社員の給与を大幅に上げるのは、会社にとっては恐いことです。固定費の上昇は事業が不調なときに耐え切れない可能性があるからです。
しかし、従業員が働く一つの目的はお金をもらうことです。今より給与が増え、快適な生活ができることを多かれ少なかれ望んでいます。昨年経営者1年生としてこのことに向き合う中で、会社と社員が一つの方向を向くためには、目を背けてはいけないことだと確信しました。
もちろん給与が上がれば全て解決するかというと全くそんなことはありません。それでも、従業員の立場を忘れていない今だからこそ、会社・従業員双方の視点にたった考え方で設計することが事業の長期的な発展に寄与すると考えています。
目次
- 「社員の給与を上げるのは手段か目的か」
- ①会社の重要指標(弊社の場合は4つ)の中に「社員の昇給賞与の伸び率」を入れる
- ②「決算を社員に包み隠さず、共有する」
「社員の給与を上げるのは手段か目的か」
フェーズによりますが、私の結論は「目的」です。
①社会をこう変えたいというビジョンがあって、優秀な人が辞めないための手段として社員の給与を上げる
②社員の給与を上げること自体が企業の目的で、それを実現するための手段として売上、利益をしっかりと上げていく
①がオーソドックスな考えですが、多くの会社は②が当てはまるというのが私の考えです。
■①が当てはまる企業
創業したてでビジョンへの意識が非常に高いベンチャー企業や、平均年収の2-3倍だと社員が認識している大企業には①が当てはまります。
私も1年半ベンチャー企業でフルタイムインターンをしていましたが、働きやすさよりも働きがいに意識がある人が多いです。このような集団では給与よりもビジョンや経験、そのための裁量が大切です。
また大企業は組織が大きくなり、自分は何のために働いているのか、自分の業務がどう社会と繋がっているのかわからなくなります。そういった会社には明確なビジョンの共有と、その進捗度合いを振り返っていくことが大切だと思います。ただしここでは割愛しますが、①に当てはまる企業でも自分の給与への関心は日々高まっているように思います。
■②が当てはまる企業
ここからが本題ですが、一般的な中小企業の従業員は、まず働きやすさや安定の意識が強いはずです。例えば自分の給与が年収300-400万円であれば、会社のビジョンやパーパスよりも自分の給与が今後どのくらい伸びていくのか、会社の売上はちゃんと上がっていくのか、そういった現実的な自分の悩みに頭がいってしまうのは当たり前のことだと思います。会社が赤字か黒字かと騒いでいる時に、会社の10年後の目標のためにリスクをとって挑戦しよう!と熱いメッセージを送っても共感できる人の方が少ないのは想像できると思います。
つまり、私の考えでは90%以上の会社で「給与を上げることが目的になる」ということです。
間違えのないようにお伝えすると、
私の会社はきちんとした考えや意識を持っている人が多い一方、平均年収は高いとは言えない水準です。このような場合、経営者が人事戦略を考える時には上記例と同じ意識を持つ必要があると思っています。
ここまでが、給与を上げることは手段ではなく、目的に近いと私が考える理由です。
次にこの意識から、この1年間弊社で取り組んだことを2つご紹介させて頂きます。
①会社の重要指標(弊社の場合は4つ)の中に「社員の昇給賞与の伸び率」を入れる
それほど珍しい事ではないかもしれませんが、会社の売上目標と同じように、社員の給与・賞与にも目標を設定して半期毎に社長から報告しています。もちろん原資がなければできないことですので、利益次第ですが、この仕組みにしてからは2回とも昇給賞与目標を達成しています(売上・利益が一定水準を超えたため)。
大事にしているのは、「給与が上がり続ける」ことです。今月はボーナスが3ヶ月分、その次は1ヶ月分などとあまりに大きい差があると精神的に安定しないことと、何より多くの人にとって給与が前よりも上がることは嬉しいことだと思うからです。
今期も従来の評価制度では部署による差が大きくなりすぎたため、全員がしっかり上がり続けるように評価を微修正しました。人によっては、それによりボーナスが下がる人もいますが、今回の数十万円よりも全員が気持ちよく働けて成果が出れば、2-3年後にはベースが大きくなるので、皆で価値を高めていこうと伝えています。
②「決算を社員に包み隠さず、共有する」
この会社に入って非常に不思議に思ったのが「社内に決算発表をしないこと」です。上場会社ではもちろん公開されていますし、中小企業でも対外的には非公開なまでも、社内では共有されていると思っていました。
なぜなら、日々自分が活動する会社の経営情報がわからない状況では、自分が何をすべきか考える余地がなく、戦略や方針の意図を理解する難易度も圧倒的に上がるからです。
弊社は少し前まで、経費・家賃・役員報酬・経常利益・資産をなるべく知らせないスタンスで売上と粗利だけを公開していました。
どうしてだろう?とクライアントや友人の中小企業の社長さんに何人も聞きましたが、一人もしっかりと公開している人はいませんでした。
主な理由は2つで、①自分の給与をあげづらくなる②経費を自由に使えなくなるということでした。それを聞いて、「昔の人の感覚は根底に会社は自分のものだという意識があるのではないか」と感じました。
もちろん社長としては自分の給与はいざとなれば下げられるけど、社員の給与を一度上げたら下げるのは大変です。しかし、長期的に考えれば、自分がいくらか得するよりも、社員に「自分の価値を高めて会社に貢献したい」と思ってもらう方が、何倍も会社にとって有益だと思います。
ちょうど自分の役員報酬を上げようと思っていたタイミングだったので、決算と同時に利益・経費の主な項目と合わせて役員報酬も全員の前で発表しました。
「利益が少ないからできる、毎年何億円も税金を取られていたら、社長個人で経費を使う方が利口だ」という人もいると思いますが、それだけ利益が出ていればもっと事業を拡大しに行けば良いと思うのです。
仮に数年後に税金がもったいないから車を買おうとか、自分の家を事務所にして家賃を入れようと思ったとしたら、それは社員に説明して納得してもらえるものに限れば良いと思います。社長だけ明らかに個人的なお金を使って度が過ぎれば、それこそ社員のやる気をなくすことにつながり、会社としてはデメリットでしかありません。
まとめると、
中小企業の人事戦略は、社員の給与を上げること
そのためにしていることは、
・社長の重要指標に社員の給与水準を入れる
・決算は細かく全て公開する
これを元に一丸と戦略を共有して価値を高め、利益を稼ぐことです。
まだ取り組みを始めて1年未満ですが、社員からの反応も好評で
「これやりたい」「ここが知れたから部下に説明しやすかった」「給与上げたい!」と様々なポジティブな意見が出てきています。
ここ2年で給与を上げるのは当たり前になり、余裕のある社員がどんどん挑戦していく組織にできるよう改革を続けていきます。