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【 アート業界におけるDXの秘訣 】 塩野入弥生 × 施井泰平


こんにちは!スタートバーン広報担当の水野です!

先日、スタートバーンは経営体制をアップデートし、新たな取締役、社外取締役、シニア・アドバイザーを迎えました。



今回は、新社外取締役としてジョインされた、元Artsyゼネラルカウンセル兼アジア戦略責任者の塩野入弥生さん(愛称:弥生さん)とCEOの施井泰平さん(愛称:泰平さん)の対談記事です!

スタートバーンは、アート市場の基盤をつくる日本生まれのスタートアップとして、今後どう前進していくべきなのか。アーティスト兼創業者である泰平さんと、アート業界を知り尽くした弥生さんが、業界の「いま」を交えながら話してくれました




「アート × 法律」の先駆者として
走り出して20年


泰平 今日はよろしくお願いします!僕自身はもちろん、アート業界の方であれば誰でも塩野入さんのことご存知だと思うのですが、軽い自己紹介からお願いできますか?

弥生 はい!今年8月から、晴れてスタートバーンの社外取締役に選任していただきました、塩野入弥生です。

本業としては「アート×法律」、つまりアート弁護士を20年近く続けています。ただ、ここまでの道のりは結構長かったんですよ。当時のニューヨークのアート業界は、基本的には実力主義というより、人脈や財ありきの世界でした。なので業界への壁はすごく高かったし、当時は「アート弁護士」としてのロールモデルもいなかったので、かなり大変でしたね。

泰平 アートと法律の掛け合わせという立場としては、弥生さんが先駆者だったんですね!




弥生 稀有人種かもしれませんね。私がロースクールに入ったときなんて、そもそも「Art Lawって何?」って言われてしまうくらいの認知度でした。笑

最初は一般企業の弁護士になり、その後、某アーティストさんのもとでお仕事をさせてもらいました。法務はもちろんですが、その他アート業界でとても重要なものをたくさん経験させてもらいましたね。展示会のオープニングパーティーに誰を招待すべきかとか、どういう座席で配置すべきかとか——。

泰平 それは、かなり勉強になるでしょうね。

弥生 その後、グッゲンハイム美術館のインハウスロイヤーArtsyのゼネラルカウンセル兼アジア戦略責任者をやらせてもらったり—— 。今は、物故しているパフォーマンスアーティストと彫刻家のクリス・バーデンの作品管理と、彫刻家のナンシー・ルービンズのスタジオ運営に携わっています。



泰平さんの作品
「誰でも“いい絵”が描けるノート」


弥生 泰平さんとは、もう数年来の知り合いですよね。かれこれ4年くらいになるのかな。きっかけはトークイベントで一緒になったこと。まだスタートバーンが駆け出しの頃でしたよね。泰平さん、トレンチコートを着こなしていたのが印象的でした。覚えてます?笑

泰平 ええー?左右の色が違う、マルジェラのかな?昔はオシャレだったんですよ~!笑

弥生 今もオシャレですよ!笑 そのときのトークで何を話したかは覚えてないんですが、完全に初対面だったのに、割と密な対談ができた記憶があります。

それから私、アーティストとしての泰平さんの作品で、すごく好きなものがあるんですよ!その話をさせてください!

「BIJU-EGA NOTE」という作品なのですが、このノートの誘導に乗ればだれでも名画が描けてしまうという、すごい代物なんです!



「BIJU-EGA NOTE」泰平(2017)


泰平 ノートって普通、線やグラフが描きやすいように罫線が引いてありますよね。そんな感じで、いい絵を描くためのガイドラインが引いてあるノートを作ろうと思ったんです。

まず、そもそも「いい絵ってなんだろう?」と思ったんですよね。ここでは、近代美術のデータを大量に取り込んで、そこから傾向を見出しました。その傾向に沿った描画を誘導するような線を、認知科学者と一緒に設計して—— 。

弥生 でも、デッサンが上手な人とか、描く人によっては、自分の感覚が邪魔してしまいそうですよね。このクロッキー帳に身を委ねないと効果はなさそう。

泰平 そうなんです。そもそも「いい絵」の再現性というのはあまりなくて—— 。

UFOを日本に広めた矢追純一という人がいるんですけど、彼は「高度経済成長のなかで、皆んなが空を見なくなった。空を見て欲しかった。」と言ったんです。で、実際、UFOが流行っていた当時、皆んな空を見上げてたんですよ。

弥生 すごい!パフォーマンスアートじゃないですか!

