この記事は「『装苑』 2023年7月号」に掲載された記事の一部を許諾を受けて転載しています。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
hair & makeup : Kanna Hidaka
ココネさんと考える
仮想空間で活躍するファッションデザイナーになるには?
VOL.2 アバターデザイナーのON&OFF
仮想空間で過ごすための「アバター」への注目度がぐっと高まっている今。その中で、アバターを取り巻く仕事は、新時代の職業として熱視線を浴びています。ポケコロシリーズで有名なココネさんとともに、アバターデザイナーの仕事を知る連載。第2回は、「ポケコロツイン」を作る二人のクリエイターにフォーカスし、彼女たちのクリエイションの源に迫ります!
N.I.さん
2013年、ココネ入社。
「ポケコロツイン」クリエイティブディレクター兼アートディレクター。
アイデアの源は、日常の中のすべてにある
ココネでのキャリアはデザイナー職のアルバイトからスタートしました。昔から携帯ゲームに親しんでいたので、小さな画面の中で動くグラフィックや素材を作る仕事があると知って、興味が湧いたんです。何より、学生時代からずっとデザイナーの仕事に関心がありました。ですがクリエイティブの世界は厳しいと周囲に口酸っぱく言われていたこともあり、大学卒業後は一度、安定した別の道に。それでもデザイナーへの夢がついえず、一度、ココネで夢に挑戦してみようと思ったんです。入社すると、すぐにイラストレーション制作やデザイン業務に携わる機会をもらえて、毎日がとても楽しくて。1日で100案ものラフを提出して、びっくりされたこともありました(笑)。私にとって、デザイナーとは、「商業的なクリエイター」です。より多くの人の共感と利益を追求したいという思いが根本にあるため、リサーチをもとにお客さまのニーズを考えることは、欠かせない大切なプロセスの一つ。そしてクリエイティブを刺激してくれるのは映画や写真集、小説、詩。作品の一部分が刺激になって、そこから自分なりに想像を膨らませて別の物語を考え出し、それがガチャのアイテムやテーマにつながることがあります。音楽からインスピレーションを得たこともありますね。オフはゆっくりしていることも多いのですが、それもまた、すべてアイデアの源になっているんです。私にとって、一番の趣味は仕事なのかもしれませんね。
代表作「星降る猫街」
2022年11月リリースの福袋ガチャ。特にキュートなモーションが人気を博し、ふたりのアバターをふたごとして愛でるユーザーの間で大ヒット。
【ON】お仕事現場に密着!
「ポケコロツイン」チームのミーティング風景。制作途中のアイテムをそれぞれがプレゼンテーション。和やかなムードの中で建設的な意見のやりとりが行われ、チームワークのよさがうかがえた。
デザイナーが制作したアイテムをもっとよくするため、具体的な修正案を提案するのも重要な仕事。タブレットでデータを開きながら、どんどん描き込みを行う。
お仕事かばんの中身をチェック!
バッグはビューティフルピープルのもの。携帯、タブレット、眼鏡は必須アイテム。
【OFF】私を高めるオフ時間
映画館や美術館に出かけたり、おうちで過ごす時間が好きだというN.I.さん。「クリエイターはどんな経験もすべて仕事に生かせます。家で過ごす時間も仕事のアイデアになっているんです」
1 愛猫の6歳のシャム猫。猫耳やしっぽなどのアイテムを考える時のモデルにも!
