クリエイティブの要となるウェブディレクターの仕事。CINRA, Inc.(以下、CINRA)では、サイト制作はもちろん、記事コンテンツや動画制作など、さまざまなソリューションを扱っているため、ウェブディレクターにも柔軟に適応できる広域なスキルが求められます。さらに近年は、豊富な実務経験や専門スキルを持つ外部クリエイターとも協業し、ナレッジ共有をするなど、よりハイレベルな制作に携われる環境づくりを推進中。
そこで今回は、2021年からCINRAとパートナー協業するMULTiPLE Inc.代表の平藤篤さん、Ubie, Inc.デザイナーの村越悟さんに登場いただき、チーフクリエイティブディレクター井手聡太とともに、内と外、両方から見るCINRAのクリエイティブ制作の魅力や伸びしろ、これからのウェブディレクターに求められる能力についてをうかがいます。
取材・文:宇治田エリ 撮影:佐藤麻美(CINRA, Inc.) 編集:市場早紀子(CINRA, Inc.)
【プロフィール】
井手聡太(CINRA, Inc.)
CINRA, Inc.チーフクリエイティブディレクター。1982年香川県生まれ。東京造形大学メディア造形学科、オランダwillem de kooning academyを経て、2006年から学生時より参加していたCINRA, Inc.へ入社。アートディレクターとして企業サイトやキャンペーン、自社メディアなどさまざまなデジタルを通したブランド構築のディレクションを行なう。近年は自治体と共同した観光プロモーションにも従事。現在はプランニングを中心にデザイン視点を生かし広い分野での課題解決を行なう。
平藤篤(MULTiPLE Inc.代表)
1979年東京都⽣まれ。⻘⼭学院⼤学⼤学院 国際マネジメント研究科(MBA)修了。⻘⼭学院⼤学学校教育法履修証明プログラム修了認定ワークショップデザイナー修了。明星⼤学デザイン学部デザイン学科 ⾮常勤講師(2017年〜)。⼤学在学中にウェブ制作会社を起業。約12年間に渡り制作現場と会社経営を経験した後、2014年に独⽴。その後、株式会社マルチプルを設⽴。現在は企業や団体のウェブプロモーション全般に関わる。CINRA, Inc.では主に、プロジェクトマネージャー、ディレクターとして携わる。
村越悟(Ubie, inc. Ubie Discovery プロダクトデザイナー)
デザインエージェンシーにて、10年ほどクライアント企業のウェブ・デジタルメディアの活用戦略コンサルティング、ウェブサイト構築に従事、その後事業会社にてUXデザイン組織の立ち上げ、マネジメントを経験、2年で全社にUXデザインの考え方を浸透させ、2015年より株式会社グッドパッチにジョイン、国内受託事業の責任者として着任後業績を昨年対比で145%成長を実現させる。2016年より海外事業の展開強化により、執行役員としてグローバルでのクライアントサービスの事業部門を立ち上げる。2017年にアクセンチュアへ入社。アクセンチュアでは、主に保険会社を中心としたデジタルトランスフォーメーションプロジェクトやデザインシンキングを活用したプロトタイピング、サービス企画に関するプロジェクトに多数参画。2021年2月Ubie株式会社に入社し、現在はグローバル市場向けのプロダクトデザインに従事。CINRA, Inc.では、ウェブディレクターチームのアドバイザリーとして携わる。
真面目で柔軟。フラットで前向き。外から見るCINRAの印象
―2021年から、平藤さんはウェブディレクターとして、村越さんはウェブディレクターチームのアドバイザリーとして、CINRAと外部パートナー協業をされています。どのような経緯があったのですか?
井手:ここ数年、記事コンテンツや動画など、幅広いソリューションを活かした案件や、大規模な案件を受けることが多くなり、社内で「もっとディレクターチームを強化しよう」という方針が持ち上がりました。そこで、外部からのナレッジを吸収したいという意図も込めて、以前からつながりのあったお二人に声をかけさせてもらいました。
CINRA, Inc.チーフクリエイティブディレクターの井手聡太
―平藤さんはCINRAとの協業にどのような魅力を感じ、参加することにしたのでしょうか?
平藤:最初に魅力に感じたのは「人」ですね。同じクリエイティブ業界で、井手さんの手がける案件をよく目にしていたので、ぜひ一緒に仕事をしてみたいという思いがありました。
CINRA, Inc.では外部パートナーとしてウェブディレクターを務める平藤篤さん(MULTiPLE Inc.代表)
―村越さんはいかがでしょう?
村越:ぼくは、ウェブディレクターチーム全体の相談相手として声をかけていただきました。話をうかがうと、チーム自体立ち上がったばかりで、アドバイザーとして相談できる相手を求めていたことを知って。また、CINRAが手がける案件はクライアントの業種やプロジェクトのタイプが多岐に渡っているので、そういう意味でも、ぼくが過去にいろいろ積んできた経験が、CINRAが求めていることに役立てられるのではと思い参加しました。
ー実際に動いてみて、CINRAメンバーや会社の雰囲気にどういった印象を持ちましたか?