泰平 でしょ?これと似たように僕は「いい絵ってなんだろう?」と問うことがアートだと思っているんです。このノートを使ってみることで、その問いや会話がメタ的に生まれて欲しいんです。





弥生 なるほど。「メタ」って、泰平さんにとってすごく重要なキーワードだと思いますね。システムの可視化や透明化に取り組んでいるという意味で、アーティストとしての泰平さんがやっていることは、もしかするとスタートバーンでやろうとしていることと似通っているんじゃないかなって——。

泰平 そうかもしれないですね。このノートも、ある種のプラットフォームですからね。



なぜアーティスト泰平が
アート業界の基盤をつくるべきか


弥生 ここで私が泰平さん作品の話をしたかったのは、「アーティストからの視点でアート業界のエコシステムを助ける」というスタンスが、スタートバーンの事業において特にポイントだと思っているからです。当たり前ですが、アート業界は作家がいなくては回りません。

でも、私もアート業界で仕事していると、「二次流通で値段が上がっても制作者である私たちの利益にはならない。作家がいないと存在しない市場なのに、私たちは取り残されているように感じる」という声をたくさん耳にします。

こういった問題を解決するには、その仕組みやニーズを最も理解している立場の人が、当事者目線でつくっていくということが重要だと思っています。そういう意味で、アーティストの泰平さんが率いるスタートバーンは、すごく稀有であり貴重だと思っています。

泰平 ありがとうございます!自分のやっていることに意味があると言ってもらえるのは、とても嬉しいことですね。

とはいえ、アーティストの独創的な発想のようなものが普及していくとは思っていなくて、本当に必要とされているものでないと浸透しないですね。「アーティストの発想から生まれた」と聞くと、「イメージ爆発!」みたいな印象かもしれませんが(笑)、もっと現実的なものであるべきだと思っています。

弥生 そうですね。アート業界みんなにとって必要なものを提供することが重要です。特にスタートバーンの場合は、既存のプレイヤーを代替するというスタンスではないので、他を潰すことなく社会実装していけるという点がいいと思っています。



「日本生まれ」に こだわる意味


弥生 スタートバーンというアート業界の基盤になり得る会社が、自分の母国である日本から生まれるということ。私はすごく誇りに感じています。

泰平 いやー嬉しいです。アートのためのインフラをつくるという話をすると、みんな「欧米でやったほうがいいんじゃないか」と言うんですよ。でも、そうしてしまうと日本からは今後ずっと何も生まれないと思うんです。いつまでも海外に評価を委ねていては、この悪循環から抜け出せないんですよね。0から1の第一歩は、どうにか日本でやり遂げたいと思っています。

弥生 それ、すごく重要だと思います。近代美術の時代から、日本は輸入と逆輸入の歴史ばかりです。現代美術においても、奈良美智さん・草間彌生さん・村上隆さんのように、海外から賞賛されないと日本のなかでも評価されない時代でした。それが今、少しずつ変わりつつあるなかで、スタートバーンは非常に重要な意味を持つように感じます。





弥生 それに、日本のアート市場は、規模の大きさでは戦えないかもしれませんが、土台はしっかりしていると思っています。美術館の数は多いですし、展示会があればアート業界以外の人も並んで見に行きますよね。日本ほどしっかりとした美大がある国も、実は結構少ないです。

アートでなくても、デザインやファッション、音楽など、クリエイティブの業界はたくさんあって、そこに所属している人たちは「花形」と言われてみんなの憧れの対象にもなっている。

土台が固まっている日本のアート市場であれば、イノベーションを駆使して拡張していくということが今後すごく重要だし、タイミング的にも良いと思いますね。

泰平 海外の人が賞賛したから日本の人たちも認めるというものではなく、まず日本の人たちが純粋に価値を認めてくれるようなものをつくりたいと思っています。

そんななかで、もちろん自分のことも含めてですが、日本のアーティストも起業家もまだまだ努力が足りていないという気がしていて—— 。「日本は海外と違って政府が支援をしてくれない...」と言う人がいますが、海外でトップを走ってる人たちは、日本よりも政府の圧力が厳しいなかで能動的に全力で革命を起こしているんですよね。そこまでやって初めて、日本がダメかを判断するべきだと思っています。

以前、シンガポールの会社と提携したときに、「日本は国もアート市場も、大き過ぎないところが良い」という話になったんですよ。ニューヨークは、すごく大きなアートの中心地だと思うのですが、大き過ぎてスタートアップが入り込みにくかったりしますか?