2 料理が趣味。週に2回ほど行う常備菜作りは、デジタルデトックスの効果も。
3 ある土曜日の夜。オフの日はスイーツを食べながらNetflixを見ることが多い。ホラー、ミステリー、サスペンスが好き。
日本の1960年代のアート、カルチャーが好きで、特に耽美的な文や絵に惹かれるというN.I.さんが大事にしている3冊。中でも倉橋由美子さんが「格別に好き」だそう。
右 『ラピスラズリ』 山尾悠子 著 ちくま文庫
中『淋しかったからくちづけしたの─林静一傑作画集 少女編』 林 静一 著 PARCO出版
左 『聖少女』 倉橋由美子 著 新潮文庫
(すべて本人私物)
M.S.さん
2017年、ココネ入社。
「ポケコロツイン」クリエイティブディレクター兼アートディレクター兼アイテムデザイナー。
リアルな場へ足を運ぶことがパワーやインスピレーションになる
自作の絵をSNSで発表していた頃、作品を見てくださっている方に、好きそうだよと教えていただいたのが「ポケコロ」でした。見てみるとフリルやリボンなど、自分が好きで描いてきたモチーフがたくさんあるかわいい世界観で、これをお仕事にできたら素敵だろうな、と憧れの気持ちでデザイナー職に応募しました。今、私が得意としているのもかわいらしいテーマですが、クールなテイストのものを担当することもあります。その時はお客さまが好きなカッコよさを探すため、様々な作品をインプットして臨みます。そして、作る上で特に大切なのはトレンド。現在、担当している「ポケコロツイン」では、流行を押さえたデザインがお客さまにしっかり届きます。そのため、休日にショッピングに出かけた時は、ファッションビルを上から下までくまなく見たり、自分が着ないブランドのデザインも見たりして、トレンドを追うようになりました。オフの日には2.5次元の舞台や、YUKIさん、Perfume、戦慄かなのさんのライブも好きでよく見に行っています。その人にしかできない表現をしているアーティストからは、パワーもインスピレーションももらえるんです。大学時代からカフェ巡りも趣味で、私自身は、リアルな外の場所から刺激を受けることが多いですね。ココネのデザイナーである以上はお客さまの声と同じくらい自分の「好き」や感性を大事にして、これからも、素敵なアイテムや世界観をお届けしたいと思っています。
代表作「Pretty♡Vampire」
2022年4月リリースのガチャは、M.S.さんがアートディレクションとアイテム制作も手がけた。人間界を楽しむヴァンパイアという夢いっぱいのテーマ。
【ON】お仕事現場に密着!
デスクでのデザインチェック作業。M.S.さんのフリーアドレスのデスクには、好きなキャラクターのグッズなどキュートなものがたくさん置かれている。仕事場から、ココネが大事にしている「カワイイ」感性が貫かれている様子が伝わる。
「ポケコロツイン」デザインチームリーダーのM.M.さんと。移動中の隙間時間にも打ち合わせが始まるふたり。
お仕事かばんの中身をチェック!
テディベアつきのバッグで出勤。PCも入るので会社用として4年ほど愛用しているそう。スマホカバーには、好きなアーティストやキャラクターの写真がコラージュされている。クリスタルつきのペンは、右ページのN.I.さんが一緒に担当したテーマを完成させた際にプレゼントしてくれた大切なもの。
【OFF】私を高めるオフ時間
「新しい世界にどう自分が刺激を受けるのかに興味があって、いろんなところに行ってみたいんです」というM.S.さん。音楽ライブや2.5次元舞台にも足を運ぶけれど、大学生の頃から変わらない趣味はカフェ巡り。
M.S.さんのお気に入りカフェの一つ、東京・高円寺の「gmgm」(グムグム)は、天井のドライフラワー装飾がキュートなお店(現在、カフェは閉店)。
左 アクセサリーコレクション。リボンやハートなど、キュートなモチーフが大好き。
右 オフの日にはセルフネイルで気分転換。ネイルにハマってからは、アバターのキュートなネイルを考えるのも楽しくなったという。
左 「走る意味の答えを探しながら走り続ける登場人物の物語に熱くなり、高校生の頃から何度も読み返している」という小説。『風が強く吹いている』 三浦しをん 著 新潮文庫
中 セリフもほとんどないシンプルな構成のマンガ。絵のみで物語を伝える部分が、アバターデザインの仕事に通ずる。『ナガノのくまの本(1) もぐらコロッケのうた』 ナガノ 著 講談社
右 マイメロディの本は、時代ごとのデザインの変遷が見られるもの。『MY MELODY A to Z』 サンリオ 監修、グラフィック社 編・刊
(すべて本人私物)
今月のまとめ
ONもOFFも、「好き」がすべてデザインに返ってくる!
『装苑』 2023年7月号