拓殖大学 / 政経学部
論文 窃盗犯の心理
窃盗犯の心理は、様々な要因によって複雑に形成されています。窃盗は、単なる物質的な利益の追求だけではなく、心理的、感情的、社会的な動機が絡み合って行われることがあります。ここでは、窃盗犯の心理を掘り下げ、その背景にある主な要因や心理状態について大手量販店での万引きGメンの経験をもとに説明します。 1. 欲求不満と衝動性 窃盗は、強い欲求不満やストレスが原因で起こることがあります。例えば、金銭的な問題や生活の不安が長期間続くと、その不満が衝動的な行動として現れる場合があります。このようなケースでは、理性よりも感情が優先され、物を盗むことで一時的な満足感を得ようとします。 特に、衝動性が高い人は、瞬間的な欲望に逆らえず、計画的ではなく即興的に窃盗を行うことが多いです。これは、自制心が弱く、リスクを十分に考慮せずに行動する傾向が強いためです。 2. 自己価値感の低下 多くの窃盗犯は、自分の価値や能力に対して低い評価を持っていることがあります。これは、過去の失敗やトラウマ、虐待の経験などが原因で、自信を持つことができず、「自分は成功できない」と感じている場合です。このような心理状態では、他人のものを奪うことで一時的に「自分も何かを得る権利がある」という感覚を得ようとすることがあります。 3. 支配欲とコントロール欲求 窃盗を通じて、他者に対して権力や優位性を感じることもあります。物を盗む行為は、他人の所有物を自分のものにするという意味で、ある種の「支配」を意味します。この行為を通じて、自己効力感や支配感を得ることが目的となることがあります。 特に、家庭や職場で自己表現が制限されていたり、他者からコントロールされていると感じている人は、窃盗によって自分の存在感や力を証明しようとすることがあります。 4. 社会的影響と環境要因 周囲の環境や社会的なプレッシャーも、窃盗を促す要因の一つです。経済的な困窮や犯罪が日常的に起こる環境にいると、犯罪行為が「普通」と感じられるようになり、道徳的な制約が薄れてしまうことがあります。仲間や家族が窃盗に関わっている場合、その影響を受けて窃盗に手を染めることも少なくありません。 また、特に若年層では、仲間内でのステータスを得るためや、グループへの帰属意識を強めるために、窃盗が行われることがあります。こうした行動は、他者との関係性や社会的なプレッシャーから来るものであり、個人の判断とは異なる動機が含まれることが多いです。 5. 感情的な満足感と快感 一部の窃盗犯は、窃盗行為そのものに快感やスリルを感じています。これは、犯罪行為に対する恐怖やリスクが、アドレナリンの分泌を引き起こし、それが「興奮」として感じられることによります。特に、生活に刺激が少ない場合や、日常が退屈であると感じている人は、このような感情を求めて窃盗を行うことが多いです。 6. 病的窃盗 (クレプトマニア) 心理的な障害の一つとして「クレプトマニア(病的窃盗)」があります。この障害は、窃盗行為自体が目的であり、盗んだ物に対する興味や必要性はありません。クレプトマニアは、衝動制御の問題として分類され、治療を必要とする状態です。多くの場合、患者は自分の行為が間違っていると理解しているものの、その衝動を抑えることができず、繰り返し盗みを行ってしまいます。 まとめ 窃盗犯の心理は、単純な金銭的欲求だけでなく、心理的な要因や社会的な影響が大きく関与しています。欲求不満や自己価値感の低下、社会的な影響、さらには心理的な障害など、さまざまな動機が組み合わさり、窃盗行為が行われます。窃盗犯を理解するには、その背後にある複雑な心理状態を見つめ、適切なサポートや治療が必要な場合も少なくありません。