国立大学法人 神戸大学 / 経済学研究科博士
労働経済学研究
労働経済学における賃金の男女格差の研究は、長年にわたり重要なテーマとして扱われてきました。この問題は、ジェンダーの経済的不平等を理解し、改善策を提案する上で不可欠です。賃金の男女格差は、職業選択、教育、経験、労働市場での差別など、さまざまな要因に起因します。 1. 賃金格差の要因 賃金の男女格差の原因は多岐にわたり、以下のような要因が考えられます。 職業選択の違い: 男性と女性が選ぶ職業が異なることが賃金差につながる場合があります。例えば、男性は工学や技術職、女性は教育や福祉の職を選ぶ傾向があるため、賃金に差が生じることがあります。 労働時間の違い: 長時間労働が評価される職場環境において、家庭や育児の責任がある女性が長時間働くことが難しい場合、昇進や賃金で不利な立場に置かれることがあります。 昇進の壁(ガラスの天井): 多くの国で、女性が管理職に昇進する機会が少なく、それが賃金差に結びつくことがあります。この現象は「ガラスの天井」として知られ、女性があるレベル以上に昇進するのが難しいことを指します。 出産と育児の影響(子どもペナルティ): 出産や育児に関連して女性が労働市場を一時的に離れることが多く、キャリアや賃金の成長が遅れる「子どもペナルティ」が賃金差の一因となることがあります。 職場での差別: 一部の職場では、同じ仕事をしているにもかかわらず、女性が男性よりも低い賃金を支払われることがあります。このような差別的な慣行が賃金の男女格差を広げる原因です。 2. 賃金格差を測定する方法 賃金の男女格差を分析する際には、以下のような統計的手法が用いられます。 平均賃金の比較: 男女それぞれの平均賃金を比較する基本的な方法です。単純な比較では、賃金格差がどの程度存在するかが示されますが、職業や年齢、経験などを考慮しない場合、正確な要因分析にはなりません。 Oaxaca-Blinder分解: この方法は、賃金格差を「説明可能な要因」(教育や職業選択など)と「説明できない要因」(差別や不透明な要素)に分けて分析する手法です。これにより、賃金格差の原因がどこにあるのかを特定することができます。 回帰分析: 労働者の賃金に影響を与えるさまざまな要因を統計的に分析し、性別が賃金にどのように影響しているかを測定します。この手法では、年齢、経験、学歴などの要因を統制し、性別による賃金差を計測します。 3. 賃金格差の改善策 賃金格差を縮小するための施策は多岐にわたりますが、以下のようなアプローチが一般的です。 企業の透明性の向上: 賃金や昇進の透明性を高めることで、差別的な扱いを防ぐことができます。例えば、男女間での賃金や昇進に関するデータの公開を義務付けることが考えられます。 育児休業制度の強化: 出産や育児に関連する制度を強化することで、女性がキャリアから一時的に離脱しても不利にならないようにする取り組みです。また、男性の育児休業取得を促進することも、男女格差の是正につながります。 ワークライフバランスの改善: 労働時間の柔軟性やテレワークの導入により、育児や家庭の責任を負う女性が職業で成功できる環境を整えることが必要です。 4. 日本の賃金格差における現状 日本では、特に長時間労働の文化や伝統的な性別役割分担が賃金格差を広げる要因とされています。政府は、女性活躍推進法や男女共同参画計画などの政策を導入し、賃金格差の是正に取り組んでいますが、依然として多くの課題が残っています。 研究テーマである賃金の男女格差の分析には、これらの要素を考慮し、統計的手法を駆使してジェンダーの経済的不平等を明らかにすることが求められます。特に、Oaxaca-Blinder分解や回帰分析を活用し、賃金格差を生じさせる要因を具体的に解明することで、効果的な政策提言が可能になるでしょう。