こんにちは、田上です。
9月12日(水)にtechain主催のイベントを開催しました。
ゲストには、森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士であり、ブロックチェーン推進協会・日本ブロックチェーン協会・日本仮想通貨事業者協会のアドバイザーを務める増島雅和氏、株式会社Aerial Partners代表取締役であり一般社団法人日本仮想通貨税務協会理事を務める沼澤健人氏、2017年にICOで4.3億円を調達したALISの安昌浩氏という豪華なメンバーにお集まりいただきました。
今回のテーマは「Legal」。
法務のスペシャリストである増島先生を始め、複数のICOプロジェクトの顧問も務める沼澤さん、そして日本を代表するブロックチェーンプレイヤーとしての安さん、という非常にバランスの取れたゲスト構成となりました。
(今回のゲスト構成はALISの安さんにも的確なアドバイスをいただきました!)
イベントは、
①基調講演:増島雅和氏〜日本でブロックチェーン事業を行う際のレギュレーション〜
②パネルディスカッション:増島雅和氏×沼澤健人氏×安昌浩氏〜日本でブロックチェーン事業を行うことの実情〜
③主催者挨拶
④懇親会
という流れで進行しました。
(この進行に関しても、事前にお三方に何度も適切なアドバイスをいただきました!)
以下、上記の4つを時系列でまとめていきます。
(※お三方への呼称は田上の普段の呼称となっております。特に立場や意味はありません。)
主催者挨拶
僕(田上)がtechainを立ち上げた背景として、ブロックチェーンを活用したプロジェクトを増やしたいという想いがあり、そのために既存事業者にもっとブロックチェーンのことを知ってもらう必要があると感じたため、2回目となる今回は、実際にブロックチェーン事業を行う際のレギュレーションをテーマに採用し、その道のプロフェッショナルをご招待させていただきました。
上図は第1回イベントの様子であり、「コンテンツビジネスにおけるブロックチェーン活用事例」と称して、Steemit、ALIS、そしてtechtec社のパートナーであるPrimasにご登壇いただきました。
基調講演:増島雅和氏
まずは、増島先生より「日本でブロックチェーン事業を行う際のレギュレーションについて」と題した基調講演を賜りました。
今回のイベントのために増島先生が資料を作成してくださいました。
techainのconnpass上で公開させていただいているので、そちらも合わせてご覧ください。
控えめに言っても、これ以上ない貴重な勉強ソースです。(本レポートも一部をそのまま引用させていただいております。)
ブロックチェーンを用いた事業の考え方
増島先生によると、「ブロックチェーン事業を行うといってもどのレイヤーにおける事業なのかによって考慮すべき点が全く異なる」とのこと。
(これはブロックチェーン(パブリックチェーン)に載せる仮想通貨ないしトークンは、レイヤーによってタイプが異なるため、必然的に考慮する点も異なるということを意味していると僕は受け取りました。)
「トークン化」を考える際に理解しておきたいこと
普段我々が何気なく仮想通貨ないしトークンと呼んでいるものには、いくつかの種類(性質)が存在します。
・Protocol Token(プロトコルトークン):サービス基盤となるブロックチェーンを機能させるためのトークン。多くの国で規制の対象外となっており、日本では仮想通貨として規制される。
→例:bitcoinやether
・Utility Token(ユーティリティトークン):特定のサービスやネットワークへのアクセス(支払)手段とし て用いられるべく設計されたもの。日本では前払式支払手段か仮想通貨のいずれかに分類されるケースが多い。
→例:ERC20によって生成されたトークン
・Security Token(セキュリティ(証券)トークン):他人の事業からの経済的利益に参加するためのトークン(有価証券のトークン化)。日本では集団投資スキームの定義等に照らして判断。
→例:株式のトークン化
・Asset Token(アセットトークン):証券以外の資産をトークン化したもの。「既存の何らかの証書」が証券法で規制されるものである場合にはSecurity Tokenと呼ばれ、証券法の規制外のものである場合にはAsset Tokenと呼ばれる。
→例:金、石油、在庫などのトークン化
・Non-fungible Token(ノンファンジブルトークン):NFTに関しては言及されていませんでしたが、ERC721によって生成されるトークンでトークンに唯一性(Non-Fungible:代替性が無い)を持たせることができる点が特徴です。
→例:CryptoKittiesなどのブロックチェーンを使ったゲーム
コンソーシアムモデルにおけるブロックチェーンの規制
現状の日本の規制では、トークンを必要とするパブリックチェーンを活用した事業を展開することが難しくなっているため、最近はコンソーシアムチェーンによる事業が出始めているとのことです。
(いつも会場をご提供いただくLIFULLさんの取り組む不動産コンソーシアムがまさに該当します。いつもありがとうございます!!)
