社長にセムコの仕事内容についてヒアリングしました。
価格競争力のある新興国の台頭、技術革新スピードの加速、国内の労働力人口の減少など、ものづくり大国・日本の中小製造業は困難な時代を迎えています。セムコは、船舶の燃料などの計測機器「液面計」で国内トップシェアを誇るメーカーです。「世の中にないものをつくる」をコンセプトに独自の商品開発力で多くの企業の課題解決に貢献しています。今回は、の宗田謙一朗社長に、事業承継後の歩み、ステークホルダーに対する思い、そしてSDGsへの取り組みを伺いました。
計測器「液面計」で国内トップシェアのモノづくり企業
ーセムコ株式会社の事業内容について教えてください。
当社は、船舶向けの燃油等の計測制御機器「液面計」を製造・販売しています。液面計とは、タンクや容器の中にどのくらいの液体が入っているかを調べる計測器のことで、車でいうガソリンメーターのようなものです。実は船の機関室には、燃料タンクの他、機械の潤滑油、冷却水、船員の飲み水など、およそ20~30個のタンクが設置されています。それぞれのタンクごとに残量を正確に把握するため、液体の特性にあわせた信頼性のある計測ができる液面計が必要なのです。
全国の造船所のほとんどと取引があり、国内シェアは8割近くにのぼります。海上保安庁などの官公庁船や大手船会社にも当社の製品を納入しており、業界ではスタンダード製品としての地位を確立しています。
ー主力製品「液面計」にはどのようなタイプがあるのでしょうか?
当社が業界に先駆けて開発した「箱型の液面計」は船員の労働環境の改善に大きく貢献するなど高い評価をいただいています。従来は、液面の水位を目視により確認する必要があったため10mのタンクには10mの液面計が必要とされ、船員は梯子で高所まで登って確認せざるを得ませんでした。それがこの箱型液面計の開発によって、梯子を昇らずにタンクの外に設置した計器の目盛りを確認するだけで測定が可能になり、危険な高所作業が減り、確認時間の短縮も実現したのです。
また、設置型のみならず「ポータブル型の液面計」も当社の代表製品の一つです。ポータブル型は、例えば船が日本を出港し、シンガポールで燃料を補給する際に、何リットル注入したかを計測する際などに使用します。計測のわずかな誤差が、燃料費の莫大な差を生むため、精度・正確性は非常に重要です。当社は1985年に私の父親である宗田啓市が創業して以来、高精度な計測技術を追求し続けてきました。
液面計。フロート式液⾯計Fig.6000。液面を計測・管理するフロート式液面計の決定版。電気や空気などの動力を必要としないエコタイプで、接点やアナログ信号出力が可能。設置条件・用途別で柔軟に対応でき、様々な産業分野で活用いただいているとのこと。
ー創業当時から液面計を手がけていたのですか?
はい。創業間もない頃、四国の造船所の設計の方から、「今度のSOLAS条約(海上人命安全条約)の規定改定で従来の液面計が使用不可になる」と聞きつけ、父がわずか1、2週間足らずで新たな液面計の試作品の開発に成功したのが始まりです。その後、一般財団法人日本海事協会に使用承認を得るために持参したところ、「こんな液面計、今まで見たことがない!」と担当者が驚いたそうですよ。それ以来、顧客のニーズをもとに自身のアイディアを取り入れ、様々な計測器の設計・開発・製造を行ってきました。
創業メンバーは父を含めわずか3名でしたが、外資系のエンジニアリング会社で経験を積んでいたため、高い技術力とフットワーク力を持つプロフェッショナル集団だったようです。創業当時、父が家の台所で流量計の製作に熱中していたのを覚えています。いつも笑顔で楽しくモノづくりをする天才肌の人でした。
その父が2006年に亡くなり、私が代表取締役に就任したのが32歳のときです。新卒で入社後、10年程当社に勤務し、業務内容も熟知していたという自負もあり、経営の舵取りには自信を持っていたのですが、就任後、自身の未熟さを痛感することとなり、社内をまとめきれずに大変に苦労しました。
「感謝が足りない」と厳しい指摘、過信が招いた会社の危機
ー 2005年に代表取締役に就任後、どのような苦労があったのでしょう?
今振り返ると本当に私自身未熟だったと思います。当時の私は自分のことしか考えていなかったのです。自分は社長だから社員に弱いところは見せられない、人の手を借りるなんて負け。そんな風に思い込んでワンマンになった結果、社内で孤立してしまいました。数年そうした状態が続き、社内の空気も悪くなっていたので、正直なところ退職も考えました。
踏みとどまったきっかけは、2011年に息子が生まれたことです。ある夜、帰宅途中に「こんな父親の背中を息子が見たらどう思うだろう」とふと考えました。急に情けなくなりましてね。自分を180度変える決心をしたのです。
ー自分を変えるため、どのような行動を起こされたのですか?
色々やりましたよ。実質的に社内をまとめてくれていた社員とじっくり何度も話し合ったり、悩みを周囲の人に勇気を持って打ち明けてみたり。稲盛和夫さんが主催する経営塾「盛和塾」にも入りました。経営計画の発表会では、参加者の方々から、「宗田さんは感謝が足りない」「何をやりたいか全く分からない」といった次々に厳しいご指摘を受けましたね。社員への感謝の気持ちの欠如と、理念やビジョンの不安定さをすぐに見抜かれてしまいました。
このような内省する機会が与えられるうちに、自分の弱さを徐々に認められるようになっていったのです。周囲に助けを求めることに抵抗が無くなってきてから、状況が変わっていきました。それでも残念なことに、私の考えに反発した数名の社員を失うことにはなってしまったのですが、残った社員が社内の雰囲気を良くするため、積極的に力になってくれたことで将来の展望が開けたのです。この社員のサポートには本当に感動しました。今でも深く感謝しています。そしてセムコ株式会社の第二創業期とも言える段階に入りました。
先代から引き継がれたDNA「チームワーク」と「イノベーション」
ー第二創業期を迎えて何が変わりましたか?
