連載「安武社長、本音聞いてもいいですか?」第18弾のテーマは、「仕組みを変える発想」です。うまくいかないとき、つい”自分がもっと頑張らないといけない”と思ってしまうことはないでしょうか。安武さんが大事にしているのは、そこで踏みとどまって仕組みそのものを疑うことだといいます。頑張りだけではどうにもならなかった、最近の具体的な出来事など、お話を伺いました。
ー最近、「仕組みを変えないと変わらない」と気づいた出来事があったそうですね。
そうなんです。新幹線や電車での移動時間に、スマホで提案書の修正依頼を確認することが増えたんです。以前なら、会社に戻ってパソコンを開くまで何も進まなかった仕事なので、これ自体はすごく大きな変化でした。
その勢いで、提案書を作る工程そのものをAIで速くしようとしたことがあったんです。担当者にAIを渡して、ドラフト作りを任せる。作業のスピードは確かに上がりました。でも、レビューは残るし、引き継ぎも残る。手戻りも変わらない。あれ、速くなったはずなのに、自分のレビューの時間は全然減っていないぞと。
たとえば、骨子作成に3時間かかっていたのが1時間に縮まったとします。でもその後、レビューに2時間、修正に1時間、資料化に3時間、また別のレビューに2時間。骨子だけ速くなっても、全体の時間はほとんど変わらないんですよね。
そこで気づいたんですよね。これは人の能力より、工程そのものに問題があったんだと。情報が人から人へ、同じ形で何度も渡っていく。そこにAIを一つ足しても、AI付きの昔のやり方になる。結局、それだけでした。
ー具体的には、どんな工程を変えたんですか?
以前は、案件の概要をメンバーに伝えて、骨子を作ってもらって、私がレビューして、修正して、また指示を出して、ブランクチャートを作って、レビューして、スライドを作って、また直す。数えてみたら結構な工程数で、正直かなり長いフローでした。
しかも、この顧客課題の理解で合っているか、この提案は相手の意思決定につながるか、スライドのメッセージは一枚で伝わるか、数字の根拠はあるか。こういう確認が、工程の節目ごとに入ってきます。
今は、問い合わせが来た時点でAIを動かすようにしています。顧客の課題、背景、決裁者、期限、制約条件を整理させて、過去の案件と照合させて、提案の方向性まで出させる。骨子もブランクチャートの構成も、AIに一通り進めてもらって、人は要所でチェックする形に変えました。
ー上に立つ者として、気をつけていることはありますか?
AIが出したものを一行ずつ直すだけの人にならないようにする。それだけですね。
そこを分けないと、管理職の仕事が軽くなるどころか、別の編集作業に置き換わっただけになってしまいます。見るべきは文章の細かさより、この提案が顧客の意思決定を前に進めるかどうか。そこだけは、自分の頭で判断するようにしています。
ー仕組みを変えるのは現場任せにせず、役職者から始めるべきだと考えているそうですね。なぜですか?
現場に道具だけ渡して、あとは任せる。そういうやり方は避けるべきだと思います。まず自分や管理職の側が、業務の流れ全体を見直すところから始めるようにしています。現場に丸投げすると、業務全体の見直しにはならない。下手をすると、AIを導入したのに会議と確認だけが増える、なんてことにもなりかねません。仕組みを変えるところは、上が先にやらないと動きませんから。
ー「ツールや人を渡すだけでは変わらない」というのは、他の場面でも共通していますか?
はい。以前、Asmanaの話(参照Vol.5)をしましたが、あの時も道具だけ足すんじゃなくて、仕組みごと作り直したから意味があったんですよね。今回のAIの話も同じで、ツールを配るだけだと、AI付きの昔のやり方になって、作業が一つ増えるだけです。渡すんじゃなくて、工程ごと組み替える。そこに通じるものがありますね。
ー仕組みを変える中で、ご自身が苦労していることはありますか?
そうですね、任せる範囲を広げすぎて、確認する項目がかえって増えてしまったこともありますし、逆に慎重になりすぎて、結局人が全部作り直す羽目になったこともあります。このバランスは、まだ完全にはつかめていないです。
だから、いきなり全社に広げるより先に、提案書作成みたいに工程が見える業務から試しています。どこをなくして、どこに人を残すか。正直、まだ手探りです。次の提案書でどこまで現場の作業を減らせるか、正直まだ試行錯誤中で……。たぶんまた、任せすぎてレビューが増える失敗をすると思います(笑)。
ーAIに仕事の一部を任せた後、人はどこに力を注ぐべきだと思いますか?
作業そのものがなくなるわけではなく、人がかかわる場所が変わりますよね。今まで作業の後ろに人がいたのが、これからは工程の前と、大事な分岐点に人がいる形になっていく。顧客の本当の課題を外していないか、提案に無理がないか、数字や事実関係に誤りがないか、自社が責任を持って提供できる内容か。こういう判断は、まだ人がやるべきところだと思っています。
AIツールを選ぶ前に、この仕事で人はどこに入るべきか。今ある工程のうち、なくせるものは何か。AIの出力を誰が、何の基準でチェックするのか。最終的な責任の所在はどこにあるのか。この4つを決めてからじゃないと、現場は新しい作業を一つ増やすことになるだけなんですよね。
安武さん、今回もありがとうございました。次回のテーマもお楽しみに。
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