縁をいただいて入社をしました。
ソフトウェア開発のスキルはPKSHAでも十分通用する、と思っていたので、自分はそこで貢献しつつ、PKSHAの方々からAIに関する豊かな情報や経験を吸収しよう、と考えました。
実際、PKSHAはAIに関する守備範囲が広く、経験値を大幅に上げることができたのですが、最大の収穫は、大学卒業から10年くらい経って「数学の苦手意識がなくなった」ことです。別に分かったわけではないのですが、扱う上での苦手意識がなくなったのは人生レベルで大きなことだと思っています。
安全な橋を渡るとこういう経験はできないのですが、自分の中で得意と苦手が混じっている会社を選んだからこそできた経験ですね。
より難解な課題にチャレンジすべくJDSCへ
ーー同じくAIスタートアップであるJDSCに入社した決め手について教えてください。
PKSHAで本格的にAIを扱ってみて分かったこととして、数学・統計的な文脈での難易度も当然なんですが、AIを巻き込んだプロジェクト進行やら、プロダクト開発やらの難易度がとても高いと感じました。PKSHAの取り扱う領域というのもすでに十分広いのですが、まだまだ学べることが世の中にあるはずで、そういう多様な経験をもっと積んでいきたい、と思ったんです。このときは結構いろいろな会社の方々とお会いして、話を聞きましたね。
JDSCに入社した決め手で言うと、大きく2つあって、1つはJDSC(Japan Data Science Consortium)という社名が表しているように、会社をまたいでデータを活用しようというビジョンですね。色々な会社がそれぞれデータを抱えていますが、1つの会社で活用しようとするとその会社の発想でしかものごとは考えられません。これが複数社になると、例えば電力会社と配送会社のデータを組み合わせて電力の利用状況を配送に活かすなど、一方の会社ではできないことができるようになります。AIを扱っている企業はたくさんありますが、社名レベルでこの考え方を持っているのは珍しいです。
最初に話したときにこういったビジョンを聞いて、AI自体が難しいのに、複数社となるとよりチャレンジングだなと、個人的には好意的に捉えました。また、PKSHAには上場後に入社しましたが、上場を目指している段階のJDSCは良くも悪くも動き方や課題が異なります。ビジョンに対して自分がどれだけ関われるかという点もそうです。カジュアル面談のときにも、率直に会社として困っていることについても話してもらい、mokhaからPKSHAにチャレンジしたときの経験からも、自分にとっては難しい課題がある方を選ぶのがいいなと思いました。
2点目は、「オフィスが語る雰囲気」がすごく良かったことです。経営者が語るものとオフィスが語るものがずれている会社も多くありますが、それがなかったですね。部門間の分け隔てがないことだとか、社員同士のカジュアルなやり取りだとか、執務スペースが整っているだとか、そういったものが雰囲気を作り上げるのだと思います。
これは転職するときに地味に重要だと思っていまして、PKSHAも非常に良かったですし、JDSCも良いと自分は感じています。今はコロナでなかなか難しいのですが、可能な状況になれば是非遊びにきてほしいですね。
採用する技術にも強いこだわりをもって、エンジニアの働く環境を改善
ーーJDSCでの宮川さんの役割を教えてください。
もともと、ソフトウェア開発一本ではなく「開発者をエンパワーする」という視点をキャリアに含めたかった思いがあり、JDSCには明確にその役割で入社をしています。大学時代にコミケのスタッフを経験したり、mokha時代に個人で技術者向けのイベントを主催したり、手伝ったりするなどした経験から、人をエンパワーすることが好きというのは以前から思っていました。
具体的な役割は、物流関連に提供するプラットフォームを開発する、社員とパートナー含む10名のチームのマネジャーとして、思うようなプロダクトを開発できる環境を整えることです。
AIを主軸に据えたソフトウェア開発は、そうでないソフトウェア開発と⽐べて同時並⾏で考えなくてはいけないことが⾶躍的に増えます。特に複数領域に⼿をのばす傾向のあるAIスタートアップでは「DWHやデータマートを⼀旦固めてそこを橋頭堡にする」ことが(単⼀プロダクトを伸ばすタイプと⽐べて)非常に難しいです。プロダクトを顧客に適合させる際に必ず個別の事情があるし、固有の展開が発⽣します。下手したら思った能力が出ないことも・・・。
このようにAIプロダクト開発はエンジニアの考える負荷やノイズが非常に多い状況のため、現場の開発者が実力を発揮できるように、周囲の状況を併せて整理しておくことが大事なんです。
正直、これらの複雑な環境を全て解決するのは非常に難しいと思います。ですが現状、⾃分が把握している範囲では改善傾向にあると感じており、実際、メンバーから「今までで⼀番働きやすい」のような⾔葉をもらったこともあります。こう言ってもらえると、やってて良かった~と思いますね。
ーープロジェクトで採用する技術はどのように決めますか?
