サイボウズには、ファンコミュニティ推進部というコミュニティマーケティングに特化した部署が存在します。ファンづくりやコミュニティマーケティングに注目している企業は多いものの、ファンコミュニティに特化している部署まで作る会社はそれほど多くありません。
では、なぜサイボウズではファンコミュニティ推進部を立ち上げてまで、ファンとつながること・ファン同士をつなぐことに力を入れているのでしょうか。今回の記事では、ファンコミュニティ推進部の立役者であり、部長を務める後迫孝さんにインタビュー。ファンコミュニティ推進部が必要な理由や、具体的な活動内容を詳しく教えてもらいました。
(話を聞いた人)
後迫 孝(うしろさこ たかし)さん
カスタマー本部 ファンコミュニティ推進部 部長
サイボウズの情シスで社内システムの開発を経験後、2009年からkintoneのPMとして業務部門とエンジニアに使われる業務システムサービスのリリースを経験。2013年にデベロッパーマーケティングの部門を立ち上げに加わったのち、2019年よりファンコミュニティ部門を立ち上げ、現在も同部門を牽引。
Cybozu Days 2019 でのひとコマ
ファンコミュニティ推進部ができるまで
ーファンコミュニティ推進部(以下、ファンコミ部)の立ち上げ以前から、ファンコミュニティ自体は存在していたと伺いました。サイボウズのファンコミュニティは元々どのように始まったのでしょうか?
始まりは2014年までさかのぼります。当時、私はエンジニアマーケティングを担当する部署にいました。サイボウズの製品はユーザーの中でもエンジニアから広がっていく性質のものが多いので、まずはエンジニア中心のマーケティングをしようということで立ち上げた部署でした。そこで、エンジニアを対象にしたコミュニティ「cybozu developer network」や エバンジェリスト制度の運営を始めたんです。これがサイボウズとして立ち上げた最初のエンジニア向けの本格的なコミュニティです。
また、サイボウズがエンジニアコミュニティを立ち上げる半年ほど前から、有志のユーザーさんが集まって「kintone Café」という、オフライン中心の勉強会コミュニティも立ち上げられていました。
ーその後、2019年にファンコミュニティに特化した部署を立ち上げたのはなぜなのでしょうか?
エンジニア系の部署で活動していたのに、気付いたらエンジニアだけではなくて、営業や人事、CSなど業務系部門のユーザーさんが、コミュニティに参加されたりイベントで登壇されることが増えていたんですよね。業務系部門のユーザーさんが自分自身の言葉で発信されているのを聞く機会が増えて、サイボウズ製品の魅力を伝えられるのはエンジニアだけではないなと気付いたんです。
それで、業務系のユーザーさんにもっとエバンジェリスト活動やコミュニティ活動に参加してほしいと思ったので、カスタマー本部の責任者に相談しに行って、部署を立ち上げることになりました。
ー業務系のユーザーとエンジニアでは、違った視点が出てきそうです。業務系ユーザーさんがコミュニティに参加するようになってどんな変化がありましたか。
エンジニアリングよりも上流のところで、多くのユーザーさんが共通の話題を持っていることに改めて気付かされました。たとえば、どうやって製品の導入を社内へ浸透していったのかとか、日々の業務でどんな風に使っているのかとか。今までよりも、話題が広がったんですよね。
それに、コミュニティで発言したり前に出たりしてくれる人も今までよりも幅広くなりました。前は、経営者や何かしら役職がある人が多かったのですが、現場で働いているユーザーさんの声を聞ける場面が増えたのは素晴らしい変化でした。
学びの場✕交流の場でファンを増やすファンコミ部の仕事
ー具体的に、いまファンコミ部が担当している業務を教えてください。
いろいろな業務をやっているのですが、整理すると次のように分かれます。
コミュニティの企画・運営
- キンコミ(kintone ユーザーコミュニティ)
- オフコミ(サイボウズ Office ユーザーコミュニティ)
- アトツギカイギ(事業承継者向けのユーザーコミュニティ)
- ユーザーイベント(サイボウズユーザーフェスティバル)
