私が、求職者との面接で楽しみにしていることの一つは、知的好奇心をくすぐるような質問をされることです。 最近、私が受けた質問は、「異文化環境がイノベーションを促進すると思う理由」でした。 面接では比較的簡潔に(10分以内に!)答えたのですが、振り返ってみると、もっと何かあるような気がしました。それ以来、この質問について考えていたので、私の見解をお伝えしようと思います。
そもそも文化とは何を意味するのか
文化という言葉を定義する方法はたくさんありますが、私たちはしばしば、伝統、言語、習慣、芸術などを連想します。 しかし、今回の目的のためには、より実用的な定義を提案したいと思います。 「文化とは、社会的規範やヒューリスティックの集合体である」。この定義は、少し専門的に見えるかもしれませんが、見た目よりもずっとシンプルなものです。
「規範」とは、一般的に「普通」と認められていることや、「良い」「悪い」と考えられていることを定義する考え方、概念、ルールなどのことです。評価基準(価値観)となるものです。例えば、「関東ではエスカレーターの左側に立つのが普通。」というようなものです。
「ヒューリスティックス」とは、問題解決や意思決定を容易にするために用いる認知的な近道のことです。決断や行動に関わるものです。例えば、歩行者用信号で赤信号の時に、人が渡るのを待つのは、道路を渡るのが安全かどうかを判断する必要をなくすヒューリスティックです。 私たちは1日の中で数え切れないほどの判断をしています。ヒューリスティックを持つことで、気にしないといけない判断の数を減らし、より些細なことは自動操縦で行うことができるのです。
文化的背景を持つことは、物事を判断したり評価したりするための多くの規範や、社会的相互作用の中で意思決定の近道として使用される多くのヒューリスティックス(意識的か否かを問わず)を伴うものです。
高コンテクスト文化は通常、規範性が高く(規範が多い)、またヒューリスティックスを多用する傾向があります(無意識の場合が多い)。高コンテクスト文化は一般的にアイデンティティや帰属意識が強く、摩擦の少ない平和な相互作用をもたらします。 一方、低コンテクスト文化は個人主義的で、規範が少なく、摩擦の多い相互作用をする傾向があります。
さて、私はこの話をどこへ持っていこうとしているのでしょうか?
本題とどのように関係しているかについて触れる前に、まずイノベーションについて話しておきたいです。
イノベーションには必須条件があるのか
「イノベーション」という言葉が、ちょっとしたクリックベイトのように聞こえ、その重要性が過大評価されているかもしれません。 私たちは、日常的にイノベーションを起こす必要はありません。時には、計画に忠実に物事を進めていくことも必要です。
しかし、競争の激しい業界(もちろんゲーム業界も含まれます)では、革新的であることが、成功した製品とそうでないものとを分ける特別なエッジとなるのです。
基本的に、イノベーションとは、目標を達成するために斬新なアイデアや方法を思いつくことです。あるいは、まったく新しい目標を打ち立てることでもあります。 革新的であるための条件はいくつかありますが、私は特に次の2つが重要だと考えています。
- 創造性:既成概念にとらわれずに物事を別の角度から見たり、他人が無視していることに目を向けたり、同じ目的地に向かう別のルートを試したりする能力。
- 勇気:現状をあえて打破し、快適な場所から外に出て冒険し、習慣という安全網を取り除くことを厭わないこと。
イノベーションが難しいのは、適切なマインドセット(創造性と勇気)と、そのようなマインドセットを助長する環境の組み合わせが必要だからです。 明らかに、異なる視点やアイデアを歓迎せず、リスクを取ることに報いない環境では、イノベーションは生まれません。
さて、ここまでイノベーションについて見てきましたが、本題とどのように結びついているのかを見てみましょう。
なぜ異文化環境がイノベーションを促進するのか
私たちの規範やヒューリスティックは、毎日同じ道を歩いて同じ駅に向かうような、創造性に蓋をしてしまいます。しかし、異文化環境は、それぞれの参加者の文化に由来する社会的規範やヒューリスティックを認め、それを超えていくためのユニークな機会を提供します。
異なる規範に直面することで、偏見を取り除き、自らに課した創造的な拘束から解放されます。 そして、それがイノベーションの第一歩になるということです。
とはいえ、イノベーションを起こすためには勇気も必要です。勇気を発揮するためには、適切な環境、つまり「相互信頼」の環境が必要です。失敗するかもしれないリスクを背負って踏み出すのは、容易なことではありません。まして、仲間が応援してくれるかどうかわからない状況では、さらに困難です。勇気には信頼が必要です。
しかし、具体的に信頼とは何でしょう?それは予測可能性の一種です。誰かを信頼できるのは、その人がどのような状況でどのように行動するか、判断や行動がある程度予測できるからです。 そういう意味では、高コンテクスト文化は、社会的規範やヒューリスティックスが共通しているため、信頼の基盤として適していると言えます。
一方、異文化の環境では、そのような基盤がないため、特に注意が必要です。
どのような工夫が必要か
私たちは社交的な動物です。さらに言えば、文化的な動物であるとも言えます。 社会不安や決断の疲労に陥ることなく社会で活躍するためには、社会的規範やヒューリスティクスが不可欠です。
チームや組織の中で信頼関係を築くには、その組織特有の文化を作るのが一番です。異文化のチームでは尚更です。参加者の異なる文化的規範やヒューリスティックに勝る一連の価値観や原則が必要なのです。
もちろん、チームは通常ゴールを目指しているので、構築する文化もゴールに合わせたものでなければ、チームの存在意義とその価値観の間に心理的不協和音が生じ、機能不全に陥り、信頼を得られなくなってしまいます。
価値観や原則を決める際には、異なる文化的バイアスを認識し、違いを受け入れることが基本です。なぜなら、この違いこそが私たちをより創造的にする可能性があるからです。
価値観が決まれば、アイデアはその価値観に基づいて判断されるべきです。 異文化チームの信頼関係は、このようにして築かれます。自分たちの文化の規範を共有しているので、判断や行動が相互に予測可能なのです。
まとめ
お気づきかもしれませんが、私は「独自の文化、価値観、原則を持つ機能的な異文化チームを構築するのは簡単だ」とは一度も言っていません。 なぜなら、簡単ではないからです。とても難しいことなのです。そして、イノベーションも同様です。
テクノロジーの進歩により、世界中の人々をつなげて一緒に仕事をすることが、かつてないほど簡単になりました。しかし、簡単なのはそれだけです。 考え方や経験の違いを活用するには、明確な共通目標と、それを実現するための適切な環境が必要です。
この記事は少し長く、いつもより濃い内容になってしまいましたが、主なポイントをまとめてみます。
- 文化は、社会的規範とヒューリスティックでできている
- イノベーションには創造性と勇気が必要
- 異文化環境は偏見から解放されることで、創造性を高めることができる
- しかし、勇気を出すには信頼が必要
- 信頼は、チーム特有の文化の構築によって得られる
Wizcorpでは
Wizcorpは、2008年の設立当初から異文化チームとして活動してきました。決して簡単なことではありませんでしたし、常にうまくやれてきたとは言い切れませんが、私たちは常に、素直でオープンな姿勢で文化的な課題に取り組んできました。 社内で文化を構築することの重要性は、私たちが苦労して学んだことであり、今も日々学んでいます。 だからこそ私たちは声を大にして訴えて行きたいのです。それがいかに重要かを理解しているからです。そして、社員、社員のアイデア、社員の経験、社員の違いを大切にすることで、私たちが影響力を発揮できることを信じています。
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