「英語」のような「スタンダード」ではなく
「ラテン語」のような「基盤」を目指す


弥生 アメリカのアートテック市場は、ある意味で飽和状態かもしれませんね。とはいえ、勝者はまだ出ていないとも感じています。その理由として、アート業界にあるネットサービスやオンラインプラットフォームが、分裂化・分断化し過ぎていると思うんです。オンライン展示を体験するためのサブスクリプション、展覧会の広報をするためのサービス、作品を購入するためのEコマースなど—— 。ユーザーは、色々なツールを使いこなさなくてはいけない。

泰平 そうですね。世界的にも色々な視点でトップを狙うサービスが出てくるだろうと思います。そして、インターネットサービスで1番になるためには、「ニッチな領域を制覇してから拡大する」とか「UIとビジネスはシンプルに」というのが正攻法であり定番になっている。でも、そういったニッチなサービスを、あちこち使い分けなくてはいけないという点では、ユーザビリティ的に良い状態ではないですよね。

とはいえアートに限って言えば、デパートのように巨大プラットフォーマーが全部まとめてしまうよりも、小さなサービスがたくさん生まれる方が良いと、個人的には思っています。ただ、これらが繋がらずにバラバラであること、そして使い勝手が悪いことが課題なんです。僕らがブロックチェーンに注目するのは、そういったものを繋ぎ合わせることができるからなんですよ。





弥生 スタートバーンは、様々なサービスが互いにその価値を最大化できるように、アート市場の地盤をつくっているような感じですよね。

私が、企業が成功するための秘訣と考えているものの1つは、Interoperability(相互運用性)です。要はシステムとして不特定多数のサービスを支えられるような互換性を持つこと。でもこれは「スタンダード」を作ってしまうということとは違うんです。

例えば英語はグローバルスタンダードとして使われていますが、色々な言語の起源になっているのは実はラテン語なんですよね。もうほとんど誰も使っていないし、普段自分たちが話している言語の下にラテン語があるということは日常的に気づかない。スタートバーンがつくるブロックチェーンの仕組みは、個々の特徴や文化を消す「スタンダード」ではなく、それらを共存させるための基盤部分になるものなのかなと思っています。



アート業界における
デジタル化の壁に、どう立ち向かうか


スタートアップの成功の秘訣は、このInteroperability(相互運用性)を含めて3点あると思っています。① Interoperability(相互運用性)、② Scalability(拡張可能性)、③ Users(ユーザー視点)です。

スタートバーンが②の拡張可能性を達成できている良い例としては「Startbahn Cert.」がありますね。ブロックチェーンの仕組みは目に見えないので理解しづらいですし、アート業界にはそもそもテクノロジーに対して馴染みのない方も多いです。誰でも分かりやすいように、目に見えるもの触れられる形に置き換えて、サービスとして提供しています。現状、アート業界からは実際にどんな反応を得られていますか?

泰平 「Startbahn Cert.」を提供し始めてから、圧倒的に反応が良いですね。とはいえ、まだまだ発信の必要性を感じてます。逆に言えば、アート業界におけるブロックチェーンのリテラシーさえ追いつけば、普通に導入してもらえるものだという風にも実感しています。アートの世界の人たちってテクノロジーに強い人たちばかりではないですよね。

弥生 それ、私もアート業界にいるので、分からなくないんですよね。笑

泰平 実は僕も分からなくないんです。笑

弥生 これまで特に主流だった、ペインティングや彫刻は、やっぱり実物を見ないと良さが伝わらないということがありますよね。私自身も含め、普段からそういう感覚でアートと接している人たちにとっては、デジタルがなかなかしっくりこないというのは当然だと思います。

近年のグローバル化と、2020年の激動のコロナ禍において、日本では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」なんて言われ始めていますね。少し語弊があるかもしれませんが、スタートバーンが受け入れてもらうには、絶好のタイミングなのかもしれないと思います。



目的は、デジタル化ではなく
ユーザーのメリットであることを忘れない


泰平 確かに少し語弊はありますが、新型コロナウイルスは、DXを思っていた以上に押し進めていますよね。今こうしてZoomを使って当たり前に対談をしていますけど、以前までテック業界でもテレコミュニケーションはほとんどしてきませんでした。最初はテレビモニターに顔を映して話すことが少し小っ恥ずかしかったりして—— 。笑

