DeNAで働くすべての人の日々の行動や判断の拠り所とする、共有の価値観「DeNA Quality」(以下、DQ)。
働く時間や場所を個々で選択できる仕組みが整い、多様な働き方が定着する中でも、DQはメンバー共通の行動指針として日常に浸透しています。
現在、ソリューション本部データ統括部の統括部長を務める加茂 雄亮(かも ゆうすけ)は、「自身にとってDQは特別なものではなく、普遍的に存在するもの」だと言います。
入社後、Mobageのプラットフォーム開発に始まり、DeNA初となるAI開発部門の立ち上げなど、さまざまな事業やプロジェクトで加茂が一貫して挑んできたのは、Delightをつくり届けるための本質的な課題解決。その加茂に、DeNAで働く意義を問いました。
INDEX
事業の価値を最大化する、AIはその一手段
──加茂さんが統括部長を務めるデータ統括部は、どのような組織ですか?
DeNAは、インターネットとAIを駆使して新しいDelightを提供することをミッション・ビジョンに掲げています。その実現に向けて、全社横断的にデータとAIの活用を司っているのがデータ統括部です。組織としては、AI技術開発部、データ基盤部、データ活用推進グループからなり、私はこれらを統括する立場です。
AIを正しく活用するためには、その事業やサービスのデータが整わなければならないし、「ガバナンス」としてデータをどう守っていくのか、セキュリティも非常に重要です。こうしたエッセンシャルな部分と、データやAIをどう活用するかというアグレッシブな部分を兼ね備えているのが、DeNAのデータ統括部の特徴です。
──AIが急速に普及する中で、DeNAのありとあらゆる事業でAIを活用させることを、どのように考えていますか?
コングロマリットで多様なDeNAの事業に対して、あまねくAIを浸透させて標準化させていくかは、私の仕事の一環です。
生成AIが社会的に認知され、AIそのものがフィーチャーされがちですが、我々はデータ分析や分析基盤が出発点です。データをどう扱って事業に貢献させるかという基盤の上にAIが存在しています。そして2016年頃から深層学習を中心とした機械学習の社会実装を本格的に取り組みはじめました。
データ統括部のミッションに「Leverage for Delight」がありますが、データとAIはテコのようなもので、事業がもともと持つ価値を最大化するための手段として捉えています。なので、AIありきで何かをしようというアプローチではなく、事業の課題、追い求めるKPI、サービスのコアバリューが軸。事業に伴走し、課題や目標に対して、あるいは事業計画に沿って、どんなAI技術を使ってどう適用すればそれがかなうのかをトップと戦略をつくり、ボトムで引き上げていくことがひとつのポイントです。
──実務としてはかなり地道な活動の印象を受けます。
そう、地道で泥臭い。コモディティ化されたAIはすでに膨大な量のデータを食べていますが、それでもまだ事業特有の問題をすべて解決できる万能のソリューションではありません。DeNAの各事業やタスクにフィットしたAIをオートクチュールでつくる必要があるユースケースもまだまだ多い。
しかも、AIをゼロから育てた結果は、やってみなければわかりません。不確実性が高いので、事業に対して細かく目標設定をして、結果が出なければやめるという意思決定も事業リーダーと握りながら進めています。
──一方で、全社での生成AI活用推進にも注力されていますよね。
はい、法的整備やリスクに対する交通整理をしてガイドラインを策定したうえで、全社員にリテラシーを高める研修を受けてもらい、業務へのAI活用を進めてもらっています。そこで、うまく使いこなすための課題となるのが、コミュニケーションやマネジメントの能力なんです。
ChatGPTやGeminiなど、コモディティ化されたAIは基本的に対話がベースになっています。結局のところ、タスクをどう言語化してうまくAIに与えていくか。従業員一人ひとりが部下を持つような感覚で、AIをマネジメントしていくことが、今後とても重要になっていきます。これもトップで戦略をつくり、ボトムで引き上げていくという考え方です。
──トップとボトムの両方からAIを浸透させていくと。
そうです。ポストAI時代では、非エンジニアも含めた従業員一人ひとりがAIを活用し、課題を乗り越えていくサポートをする側面もありながら、技術専門性の塊であるAIエンジニアをより高みへと誘い、事業のトップラインを追いかけるキーパーソンたちと対話をしながら事業にAIを着実に当てはめていく。この両輪が必要です。
キャリアの根底にあるのは、本質の追求
──加茂さんがAIに携わるきっかけは何だったのでしょう?
まだ今のようなコモディティ化された生成AIが流行るはるか前、2015年頃のMobageで「Mobageの中に、まるでコミュニケーションが成立しているかのように対話できるAIがいたらおもしろいんじゃないか」と提案したことが始まりです。当時は特化したタスクに対する機械学習技術が一部の層に徐々に注目され始めていました。
もちろんAIは“How”でしかなく、どうしたらユーザーさんがいかに楽しめるかが本質です。ただ、先述したように当時も勿論AIは万能ではなく、人間側のコミュニケーション能力が必要不可欠でした。Mobageというコミュニティにいるユーザーさんも全員がコミュニケーションが得意なわけではありません。むしろ苦手な人がマジョリティなのではないか。その課題の出発点は、10年近くたった今でも実はさほど変わっていません。未だに、最大限生成AIを使いこなすためには人間側のコミュニケーション能力が求められるケースが多い。それを乗り越えるためのプロダクトとしての価値やプロセス全体を見据えた設計が必要になります。
──AIに行き着いた理由は「本質」を求めるその線上にあると?
