SESという働き方をしていると、プロジェクトが終わるたびに現場が変わります。新しいチームに入って、関係をゼロから築いて、成果を出して、また次の現場へ。
この繰り返しの中で、不思議なことに気づきます。どの現場に行っても「次もお願いしたい」「うちに来ない?」と声がかかる人がいる。一方で、技術力は申し分ないのに、契約更新のタイミングでそっと見送られる人もいる。
経験年数も、保有スキルも、それほど変わらない。なのに、現場からの評価にはっきりと差がつく。その差は何なのか。
私はSESエンジニアとして何年も現場を渡り歩いてきました。金融系、通信系、Web系と、業種も規模もさまざまです。その後、SES企業を立ち上げて、今度は「エンジニアを送り出す側」になりました。両方の立場を経験して見えてきた、現場で信頼されるエンジニアの共通点を書いてみます。
最初の一週間で決まること
SESで新しい現場に入ると、最初の一週間がとにかく大事です。ここで「この人は大丈夫だ」と思ってもらえるかどうかが、その後の半年、一年を左右します。
信頼される人は、初日から「自分は何ができて、何がまだわからないか」を正直に伝えます。できないことを隠さない。わからないことを質問できる。これだけのことが、実はかなり難しい。
SESエンジニアは「即戦力」として期待されて現場に入ります。だから、知らないことがあると不安になる。「こんなことも知らないのか」と思われたくなくて、一人で抱え込んでしまう。気持ちはよくわかります。私も最初の現場ではそうでした。
でも、クライアント側のチームリーダーに聞くと、答えはいつも同じです。「わからないことは早く聞いてほしい。一人で悩んで三日ロスされるほうが困る」と。
経営者になってからもこの声は何度も耳にしました。あるクライアントの開発マネージャーは「技術力が足りないのは想定内。でも、それを隠されるのが一番きつい」と話してくれました。
信頼される人は、この感覚を最初から持っています。自分のプライドより、プロジェクトの前進を優先できる人です。
もうひとつ、最初の一週間で差がつくのが「環境構築の姿勢」です。開発環境のセットアップでつまずくのは当然のことですが、そこで何時間も黙って格闘するのか、「ここまではできたのですが、この先で詰まっています」と早めに相談するのかで、印象はまるで違います。環境構築に手間取ること自体は問題ではなく、そのプロセスでどう振る舞うかが見られています。
「言われたことだけやる人」にならない方法
SESの現場では、立場上「指示を待つ」姿勢になりがちです。自分はあくまで外部の人間で、プロジェクトの方針に口を出す立場にはない。そう考えるエンジニアは多いと思います。
確かに、SESエンジニアがいきなりプロジェクトの方向性に意見するのは違います。でも、自分の担当範囲の中で「こうしたほうがよさそうです」と提案することは、まったく別の話です。
たとえば、設計書通りに実装してみたけれど、テストしてみるとパフォーマンスが出ない。そのとき、黙って報告だけする人と、「この部分のクエリを変えれば改善できそうですが、試してみてもいいですか」と提案する人。現場が次も一緒に働きたいと思うのは、間違いなく後者です。
ほかにも、既存のコードにバグの温床になりそうな箇所を見つけたとき、自分のタスクと直接関係なくても「ここ、少し気になったのですが」と伝えられるかどうか。こういう「ちょっとした気づき」を共有できる人は、チームの中で存在感が増していきます。
ただし、ここには注意点があります。提案と押しつけは紙一重です。「自分はこう思う」と伝えるだけで、最終判断は現場のリーダーに委ねる。この距離感を保てる人が、信頼されます。
私自身、エンジニア時代に失敗したことがあります。前職のやり方がよいと信じて、現場のルールを無視して自分流で進めてしまった。結果的にコードレビューで手戻りが大量に発生して、チームに迷惑をかけました。
あのときの自分には「まず現場のやり方を理解して、その上で改善点を提案する」という順序が抜けていた。新しい現場に入ったら、最初の数週間はとにかく「観察と吸収」に徹する。提案はそのあとでも遅くありません。
「提案する」と「自分のやり方を押し通す」は、似ているようで全然違う。この違いに気づくまでに、私は結構な時間がかかりました。
技術力よりも「伝える力」が評価される場面
SESの現場で一番よく聞く悩みは、実は技術的な問題ではありません。「コミュニケーションが噛み合わない」です。
