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(写真左からポケットサインの岸本、澤田=取締役CTO、大橋)
Webエンジニアの間で有名な年一回のプログラミング競技大会、ISUCON(イスコン)。2022年と2023年に2年連続で優勝し、今大会は満を持して出題者となる3人組は、東京工業大学(現・東京科学大学)デジタル創作同好会(traP)で同じ釜の飯を喰った同志でした。そして今は私たちポケットサインの一員として、ISUCONで培った「馬力」を発揮しながらプロダクト開発を牽引しています。そんな3人に、大会の魅力や作問の苦労などを語ってもらいました。
立ち上げたサークルで"コンテスト荒らし"
ISUCONとは「いい感じにスピードアップコンテスト」の略であり、2024年12月8日に開かれる今大会で14回目を数える。LINEヤフーが窓口となって運営されている。参加者は、動作が遅いサーバーとサーバーアプリケーションが与えられ、サーバーの挙動を基本的に変えない、ユーザーができる体験を変えないといったルールの下、制限時間内でスピードアップ度合いを競う。サーバーのコードや設定を変えるなどして高速化し、より速く、より多くレスポンスを開始する処理を行うことができれば高得点が得られる。
ーー3人のISUCONの出場歴を教えてください。
大橋:東工大*のtraPというサークルで、僕が2年生のときかな? いろんなコンテストに出て実績を出そうみたいな動きが流行っていました。そんな時にISUCONを見つけまして、参加しようという話になったんですよ。NaruseJun(ナルセジュン)として僕と澤田さんともう1人別のメンバーで出ました。そのISUCON8(2018年開催)には、同じサークルにいた岸本さんは別のチームで出ていました。
*:東京工業大学は2024年10月、東京医科歯科大学と統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。
大橋滉也(おおはし・こうや)
元東京工業大学(現・東京科学大学)デジタル創作同好会traP代表。普段はゲームのサーバーサイドエンジニアとして勤めている。 ISUCON12・ISUCON13優勝。
岸本:実績を挙げることで「大学公認のサークルになる」という目的もありましたね。
岸本崇志(きしもと・たかし)
東京工業大学(現・東京科学大学)情報工学系卒業。元traPメンバー。Goバックエンド開発をメインとしつつ、Reactフロントエンド開発、パブリッククラウド・k8sの運用保守も行なっている。ISUCON12,13優勝。
大橋:2021年からこの3人でNaruseJunを組んで出るようになりました。余談ですが、当時は澤田さんがいるチームにNaruseJunの名前を付けることが多くて、トラブルシューティングや情報危機管理など、さまざまなコンテストにNaruseJunの形でtraPのメンバーが出ていました。だから、その界隈では"コンテスト荒らし"と呼ばれていたとか呼ばれていなかったとか(笑)
澤田:セキュリティ系のCTFという競技もあって、僕はそちらの方にもたくさん出て賞をもらったりしていました。ただ、最近はもうセキュリティ系の大会は出場していません。だから、NaruseJunはもうISUCONのチームだと思われているかもしれません(笑)
澤田一樹(さわだ・かずき)
ポケットサイン株式会社取締役CTO。株式会社メルカリソフトウェアエンジニア、SOMPOホールディングス株式会社デジタル新規事業会社の立ち上げ、アルゲンタム・コード株式会社CTOを経て、ポケットサイン株式会社を共同創業。SECCON CTF 2018 International(セキュリティ競技国際大会)準優勝、ISUCON12(パフォーマンスチューニングコンテスト)優勝、ISUCON13優勝。東京工業大学(現・東京科学大学)工学部卒
ーー大学のサークルの頃からの付き合いなんですね。
澤田:そうですね。2015年にゲーム制作サークルとして始めたんですが、僕は立ち上げメンバーの1人でした。2年目に岸本さんと大橋さんの同期2人が入ってきて。
岸本:僕はもともとプログラミングを中学・高校のころからやっていたんですけど、入学してから、どんなサークルがあるんだろうと色々見ていたら、traPが最初に目に留まったって感じです。
大橋:僕は何となく東工大(現・東京科学大学)のことを調べていて、前年の学祭とかをツイッター(現・X)で眺めていて、ゲーム制作に関する展示をしていたようで、面白そうだなと思いましたね。僕らが入学した年で、メンバーは多分70人ぐらいいて、卒業するときは400人ぐらいまで増えました。
澤田:今は700人ぐらいいますよね。
ーーかなり急拡大、急成長したサークルだったんですね!
