IT企業で働く私たちは、日々デジタルの情報やタスクに追われがちです。そんな中、社員から「日常業務では得られない体験をしてみたい」「これまで触れたことのないものに挑戦したい」といった声が上がりました。
参加者同士の話し合いの結果、仏教寺院でスマートフォンを預けて過ごす"非日常の"1日研修を実施することに。この研修で"つくる"ものは、プロダクトや成果物ではなく、自分自身の心の土台や、困難に向き合う姿勢でした。
目次
研修の概要
研修プログラム
09:00~09:20 開講式・読経
09:20~12:00 四恩・四苦八苦・身口意の法則・自己コントロール
12:00~13:00 昼食(精進料理)
13:00~16:00 瞑想・五体投地・写経
16:00~17:00 法話、閉校式、感想文奉納
活動を通して学んだこと
"自分自身をつくる"ことができる場所で
研修の概要
今回の研修は、入社1年目~3年目の社員を対象としたエアーの研修プロジェクト「AIR Academy Z」として実施しました。仏教寺院という非日常の空間でスマートフォンを預け、雑念を手放すことで、「集中力」「協調性」「自己コントロール力」を体験的に学ぶことを目的としています。
寺修行と聞くと非常に厳しい内容を想像しがちですが、実際には無理のない内容で、科学的な根拠に基づいたお話も多く、宗教を押し付けるものではありません。さまざまな考え方に触れられる、貴重な機会となりました。
研修プログラム
09:00~09:20 開講式・読経
日常から離れた環境でスタートするため、まずは全員のスマートフォンを預けました。普段はデスクワークが中心の私たちにとって、正座や座禅は慣れませんが、読経によって次第に心が静まり、落ち着いた一日の始まりを迎えることができました。
09:20~12:00 四恩・四苦八苦・身口意の法則・自己コントロール
初めに、ご住職から印象的なお話をいただきました。
「仏教は、心の処方箋のようなものです。薬局で自分に合う薬を選ぶように、仏教の教えも"考え方の一つ"として学んでいただければと思います。」
講義では、生きる中で避けて通れない課題や、心を整えるための土台となる考え方について学びました。
●四恩(父母の恩・衆生の恩・国王の恩・三宝の恩)
"私たちは、自分の力だけで生きているわけではない"という気づきを得る時間でした。家族、周囲の人々、社会の仕組みーー多くの縁があることを再認識しました。
ご住職の「仕事を通じて税を納め、その税が平和をつくる。つまり皆さんの働きは平和につながっています」という言葉が印象的で、謙虚さ・感謝・協調性を育む基盤を学ぶことにつながりました。
●四苦八苦(人生で避けられない苦しみ)
日常では「四苦八苦する」と苦労を表すときに使いますが、仏教での四苦八苦は人生における“誰にでも訪れる苦しみ”を指します。老い・病・死・欲求の葛藤など、避けられない苦しみを理解することで、困難に直面した時に、自分を責めすぎない視点が生まれると学びました。
*四苦八苦を数字に置き換えると 4×9+8×9=108。
煩悩の数と同じであるという話も伺いました。
●身口意の法則(行動・言葉・心の一致)
「心で思う(意)」「口に出す(口)」「行動に表す(身)」がバラバラで一致していないとうまくいかない、という法則を学びました。言っていること、やっていることに一貫性が無いと成果につながらないという、実務にも直結する考え方です。
「全部口に出すことは、本当に良いことか?」というディスカッションもあり、参加者同士の意見交換が刺激になりました。
●自己コントロール(意志力の仕組みと鍛え方)
意志力は気合ではなく、"前頭葉"の働きがカギとなるというお話が印象的でした。意志力は使うほど消耗し、我慢は意志力を大きく減らしてしまう。脳科学の知見を交えながら、意志力を高める・維持するための具体的な方法を教わりました。
- 健康的な睡眠と食事でエネルギー(血糖値)を安定させる
- “禁止を禁止する”(極端な我慢をしない)
- 好きなことや小さな楽しみで、自分をご機嫌にする