でも、慣れてくるとこんな便利だったのかと気づく。これまでインターネットに馴染みがなかった人も、必要に迫られて使っているうちに、その良さに気づいていると思います。アート業界のなかでも同じような変化を起こしたいですね。





弥生 そうですね。③のユーザー視点、つまりユーザーのことを思いながらプロダクトをつくるというところに関連すると思います。でも、これって意外と難しい。なぜなら、ユーザーの潜在的なニーズ、つまり今後生まれるかもしれないニーズを先読みする必要があるから。

特に今のコロナ禍でデジタル化が急激に進んでいると思うのですが、エンドゴールはデジタル化ではなくユーザーへのメリットであることを忘れて欲しくないんです。

スタートバーンは忘れていないと思います。むしろ、アーティストやギャラリー、オークションハウスなど、それぞれのプレイヤーが何を必要としているかを丁寧にヒアリングして考えていると思いますね。それはこれからも続けて欲しいです。



スタートアップは綱渡り
作り手の前進に貢献したい


泰平 これまで僕たちスタートバーンは、0から1の段階を長いこと続けてきました。様々な調査や検証をしながら、ブロックチェーンインフラ「Startrail」を世に出せる形まで作り込んできた。

これから遂にその仕組みを社会実装していくという段階で、日本と海外におけるアート業界での普及にフォーカスすべきだと思っています。このタイミングで、弥生さんには本格的な仲間としてジョインしてもらいたいと思いました。

弥生 ありがとうございます!

泰平 昔から関わりはありましたが、今特に弥生さんの力が必要になったということですね。僕もアーティストであるものの海外の業界にはあまり知見がない。グローバルに立ち向かう上で、あらゆる選択についてフィードバックをいただきたいです。

英語力はもちろんですが、業界でのプレゼンスやご経験、人脈やパッションなど、ここまで全てを持ち合わせた方はなかなか見当たらないと思っていますので、大変期待しています!

弥生 すごく光栄です!そんなに褒めていただいて、なんだか自分のことじゃないかとのように感じてしまいましたけど。笑

スタートバーンはこれから、「ちょうどいい塩梅」がコロコロ変わっていくフェーズに入っていくと思います。完璧なものを作ろうと時間をかけても、出すタイミングが遅くなってしまったら、ユーザーにとって意味のないものになってしまう。はたまた、ユーザーの需要を先読みしすぎても、ユーザーがまだそれを必要としていなかったら、誰にも喜んでもらえない。スタートアップの事業は、そういった絶妙なバランスを綱渡りしていくものだと思うんです。

自分に何ができるか分からないですが、綱渡りをしながら前に進んでいく作り手側の立場に参加させてもらえることは、とてもとても楽しみです!

泰平 嬉しい!弥生さん個人の活動も応援させていただきつつ、僕らの仲間としての参入も強く期待しています!





塩野入 弥生
社外取締役

ハーバード大学卒業。コーネルロースクール修了。コロンビア大学日本現代美術史修士課程修了。大手弁護士事務所でM&Aや資金調達など金融関係の仕事に従事。2008年-2011年までアーティストスタジオにて法務関連業、2011年-2015 年までグッゲンハイム美術館組織内弁護士。2015年-2019年までArtsyのゼネラルカウンセル兼アジア戦略責任者を務め、グローバル事業におけるあらゆる法的事項の責任者として、企業間取引の契約交渉やデジタルメディア戦略、知的財産戦略を担当。現在は、クリス・バーデンのエステートとナンシー・ルービンズスタジオのエグゼクティブ・ディレクターとしてバーデンの遺作の管理と、ルービンズのアーティスト活動の促進を行う。Instagram: @yayoi_shionoiri


施井 泰平
代表取締役 最高経営責任者 (CEO)

1977年生まれ。少年期をアメリカで過ごす。東京大学大学院学際情報学府修了。2001年に多摩美術大学絵画科油画専攻卒業後、美術家として「インターネットの時代のアート」をテーマに制作、現在もギャラリーや美術館で展示を重ねる。2006年よりstartbahnを構想、その後日米で特許を取得。大学院在学中に起業し現在に至る。東京藝術大学での教鞭を始め、講演やトークイベントにも多数登壇。特技はビリヤード。
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