コンソーシアムチェーンにおける事業展開の仕方としては、サービス自体をまず稼働させ、トークンは後で頃合いを見て乗せていくという動きが多くなっているみたいです。
こうすることで、現状の規制には抵触せず、とりあえずブロックチェーン事業をスタートさせることはできます。(本意ではありませんが...)
経済産業省が調査の一環として複数の戦略分野における法制度の変更の要否に関する検討会を開催しているとの話もありました。
現行法制がカバーしている仮想通貨関連のルール
仮想通貨の規制に関する内容では、日本の現状の法規制はまだまだ全体のごく一部しかカバーできておらず、これからである部分がたくさんあるとした一方、何がどの法律に該当するのか、実際に法律の内容をどうしていくのかが不明確な状態ではあるとの課題も指摘しました。
ICOに課される規制はなにか?
実際にICOをしようと考えている人たちにとってこれは非常に有益な1スライドなのではないでしょうか。
(せっかくなのでそのまま掲載させていただきます!)
その他にも、アセットトークナイゼーション(現実資産のトークン化)、SAFT(Simple Agreement for Future Tokens)などの旬な内容にも触れられていました。
この辺りは参加者のみの貴重な情報としてクローズドにしておきたいと思います。(connpassに資料上がってますがw)
(J-SAFTというワードも登場しており、シード資金調達のための投資契約書であるKISS(Keep It Simple Security)の日本版(J-KISS)を設計された増島先生には、J-SAFTの整備を期待させていただかずにはいられません...)
パネルディスカッション:増島氏・沼澤氏・安氏
基調講演の後のパネルディスカッションでは、以下の通り前半と後半に分けて進行しました。
・前半:事前に事務局で用意した質問へ回答
・後半:sli.doを用いてその場で参加者とのQ&A
Q:日本人のICOに関する行為で、明確に禁止されているものは何ですか?
安さん
これは実行者側か投資家側かによって考慮すべき点が異なるかと思いますが、どちらでしょうか?
田上
両者でいきましょう
A:増島先生
いずれにせよ、発行者が日本にいる場合はICOできません。
発行者が海外にいても、購入者が日本にいる場合はICOできません。
なお、ICOの定義として不特定多数を対象にして実施する行為ですので、じゃあ不特定多数って何?と言われると現状は明確に回答ができない状態です。
田上
プライベートセールならいいの?という話ですよね。
Q:日本でブロックチェーンと暗号通貨(トークン含む)を使ったサービスを展開する際に気をつけるべきことは何ですか?
A:増島先生
別にトークンを発行すること自体は問題ではなく、結局は日本の取引所に上場させる必要があるので、そのために最初の設計からしっかり行なっていく必要があります。
沼澤さん
現状は、法務的なフィルターで引っかかるプロジェクトがほとんどになっています。
なので、プレイヤー側はまずはそもそもの法律を知ることから始めるべきです。
安さん
実際に経験した身としては、まずとにかく専門家に相談してください。
資金決済法だけでなく、場合によっては証券法にも抵触する可能性があるので。
沼澤さん
ちなみに、日本人に販売してはいけないという定義ってどのあたりなんですかね?
増島先生
日本からのアクセスを弾くようにしているプロジェクトが多いです。(IP制限かけているということですね!※田上解釈)
安さん
みなさん気になってると思うんですけど、日本語のサイトを作らなければいいんですかね?
