「エンジニア募集」の求人が、実はコールセンター配属だった——SES企業の経営者が語る、詐欺求人
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先日、Xで600万回以上表示されたポストが話題になっていました。友人がWebデザイナーになると言って転職したのに、半年後に会ったらコールセンターで働いていた、という体験談です。エンジニアやデザイナーの職種名で人を集めておきながら、実際にはまったく別の業務に配属する——いわゆる「詐欺求人」の存在を知ったという内容で、多くの共感を集めていました。
このポストには数百件のリプライがつき、同様の経験をした人たちの声が大量に寄せられていました。SES企業を経営している立場から、この問題について正直に書いてみます。
SNSで多く語られていた被害パターン
リプライ欄の声を読んでいくと、被害の構造にはいくつかのパターンが見えてきます。
まず一番多かったのが、求人票と実際の配属先が違うケースです。エンジニアやWebデザイナーという肩書で募集しておきながら、入社後に「まずは研修として」「最初は別業務から」という名目でコールセンターやデータ入力の現場に配属する。本人はエンジニアになるつもりで入ったのに、いつまで経っても開発の仕事が回ってこないまま時間だけが過ぎていく。適応障害になって退職に至ったという声もありました。
次に多かったのが、派遣会社が登録者を増やすための釣り求人です。在宅勤務やレビュー業務など、一見楽しそうな業務内容で応募者を集めるものの、実際に紹介されるのは時給の低いコールセンターの仕事だった、という手口です。
そして、こうした問題は最近始まったものではないという指摘も複数ありました。かつては広告デザイナーやファッションデザイナーという肩書が使われていたのが、今はWebデザイナーやエンジニアに変わっただけだと。時代ごとに人気のある職種名を餌にする手口自体は、30年以上前から存在しているようです。
なぜこの手口がなくならないのか
理由は単純で、儲かるからです。
派遣会社のビジネスモデルは、派遣先企業から受け取る料金と、派遣社員に支払う給与の差額で成り立っています。人を派遣すればするほど売上が上がる構造なので、求職者を集めるには魅力的な職種名で求人を出すのが手っ取り早い。一度入社してしまえば、「まずはここで経験を積もう」「研修期間だから」と言いくるめることもできてしまいます。
法律上、求人票の内容と実際の労働条件が異なる場合は職業安定法に抵触する可能性があります。厚生労働省もこの問題を把握しており、注意喚起を出しています。ただ、取り締まりが十分に行き届いているとは言い難い状況です。
被害に遭った側も、「騙された」と気づいたときにはすでに前職を辞めており、生活のためにその仕事を続けざるを得ない。泣き寝入りする人が多く、問題が表面化しにくい構造になっています。
詐欺求人を見分けるためのポイント
では、こうした求人に引っかからないためにはどうすればいいのか。SNSに寄せられた実体験も踏まえて、具体的なチェックポイントを挙げます。
1つ目は、「未経験OK」「研修充実」のセットに警戒することです。この2つが揃っている求人のうち、実際にエンジニアとしてのキャリアにつながるものは非常に少ないのが実態です。本当に研修が充実している会社なら、研修の具体的なカリキュラムや期間、過去の研修生の配属実績を公開できるはずです。それが出てこない時点で疑ったほうがいい。
2つ目は、面談前に「具体的にどの現場でどんな業務をするのか」を確認することです。SES企業であれば、「入社したらどの案件に参画する想定か」「案件がなかった場合はどうなるのか」を聞いてください。まともな会社であれば候補となる案件の概要くらいは説明できます。「入社してから決まります」としか言えない会社は避けたほうが安全です。
3つ目は、転職エージェントだけに頼らず、企業のクチコミサイト(OpenWorkなど)で実態業務を確認することです。転職エージェントは企業からの成功報酬で利益を得ているため、構造的にこうした問題のある企業を候補に入れてしまうことがあります。自分の目で情報を集める手間を省かないでください。
4つ目は、派遣元の会社がどの業界のどんな案件を持っているかを具体的に聞くことです。「大手企業との取引多数」のような抽象的な表現しかない場合は要注意です。業界名、プロジェクトの規模感、使用技術——これらを答えられない会社には、実際の開発案件がない可能性があります。
Codenceが情報開示について考えていること
SES企業を自分で経営している以上、この問題は他人事ではありません。「SES=詐欺」という認識を持つ人が増えれば、まともにやっている会社まで人が集まらなくなる。業界全体の信頼が下がることは、経営上の実害でもあります。
だから、うちではできる限り情報を先に出すようにしています。
具体的には、面談の段階で候補となるプロジェクトの概要を伝えます。どの業界のどんなシステムで、使用する技術スタックは何か、チーム構成はどうなっているか。NDAの関係で企業名を出せないこともありますが、業務内容のレベルでは事前に共有します。
単価についても、本人に開示する方針を取っています。SES業界では、エンジニア本人に対してクライアントからいくら払われているかを伏せる会社が少なくありません。しかし、自分の仕事に対してどれだけの対価が発生しているかを知らなければ、正当な報酬を受けているかどうかの判断すらできない。情報の非対称性が搾取の温床になっている以上、そこを透明にすることが最低限の誠実さだと思っています。
また、「案件を断る権利」も重要です。SES企業によっては、「この案件に入ってください」の一方通行で、本人に選択権がないケースがあります。Codenceでは、複数の案件候補を提示して、本人が納得した案件に参画する形を基本にしています。タイミングによって候補が少ないこともありますが、本人の希望を無視して押し込むことはしません。
正直、こうした情報開示を徹底するのは経営上ラクではありません。開示すればするほどエンジニア側の選択肢が増え、条件が合わなければ断られるリスクが上がる。短期的な売上だけを考えれば、情報を出さずに「とにかく案件に入れる」ほうが効率的です。
それでも開示する理由は、長期的に見ればそのほうが人が残るからです。情報を隠して入社させても、実態を知れば人は辞めます。採用コストは無駄になり、現場の信頼も失う。最初から正直に情報を出して、それでも「ここで働きたい」と思ってくれた人は、長く一緒にやっていける。
SES業界で転職を考えている方へ
SES業界には、この記事で書いたような問題を抱えた会社が実際に存在します。それは事実です。ただ同時に、まともに運営している会社もある。大事なのは、「SESだから危ない」と一括りにするのではなく、個々の会社を自分の目で見極めることです。
面談で聞きにくいことを聞く。案件がないときの給与保証はどうなっているのか。単価は開示してもらえるのか。案件は選べるのか。こういう質問をしたときに、誠実に答えてくれるかどうかが一番の判断材料です。
質問をはぐらかす会社、抽象的な回答しかしない会社は、入社後も同じ姿勢で接してきます。逆に、都合の悪い情報もきちんと開示してくれる会社は、働き始めてからも信頼できる可能性が高い。
転職活動には時間も労力もかかります。だからこそ、入口の見極めで手を抜かないでほしい。この記事が、少しでもその判断材料になれば幸いです。