進捗報告ひとつとっても、差が出ます。
「問題ありません、順調です」としか言わない人がいます。リーダーからすると、これが一番不安になる報告です。何がどこまで進んでいて、残りの見通しはどうなのかが見えない。
一方、信頼される人の報告はもう少し具体的です。「この機能の実装は完了して、今テストを書いています。明日中にプルリクエストを出せる見込みです。ただ、認証周りで一点確認したいことがあるので、午後に15分ほど相談の時間をもらえますか」と。
特別なことは言っていません。今どこにいて、次に何をして、いつ終わるか。困っていることがあれば、それも含めて伝える。それだけです。
でも、これを毎日きちんとやる人は、想像以上に少ない。やっている人は、現場から高く評価されます。
報告だけでなく、質問の仕方にもコツがあります。「ここがわかりません」ではなく、「自分はこう理解しているのですが、合っていますか」と聞く。ゼロから教えてもらうのではなく、自分なりに調べた上で確認を取る。この「自分で考えた跡」が見える質問をする人は、チームの中で頼られる存在になりやすい。
もうひとつ大事なのが「悪い報告を早くする」ことです。見積もりよりも時間がかかりそうだとわかった時点で、すぐにリーダーに伝える。「もう少し頑張ればなんとかなるかも」と思って抱え込んだ結果、締め切り直前に「間に合いません」と言われるのが、現場にとっては最もダメージが大きい。
早めに共有してもらえれば、スケジュールを調整したり、他のメンバーに一部を振ったり、対処の選択肢がある。悪い報告を早くできる人は、信頼されます。「この人はリスクを隠さない」とわかるからです。
「帰属意識」をどう持つか
SESエンジニアには、帰属意識の問題がつきまといます。自分はどこの人間なのか。常駐先のチームの一員なのか、それとも外部の人間なのか。
以前、ある現場でこんなことがありました。プロジェクトの打ち上げに、SESメンバーは呼ばれなかった。別に悪意があったわけではなく、単純に「社員の打ち上げ」だったから声がかからなかっただけ。でも、そういう小さなことの積み重ねで、SESエンジニアは自分が「お客さん」であることを自覚します。
この経験をした人のなかには、心のシャッターを下ろしてしまう人もいます。「どうせ外部だし」「契約が終わればいなくなるし」と。その気持ちはわかります。私もエンジニア時代に同じことを感じたことがあります。忘年会の案内メールが自分だけ届かなかったとき、なんとも言えない疎外感がありました。でも、そのスタンスを引きずると確実にパフォーマンスに影響する。
信頼される人は、この曖昧なポジションをうまく受け入れています。外部の人間であることを受け入れつつ、でもプロジェクトに対しては「自分ごと」として取り組む。この矛盾した姿勢を自然にできる人が、結果的にチームから信頼される。
具体的には、こういう行動に表れます。
自分の担当が終わっても、チーム全体の進捗が遅れていたら「手が空いたので何か手伝えることはありますか」と声をかける。障害が起きたとき、自分の担当範囲外でも一緒に原因を追う。ドキュメントが古くなっていたら、誰に言われなくても更新しておく。
どれも小さなことです。でも、こういう行動の積み重ねが「この人はうちのチームの一員だ」という認識につながっていきます。
ある現場で、SESエンジニアの方がリリース前の深夜対応に自主的に参加してくれたことがありました。契約上は定時で帰っても何も問題ない。でも「ここが山場だから」と残ってくれた。その一回で、チーム内での信頼が一気に変わったのを覚えています。
技術の「守備範囲」を広げすぎない
これは少し意外に思われるかもしれませんが、信頼されるSESエンジニアは「何でもできます」とは言いません。
SESの面談では、つい自分を大きく見せたくなります。「Javaもできます、Pythonもやれます、インフラもわかります」と。でも、現場に入ってみたら期待値と実力にギャップがあって、結果として信用を失うケースは珍しくありません。
信頼される人は、自分の強みを明確に持っています。「Javaのバックエンド開発なら任せてください。Spring Bootの設計から実装まで一通りできます。フロントエンドは基本的なことはわかりますが、メインで担当するのは厳しいです」と。
こういう誠実な自己申告をする人に対して、現場は安心感を覚えます。「この人は自分のことをちゃんと把握している」と。そして、その人の得意分野についてはしっかり頼ってくれるようになる。
