障がい者雇用という社会課題をビジネスで解決するエスプールプラス。中途入社からわずか1年で200%の営業予算を達成した岡本開太は、人より早く失敗を重ねること、そしてクライアントのビジョンに共感し、想いをただひたすらに伝えた。そのひたむきな原動力は何だったのか。これまで岡本が歩んだ道のりを振り返る。
「障がい者雇用」という社会課題に、ビジネスで立ち向かう
▲JOBに、JOYを。障がい者雇用という社会課題問題に、農業のフィールドで立ち向かう
ソーシャルビジネス。
それは、貧困問題、差別問題等、多岐にわたる社会的課題に対し、寄付や募金ではなくビジネスで解決を図ろうというアプローチ。企業に社会的責任(CSR)や持続可能な開発目標(SDGs)が問われる時代で、注目されるビジネスのあり方である。
障がい者雇用という社会課題に対して、まさにソーシャルビジネスで解決を目指す会社がエスプールプラスだ。
厚生労働省の発表では、日本全国に108万人いる知的障がい者のうち民間企業に就職できる人はたったの10%。民間企業は従業員数に対して2.2%の障がい者雇用を法律で義務付けられているものの、達成できている企業はまだまだ少なく、日本社会において知的障がい者が就業できる機会は圧倒的に少ないのが現実だ。
しかし、エスプールプラスはそんな現状のなか、「農業」という働き方で新たな障がい者雇用を生み出す。
エスプールプラス独自のノウハウが詰まった農園は15拠点。約1350名の障がい者が働いており、参入企業も230社を超える。事業を開始して9年が過ぎるが、定着率は驚異の92%。行政の障がい者雇用水増し問題も発覚された今、真に世の中に必要とされるビジネスになってきた。
そこで働くひとりの若者がいる。岡本開太だ。
岡本は1年前に営業マンとして中途入社した29歳(2019年現在)の男性社員。エスプールグループの第20期(2018年12月から2019年5月)で、営業達成率200パーセントという数字を叩き出した。
岡本が何故エスプールプラスに興味を持ち、転職し、そして異例とも言える早さで結果を生み出せたのか。そこにはこのビジネスに対する熱い想いと彼が大事にしてきた「企業理念の達成に向けアプローチを行う」という軸があった。
コンペでの経験で得た、クライアントの理念に寄り添う精神
▲入社1年で営業予算200%を達成した岡本開太
大学で応用生物学部を学んだ岡本であったが、研究の道に進むことを断念し、民間企業への就職を選択する。漠然と法人営業をやってみたいという考えで志望したのが、地元神奈川県を地盤にするとあるOA機器商社であった。
地元では有名かつ人気の企業で、中途採用の倍率は250倍。その競争を勝ち抜き、内定を獲得する。この会社で、岡本はある経験をする。
大型の商談で3社がコンペとなった。コストでは、競合相手についで2番目。機能にも大きな差はない。
岡本「正直、何をメリットに勝負すれば良いか、相当悩みました。機能に差がない中で、コストで決まるのか、プレゼンの上手さで決まるのか。クライアントのことを細かく調べ、課題点、目指すべき姿を聞いている中で、原点はその会社の理念にあると気付きました。当たり前のことかも知れませんが、それまではコストや性能、一部課題の解決提案に過ぎませんでした。今回のプレゼンでは従業員の課題解決をベースに、理念の達成に向けた提案を行ったんです」
プレゼンの冒頭、クライアントの理念実現に向けた話を熱く語った。しかし、すぐに社長の俯く姿が目に入った。岡本は、失敗に終わったと感じていた。
岡本 「僕のプレゼンの冒頭を聞いて、社長はすぐに寝てしまっていたようで……。しかし、担当の方の話を聞いて、驚きました。社長は、つまらなかったから寝てしまったのではなく、僕の話を聞いて、『この会社に依頼しよう』と即決したというんです。体が震えるほど、嬉しかった記憶があります。お金以上の価値を与えることができた、そう実感した瞬間でしたね」
岡本はこの日を境に、企業の理念やそこで働く方の気持ちなど根本に触れる仕事へ強い理想を抱くように。
だが、A社での仕事は成果が出て楽しさを感じられる反面、コンペのときのような痺れる経験は少なく、マンネリを感じていた。そんなときに、岡本は人材紹介会社で働く友人からエスプールプラスの存在を耳にする。
障がい者×農業で、障がい者の働く環境をクライアント企業とともに創る──その社会貢献性の高さとビジネススキームに心を打たれた。
興味を持った岡本は障がい者雇用の実態を調べ上げた。
そうして見えてきたのは、民間企業に対する障がい者の法定雇用率が断続的に上がっており、それなのに達成率は50%未満であること。加えて、障害の種別によって異なるが、働く上での選択肢が少なく、一般就労出来ていない人が多いこと。
社会、障がい者、企業における根強い課題の解決を支援できる。そんな仕事に魅力と成長性を感じた岡本の心は、既に固まっていた。