本質的な価値って何だろう、と常に考えていますね。実は、元々私はフロントエンドエンジニアで、UI/UXに関わるエンジニアリングをしていたのですが、それって「この体験はユーザーさんにとって本質的価値のあるものなのか」という問いが非常に大切になる領域です。それ以前に携っていたAdobe Flashの技術も既に滅び去って久しいですが、これも同じ感覚でした。思えば「使う側にとっての本質を求め続ける」ことが根底にあって、そのインターフェースが今はAIになっている、という感じでしょうか。
──AI部門が立ち上がったのも、このMobageのプロジェクトがきっかけでしょうか。
そうですね。ここからスタートして、AIを活用してもっといろいろな事業やサービス、プロジェクトで課題解決ができるのではないかと動き出し、それに付随して組織が大きくなっていきました。
──DeNAには、ゲーム、エンタメ、ライブコミュニティ、スポーツ・まちづくり、ヘルスケア・メディカルと5つの柱がありますが、事業領域ごとにチームがあるのですか?
チームトポロジーという組織戦略論を拡張して、5つの事業ドメインに対して、特化したチームをAI技術開発部とデータ基盤部の両方に設け、専属のマネージャーを置いて推進しています。各チームのマネージャーが事業リーダーと一つひとつ、戦略と戦術を練って進め、AI技術のスペシャリストがそれぞれのAIをつくることにフォーカスして進めるという体制です。
──ということは、それら全体の戦略を把握し、組織を設計しているのが加茂さんということになるわけですよね。部門全体で何名くらいいらっしゃるのでしょう?
部門全体では76名ですね。有能なデータエンジニアやAIスペシャリストたちがそれぞれのチーム専属でことに当たっています。ただこれはDeNAの強みだと思っているのですが、コングロマリット的に事業を展開していることで、本当に多種多様なデータに恵まれています。一つの事業にコミットしたいというメンバーもいれば、多様なデータに触れて事業に貢献していきたいというメンバーもいます。いずれにしても、モチベーションの高いメンバーが集っているので、人もデータも一つの事業やチームに閉じずに、横のつながりを大事にした、シナジーを生み続ける組織づくりを意識しています。
──ところで、AI関連の案件はどのようにスタートするのでしょうか。
AIに関する相談はすべて私のところに上がってくる仕組みになっています。たとえば、「新しいAIのサービスを導入したい」「新しいサービスに○○なAIを入れたい」という相談に対して、法的な整理だったり、リスク評価だったり、その国ごとのルールに対してデータを扱うのでゼロから整理することになるのですが、技術的な観点を入れたAIの法的な整理やリスク評価をすることは、全然苦になりません。
──加速度的に進化するAIの技術を思うと、かなり専門的で、面倒で、緻密な仕事なのが伝わってきます。一方で楽しまれているようにもお見受けしますがどうですか?
もともと戦略をつくって実行するということ自体が、楽しいとは異なりますが、好きですね。昔からストラテジーゲームやマネジメントゲームが好きで、流行っているゲームには魅力を感じられずにそういう戦略ゲームばかりしていました。アクション性はほとんどなくて事象と数字とグラフだけを見ている。ファクトから裏で兵站や補給など、戦略を決定して再配置や再編成するようなタイプのものです。日本ではほとんど知られていないようなマニアックなものばかりやっています。
それで仕事でも、プロジェクトマネジメント、プロダクトマネジメント、ピープルマネジメントといったマネジメントとつく業務に対して体系的にこだわりをもっています。またAIという技術に対して俯瞰して本質を捉え、現状のように世間的にもどうするとよいのか決まっていない、散らかっているものを整理して道をつくって送り出す、みたいなことを愚直にやり続けています。
──マネジメントが好きということ?
そうですね。エンジニアの出には珍しいタイプかもしれません。人の上に立つのが好きなのではなくて、わちゃわちゃしているものを交通整理して、スムーズに走らせる。DeNAには実行する力が人材として揃っているので、あとはこうすれば上手くいくよねという複数のステークホルダーが持っているペインポイントを上手く取り去り、道筋をつくる。それによって本質的に価値のあるプロダクトが生まれる。そのプロセスが好きなんですね。
マネジメント観点で捉える、自由で柔軟な働き方の意義
──入社されて11年目とのこと。なぜDeNAで働こうと思われたのですか?
取り立てて理由はなく、直感に近いと思います。前職のソフト開発会社は小さいけれどおもしろくて、本を書かせてくれたり、自社主催セミナーをオーガナイズしたり、自らも登壇して、技術発表もコンスタントにしていました。ただ一つひとつの案件のインパクトが小さく、大きな領域へのチャレンジとして、当時すごく伸びていたソーシャルゲームやプラットフォームの領域に関わりたいと思って受けた会社のひとつがDeNAでした。
──直感は重要なファクターですか?