- 運動や瞑想を続けて前頭葉を鍛える
12:00~13:00 昼食(精進料理)
素材の味を活かした精進料理をいただきました。健康的な食事を表す「まごわやさしい」という言葉も学びました。
*ま(豆)ご(胡麻)わ(わかめ/海藻)
や(野菜)さ(魚)し(椎茸/きのこ)い(芋)
食事の後は、周囲のお寺を散策しました。スマホを持たず地図も見られないため・・・迷子にならないか、ドキドキしながら移動しましたが、良い経験となりました。
13:00~16:00 瞑想・五体投地・写経
午後は心身を整える体験型プログラムに取り組みました。
●瞑想(プロでも雑念はある)
「瞑想=心を無にする」と思われがちですが、実際には"雑念に気づき、そっと手放して今に戻る方法"と伺いました。長年修行を積んでこられたご住職でも、雑念が浮かぶことはあるそうで、「雑念や感情が起きるのは自然なこと」と仰っていました。脳科学でも効果が証明されており、創造性が22%上がったという研究結果もあるようです。
●五体投地(忍耐と協調)
五体投地は、立つ→うつ伏せ→立つ を繰り返す、仏教の礼拝動作です。普礼真言を唱えながら、煩悩の数である108回を全員で実施しました。体力的にはきつい場面もあり、運動不足を痛感したメンバーも多かったのですが、仲間とともに声を合わせ動きを合わせることで絆が深まりました。
●写経(心を安らかに保つ)
写経では、般若心経の278文字を一字一字、丁寧に書き写しました。ただなぞるのではなく全集中で“自分と向き合う静かな作業"を通じて、普段の業務では得られない深い集中と落ち着きを感じました。
16:00~17:00 法話、閉校式、感想文奉納
最後はご住職による法話を聞き、感想文を奉納して一日の学びを振り返りました。
「仏教は文化の一つだと思っています。宗派が異なっても、他のお寺と一緒に勉強会をしたり、意見交換もしています。良い・悪いと決めつけず、さまざまな考え方がある。そのひとつに、今日は触れていただけたと思います。
活動を通して学んだこと
研修後のアンケートでは、「意志力」や「自己コントロール」に関する気づきが多く寄せられました。この研修で“つくる”ものは、目に見える成果物ではなく、自分自身の心の土台であることが改めてわかりました。
「”意志力”という考え方が、新たな学びとなりました。 集中力とやる気の2つが重要と捉えていましたが、それらに加えてさまざまな要因を含めたものをまとめて"意志力"と考えることで、物事をよりシンプルに捉えられるという気づきがありました。」
「我慢をしないことが回りまわって、自分を律し周りに良い影響を与えることに繋がるという考え方は、新鮮な学びでした。「自分の意志で受け入れる」と捉えることが、ストレスを減らし自分を律する(意志力を保つ)ことになるのではと考えました。」
「瞑想では、煩悩や雑念を消しにかかるのではなく、呼吸法とアクシデントがあってももとの平静な状態に戻すことが重要だと学びました。今までの考えが180度変化し、衝撃を受けました。貴重な体験ができたと思います、ありがとうございました。
「日常や業務のことを忘れ、普段考えないことや感じないことに触れることができよかったです。呼吸等、無意識で行っていることや単純なことに集中することで感情のコントロールや心の均衡を保つのに有効であることを学ぶことができました。また、普段考えないことや意識しないことに意識を向けることができ、自分のこれまでの振り返りや目標など再認識することができました。」
"自分自身をつくる"ことができる場所で
スマホを預けて臨むお寺での1日研修は、“つくる力”を根本から見直すきっかけになりました。IT企業にとって「つくる」とは、単にプロダクトやコードを生み出すことだけではなく、自分自身の心の基盤や、困難に向き合う力、仲間と協力する姿勢、集中する習慣——こうした“目に見えない基盤”をつくることこそ、ものづくりを長く続けるうえでの本質的な力なのだと、深く実感しました。
ここで得た気づきが、これからの挑戦や選択の支えとなり、それぞれの成長につながっていくことを願っています。