私たち金沢QOL支援センター株式会社では、在宅医療事業と就労支援事業を行っております。在宅医療事業では、金沢と名古屋で訪問看護・リハビリテーションを行っており、当社が大事にしている「真のQOL向上」を1人1人の社員が意識し体現しています。
実際に訪問看護を行う社員は日々の仕事の中で、どのように利用者さんの真のQOL向上を目指して仕事をしているのでしょうか。在宅医療介護事業部の部長 兼 訪問看護・リハビリステーション「リハス」名古屋緑の管理者を務める阿部京子さんのエピソードを通してご紹介します。
【社員プロフィール】
阿部京子(あべ きょうこ)
看護師免許を取得後、精神科を主とする病院に勤務し、慢性期疾患や終末期(がん末期)の患者さんを中心に担当する。そして出産を機に看護業務から一度離れるが、病院時代の同僚の誘いでデイサービスに勤務し、同社で訪問看護ステーションの立ち上げにも参画。その後、訪問診療のクリニックで医師の補助と訪問看護業務を行う。2016年に金沢QOL支援センターに入職し、在宅医療介護事業部の部長 兼 訪問看護・リハビリステーション「リハス」名古屋緑の管理者を務める。
在宅での生活を支える医療専門職としてのコーディネーター
___阿部さんは前職で訪問看護の立ち上げなど様々なご経験をお持ちですが、現在のお仕事を教えてください。
現在の業務は、大きく分けて現場の仕事と管理者としての仕事に分けられます。したがって今は、週に数件だけ訪問を行う傍ら、ケアマネージャーさんから利用者さんをご紹介された際に私が直接赴いて、ケアマネさんと利用者さんのお話を聞いています。加えて、病院のカンファレンス等にも参加する事があります。
基本は、ケアマネさんが訪問看護の必要性をアセスメントし依頼をくれますが、「看護やリハビリの詳細は一緒に相談がしたい。」とおっしゃるケアマネさんもいらっしゃるので、まず私が話を聞いて、利用者さんのご自宅での生活に向き合い、サービス担当者会議*という形でどのようにケアをしていくか一緒に考えて調整しています。
たとえ、リハビリだけを利用者さんが求めていても看護の必要性を感じたら、提案していく医療職のコーディネーターとしての役割を果たしています。
※サービス担当者会議
ケアマネージャーが作成したケアプランの内容を各サービスの担当者が集まって検討しあう会議
受け身の療養から主体的な療養への生活シフトを支える仕事
___在宅医療のご経験が長い、阿部さんにとって訪問看護とはどのようなものでしょうか?
勿論、お家で療養する方に看護を提供する事が根本ですが、訪問看護という仕事は「利用者さん自身とそのご家族が住み慣れた家で療養していくために、自分で出来る事はご自身で行って頂き、療養を自立させるべく多種多様な自宅での生活を支援する仕事」だと思います。
病院でも同じ様に看護を提供するのですが、病院は治療が最優先で、その療養上の看護を行います。在宅の現場でも看護展開は同様ですが、ご自身で出来る療養はご自身で行って頂くことが大事になります。
しかし、これは簡単ではありません。具体的には、糖尿病の患者さんが病院では血糖のコントロールが出来ていましたが、お家に帰ると血糖のコントロール出来なくなるなど上手くいかない事が多々あります。従って、いくらそこに看護師が訪問しても、利用者さん自身が食事を気にして、自身の病気を理解し生活しないと、在宅での血糖コントロールが上手くいかないのです。
また、その本人が「自宅でどのように生活したいか」も人それぞれ違います。きちっとやる人もいれば、大体にやる人もいる。全てを細かく管理する事は出来ないですが、そのような多種多様な自宅での療養生活を支援していくことが必要です。それが看護師の役目だと思っています。
従って、そこには個別性が求められます。治療方法や服薬方法などのベースは存在していますが、置かれている生活環境だったり、これまでの人生経験など色んな事を加味して、包括的に住み慣れた家での自立した生活を支援していく必要があります。
決して簡単な仕事ではないですが、やりがいのある仕事ですね。
訪問看護師は在宅チームを俯瞰する第二のケアマネージャー
___「決して簡単な仕事でないですが、やりがいがある」という事ですが、阿部さんにとって訪問看護のやりがいは何ですか?
訪問看護で対象としている利用者さんは、ほぼ慢性疾患なので完治をして卒業という方はほとんどいません。従って、看取りになるケースも多々あります。しかし、たとえ看取りになったとしても、利用者さんのために全力で看護を考えられる所はやりがいがありますね。
もちろん、病院も在宅も様々な縛りがありますが、病院だと緊急度の高い治療が最優先だと思います。しかし、自宅では、利用者さんが望む在宅生活が継続出来るような看護展開を考えていくことが出来ます。
具体的には、まずそれぞれの利用者さんにどのような看護が必要なのかをアセスメントしていきます。その中で利用者さんは勿論、利用者さんを支えるご家族も含めて、どのように看護を展開していくのが最適なのかを考えるのはやりがいですよね。