村越:みんなほのぼのしていてフレンドリーだけど、真面目な人が多い。「よりよいものをつくりたい」という高い共通意識が、「問いをやめない」という会社のカルチャーにもつながっていると思いました。週1回、行われるディレクターチームのフィードバックミーティングでも、みんな「相談させてください」とどんどん声をかけてくれて、その積極性もすごくいいと思いました。
井手:村越さんはディレクターチームのメンバーから、先生みたいな感じで慕われていますよね。ミーティングはゼミみたいな雰囲気です(笑)。
村越:社内の多彩なプロフェッショナルたちとどうやってコンセプトをかたちにしていくか、多様な案件にどういうアプローチを取っていけるかなど、考える余地がめちゃくちゃある案件が多いので、ぼく自身も興味深いんですよ。いつも楽しみながら相談に乗っています(笑)。
CINRA, Inc.では外部パートナーとして、ウェブディレクターチームのアドバイザリーを担当する村越悟(Ubie, inc. Ubie Discovery プロダクトデザイナー)
ー平藤さんは実際に現場で案件を動かすポジションですが、どうですか?
平藤:ぼくは、現場のデザイナーやエンジニア、編集者などとも関わるのですが、村越さんと同じく「いいものをつくりたい」という意識のもとに集まった、専門性が高いプロフェッショナル集団という印象を受けました。
また、メンバーのみなさんは、変に上下関係がなくてみんなフラットでフレキシブルなんですよ。社内ルールやコミュニケーションでも「こうしなければいけない」という縛りをあまり持ってないから非常に自由。でも、それぞれ自分で考えて、しっかり責任感をもって業務に取り組んでいる点がおもしろいです。
CINRA, Inc.の組織図。ウェブディレクターはXDU(体験デザインユニット)に所属している
ストーリーを軸に考える体質が、舵取りの質に効いてくる
ー平藤さんは、実際の制作フローやアウトプットに触れて、「CINRAらしさ」を感じるポイントはありましたか?
平藤:CINRAは、案件全体のストーリーを大切にしながらものづくりをしているのが、「らしさ」だと思います。制作チーム内に、コンセプトを打ち立てる人、デザインがわかる人、テクニカルのことがわかる人、編集がわかる人など、各フェーズのプロがいるけど、意見がぶつかり合わないのは、みんながその「ストーリー」を意識しているから。チーム全体が同じ方向を向いているからこそ、なにもない「0」のところから、「1」を生み出すクリエイティブが可能になるんだと思います。これはほかにない強みでもありますね。
ー平藤さんがこれまでCINRAでディレクションした案件で、印象的なものを教えてください。
平藤:化学品や医薬品、アパレルなどの輸出入や、国内販売・製造を手がける企業のコーポレートサイトリニューアルですかね。自分の会社(MULTiPLE Inc.)では、少人数でプロジェクトを進めることが多いのですが、この案件では、CINRAメンバーだけでも10人程度が集まり、クライアントや外部パートナーも含めるとかなりの大所帯で進めていました。
ーその人数をまとめながらディレクションするのは、なかなか大変ですよね。
平藤:そうですね、貴重な経験でした。たとえば、CINRAの制作フローを「飛行機のフライト」だとすると、まず、案件の規模は機体の大きさです。そして、全体の道筋を決める管制塔の役割でアカウントプランナーがいて、ヒアリングやワークショップなど上流から案件に入る。
そこで課題をみんなが理解しやすいよう噛み砕いて、ストーリーとしてのコンセプトに落とし込みます。一方、ぼくが担当するウェブディレクターは操縦士のような役割。コンセプトから逸れないよう、ウェブディレクターが手順を決めて操縦官を動かし、チームのみんなでゴールに向けてかたちをつくる。
自分としては、いつもの飛行機より大きい機体の操縦士になった気分でしたね(笑)。最初は、どの程度操縦桿を動かしていいのか戸惑うこともありました。でも、プロフェッショナル揃いのCINRAメンバーだからこそ、大きく舵を切ってもみんなが最適解を出しながら粘り強くついてきてくれるので、ディレクターとしては、安心して操縦できる最高の環境でした。
クライアントからも、「弊社が掲げている、『社員が誇れる会社』を体現したサイトができました」とフィードバックをいただけてよかったです。
じつはアイデアを試し放題? 進行管理だけじゃないディレクションのたのしみ
―村越さんは、ディレクターチームとのミーティングのなかで、なにか気づきはありましたか?
村越:ディレクターのみなさんは、クライアントの要望に応えようとするあまり、自分たちのアイデアを提案しにくい場面も多いと感じました。メディアのコンセプトから、編集、デザインなどのアウトプットまで、一貫してできるのはほかにないCINRAの強み。クライアントもそれを求めてオファーしているはずなので、課題感や要望に対して、どう咀嚼して返していくかというアイデアをもっと提案に込められれば、より良くなると思いますし、そういう観点から日々フィードバックしています。
―なるほど。では今後、CINRAのウェブディレクターが一皮剥けるためには、なにが必要なのでしょう?