増島先生
それに関しては、物理的にインターネット全てを監視することは不可能だということになりますよね...
Q:新たに協会への加盟が増えている傾向のある産業はどこですか?
増島先生
これはどの協会のことでしょうか?
沼澤さん
日本ブロックチェーン協会(JBA)ですかね。
A:増島先生
産業ではないですが、海外からの加盟が増えてますね。
日本に事業を展開するための繋がりを作っておきたいというところではないでしょうか。
沼澤さん
少し話がテーマから逸れますが、ERC1400というものがERC20の発案者からGithub上でissueが立てられましたが、これについては安さんどう思います?
安さん
回答になっているかわかりませんが、ベンチャー×ICOはダウントレンドな感じがしています。
ベンチャーの体力ではレギュレーションの部分が強固すぎて突破することが難しくなっていますね。
Q:行政機関は、匿名通貨や分散型取引所(DEX)の普及によるAML/CFT(マネーロンダリング/テロ資金供与対策)に対してどのような意見を交わしていますか?
A:増島先生
前提として、匿名通貨だからダメというわけではなく、通貨の動きを追うことができないからダメということです。IMF(国際通貨基金)という組織がそもそも存在しているように、決済というものには一定の透明性が必要になります。そういう解釈をしています。
DEXに関しては、DEXにも色々ありますが、機能としてのDEXをただ置いているだけでは問題にはなりません。
DEXを使った取引行為を促すような行為に問題があるわけです。海賊版サイトのそれと同じですね。
続いて後半です。sli.doという質問サービスを使って、参加者からその場で寄せられる質問に登壇者が回答していくという流れになります。
Q:子会社を作って海外でicoして、日本の親会社に戻せば日本の法律は関係ない気もするんですが、それは可能でしょうか?
A:増島先生
資金を戻すのは問題ないのではないでしょうか。考慮すべきは税務ですかね。日本とその国とのレギュレーションがあるので確認が必要になります。
安さん
トークンを海外で発行してそれを日本に持ってくるのはどうですか?
増島先生
トークンの場合も、税務を気にすればやれなくはないですよね。
Q:金融庁に相談してokと言われたら、後で違法だと言われるリスクは無いのでしょうか?
沼澤さん
これは私も気になります。
A:増島先生
金融庁の人もサラリーマンなので、ひっくり返しは有りえないですよ。笑
そもそも曖昧なものに対して、彼らがいいんじゃないですか?とは絶対に言いません。
Q:現時点で、どこの国で暗号通貨関連ビジネスを展開するのがルール的に1番ゆるいと思いますか?
田上
マルタやシンガポールはよく聞きますよね。
A:増島先生
そうですね、じゃあなんでマルタやシンガポールが受け入れてるかというと、雇用を生み出したり資本を増やしたりといった具体で何かしらの目的があって彼らはやっているんですよね。
なのでそこは彼らの目的に沿う必要はありますよね。
シンガポールは日本から近いのがいいですね。
Q:トークンの発行者が日本にいるとアウトとのことでしたが、ALISの場合はどうなっているのでしょうか?
A:安さん
これに関しては、僕らが実施した頃とは事情が変わっている、という回答になりますね。
先ほどの質問に対する回答にもありましたが、過去のものをひっくり返して現在のものに当てはめにいくなんてことは無いと思います。
Q:現状の規制であれば、ICOではなく、既にちゃんとしたサービスの実態がある場合でもetherとerc20トークンの交換には仮想通貨交換業の登録が必要ですよね?ユーザの資産を預かるわけでもないのに、ユーザの資産を管理する性質のサービスと同等レベルのこの規制は厳しすぎると思うのですが、いかがでしょうか?
