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進むHR領域でのAI活用、DeNAではどうしてる?担当者に聞く

人事データを収集・分析するHR Techのチーム立ち上げから5年。

社員のキャリア開発、組織開発を支えるHRシステムを内製開発し、活動領域を広げながらDeNA流の進化に挑み続けているHR Techチームが、生成AIを活用した新たな取り組みを始めています。

2022年に公開した記事のその後、HR領域で進むAI活用について掘り下げます。

INDEX

トップダウン・ボトムアップの両輪でAI活用を推進

──画像や動画、音楽、デザインやマーケティングなど、生成AIはいまや確実に日々の生活に根付きはじめています。DeNAでは全社横断でのAI活用が以前から進んできましたが、2023年7月にGPTを利用した社内でのSlackボットの提供開始を機に、扱いやすいAIが出たことで、職域関係なく、より一層AIの活用が加速しました。実際、各部門での取り組みとしてはどのようなものがあるのでしょうか?

湯瀬 直也(以下、湯瀬):紹介したいものがたくさんありますが、特にスポーツやゲームの分野ではボトムアップで活用や開発が進んでいます。

たとえばスポーツ・スマートシティ事業本部のある部署から「過去のイベントや施策などの情報を学習させた知恵袋のようなAIを開発できないか」と話があり、実現に向けて相談に乗っています。またゲームサービス事業本部ではいくつもの検証ラインが走っていたり、アルムの医療関係者間コミュニケーションアプリ『Join』ではLLMを活用した臨床データの自動抽出と構造化に取り組んでいたり、まさに全社横断でのAI活用が加速しています。


──共通部門での取り組みはどんなものがありますか?

湯瀬:カスタマーサポートは以前からAIの導入が盛んな分野ではありますが、顧客からの問い合わせに対してAIが回答を提案し顧客自身での自己解決を促すなど、問い合わせ自体の削減や対応業務の効率化を目的としたLLMを開発しています。また、法務向けのツールとして、サービスの利用規約の一次レビューやチェックに使えるLLMを開発できないか検証中です。出力に対する人間の検証は必要ですが、こちらも作業効率の向上に大きく寄与すると期待しています。

一方、HRでのAI活用はトップダウンであることが特徴的です。HRは「人」に関する業務なので、決して間違ってはいけないし手を抜くことができない分野です。その中で、AIが活用できる箇所を切り出して運用しています。

──具体的には?

湯瀬:たとえば、新卒配属の作業にAIを組み込んでいます。あくまで最終判断はHRの責任者が行うのですが、新卒、受け入れ部署からの膨大な面談情報などを整理し、人間が行う判断だけでなく見逃してしまったかもしれない細かな点まで含めた提案をAIが行い、意思決定をより円滑に正しくできるようなサポートを行っていたりします。

人間の記憶量や思考にはどうしても限界がありますが、AIは機械のスペックさえあれば何通りでも考えだすことが可能で、むしろ得意分野でもあるので最適な使い方だと言えます。

▲配属マッチング分析により、人事による新卒社員の部署配属面談の設定をサポート。画像はイメージ。


また新たな活用例として、目標管理・評価ツール「Moonshot」での目標設定をサポートするAIアプリケーション「Moonshot Advisor」があります。

AIがストレッチな目標設定をサポート


澤村 正樹(以下、澤村):「Moonshot」は2021年の評価制度のマイナーアップデート時、目標設定から評価までのプロセスが新しくなったことに伴い内製した評価ツールです。目標の進捗を言語化して上長と話し合うことで、よりストレッチ目標を狙って達成につなげていこうというコンセプトが根底にありました。「Moonshot Advisor」はそのストレッチな目標設定を対話を通じてサポートするAIアシスタントです。

AIアシスタントと壁打ちをすることで、自身で期初に立てる目標がストレッチなものになっているかを客観視でき、AIと対話をしながら、自身のグレードによる期待値に応じて、より明確で達成可能な目標を設定することができます。

──具体的にはどのように目標設定をサポートしてくれるのですか?

湯瀬:AIとテキストで対話をしながら進めていきます。

まずグレードと部門の目標を入力し、個人の目標を入力するとスタートします。たとえば「事業ポートフォリオを深化・進化させたい」と入力すると、AIが「背景やコンテクストを教えてください」と返してきましたので、 「私は◯◯部門の◯◯であり、△△を目指す必要があります」と入力します。

「 具体例をあげてください」と追加すると、より具体的な回答を示してくれます。その他にも、「KPIの例をあげてください」で、具体的な目標に落とし込めますし、目標が固まったら、「SMART基準(※)に沿って記載してください」と伝えると、SMART基準に沿った目標へと整理してくれます。

※……Specific (具体的)・Measurable (測定可能)・Achievable (達成可能)・Relevant (上位目標に関連がある)・Time-bound (期限がある)


▲目標設定をサポートするAIアプリケーション『Moonshot Advisor』。対話を通じて、目標の骨子、適切な難易度の目標設定をサポートしてくれる。スタート時(画面左)、具体例からSMART基準に整理した回答(画面右)。画面上の内容はすべて架空事例。


「Moonshot Advisor」は業務の目標設定を考えるためのさまざまな知識をAIが学習しているので、あたかもマネージャーと1on1をしているかのような形で、目標が適切かどうか、またそのために何をするべきかなどを示してくれる機能です。