まず原点に立ち戻り、自社のビジョンとフィロソフィーを考え直しました。社内でフィロソフィー勉強会を開催し、稲盛和夫さんの『京セラフィロソフィ』という本を教科書に輪読会を始めたのです。これぞあるべきフィロソフィーだと思う題材をテーマに、社員とディスカッションできるため、毎回ワクワクして臨んでいました。すると、ある社員が言ったのです。
「僕は稲盛さんの話じゃなくて、社長の話が聞きたいんです」と。フィロソフィー輪読会を行うときは、どんな会社でも社内から反発や様々な反応があるとは聞いていましたが、この一言は本当にズドンときました。実は嬉しかったんですよね。「僕の話を聞きたいんや」って。それから自分の考えをフィロソフィーやビジョンとしてまとめ、社員に共有するようになりました。ビジョンがまとまったのは2018年のことです。
ー「チームワーク」と「イノベーション」をビジョンに掲げていらっしゃいますね。
当社は創業期から少数精鋭のプロフェッショナル集団として、業界に変革を起こしてきました。自問自答を繰り返しながらビジョンを考えましたが、やはり創業時の精神がDNAのように脈々と引き継がれているのがセムコ株式会社だと思います。そのDNAをこれからも継承していくためにも、改めてビジョンとして掲げ、社員の前で説明を繰り返すことで次第に浸透してきています。
最近は「うちは液面メーカーではなく、計測エンジニアリングメーカーだ」と言うようにしています。国内トップシェアの位置に甘んじることなく、今まで培ってきた技術やノウハウ、知識をどれだけお客様の課題解決のために使えるかが勝負だと思っています。実際に、既存製品の販売だけではなく、お客様からの相談をもとに新製品・サービスの開発やシステム構築を行う案件も増えています。
ーお客様の要望から生まれた製品・サービスにはどのようなものがあるのでしょうか?
例えば船員の計測技術に関する知識不足について相談を受けたときは、タンクの計測に関する計算を自動で行うソフトウェアを開発しました。
ポータブルタイプのスマートサウンディングスケールHonesty。先端に接液センサーを搭載し、スマートサウンディングで計測作業の効率化が可能。
また、カプチーノバンカーという燃料油が泡立つ現象に関する問題の解決で生まれたのが先述したポータブル型の液面計です。一般的に、燃料油の補油量はタンク内の液面までの深さ、容量、重さを計測して決まります。この深さを測る際に、一部の納入業者は燃料と一緒に空気をわざと送って燃料を泡立たせ、実際よりも多く入っているように見せかけます。
こうした不正行為のために泡代だけで年間1億円もの損害が生じるという話を伺い、泡には反応しないセンサーを取り付けたポータブル型の液面計を開発しました。正確な補油量計測が可能かつ、液面計測作業が大幅に短縮されたということで、多くのお客様に喜んでいただいております。
このように、お客様の抱える課題の解決を社員一丸となって、イノベーションの力で解決することが私たちの目指すところです。
ー危機を乗り越えて策定したビジョンのもと、第二創業は非常に順調に進捗しているようですね。
社長として会社の舵取りを長年続けて思うのは、「企業は人なり」ということです。第二創業の成否も、まさに人の力にかかっています。過去の危機も私が変わり、社員が変わり、組織が変わったことで乗り越えることができました。何が起こるか分からない時代ですから、特に周囲の方々への感謝を忘れず、人財への投資は決して惜しまない企業でありたいと思っています。何よりも大事なのは「人」。このような考えで社員や、社外のあらゆる方々と関わっていきます。
セムコ株式会社のステークホルダーへの向き合い方
社員に対しての思い
当社の年間休日は136日です。一般的に、週休2日の休みに正月・お盆休み・祝日を加えると年間休日は125日程度ですから、当社はかなり休日が多い会社です。しっかり休んで、余暇を楽しみ、家族や友人を大事にする時間をきちんと確保してほしいと思います。
私が一番大事だと思うのは、休む時間や働く時間の長短ではなく、「その時間が充実していること」です。本人の意思に反して強要された残業は論外ですが、「お客様の課題をなんとか解決したい!」「最近会社が購入した3Dプリンタで色々研究したい!」と熱中し、結果的に残業になることはやむをえないと思います。就業時間を「何とか乗り切る8時間」ではなく、「いつの間にか過ぎた8時間」と思えるような楽しい仕事をしてほしい。仕事もプライベートも充実させてほしいというのが社員に対しての思いです。
社員の家族に対しての思い
家族は最小単位のチームです。チームワークをビジョンに掲げている当社としては、家族のチームワークが上手く機能することなしに、良い仕事は生まれないと思っています。私自身、時には妻から「いつまで仕事してるの」と言われることもありますが、家族との時間は大事にしているつもりです。社員が活躍できるのは家族のサポートがあってこそ。家族の皆様には、「社員をいつも支えてくださってありがとうございます」とお伝えしたいです。
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