村越:クライアントワークは、お題や期限があるうえでクリエイティブを届けることが第一条件です。クライアントのビジネスに、みんなが持っている熱意やCINRAが持つケイパビリティーを組み合わせていく。そんなおもしろい提案がどんどん出てくるような雰囲気や環境をつくることが必要だと思います。
また、ウェブディレクターが担うUXデザインのセクションは、コンセプトを具体的なビジュアルに落とし込むまでを設計する中間のポジションなので、不確実性が高い分、可能性が無限にある過程。だからこそ、デザイナーやエンジニアといった、横や前後とのつながりが最も効く部分なんです。その観点を持って、柔軟に社内コミュニケーションを取ることも重要だと思いました。
ー村越さんは、ディレクターたちにどのようなフィードバックをしていますか?
村越:たとえば、オーダーの内容だけでワイヤーフレームを組み立てるのではなく、「このクライアントはこういう事業アプローチもしているよね」「マーケットでは投資家向けにこんな情報も発信しているよ」など、案件に関連する周辺情報を交えて整理して伝えています。視野を広げれば、違った観点でのアプローチも考えうるというフィードバックが多いですね。
ーストーリーを軸に課題を考えるCINRAらしい、「編集力」を刺激するような話ですね。井手さんはCINRAのウェブディレクターが大切にすべき軸はどこにあると思いますか?
井手:クライアントはもちろん、エンドユーザーと近い視点でいることだと思います。ウェブディレクターも編集的視点を絶えず持つことが必要。これまでそれを大事にしてきたからこそ、アウトプットの「CINRAらしさ」につながっていると思います。とくに私たちが手がける案件は、クライアントのことやサービスの内容を知らない人にどう届けるかを探るような、抽象的な領域が多い。だからこそ、ロジカルかつ柔軟に、いろんな角度で考えてみることが必要なんです。
一歩踏み込むことで見えてくる景色
ーCINRAでのディレクション業務は、どういったところにおもしろさがあるのでしょう。
井手:私自身もこれまでいくつかの案件でウェブディレクションを手掛けてきましたが、画面構成やデザインに対して、社内の編集者からも、「なぜこのクリエイティブになっているのですか?」と聞かれることがあるんです。でも、社内のアカウントプランナーが提案したコンセプトをもとにつくっているので、パッと理由を答えられる。こういった軽快なコミュニケーションも、高いクリエイティブにつながっていると思います。また、手がけるソリューションが幅広いので、ディレクターとして引き出しが増えていく実感が得られます。
村越:まさにほかにはない特殊性がありますよね。クライアントの課題やユーザのニーズに対して、機能を満たすだけでなく、「どう相手に伝えるか」まで踏み込んで世の中に出すことができる。クライアントにも、社内にも、一歩踏み込んで話をしていく姿勢がめちゃくちゃおもしろいです。
平藤:デザイナーや編集者などが各々のフィールドの最前線を追求し、切磋琢磨しているので、自分も勉強にもなるし、刺激にもなります。しかも、そんなプロフェッショナルたちと連携しながらディレクションできる。ウェブディレクターとしては、力を試しやすい非常にリッチな環境です。
ー今後のCINRAディレクターチームに求めること、期待していることを教えてください。
村越:誤解を恐れずに言えば、ウェブディレクションの醍醐味は、プロジェクトを通してチームのアイデアをある程度自由に試せるところ。クライアントの要望に向き合いつつも、「もっとこうしたらいいんじゃないか」という思想も打ち出していきたいです。そこで大切なのが、「クライアントも含めた制作チームみんなが納得できる筋道をつくれるかどうか」。それにはロジカルな思考が必要ですし、相手のことを本気で考えるからこそ、ときにはタフなコミュニケーションをしなくてはいけない局面もあるでしょう。
クライアントの要望とこちらの提案がぶつかるケースもあるはずです。それでも怯まずに、対外的に見せたい会社のイメージや背景をちゃんと理解し、要望を一度飲み込んだうえで、自分たちが「本当にいいと思うこと」を料理して伝えるコミュニケーション力があると、信頼にもつながるのではないかと思います。
平藤:これからのウェブディレクターに必要なのは、ウェブ以外の知識を持つことだと考えています。雑学や違うなにかとのかけ算をすることで、オリジナリティーが出て、自分らしい道が広がっていくはず。みなさんのそんな好奇心に期待したいです。
村越:わかります! たとえばサブカルやガジェットなど、まったく別の分野に対する造詣の深さが、最終的にクオリティーに跳ね返ってくる場合もありますよね。好奇心のバリエーションをどんどん増やしていくのも大切です。
井手:メディアや広告は、興味を持っていない人に「これいいかもしれないよ」というメッセージを届ける、すごくお節介なこと。他者に踏み込む力と、お二人が言うような好奇心を持つことで、見えてくる景色はすごく楽しいものになると思います。
また、CINRAは、大所帯かつ、編集や映像などの分野も関わる、複雑性のあるチーム。それをまとめ上げるマネジメント力も期待したいですね。今後、独立して起業したいと考えているようなステージのディレクターなら、CINRAでチームビルディングの経験を積むのもいいと思います。「CINRAの環境をうまく使いたい」くらいの意気込みがある方に来ていただけるとうれしいですね。