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流通から生産者を豊かにしたい。それが、実家への恩返しにもなると信じて。取締役岩崎のこれまでとこれから


今回は、2020年にベジクルに入社した取締役の岩崎亘の半生を振り返り、今後の展望を聞いていきます。


みかんの専業農家の長男は農家の後継ではなく、起業家の道を選んだ

岩崎は静岡県沼津市のみかん専業農家の長男として生まれました。子供の頃は、田舎の、しかも農家の家に生まれたことが嫌だったそうです。長男なので、いずれ家業を継がなくてはいけない身であることは自覚しつつも、絶対に農家にはなりたくありませんでした。一方で、そんな息子の気持ちを知ってか知らずか、両親から農家を継いで欲しいとは一度も言われたことがなかったといいます。そして大学進学とともに念願の上京を果たし、田舎と農業から解放されたはずでした。

岩崎 大学の友達との会話で、自虐的に実家がド田舎で農家だということを伝えると、かなり興味を持ってくれ、実家に何人も連れていきました。だんだん「やっぱり自分のアイデンティティはみかん農家の長男であることかも」と思えてからは、むしろ農業に興味を持つようになり、将来は農業や食の領域で事業を興したいと漠然と思うようになりました。新卒でリクルートに入社した後は、一貫して農業や食に関わる業界にいます。そして30歳を過ぎて、規格外の農産物を活用してコールドプレスジュースなどの健康的な商品の製造販売を行う事業でいよいよ起業しました。しかし、僕の力不足で上手くいかず、撤退しました。

その後、2018年に岩崎は前職である日本食材や食文化を海外輸出するスタートアップに取締役として入社します。その期間に、後のパートナーである池田との出会いを果たすことになります。


見落とされがちな流通に、使命感を感じた瞬間

前職で国内事業の立ち上げを行っていた際に、野菜の卸として商談に来ていたのが、ベジクルの旧社名「司企業」の代表池田でした。その時ちょうどオフィスにいた岩崎に事業担当者が池田を紹介し、二人は初めて出会いました。

岩崎 後日、池田から連絡が来て話がしたいと。会社の課題や想いを色々聞きました。当時、青果流通業界でスタートアップがいくつか立ち上がり注目を集めていた時期でした。池田も、本当はもっと上を目指したい、日本一になりたいが、どうすればスタートアップ的な戦い方ができるかわからず悩んでいました。家だと僕は性格も得意分野も正反対だったので、僕が力になれるかもしれないと思ったのです。
また、青果流通を考えた時に、起業した事業のことを思い返しました。規格外の青果物を農家から適正価格で直接仕入れていたのですが、宅配便を使わざるを得なかったので、商品価格と同じくらいの送料を払っていました。10数軒の農家から、週に何度も仕入れていたので、相当な物流費でした。そんな中でサブとして青果卸からも仕入れていましたが、こちらは少量でも今日注文すれば明日届けてくれた。川中と呼ばれる流通業は地味なので見過ごされがちだし、産直がベストだというイメージがありますが、実は生産者にとっても買い手にとっても、市場を中心とした青果流通構造は理に適っていると感じていたのです。ただ、池田から青果流通のプレイヤーたちが何も変わっていないと聞き、これはチャンスだと確信しました。

こうして、成果流通を変革することに使命を感じ、出会いから約2年が経った2020年に入社したのでした。


中小企業経営からスタートアップ経営に舵を切る決意と裏腹に到来したコロナ禍。乗り切った合言葉は「逆張り」

盤石な中小企業経営を行い、利益も順調に伸ばしていた司企業が更なる飛躍をするためにスタートアップ型の経営に舵を切ることを決め、その主導者として岩崎が入社することとなりました。入社後にやることを色々と考えていた2020年初頭、世界を新型コロナウイルスの猛威が襲いました。2020年4月、岩崎が司企業に入社した直後に、緊急事態宣言が発令されました。

岩崎 私が入社してすぐ、資金調達に取り掛かる予定でした。しかし入社直後の新型コロナの影響で急遽方向転換をしなくてはいけませんでした。必ず終わるコロナ禍を耐えて、日常が戻った時に成長のアクセルを踏めるように、切り替えて体制を作ることにシフトしました。
緊急事態宣言中でも安定的に営業している飲食店はありました。デリバリー専門店や中食、チェーン店などです。それらの店舗を中心に取引を拡大させるために、他の同業他社では絶対にやらないだろう選択をしました。それが、営業のためのマーケティングコストの投下と、DX人材の採用です。
この時「逆張り」を合言葉にしました。中小企業経営とスタートアップ経営は投資に対する考え方が全く違います。私が入社しスタートアップ型の経営をしていくということは、リスクをとって大きなリターンを得るという考え方に会社全体を切り替えていかなくてはいけないことを意味します。今までの延長線上での成長ではなく変革を起こすのが私の役割と捉え、従業員との対話を続けてきました。

奇しくもこれまでの盤石な中小企業経営で生み出した利益のおかげでコロナ禍を乗り越え、この間に司企業からベジクルに社名を変更をしました。創業15年の青果流通スタートアップの幕開けです。


データを使って農家に還元する。高付加価値な流通サービスでまずは日本一に。

現在、岩崎は事業側の管掌を一手に引き受けています。足元のグロースを固めつつ、ベジクルの次のステージについてこう語ります。

岩崎 企業の価値を業界内で日本一にすることを目標の1つとしています。それには、ただの卸会社ではなく、より付加価値の高いビジネスを作っていくことが私が担うミッションの1つです。今進めているBPaaSを使ってデータを蓄積することは、新しいビジネスの可能性に直結します。例えば、飲食店の需要データを農家に提供すれば、いつ、どんな野菜を作ったらより高く売れるかといったマーケットインの生産が可能になります。「流通が、農家に貢献できる」これはみかん農家の長男にとって、この上なくワクワクすることです。


創業16年目のスタートアップ、ベジクルとその成長に邁進する岩崎の挑戦は始まったばかりです。




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