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魅力ある高校づくりを島根から全国へ。答えのない仕事に挑み続ける【しまね事業/田中りえ】

地域・教育魅力化プラットフォーム(以下、PF)で、島根県全体の高校魅力化や、コーディネート人材の育成などに取り組む田中りえさん。「島根県が一つの職場」と話す田中さんは、現在、PF以外にも自身の会社である「株式会社MYTURN」の代表や「NPO法人てごねっと石見」で理事を務めます。「人と人を繋げる存在でありたい」という思いを持ち続ける田中さんに、今回お話を伺いました(インタビュアー 山根 若菜)


▼島根へUターンし、PFに入るまで

ーまず、りえさんのこれまでの経歴を教えてください。

大学を卒業後、リクルートで4年間働いていました。その後島根へUターンし、江津市で人材育成や創業支援を行う、NPO法人てごねっと石見を立ち上げます。出産を経て、2014年から「高校魅力化コーディネーター」(以下、魅力化CN)として島根県立横田高校に勤務し、2017年からはPFでも働いています。現在はPFを中心として、てごねっと石見の理事や、2018年に起業した(株)MYTURNで、人材育成やプランナーなどの仕事も行っています。

ーPFでの現在のお仕事内容を教えてください。

島根県教育委員会と協働して、島根県内の高校の魅力化推進に取り組んでいます。現在担当しているのは、高校魅力化に関わるコーディネート人材の育成事業と「高校魅力化コンソーシアム(以下、コンソーシアム)」のモデル構築の事務局の仕事です。PFが設立するときから関わっていて、最初は立ち上げ事務局として総務や会計、広報、採用など何でもやっていましたが、昨年から事業の推進に主に関わっています。事業の推進といっても、文科省主催の全国サミットの企画・運営や、地域みらい留学の参画校や全国のコーディネーターとのネットワークづくりなど、幅広い業務を担当しています。

※詳しくはこちら(学校と地域をつなぐ人のためのサイト)https://cn-miryokuka.jp/

ー当時、島根県立横田高校でコーディネーターとして勤務されていて、そこからどのようにPFで働くことになりましたか?

横田高校で勤務しているとき、「学校という文化に異文化として入る魅力化CNは、孤立化しやすい」と感じていました。また、私自身も各学校にある課題を他の魅力化CNと共有出来ず、悩みを抱えていました。何かヒントが欲しい、一緒に相談できる仲間が欲しい、そう思い、他校のコーディネーターに連絡をとり、情報交換会を実施しました。学校や地域を越えたつながりができることで、少しずつ力が沸いてくるのを感じました。
それから魅力化CNが一つのコミュニティのようになっていき、お互いの高校を視察したり、合宿をして、「しまね留学」に必要なものは何か議論したり、総合的な学習の時間の進め方について意見を交わすようになりました。
その当時、島根県教育魅力化特命官の岩本悠さんも合宿などで一緒に議論し、各学校だけでなく、県単位で高校魅力化を進めていく必要性などを感じました。その後、岩本さんが代表理事としてPFを立ち上げる際に「手伝ってほしい」と誘われ、参加したのがきっかけです。

▼「島根を楽しむ」人々に出会っていく

ー大学では社会学やまちづくりを学んでいたそうですね。そうした経験が現在の仕事に繋がっていると感じることはありますか。

大学で、まちづくりの一つとして商店街でのフィールドワークを経験しました。「商売人と消費者」、「モノと人」、「若者と高齢者」、「移住者と地域住民」などの間を繋ぐのは難しく、出会いを生む人の存在がすごく大切だと思いました。大学の授業で出会ったタウン誌の編集長の話を聞き、情報を発信することで人と街がつながり、地域の活性化に繋がるのではと感じました。そのため、大学4年生で就職活動をするときは、「人と人を繋ぐ仕事をしたい」という明確な気持ちを持っていました。紙媒体を通じた情報発信を通して、人と人が繋がるのが感覚としてあったからです。その後情報誌を作成する仕事でも、お店や人だったり、商品と人を繋げたりしました。
そして現在も、高校と企業や地域、県と地域の人を繋げたりすることが、そうした思いに繋がっていると思います。

ー島根にUターンしてから、どのような出会いがありましたか?