ポケットサイン加入、修羅場で馬力を発揮
ポケットサイン株式会社は「信用の摩擦をゼロにする」をミッションに掲げる。信用の摩擦、すなわち相手を信頼するために発生するコストは私たちの日常生活から本来やるべきことに注力する時間を奪っており、普遍的な社会課題となっている(市役所での手続き、銀行口座の開設、就職活動での書類準備など)。私たちは、本人確認が求められる日常のさまざまな場面で信用の摩擦をゼロにすることで、生産性を高め、より良い社会を築くことを目指している。
ーーそんな3人がポケットサインに関わるようになったきっかけは何だったんですか。
大橋:澤田さんが2022年に梅本さん(梅本滉嗣・ 代表取締役CEO/COO)たちとポケットサインを創業する際に誘ってもらったんですが、そのタイミングでは参画しませんでした。その後、ISUCON12で優勝し、インタビューなどのタイミングで私が東京に来たときに再び誘ってもらいました。それでポケットサインについて考えるようになって、お手伝いをすることになりました。
岸本:2022年のISUCON12に出たときはまだポケットサインに加わっていなかったんですけど、2023年に2回目の優勝をした後に誘われました。それを機に今年初めからお手伝いするようになりました。
ーーまさにISUCONがつないだ縁ですね。
ーーポケットサインの事業について簡単に説明してもらえますか。
澤田:「信用の摩擦をゼロにする」ためのカギとして、いま最も熱いのがマイナンバーカードです。当社はマイナンバーカードの活用を軸にしたサービスを展開しています。
実際問題としてプラットフォーマー的な側面が大きいんですが、いきなりプラットフォームが出てきても、多くの人は使ってくれないですよね。だから、マイナンバーカードと公的個人認証を活用してデジタル空間上の信頼できる身分証を提供することで、リアルとデジタルがシームレスに繋がった日常を目指す世界観みたいなものを体現するため、さまざまなミニアプリを開発しています。目下、全国各地の地方自治体の方々に提供し、使っていただいています。
ーーポケットサインはメンバーに占めるエンジニアの比率が非常に高いですが、どんなエンジニアがいるんでしょうか。
澤田:普段から間近で接しすぎて、逆によく分からないです(笑) チームの中で動いている2人の方が…
大橋:高パフォーマンスな人たちが多いですね。アウトプットが安定していて着実に成果を出しているというよりは、何かグンってエンジンを回すと、 めちゃくちゃパフォーマンスが出る人たちが多いイメージです。
ーーそれは、どういうところで感じられたんですか。
大橋:例えば、本当に期限(納期)がやばい、みたいなことが時々あるじゃないですか。遅れているけど、すぐに出さないといけない、みたいな。そういうとき、みんな駆けつけてパパッとやって、無事にローンチさせたり機能を出したりするところですかね。ガッツがある人は多いと思いますよ。
澤田:いや、分かる気がしました(笑) やばいときの馬力が一番強い気がする。大橋さんなんか、かなり修羅場を乗り越えてきたんじゃないですかね(笑)
大橋:悪く言うとムラがあるんです(笑)
岸本:結構、少数精鋭というか、そんなにエンジニアの人数は多くはないと思うんですけど、一人ひとりの技術力はかなり高いという印象はあります。
澤田:少人数ながらも、やっぱりプロジェクトの数は多いので、皆そこそこ1人でもマルチな才能を発揮してくれる人が多いかなと思います。
大橋:自走力は高いイメージです。
澤田:そうなります。みんな真面目というか、すごく重箱の隅を突っつきたがるタチなんじゃないですか、良い意味で。
岸本:そこは、やはりマイナンバーカードとか個人情報とか、重要なデータの周りを扱う会社なんで、そこは何か「しっかりしたいよね」という空気はありますよね。
ISUCON14参加者に告ぐ「かかって来い!」
ーー皆さんから見たISUCONの面白さ、魅力は何でしょうか。
岸本:ISUCONでは、自分たちがどれくらいコードとサーバーを改善できたかが、明確にスコアとして数字で出てくるんですよ。そのスコアの優劣を競うわけなんですが、そこが恐らく他のコンテストと大きく違う点でしょうね。他のコンテストは問題を出されて、それを解けるか解けないかみたいな方式で、それぞれ得点はあるんですが、ISUCONの場合はちょっとずつの改善でもきちんとスコアが上がっていくので、フィードバックがあるところが面白いです。
澤田:あとは、単純に手法に制限がないところも結構、面白い部分だったりしますね。問題系のコンテストだと、だいたい正解があって、それに向かって解いていくのが軸ですけど、ISUCONはマジで何でもありなんで(笑) なおかつ、スコアの上限もないですからね。昨年は僕らのチームは2位のチームに20万点以上の差をつけたダブルスコアで優勝して、「誰にも真似ができない」みたいなコメントもいただきました。そういう動きができるコンテストは他にあまりありません。
大橋:だからこそ、「こうやったら、めっちゃ速くなるだろう」と思っても、実装に10時間かかるような選択はダメなんですよね。制限時間が8時間だから。でも、そこで「普通の人なら10時間かかるけど、自分がやれば3時間でできる」と確信が持てれば選択できるので、さっき言っていた馬力の話に繋がりますよね。
ーー作問するのと競技者として出るのとでは、全然違いますか。
大橋:全然違います。作問には7、8月頃に着手したんですが、やっぱり解くときにどうせなら面白く解いてもらいたいじゃないですか。そこに心を砕いています。あと、今年は出場枠が去年の600チームから1000チームに広がるので、より多くの、より広い実力帯の人が参加すると思います。どの実力帯の人にも、しっかりと最後まで8時間楽しんでもらえるというか、「解いたぞ!」という気持ちになってもらえるような出題にしないといけません。そういったことを考えながらコードを書くのが難しいです。なかなか進んでいないんですけどね(笑)
岸本:僕も同じような 感じなんですけど、どのような方にも何かしらコードを改善して、改善したらスコアがちゃんと伸びていくという一連のサイクルを体験してもらえるような問題づくりですね。競技者として出たときとは全く違う考え方をしないといけないところが難しいですね。
大橋:僕はこれまでISUCONのタイミングで初めてサーバーを真面目に勉強したり、Go言語を初めて触ったりして、実際いまGoでコードを書いて仕事をしてるので、ISUCONに育ててもらったみたいな部分はあると思っています。年に一度の運動会みたいな盛り上がりを提供する側に回るわけですが、みんなに楽しんでもらえたらいいなと思ってます。もう本当に毎日ちょっと胃が痛いんですけど、はい、頑張ります。
ーー最後に、ISUCON14に参加する方たちへのメッセージで締めくくりたいと思います。
大橋: 難しいなあ…「こうすると勝てますよ」とかは言えないし、「いっぱい準備していっぱい練習したらスコア取れますよ」なんて話も、作問側として言うことではないですし。
澤田:「かかってこい!」じゃないですか(笑)