そしてエスプールプラスへ。トライ&エラーの日々
▲切磋琢磨する仲間。農園で収穫したメロンとともに(後列中央が岡本)
エスプールプラスの中途採用試験にすぐに申込み、その思いの丈をぶつけた。
岡本「最初の面接がエスプールプラスの和田一紀社長でした。緊張もありましたが、自分の思いを直接トップの方に伝えられることがラッキーだと感じました。『自分は必ずエスプールプラスで働く』という強い気持ちがありましたから」
岡本の入社は、面接のその場で決定した。そしてエスプールプラスに入社した岡本は、障がい者雇用の仕組み・理念を企業の特に人事の方に対して案内する法人営業に就くことに。
当初は、想いが突っ走り、失敗も多くあった。しかし、営業で結果を残せないことは、障がい者の方の働く場を作れないことに繋がる。絶対にそうあってはならないと強く自分に言い聞かせ、チャレンジを続けた。
社会人になって始めて、自分より若い上司にも最初は戸惑ったが、意見を求め、改善を繰り返す。その一方、これまで自身が大切にしてきた「理念、ビジョンへの共感」はブレることなく持ち続けた。
そんな岡本は、1年も経たない内に、営業予算に対して200%という数字を達成する。
岡本 「とにかく早く失敗をし、失敗をストックして、今後に生かすことを考えていましたね。『失敗の数は成功への近道』と。営業なので数字に貢献ができ、ほっとした部分もありましたが、それよりも新たな障がい者の雇用を多く生み出せたこと、企業の課題解決、社会価値の向上に貢献できたことに心底喜びを感じました。
提案は今まで同様、クライアント理念や目指すビジョンをよく調べ、そこに貢献できることを強く訴えました。まずは、クライアントの業界概況やその中での立ち位置、目指すビジョンを把握すること、そして、それに対し本提案がどう貢献できるか考える。また、エスプールプラスのビジョンに共感してもらうことも心がけています。担当の方とは、お客様というよりは、ビジネスパートナーになることを常に目指しています」
こうして営業で成果を出した岡本は、東海エリアのリーダーを任されることになった。役割は、新規案件のクライアント獲得はもちろん、農園を管理するメンバー、障がい者の就労をサポートするメンバー、全ての統括である。
岡本 「営業はこれまでの経験もあったので、自分の中でなんとなくのロジックはありました。しかし、マネジメントは未知の領域です。ましてや、自分に実務経験がない範囲も見ていかなければならないので、正直不安はあります。
まずは、各メンバーの仕事を理解しなければならないと感じています。質問されたことに対して「わからない、他に確認して」で終わることなく、自分で調べて、質問して、考えてフィードバックして、信頼関係を構築する。これは、自分の勉強にもなりますしね。ちなみにマネジメントについても本を読んで勉強し始めました」
マネジメントという初めての試みに不安をあらわにする岡本。しかし、反面大きな期待もあるという。
岡本 「でもエスプールプラスで働く方って、めちゃくちゃモチベーションが高いんですよ。そんな人たちとの関わりが増えること、共に目標に向かって突き進めることは純粋に嬉しいです」
「障がい者雇用の解決」では終わらない。岡本の見据える“先”
▲ビジネスに対する熱い想い、理念に共感することの大切さを語る
岡本の考える、自身のキャリアとは──。
岡本 「今はプラスの理念でもある『一人でも多くの障がい者の雇用を生み、社会に貢献する』これを実現するためにできることを最大限追求したいです」
現在、農園で就労する障がい者の方は1300人。だが、岡本は来期の目標として3000人という数字を提示する。現在の2倍以上の数。ハードルはかなり高いが、エスプールプラスのメンバーで協力すれば、実現は可能なのだ、と。
その上で岡本はさらに先まで見据えている。
岡本 「今後もエスプールプラスはますます拡大していきます。その中で、障がい者雇用のみならず、幅広い社会課題の解決に貢献していきたいと考えています」
多くの障がい者の方は福祉作業所で働いている。これは国の補助金で運用されるもので、障がい者の方に支払われる工賃は月に1万5千円程度と聞く。
岡本 「社会に必要な仕組みですが、ビジネスの力だからこそ出来る形もあるのではないかと。障がい者の方が自立して働くということはもちろん本人がもらえるお金も増え、好きことや親御さんへプレゼントを買うことも出来ますし、納税者になるわけですから、地域の財政にも貢献出来ます」
「障がい者の働く選択肢が増え、障がい者が働く場所を得ることで企業の課題が解決され、ゆくゆくは地域の活性化に繋がる」そんな循環が生まれ、みんながハッピーになる社会を構築する──それが岡本の理想だ。
そのために、これからも理念・ビジョンへアプローチした提案を行っていく。
岡本はひたすらに突き進む。