帰ってきたばかりは、知り合いも少なかったです。最初に岡山の友人に紹介してもらったのが、邑南町で乳製品や生乳を生産している「シックス・プロデュース」という会社でした。県立大学在学中に起業された洲濱さんや、洲濱さんを応援する島根の仲間たちとの新たな出逢いもありました。さらに、東京と島根を行き来して川本町で古本屋を経営していた尾野寛明さんとも出逢いました。彼にさらに人を紹介してもらい、数珠のように色々な人と繋がっていきました。当時海士町におられた岩本悠さんも、尾野さんにつなげてもらったその一人です。毎週末には島根の各地域に足を運び、中小企業の社長や大学の先生、起業家といった人たちと会いました。そこで出会った人たちの多くが、いわゆる「普通の会社員」ではありませんでした。「島根県を楽しむ働き方は、色々あるんだな」と思いました。Uターンをしてから、人の繋がりを体感した奇跡のような半年間でした。

▼島根の高校魅力化が全国のモデルになる

ー島根で様々な仕事をされる上で、大切にしていることはなんですか?

Uターンしたときから、島根で仕事をする、ということを一番に考えていました。高校魅力化の仕事だけでなく、てごねっと石見やMYTURNも、すべてが島根というひとつの舞台として仕事をするようなものなので、全てが繋がっています。例えば、「MYTURN」で行う地域のひとづくりに関わる仕事も、地域と高校を繋ぐPFとかけ離れた内容ではありません。島根県がひとつの仕事現場、というような感覚です。
様々な立場の方々と島根をより面白くしようと取り組む仕事は、どれもやりがいがあります。一生懸命頑張っている人と一緒に挑戦したい、という思いはずっと大切にしています。

ーPFでのこれからの目標は何ですか?

もっと人と多く関われるような組織をつくりたいと考えています。高校魅力化で関わるのは高校がメインですが、地域の商工会や公民館や企業や大学など、もっと輪を広げていきたいです。
さらに、今の「しまね事業」を島根県内で完結させるのではなく、全国へ取り組みを発信していきたいです。島根県の活発的な高校魅力化の動きは、他地域で行われている高校魅力化の取り組みにとっても、参考になる情報だと思います。全国と交流を持つことで、島根県のさらなる魅力的な高校づくりにも繋がると思います。

▼コーディネーターの繋がりを生んでいく

ーPFのお仕事の一つに「高校魅力化コーディネーター(以下、CN)の人材育成」とありましたが、詳しく教えてください。

PFに参画したときの想いのひとつに「コーディネーター配置、育成」に関わりたいと考えていました。2014年頃、高校魅力化に関わるCNは島根県で20人ほど。全国においても高校に関わるコーディネーターは、珍しい存在でした。

隠岐島前高校の魅力化プロジェクトの牽引役であった岩本悠さんらの活躍もあり、高校魅力化を推進する鍵としてCNの存在は重要だと考えていました。ただ、財源や処遇の問題、育成システムもない中、コーディネーターの配置が一過性のもので終わってしまうのか、将来的にも仕事として成り立つものなのか、私自身も横田高校でコーディネーターをしながら、「この仕事の価値とはなにか」ともがいていました。
その後、PFに参画した2018年からは、CNの全国調査やヒアリング、また文部科学省の研究会等に事務局として関わらせていただきました。研究会の議論を経て「コーディネーター人材の配置」から、「コーディネーター機能の充実」という結論に至りました。

そして2020年度から、コーディネート機能の充実に向けた育成プログラムの開発に関わっています。
具体的には、島根県内を対象に、コーディネート機能の充実に向けた育成プログラムの開発や研修の実施、学び合いの機会を目的とした「メンター制度」の開発を行っています。例えば、3、4年間勤める先輩CNが相談役のメンターとなり、新しく入ったCNと面談できる機会をつくりました。今年は新型コロナウイルス感染の影響で年度当初教育現場も混乱の中にありました。配置されたばかりの1年目のCNは特に不安や悩みを抱えやすかったように思います。メンターは、新任コーディネーターの悩みや課題に耳を傾け、毎月の面談を実施しています。面談を通じて、自身を振り返る機会になったり、メンター自身の成長実感につながったりしたようです。

このような育成の議論は、現場で実践するCNや、島根県教育委員会の人材育成チーム、大学関係者や人材育成領域の民間企業の方など様々な方にアドバイスを頂きながら検討し、実践しています。
また、島根大学地域教育魅力化センターが主催の地域教育コーディネーター育成プログラムコースにも4期のサポーターとして関わらせていただきました。島根県だけでなく、全国においてもCNの育成のニーズは高いと感じています。 ※島根大学「地域教育魅力化センター」