A:増島先生
そもそも、利用者の資産に関わるのに以前の規制が緩すぎただけで、今ぐらいが正しいんです。
昔が緩かったから今が厳しくみえるだけかと思います。
安さん
ウォレット間がユーザー同士が勝手にやり取りしてるだけの場合はどうですか?スマートコントラクトがやっているだけの場合ですね。
増島先生
プロトコルがやっているだけの場合、追求先がいないから難しい部分はありますよね。
場合によっては、DEXの開発者を追求したりとなることもありそうです。
Q:NFTは仮想通貨にあたりますか?例えばetherとERC721トークンの交換には仮想通貨交換業の取得が必要でしょうか?
※NFT:Non-fungible Token
A:増島先生
NFTだからって仮想通貨じゃないとは言えません。ERC721だからERC20だからとかそういう問題ではありません。
Q:USではZcashがregulatedな取引所(Geminiかcoinbaseだったかな?)に上場されているのに、なぜ日本では同じことができないんでしょう?
A:増島先生
先ほども言いましたが、匿名だからNGというわけではありません。
日本で匿名通貨が弾かれたのは、単純にその時に国に知識がなかったからですね。
田上
それこそEthereumにZcashのzkSNARKs(匿名性を実現するための暗号技術)が実装されようとしていますが、じゃあ実装されたらEthereumは弾かれるの?という話になりそうですね。笑
沼澤
新たなトークンが金融庁のホワイトリストに追加される日は来るのでしょうか?
安さん
これは個人の解釈として聞いていただきたいのですが、追加の基準を明確にする必要がありますよね。
沼澤さん
自分で質問しておいて自分で回答しますが笑、上場というとやはりIPOと比較されることになりますよね。
じゃあIPOと同じような監査の仕組みを仮想通貨に適用できるかというと、すごく難しいのではないかと思います。
沼澤さん
最後にぜひ私から質問させてください。
Q:エクスチェンジと販売業を同一事業者がやるのは無理があるのではないか。販売と交換を両方やっている状況はいかがなものか。
A:増島先生
それは今回の検査で指摘されているはずですよ。マーケットメイクはやってはいけないものですから。
そもそもトークン(Decentralizedな概念)なのに、なぜ仲介者がいるのかという話になります。笑
なので、ゆくゆくはなくなっていくのではないでしょうか。だからDEXが話題になっているわけですよね。
沼澤さん
ALISとこのプロジェクトをやろうと決めたあの時の情熱は、技術先行でやっていたからこそであり、規制が整備されるにつれて市場の情熱は冷めてしまった感がありますが、プレイヤーとしては一旦レギュレーションを気にせず、増島先生のようなレギュレーションのスペシャリストの方に応援してもらえるような、そんなプロジェクトを作っていくことが大切なのではないでしょうか。
最後は素晴らしい締め括りを沼澤さんがしてくれたところでパネルディスカッションは終了しました。
台風21号および北海道胆振東部地震による被害への寄付
イベントの最後には、【台風21号および北海道胆振東部地震による被害への寄付】に関するアナウンスをさせていただきました。
今回、techainコミュニティを通して、被害に合われた地域の方々の力になりたいという想いから、イベントの前日・当日に寄付を募らせていただきました。
仮想通貨・ブロックチェーンの優れた特徴の1つに、支払いの透明性(transparency)があげられます。
今回は急遽決まったことであったため、仮想通貨による寄付の受付はビットコイン(BTC)のみの対応となってしまいましたが、イベントに参加できなかった方々からも多くの寄付を受け取ることができました。
そして、集まったビットコインは以下のサイトで確認することができます。
アドレス:1EqdhQLVjKG1XKd2v938h23wPDrgbv3gfZ
確認用サイト:https://chainflyer.bitflyer.jp/Address/1EqdhQLVjKG1XKd2v938h23wPDrgbv3gfZ
また、今回の取り組みを行うにあたり、仮想通貨ドネーションプラットフォームKIZUNAと連携することを決定しました。
techainを通して集まった寄付金は、全額KIZUNAプロジェクトに託し、KIZUNAプロジェクトが責任を持って復興のためにお届けすることをこの場で誓います。
※既にKIZUNAプロジェクトへの引渡しが完了しました!ご協力いただいた皆様ありがとうございました!