「プロダクトの機能開発を進める中で、それがどのように事業成果やお客様の本質的な変化に繋がっているのかをさらに掘り下げたい」——。BtoB SaaS業界において、多くのプロダクトマネージャー(PdM)が探求しているのが「機能開発と事業成長のより強固な接続」です。
プロダクトの選択肢が豊富な現代において、PdMに求められる役割は個別機能のアップデートにとどまりません。人事領域全体のデータを広く見渡し、プロダクトの壁を越えて一連のシームレスな業務体験を創り出すことで、事業の根幹から変革を牽引することです。
今回は、jinjerのPdMを牽引する現場の坂見と三輪に、10年間蓄積された「統合型人事データベース」という強みを活かしたアプローチと、AI駆動開発によって生み出されるPdMの本質的な介在価値について聞きました。
目次
坂見 稜介(さかみ りょうすけ) / AI & Platformグループ マネージャー。jinjer入社後、カスタマーサクセス(CS)として最前線で顧客の課題に向き合った経験を強みに、PdMへ転身。各プロダクトの意思決定を現場に委ねつつ、複数プロダクトが連動する複雑な組織構造における全体最適な仕組みづくりを牽引する。
三輪 光(みわ ひかる)/ jinjer入社後、一貫してPdMに従事。現在はTalentグループに所属し、AIツールをプロダクト開発プロセスへ全面的に導入するAI駆動開発を主導。プロセスの効率化と標準化を図りながら、本質的な思考への時間投資を推進する。
1. 事業成果へのコミットと、各PdMが担う意思決定の領域
——SaaS業界において「PdM」の役割は様々ですが、jinjerのPdMが背負う「事業成果への責任」と、各PdMが担う「プロダクトの規模感や意思決定の領域」について教えてください。
坂見:jinjerでは基本的に、プロダクト(「ジンジャー勤怠」「ジンジャー人事労務」など)ごとにPdMを配置しています。担当プロダクトの数値を追い、改善施策を自ら考え実行するため、個々のPdMが背負う責任と事業インパクトは非常に大きいです。実際に、担当する単一プロダクトが抱えるARRの規模感は、1つの独立した事業として十分に成立するほどの重みがあります。
意思決定の領域はフェーズで異なります。すでに数万社が利用するCoreHR領域では、 「運用の安定性と効率化」が極めて重要です。アップデートがお客様の稼働中の業務に悪影響を絶対に与えてはならない緊張感のなかで、UX向上や法改正対応に追従します。一方でタレント領域などの新規・注力プロダクトは「探索」フェーズであり、競合への対応や、導入のボトルネック解消に集中します。
三輪: 採用でも「深化(保守・運用)」と「探索(新規・0→1)」のどちらに向いているかという適性を重視しています。ただ最近は単体プロダクトを伸ばすだけでなく、「CoreHR × TalentHR」の掛け算により、複数プロダクトをシームレスに繋いだ一連の顧客体験をどう創り出すか という全体最適の視点が全員に求められています。
2. 10年間蓄積された「お客様の声」から生まれた「AIエージェント」というプロダクトテーマ
——人事領域全体の複雑な業務課題に対し、10年間蓄積された「お客様の声」をどのように紐解き、真の課題発見や戦略立案へ還元しているのでしょうか?
坂見: jinjerでは、 10年間の顧客との対話で蓄積された「お客様の声」の分析を重視しています。CSの導入支援や営業の商談などで得られる一次情報を統合して活用しています。
三輪: 現在、商談の文字起こしやCSツール、SFAなどに散らばる月間約4,000件もの膨大な顧客フィードバックを集約する仕組みを構築しています。AIを組み込んで課題を要約・抽出し優先順位を一次判定させ、そこにMRRなどの事業データを掛け合わせて横断的に判断しています。
坂見: 膨大な改善要望と向き合うなかで見えてきた本質的な共通の課題として、人事担当者様の究極の願いは 「データを入力する、あるいは画面を操作する行為そのものを、極限までゼロにしたい」 ということでした。この深い顧客理解から生まれたのが「AIエージェント」という中長期的なプロダクトテーマです。
3. 自律的な各チームを横に繋ぐ「全体最適の意思決定」
——複数のプロダクトを展開するにあたり、現在のPdM組織の構造と、プロダクト間で仕様を調整する際の合意形成プロセスについて教えてください。
坂見: jinjerのプロダクトマネジメント本部は、大きく「CoreHR」「Talent」「AI & Platform 」の3グループに分かれています。プロダクトごとに開発チームやJira(プロジェクト管理ツール)を用いた進行計画、スケジュールが存在し、個別に自走しています。
しかし、個別最適だけで進めると、お互いのプロダクトに繋がりがあるため整合性が取れなくなってしまいます。
そこで全体の共通仕様やプロダクト戦略に関する上流の意思決定は、CPOやマネージャー陣が方向性を定め、 上から一貫したロードマップとして落とし込む構造にしています。 足並みを揃えて進めるための大枠は、このように上流で決めています。
一方で、現場レベルでの連携や調整は、PdM同士の自発的なコミュニケーションによって滑らかに行われています。たとえば、「給与計算のこの課題を解決するためには、人事労務プロダクト側の特定のマスターデータ改修が必要になる」といったシーンが日常的に発生します。