以前横田高校でコーディネーターとして働いていたときは、各学校の同士で声をかけあって、島根県全体のネットワークをつくっていました。今は、このような動きを島根県教育委員会と協働して行っています。まだまだ手探りな部分も多いですが、地域を超えて繋がり、情報や悩みを共有するのはCN育成にとって、すごく大切なことだと感じています。

▼地域と共に歩む高校魅力化

ー「コンソーシアム」とは具体的にどのような取り組みなのでしょうか。

魅力ある高校づくりのために、多様な主体が参画して取り組む協働体制のことを「コンソーシアム」と言います。生徒がこんなふうに育って欲しいという目標のためには、学校と地域が連携していく仕組みづくりが重要です。例えば、モデル校のひとつである県立津和野高校は、生徒の成長に向けて、高校の先生だけでなく役場や地域の人やCN、さらには卒業生した大学生など多様な人が関わっています。

コンソーシアムの形や目指すところは地域の実情によって異なります。各地域でどんなビジョンを描くのかが重要ですが、もちろん議論には時間がかかります。コンソーシアムのモデル構築や研修の場を通じて、コンソーシアムの在り方について各高校や県教育委員会と議論を重ねています。

ー事務局ではどのような役割を担っていますか?

コーディネーターやコンソーシアムなどの事業を推進するとき、PFの立場はいわゆる中間支援的な「事務局」です。
業務としては、各事業に関する企画立案、全体調整や設計、体制議論からスタートし、その後の運用では目標に対する計画立てや、現場の状況を把握する役割があります。もちろん会議の運営、進捗状況の管理、プロジェクトの作業報告など、事務的な仕事も多くあります。また、先生やCNが困っている課題に対し、一緒に何ができるか考えたり、必要であれば地域と県などを繋げたりします。PFは縁の下の力持ちのような感じですね。

ー私(インタビュアー山根)の高校では、CNさんと先生たちが一緒に働いていました。先生たちとは主に勉強の話をしていましたが、CNさんとは将来のキャリアや地域課題など違った話ができ、面白いと感じていました。

高校生にそのように感じて貰えるのが嬉しいです。生徒にとって先生とは違う、ナナメの関係といえる存在かもしれません。また、学校と外部を繋げるのもCNの仕事のひとつです。地域連携や県外生徒募集など、これまで取り組めなかったことに挑戦するなど、学校に異文化を持ち込む存在とも言えるかもしれません。
今は若い年代の魅力化CNが多く、1~2年目の人でも活躍の場が沢山あります。新しく入ったCNにも、この仕事を楽しんで欲しいなと思いますし、学びの機会を提供することも私の役割です。

▼答が出ない仕事、だから面白い。

ー田中さんが思う、PFの価値はなんですか。

PFは島根を拠点に活動していますが、全国の地域の高校に入学する「地域みらい留学」事業を通して、全国の学校や自治体と関わる機会が多くあります。また、松江で働くメンバーは10人程度ですが、マーケティング、広報、システム設計、ファンドレイズ戦略など教育に関わらず、様々な専門性をもつ外部パートナーが全国に約70人もいます。ビジョンの実現に向けて、様々な人たちの応援を受け仕事ができることは、とてもありがたいと感じています。

PFの仕事は、私にとって経験したことがない仕事の連続です。今年の地域みらい留学フェスタや、研修のオンライン化への全面切り替えもその象徴でした。
恐らく、他のメンバーも「答えがない」と感じながらも、果敢に挑戦していたはずです。だからこそ、みんなで知恵を絞り、どうしたら上手くいくのだろうと考えます。その姿勢が、PFの価値だと思うんです。困ったときに頼ってもらえる組織になるためには、やったことがないことに果敢に向かうしかないんだと思います。

ーPFでのこれからの目標を教えてください。

PFで働く人たちは、同じ方向を向きつつ、それぞれが専門性をもっていて、持ち味が違います。そしてPFだけでなく、地域で生きるみんながそれぞれの持ち味を磨いていけるような社会をつくっていきたいです。そのためには、困ったときにもっと周りを頼るというのは大事かもしれません。
高校魅力化は1、2年で完結することはありません。長期戦です。ただ、答えがみえない仕事が多いからこそ、面白いとも感じます。高校魅力化に関わって7年。良くも悪くも、「ここまでいけたら達成したかな」という境界がなく、それを求め続けていくのが、私がここにいる意味な気がします。

掲載記事はこちら 魅力ある高校づくりを島根から全国へ。答えのない仕事に挑み続ける。|note

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