澤村:網羅性が高いので、ここから各人がピックアップして目標を設定していくのが効率的な使い方になります。6月にリリースしてまだテスト運用の段階ですが、既に数百名の方が活用してくれています。

──そもそもAIアシスタントのアイデアはどのように生まれたのですか。

澤村:もともとは生成AIをもっと活用していこうという全社横断プロジェクトの中から出てきたアイデアだったのです。目標設定に苦労する、という従業員の生の声があり、それをAIを使って支援することができるだろうかという実験的な開発が走っていました。当初は精度にも課題があったのですが、何度かチューニングやユーザーテストを繰り返すのちに使える手応えが出てきて本格的に全社展開を目指すようになってきました。

──個々の目標設定のアシストとなると、職域やグレードなど、考慮しなければならない要素も多分にあると思いますが、開発にあたってはどのような点に留意されたのでしょうか。

澤村:開発にあたっては、当社の人事制度に定義されている能力発揮の期待値に沿うこと、また上位目標にアラインされていること、ストレッチな目標になっていること、この3点が盛り込まれるよう留意しました。逆に言うと、一般的なSMART形式(具体的で、測定可能で、期限が明確な目標形式)に沿うといったことは当初からAIが得意としていることでした。

──AIを使うより自分で考えたほうが早いんじゃないか、と思ってしまう人もいそうですが……。

澤村:目標設定に慣れている方からはそう言われます。しかし思いの外、目標設定自体に苦労しているという意見は多くありました。そういった方には確実に支援となっていますし、慣れている方にとってもAIを使うと新たな気づきを得るという手応えを得ています。もちろんまだまだ実験的な段階ではありますが、HRとしても全社でストレッチ目標を目指していく上でやれることは大いにありそうだと実感しています。

湯瀬:目標設定はちゃんとやろうとするととても難しいですが、全社が目指す、達成確率50%のストレッチ目標の設定にも定量・定性の両面でしっかりとサポートができるよう、利用者のフィードバックも踏まえ、第2弾、第3弾と改善を重ねているところです。

言葉を生成できるようになり、HRでのAI活用の幅が広がった

──HRのAI活用を加速させた要因は何でしょう?

澤村:ディープラーニングのブームがきた頃と現在の生成AIの潮流ではやはり言葉を生成する点に決定的な違いがあると思っています。これまでも予測や分類の技術はありましたが、HRではそれほどデータは多くないこともあり、使いこなせていなかったというのが実情でした。

ところが、言葉を扱う生成AIの進展によって、HRでも使える点が見えてくるようになりました。HRの領域はその人の解釈や理解につながるような「言葉」を扱うポイントが多く、定量化したとしても理解し次のアクションまでつなげるのが難しかったのですが、生成AIを使うことで、「視点を提案してくれる」という使い方ができるようになったんです。

──「言葉」を扱えることで、活用範囲は広がっていますか?

澤村:そうですね。これまではHRBP(ビジネスパートナー)や部長、マネージャーの皆さんに「言語化」の部分をかなり委ねていましたが、「Moonshot Advisor」や「組織状況アンケート」の分析/解釈などでAIを使うことで、HRで対応できる幅が広がりました。

半年ごとにとっている大規模な組織サーベイでは、今回試験的に始めたのですが、AIがサマリーを出してくれることで「最初に見るべき場所のとっかかりや見ていく順番がわかりやすい」と好評です。一方、「木を見て森を見ずの回答が多い」といったフィードバックもいただいており、改善の余地は多いですが最初の一歩としては手応えを感じています。

湯瀬:AIの生成が会話を通して行われるようになることで、情報を扱う際に求められるスキルのハードルが下がり、誰しもがデータを使いこなせるようになりました。

たとえば組織サーベイであれば、アンケートを通してわかった部署の強みや弱みを分析、部署改善のための提案までをAIが日本語でやってくれます。分析結果が数値などであれば解釈する側にも数字を扱うスキルや試行錯誤が求められていましたが、これからはそういった苦労を大きく軽減して行動につなげられます。

AIをどう動かすか、「HR Tech」次なる進化へ

──生成AIの活用の可能性やこれからについて、どのように考えていますか。

湯瀬:足元の話になりますが、社内のあちこちから受ける「困りごと」の相談に対して、解決策を一つひとつ提案したいと考えています。

中長期的には、LLMが事業ポートフォリオの一部を担うような状況をつくっていきたいと考えています。今でも確実に、社内でのLLM利用者拡大は進んでいます。ただ、現状は周辺業務のサポートが中心で、事業そのものがLLMによって構築されたような例はまだ少ない。ここを一歩進め、「DeNAのこの事業はLLM技術によって成り立っている」といった状況を実現していきたいです。

澤村:現在はまだまだ実験的なフェーズだと考えています。AIの技術もこれからどんどん成熟してくると思っています。だからこそ積極的に実験を繰り返していく必要があると感じています。

一般的にデジタルトランスフォーメーションとよく言いますが、現在はシステム化された後にAIがサポートしてくれる段階だと思います。たとえば車で言えば自動ブレーキなどですね。次はAIと伴走するとか、AIとコラボレーションするとか、そういった段階になってくると思うので、その際に人間が何をするか、AIをどう動かせるかといったところを考えるのもまたワクワクします。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

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