その際には、関係するプロダクトのPdM同士が即座に連携ミーティングを設定し、「どちらのプロダクトでどの領域までを責任範囲として意思決定するか」「どのようなスケジュール順序でリリースするか」 の合意形成を直接行っています。また、マネージャーとメンバー間でも週1回の定例や1on1を行い、組織内の整合性をリアルタイムで担保しています。
4. 複数プロダクトが繋がる「統合型人事システム」が届ける市場価値
——複数プロダクトが相互に連動する「統合型人事システム」の開発だからこそ直面する構造的な難しさや、それを乗り越えた先に届く市場への価値について教えてください。
三輪: まず大前提として、 「CoreHR(勤怠、給与、人事労務など)領域」が、手間ゼロで正しく処理できているという強固な土台 が不可欠です。これらが不完全なままでは、その先にあるタレントマネジメントで本当にやりたい高度なデータ活用は実現し得ません。
坂見:やはり、複数プロダクトを同時に進化させていく難しさは、横の調整コストの高さにあります。それぞれのチームに独自のロードマップや計画、リリースの制約があるため、プロダクト間における「仕様やスケジュールのすり合わせ」は非常に複雑です。
ただ、この難しさを乗り越えた先にある市場価値は、単一プロダクトの組み合わせでは決して実現できない、極めて強固な優位性を築けると考えています。 シングルプロダクトを組み合わせる場合、APIを繋ぐための設計や中間ツールの用意をお客様自身が設計しなければなりませんが、jinjerであれば、初めから業務フロー全体を網羅した 「統合されたUX」をシームレスにお客様へ丸ごと提供できます。
さらに社内には、現場の一次情報を戦略的に分析・精査する「マーケットインテリジェンス部」が存在します。この部署にはPMMや人事コンサルティングセールスなどの機能があり、彼らが商談現場の声を「なぜ今この機能を開発すべきなのか、誰にどんな本質的価値を届けるのか」というロードマップのストーリーにまで昇華させて高解像度でフィードバックしてくれるため、PdMとしても創るべき価値に確信を持ち、非常に高い熱量とスピード感で開発サイクルを回すことができています。
5. AI駆動開発がもたらした、PdMとしての時間投資先の変化
——jinjerでは開発やデータ分析にAIをどのように組み込んでいますか?それにより、PdM自身はどのような「人間にしかできない本質的な思考や意思決定」に時間を投資できているのでしょうか?
三輪: 開発プロセスはコーディングはもちろんのこと、VoCの分析から戦略の策定、ロードマップや企画の一次案作成に至るまで全面的にAIを中心とした開発プロセスへの転換を進めています。それによってドキュメントや仕様書の作成、一時的な情報抽出などの作業時間は劇的に削減されました。
生まれた時間を「差別化や価値の再定義」という本質的な議論へ投資しています。議論は「機能の星取り表をどう埋めるか」から、 「どこまでを倫理観の前提とするか」といった高度な問いへとシフトしています。例えば、将来のデータ活用において「チャットのやり取りやミーティングの録画データから、組織の生産性を分析・可視化する」といったことは、技術的には実現可能です。しかし、「本当にそれは従業員の方々にとって心地よい体験なのか、プライバシーや倫理的な観点からどこで線引きをすべきなのか」という、倫理的境界線の設計はAIにはできません。
坂見: 仕様書作成などの作業が削減された分、CSやセールスの現場に入り込んでユーザーの定性的な痛みを深掘りしたり、他部門との密な調整や合意形成、お客様への深い共感といった 「人間にしかできない業務」に全力を注ぐことができるようになったと感じています。
6. 10年分のアセットを武器に、市場のスタンダードを創る面白さ
——10年分のアセットを活用しながら、プロダクト戦略をさらに進化させていくフェーズです。この広大な領域で、今このタイミングでjinjerのPdMに挑戦する「最大の面白さや醍醐味」はどこにあると感じますか?
坂見: 私は、BtoB SaaSにおける多くの作業は中長期的にAIに代替されていくと考えています。その中で最後に生き残るのは、AIが動くための前提となる 「深い業務コンテキスト(人事・勤怠・給与などのデータ)」を大量に保持している企業に他なりません。人に関する極めて解像度の高いデータを10年にわたり網羅的に蓄積しているjinjerのアセットは圧倒的な強みです。
この膨大な人事データを、AIを活用してお客様の業務そのものを「自動化」というレベルで根本から変革し、UXを再設計していける。これほど広大なフィールドを、巨大な裁量を持ってハックしていける環境は、 PdMにとってこれ以上ないエキサイティングな挑戦だと思います。
三輪: デジタル化の多様なフェーズにいるお客様に対して「ジンジャーを使えば、こんなに業務が楽になる」という具体的なロードマップを提示し、寄り添いながら一緒に変革を起こしていく。UXの定義そのものが塗り替わろうとしているこの転換期に、10年間蓄積された強力なアセットを武器として、新しい時代のスタンダードを自分たちの手で創り上げていく。 この知的で難易度の高い挑戦を最高に面白いと思えるプロフェッショナルなPdMの方と 、ぜひ一緒にこの市場を切り拓いていきたいです。