先程の話に繋がりますが、より個別性のある看護展開が求められるのは在宅の魅力ですよね。
___加えて、訪問看護師の役割は何でしょうか?
訪問看護師は在宅の現場を俯瞰する第二のケアマネージャー的な役割があります。
「どんなサービスを受けているのか?」「ヘルパーさんに○○の支援をして頂いているが、△△の支援が不足しているのではないか?」「ご本人の希望は○○である。」などケアマネさんと同じ様な視点で在宅チームを支えていくことが必要です。
私たちが思う専門的な医療の提供だけでは、療養生活は成立しないので、広い視野をもって支援する役割が訪問看護師にはありますね。
勿論、ケアマネさんを超えてまで、ケアマネジメントをすることではありません。従って、然るべき所はプロフェッショナルのケアマネさんに相談をします。加えて、看護師からみた視点を、ケアマネ、リハビリ、ヘルパーなどの在宅チームみんなに共有していく。医療的な視点をもって、俯瞰して在宅チームを支える言ってみれば副リーダー的な存在ですかね。
"医療職" としての立場を踏まえて "人" として利用者さんに寄り添う
___加えて、阿部さんは看護を行う際に"心のケア"を大事されているとお聞きしたのですが詳しく教えて頂いてもよろしいですか?
別にカウンセリングをしろって事ではないですよ。人って凄く話好きな人もいれば、あまり話すのが好きでは無い人がいると思います。しかし、基本的には、みんな自分の事が分かって欲しいと心の底では思っていると私は感じています。たとえば、自分が苦しい時に、「この苦しみを分かって欲しい。」など。そういう気持ちは誰しも持ってるはずです。
特に癌末期では、利用者さんは勿論、その利用者さんを支えるご家族が、最期を目前にして心を保っていくのは当事者だけではしんどいことです。
亡くなられてしまうこと、決して私たちでは解決出来ませんが、そこに行くまでの療養のプロセスを一緒に考える。俗に言う"寄り添う"という言葉。寄り添う事は私たち看護師には出来ると思います。
決して、「利用者さんにカウンセリングをして心の整理をしろ」ということではなくて、話を聞く。しっかり聴く。「相手がどんな風に考えているのか?」「どのような気持ちなのか?」もし、そこで助言を求められたらまずは"医療職"としての立場を踏まえて"人"として話をする=真摯に話をする。従って、医療職としての専門知識に加え、人として大事な部分を持っていないといけないと思います。そこで助言するには、決して教科書を広げた言葉では相手に響かないので1人の"人間"としての言葉をかけていく必要があります。
本当にちょっとした言葉。もしかしたら、それが「そうですよね」の一言かもしれない。そのような繊細かつ敏感な空気で、相手の気持ちに寄り添った一人の人間としての振るまいが利用者さんを支える心のケアです。
医療者の発言一つで心に大きな傷を負ってしまう事もあります。いくら医療的知識が豊富でも、利用者さんに寄り添う事が出来ないのは私が理想とする看護師像に反するので、私はこの心のケアを大事にして訪問看護を行います。
___確固たる理想の看護師像がある阿部さんは、どんな人と一緒に働きたいですか?
そうですね…ちょっとの事ではめげない人ですかね。
でも実は私、始めからこのように考えたり行動出来ていたわけではありません。以前はネガティブで、ちょっとした事でめげてしまうタイプの人間でした。
「それではいけない」と自分の気持ちでは分かっていたのですが、中々踏み出せず、そんな自分をずっと脱したいと思っていました。
従って、現場でつらい事があるとすぐに心が折れそうになりネガティブな感情になることも沢山あり、多くの方に助けて貰ってきました。
しかしそんな中で、ふと、在宅の世界に誘われて、訪問看護師をする事になります。始めこそネガティブな自分を脱する事は出来ませんでしたが、当時の同僚や先輩の方に支えられたおかげで自分は成長する事が出来た思っています。
ですので、昔なら心がポキッと折れてしまう事でも今なら心が折れない自信はあります。
当然私も含め、みなさんは人なので多少は辛くなってしまう事はあると思いますが、そこから立ち上がってチャレンジしていって欲しいなと。
だから、高度な医療知識を第一には求めてません。
お互いを支え合える環境は準備しているので、めげても根気強く前に進んでいける人と一緒に働きたいですね。
___最後に訪問看護に挑戦したいと考えている看護師さんにメッセージをお願いします。
少しでも興味がある人はやってみれば良いと思います。
それで、どうしても合わなかった時は、次の事を考えれば良いかと思います。
私も始めは不安ありましたが、やってみてやりがいを持てるようになりましたし、誇りをもって訪問看護師をやっていると言えます。
在宅看護師の必要性はますます増えていくので、在宅の現場にチャレンジしてくれる看護師さんが増える事を切に願っています。