エバンジェリストやアンバサダーのプロデュース
- kintone エバンジェリスト(kintoneの伝道師たち)
- サイボウズ Office アンバサダー(サイボウズ Officeの伝道師たち)
- ハドルパートナー(サイボウズ製品の自社活用を発信する伝道企業)
ユーザー主体のコミュニティの支援と情報発信
- kintone コミュニティ案内板(kintoneユーザーが発信する記事、開催するイベント情報などのまとめ)
- ファンコミnote(ファンコミ部の日々の活動や想いを綴った記事)
- ユーザー主体のコミュニティ、地域コミュニティなどのユーザーコミュニティの応援
コミュニティの企画・運営では、私たちが「場づくり」をしたり、すでにある「場」を一緒に盛り上げたり、色んなユーザーさんが交流したり情報交換をしやすくする仕組みを整えていきます。
エバンジェリストやアンバサダーとは、サイボウズの製品に対して愛着と知識を持ち、製品の可能性を公開・発信してくださる、サイボウズ公認の方々です。そういった方々が、活躍できる施策を考えて実施します。
そして、外部でユーザーさんが自主的に運営しているコミュニティの情報をまとめたり、私たち自身も情報発信をして、さらに活発にコミュニティを盛り上げるための活動もしています。
いま、ファンコミ部には12名のメンバーがいるのですが、ほとんどのメンバーが複数プロジェクトを兼務で担当しています。フェーズや特徴が違うプロジェクトに複数関わることで、「なんでこっちのコミュニティの方が活発なのか」など比較しながら考えられるようになっています。
ー中でも、部署立ち上げ当初からある「キンコミ」はかなり動きが活発ですよね。どんなことを意識して作られているのでしょうか。
キンコミが立ち上がった2019年当時、ユーザーコミュニティってまだオフラインのイベントが主流だったんです。時間と場所が決まっていて、何か共通のテーマがある人が集まるので、そこに集まった人しか悩みを共有したり解決したりできませんでした。
ただ、kintoneは活用方法が100社100通りとも言われるようなサービスなので、もっと多くの人と悩みやその解決方法を共有できた方がいいだろうと考えました。そこで、いつでもどこでも誰でも悩みを共有できるオープンな場にするために、オンラインコミュニティとして立ち上げました。
ー一方でオフラインの活動も大事にされているのかなと思いました。オンラインとオフライン、どのように使い分けていますか。
それぞれの良さがあると思います。ですが、やっぱり直接顔をあわせないと、相手の雰囲気が分からないし相談や雑談がしにくかったりしますよね。なので、私たちは学びの場はオンライン、交流の場はオフラインという棲み分けでのコンテンツ作りを考えています。
特に、「ユーザーフェスティバル」というイベントでは、オンラインとオフライン両方を活用し、学びの場と交流の場をセットで企画していました。ただ、過去に開催した2回はどちらもコロナ禍で、オンラインだけになってしまったので、今年はぜひオフラインもミックスして実施したいなと思っています。
「ユーザー同士が支えあう」サイクルを作り出す
ー改めて、ファンコミュニティに特化した部署まで作る会社は珍しいのではと思ったのですが、サイボウズがそこまでファンコミュニティに力を入れる理由は何なのでしょうか。
サイボウズは「チームワークあふれる社会を創る」という理念を掲げているのですが、サイボウズのメンバーやパートナー企業さんだけではこれが達成できないと考えているからです。
メーカーの立場からサイボウズ製品の使い方を伝えることもできるのですが、それだと私たちが知っている業務や職種の範囲でしか伝えられません。でも、実際にはサイボウズの製品は100社100通りとも言われるような幅広い使い方があって、全てのユーザーさんの声にアイデアや説得力がある。そんな声をオープンな場で共有し合えたら、より多くのチームワークが作れると思います。なので、ファンコミ部としては「ユーザー同士が支えあう仕組みづくりをする」ことをミッションにして、活動しています。
ーあくまでも、「ユーザーを主体にした」活動の推進を目指しているのですね。そんなサイボウズならではのコミュニティ運営の特徴はありますか?