それはあると思います。他社も選択肢にありましたが、当時訪れたDeNA社内の雰囲気の良さ、エンジニアの優秀さ、私の著書を読んでくれていたデザイン統括部長に熱心に誘っていただいたのもあって入社しました。
──この10年で本社オフィスの移転や、コロナ禍を経てリモートワークと出社を合わせた「ハイブリッドワーク」に移行するなど、働く環境も大きく変化したと思います。ご自身の働き方も変わりましたか?
変わりました。「立場が人をつくる」と言いますか、バリバリコードを書いていた頃のエンジニアだった昔の自分だったら、リモートワーク主体で地方に引っ越したかもしれませんが、一部門を統括する立場になって、出社とリモートを使い分けて、戦略的に働き方をコントロールするようになりました。
──出社やオフラインで人と話すことはやはり大切だと思われますか?
はい。コロナ禍を経て、人に会う体験そのものの価値が上がったと感じています。リアルで話して意思決定をすることで感じ取れる特別なものがあることを実感しますし、それが、新しい事業のアイデアや課題解決につながることが実際にあるので、リモートワークが浸透した中でも必要なときに必要な出社をしていますね。
たとえば、DeNAは経団連にも加盟しているのですが、経団連には生成AIやデータに関する政府の方針がダイレクトに共有されます。また、国内外のAIやデータのエグゼクティブと会う機会も少なからずあるので、やはりそうした議論に参加すること自体かなり貴重で、リアルでのコミュニケーション機会というものを大切にしています。
──出社されるときは、いつも着物を召されていますね。
人と会うことが貴重な体験になるのなら、自分の好きな服を着て「おめかし」することで、その場にいる人や自分にとって楽しい時間にしたいなと思って。古いものが好きなので、かつて日本人の普段着だった着物を着ています(笑)。
──働き方について、時節や社員の声に応え働く場をアップデートする会社の姿勢はどう思いますか?
自由で柔軟な働き方を推奨して、自発的に考えさせることは、結局のところDQに回帰します。会社として、自己組織化を促していて、自分で考えてなすべきことに当たれと言っている。そうすれば、自然とその局面に適した働き方が生まれてくるはずです。
すべては本質の見極めに始まり、Delightに帰す
──加茂さんにとってDQはどんな存在なのでしょうか?
私にとって特別なことではないんです。DQとは「プロフェッショナリズム」で、それを分かりやすく5つに分解したものだと思っています。それが私のパーソナリティ的にもともと考えているものに近いので、DeNAと肌が合うのでしょうね。
その点でAIの社内への浸透に話を戻すと、AIをうまく活用するためのコミュニケーション能力やマネジメント能力もまた、DQに帰着するんじゃないでしょうか。
──では最後に、データ統括部長としての今後の目標をお聞かせください。
DeNAがコミットメントする3年後に営業利益150億円を達成するために何ができるかというところで、文字通りデータとAIを駆使してゲームチェンジャーにならなければなりません。今、市場でAIで利益を上げているのはツルハシ(道具)を売っている側で、そのツルハシを持って金を堀に行く側は、まだ誰も掘り当てることができていません。戦略がないと目指すところへは辿りつかないので、トップとボトムを両輪に総力戦で攻めていきたいと考えています。
──全社のAIを見ている加茂さんならではの発想ですね。では、個人としての目標は?
プロ経営者という言葉があるように、プロマネージャーを標榜しています。経営者や事業リーダーなどのマネージャーの方々は基本的に孤独です。そういう方々を自分の専門性でサポートするプロマネージャーのような存在になりたいと思っています。最近では、起業家の方やVCの方ともマネジメント・組織・技術・リスク・プロダクトなどについてお話しさせていただく機会もかなり増えています。
──それもかなり泥臭い仕事なのかなと。それでもやはりマネジメントが好きですか?
よくよく考えると、私がやっていることは、一般的には苦しいことと思われることが多いんですよね。でも好きです、本質を見極めて提案することが。誰もやりたがらない、面倒くさい仕事にこそ、向き合う価値があると考えています。
本質を見極める活動に、仕事と遊びの境目はないように思います。あまり褒められた話じゃありませんがオンオフの境も曖昧で、四六時中そういう何かを考えています。そうした力がどこからきているのかといえば、思い返すと幼少期から知的好奇心が高く、原体験の積み重ねできているような気がします。
──なるほど。加茂さんの言葉を通すと無機質なAIやデータに温度が感じられるのはそのためですね(笑)。
そうですか?(笑)。実家がブティックを経営していて、目の前で接客や電話対応をしている親の姿を見て育ってきたので、おのずと自分もネイティブサービス業になっているのかもしれません。立ち居振る舞いも含めて、こうしたら相手が喜ぶんじゃないかなと。
──まさにDelightですね。
そうですね。最初は長くとどまるつもりがなかったDeNAに居続けるのは、おもしろいチャレンジがその時々で発生して、DelightやDQなど、DeNAのみんなに染みついている考え方が自分とマッチしているからなのだと思います。
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