逆に、何でもできると言って入ってきた人は、どこまで任せていいかわからない。結果的に、重要なタスクが振られにくくなります。周囲の期待値がぼやけてしまうのです。
これは経営者側から見ても同じです。エンジニアの得意領域を正確に把握できていれば、ミスマッチのない案件を紹介できる。結果としてエンジニア本人も現場も満足度が高くなる。盛った経歴は、誰も幸せにしません。正直に伝えてくれるエンジニアほど、長く良い関係を築けるのです。
「次の現場のため」ではなく「今のプロジェクトのため」
SESエンジニアの中には、現場での仕事を「スキルアップのための場」として捉えている人がいます。次の転職や次の案件のために、今の現場で経験を積む。そういう考え方自体は悪くありません。
ただ、その意識が強すぎると、周りから見て気づかれます。自分の成長につながるタスクには積極的だけど、そうでないタスクには消極的。新しい技術を使う開発には前のめりなのに、既存コードの改修やテストには身が入らない。
信頼される人は、今の目の前の仕事にきちんと向き合います。たとえそれが地味なバグ修正であっても、テストコードの整備であっても、同じ熱量で取り組む。なぜなら、プロジェクトにとってはどちらも同じくらい大事だからです。
そして面白いことに、そういう姿勢で働いている人のほうが、結果的にスキルアップしています。地味な仕事の中にも学びがある。既存コードの改修を通じて、設計の良し悪しが見えるようになる。テストを書く過程で、品質に対する解像度が上がる。
私の知るエンジニアで、テスト専任のポジションからスタートした人がいます。正直、本人は最初「もっとコードを書きたい」と思っていたはずです。でも、テストに真剣に向き合った結果、品質保証の知識が身について、今ではテスト設計からCI/CDの構築まで一手に担うエンジニアに成長しました。どの現場に行っても引く手あまたです。
目の前の仕事を大事にできる人は、次のチャンスが向こうからやってきます。「あの人にこの仕事をお願いしたい」と思ってもらえるからです。
経営者になって見えた景色
SES企業を立ち上げてから、クライアントとの会話の中で繰り返し聞く言葉があります。
「技術力はもちろん大事だけど、それよりもチームに馴染んでくれる人が欲しい」
最初は営業トークかと思いました。でも、何社もの人事担当やPMと話すうちに、これがリアルな本音だとわかりました。実際に、技術的に優秀だけれどチームとの相性が悪くて契約が短期で終わるケースと、技術的には平均的だけれどチームに溶け込んで長期で活躍するケースを比べると、後者のほうがクライアントの満足度は圧倒的に高い。
経営者として、私はエンジニアを現場に送り出す立場にいます。だからこそ、技術のマッチングだけでなく、「この人はこの現場でうまくやれるか」を見るようにしています。エンジニアが現場で信頼されれば、長期のアサインにつながり、キャリアにもプラスになる。逆にミスマッチが起きれば、エンジニアにとってもクライアントにとっても不幸な結果になります。
Codenceを作ったのは、SES業界の「人を送り込んで終わり」という構造を変えたかったからです。エンジニアが現場で信頼されて、そこから次のキャリアが開けていく。そういう循環を作りたい。だから、現場に入ったあとのフォローにも力を入れています。エンジニアが困っていたら一緒に考える。クライアントからフィードバックをもらったら、きちんと本人に伝える。「送り出して終わり」にしない会社でありたいと思っています。
信頼される人の共通点は、特別な才能ではありません。正直であること。目の前の仕事に向き合うこと。チームの一員として振る舞うこと。悪い報告を後回しにしないこと。自分の実力を正確に伝えること。どれも今日から意識できることばかりです。
SESという働き方は、現場が変わるたびに人間関係がリセットされます。それは大変なことでもあるけれど、見方を変えれば「何度でもやり直せる」ということでもある。前の現場で失敗したとしても、次の現場ではゼロからスタートできる。この身軽さは、SESならではの利点です。
そして、信頼を積み重ねた先には、「指名される」という状態が待っています。「次のプロジェクトにもあの人をアサインしてほしい」とクライアントから名前が挙がる。こうなると、案件選びの主導権がエンジニア側に移ってくる。キャリアの選択肢が一気に広がります。
次の現場で、あなたが「また一緒に働きたい」と言われる人になるために、この記事が少しでもヒントになればうれしいです。