他社のことをすべて知っているわけではないのですが、周りからは「ユーザーが主体であることを尊重している」「ユーザーとメーカーがフラットだ」と言っていただくことが多いです。
製品系のコミュニティはメーカー主導で開かれることもあるのですが、そうなるとマーケティング的な意図がもろに見えすぎたりして、長続きしづらいんです。一方で、私たちは「やりたい」「知りたい」という気持ちで集まってくださったユーザーさんの自発性を生かして、その人たちの喜びを第一に考えながら活動しています。そうすることで、自然に仲間が増えて、長く続く良いサイクルができているのかなと思います。
ーとはいえ、ユーザーさんの自発的な発信を引き出すのも難しいことではないでしょうか。
そうですね。まだ完璧にできているわけではないですが、ユーザーさんに寄り添って、私たちの立場から何ができるのかを考えながら活動しています。
たとえばキンコミはオンラインコミュニティで、誰でも書き込みができるようになっているのですが、質問や回答を書き込むのって結構勇気が要りますよね。なので、「すごくなくてもいい」というコンセプトを立てています。「的外れな質問だろうか」とか「過去に誰かがした質問かも?」とか、そんなことは気にせずに書き込んでください、と伝えるようにしています。あわせて毎月オンラインで座談会も開催して、新しくコミュニティに入られた方なども、発言しやすくなるようにコミュニケーションを取っています。
ーコミュニティやエバンジェリストの方の活動を盛り上げるために、ファンコミ部で働くメンバーはどんなKPIを設定しているのでしょうか?
担当するプロジェクトによってさまざまではあります。たとえばキンコミは基本的に誰でも見ることができるサイトなので、どれだけ多くの人がこのサイトを訪れたのか、投稿数はどれだけあるかなどをKPIとして置いています。そのほか、質問者と回答者はどんな業務で職種で、どんな頻度で参加されているのかなど日々ウォッチしています。
エバンジェリストのプロデュースを担当している人なら、エバンジェリストの方のアクションによって達成度を測ります。たとえばエバンジェリストの方がセミナーに登壇してくださったら1つ達成、みたいな感じですね。カウントしやすいKPIを設定しつつ、ユーザーさんの反応を見ながら項目は柔軟に変更しています。
「人を楽しませる」ことが好きな人のための仕事
ーファンコミ部の仕事はどんな人に向いていると思いますか?
コミュニティって人でできているものなので、やはり一番は人に寄り添って同じ歩幅で歩んでいけるような人が向いていると思います。ファンは誰かから指図されてなるものではないし、コミュニティに入るか入らないかも誰かに決められることではないです。なので、ユーザーさんの懐に入り込んで、共感度を上げたり、楽しませることが好きな人だといいなと思います。
そういった感覚的なことと同時に、データを分析する力やプロジェクトマネジメント力も必要です。人を巻き込んでいく仕事だからこそ、相手をロジカルに説得できるような思考力とか、推進力も大事なのかなと。
ー1人1人のユーザーさんに寄り添おうとするからこそ、業務の「仕組み化」は難しそうですね‥。
そうなんです。「コミュニティは生ものだ」なんて言う人もいるくらい、よく変わるし、変えられるのがファンコミュニティの仕事です。なので、変化に強くないとやっていけませんね。その分、現在ファンコミ部にいるメンバーも、失敗を恐れずにどんどんと新しいことにチャレンジする力がついてきていると思います。
あと、「仕組み化」というところだと、「仕組み化された仕事」をするというより、どちらかというと「仕組みを作っていく」ことが私たちの仕事です。コミュニティもエバンジェリストやアンバサダーの制度も仕組みです。環境を整えたり、人が集まるための情報を考えたり、交流を活発にするための施策を考えたり、どれも仕組みづくりです。複数のプロジェクトを見渡しながら、共通して使えそうな仕組みを日々探しています。
ー今後のファンコミ部の目標を教えてください。
「コミュニティの大衆化」を目指したいです。コミュニティってものすごく熱量の高いファンの集まりのように見られることが多くて、まだその手前にいる人たちを巻き込めていないのが課題かなと思っています。そこで、コミュニティをより開けたものにして、気軽に入って気軽に出ていけるような、大衆的な場所にできたらいいなと思っています。