まず私自身ひとりの技術者として、技術についてはウォッチし続けています。その際は、一過性のものなどを掴まないように、技術の背景事情も含めてよく観測し、使うか使わないかを考えるようにしています。
具体的に意識していることとしては、Googleを辞めて日本に帰ってきてから身につけたことなのですが、数年後に⼤きな波をつかめるかどうかを冷静に⾒極めることです。技術が表⾯上の「⾯⽩い」かどうかではなく、その⾯⽩さが、例えばデータエンジニアリングであれば、社会の要求の変化という波・⾵を捉えられるかを考察するようにしています。
見極めるために、マネジメント寄りの仕事をしている最中ではあるものの、チュートリアルは実際に触っていますし、エンジニアの日々の発言も追いかけ続けています。加えて、選んだ技術がどういう帰結をたどったかは、フォーマルにでなくて構わないので分析するようにしています。エンジニアに限らず、自分の判断について振り返って分析するクセをつけるのはおすすめです。
このように自分でウォッチをした上で、チームが使う技術も、いっときの流行り廃りではなく、チームの向かう方向に合っていて、そしてそれ自体地に足のついた技術になっているかはチェックできるようにしています。ここであえてチェックという表現を使ったのは、あくまで実際に開発するメンバーの意向が重要ですので、私がすべて決めているわけではないからです。ただ、それが自分がウォッチしている事情と照らし合わせて「違和感」がないかは、きちんと確認しておけるようにしています。
また、自分は採用も担当していますが、採用においてもチームが使う技術は重要です。チームが適切な技術を選択していれば、募集をかけたときにも(外部の技術者の層も厚いので)優秀な人が素早く集めやすくなります。実際、プロジェクトの途中で利用するフレームワークを入れ替えて、そのときは時間がかかってしまったものの、その技術を使っている人が多いこともあって採用がしやすくなり、かえって進捗が良くなったということがありました。
ーーマネジャーとして、プロダクト開発に関して意識していることはありますか?
プロダクトを持つことは重要だと考えていて、マネジャーとして取り組んでもいるのですが、プロダクトを作る上ではエンジニアが開発のことだけ考えているのでは難しいと思っています。
この考えを持つようになった背景には、PKSHA在籍中の後半に、コーポレートエンジニアリングに関わっていた経験があります。エンジニアは文脈を考えずにとりあえず開発してみる、最初に色々いじくりまわすというのは得意なのですが、みんながソフトウェアの方だけを向いていても良いプロダクトをつくるのは難しいのかな、と思います。経営戦略や経営管理、管理会計が開発に与える影響も多分にあるのです。
ですので意識していることとしては、マネジャーである自分がそういったことを整備して、ソフトウェア開発者は開発に集中できる環境をつくることです。開発だけ考えていては上手くいかないといいつつ、ソフトウェアをつくりたいのがエンジニアなので。
自分にとって安全でない領域へ、常にチャレンジしていきたい
ーー宮川さんご自身の、今後の目標を教えてください!
まず、帰国する際にも抱いていた、「日本にもGoogleのようないい会社をなにがしらつくってみたい」という考えはベースにあります。
今までのキャリアでも、そのために自分に必要な要素を取りに行っていて、PKSHAに入ったときは、ソフトウェア開発者として入ってAIや数学に関して学びましたし、JDSCでは、自分のキャリアに合致する形でエンジニアリングマネージャを務めています。
なのでどこかのタイミングでまた新しいチャレンジをするでしょうし、例えば大学に戻って博士で研究するのも1つありかなとは思っていますが、あまり絞っていないというのが正直なところですね。ただ、自分にとって安全でないところ、あまり得意でなかったりよくわからなかったりするところには入っていきたいと思っています。
データエンジニアリング・AI領域にキャリアを「拡大」させたい方、お話しませんか?
ーー最後に、採用メッセージをお願いします!
私自身、色々な縁、運に恵まれて今のキャリアを形成してきましたが、中盤で「AI」の経験値を積めたことは非常に貴重だったと考えていますし、現在も多くのことを学んでいます。
もし、ソフトウェアエンジニアリングでは経験を積んできて自信があるけれど、AI領域には触れてきておらず、どこかのタイミングでチャレンジしたい、と考えている方がいれば、是非「話を聞きに行きたい」から私とお話しませんか?