「あなたはどんな環境で、どんな仕事を成して、何を得たいですか?」
2020年は海外がとても遠くなった一年でした。とはいえ私たちが海外で働くチャンスは最近ますます増えていると思います。語学力を活かす、自己を成長させるなど目的は違えど、海外で働くことに前向きな方は、皆さんの中にもいると思います。
でも「海外で」「グローバルに」働くって、何でしょう? ましてや昨今のコロナ禍がまさに典型例、私たちは変化の絶えないVUCAの時代に生きています。こんな世界で、将来「この国で」「これを実現するために」働いて「こう成長する」と思い描くことに難しさを感じている方も少なくないのではないでしょうか?
今回の記事は社員インタビュー特別編ということで、PRAP POINTS Singaporeの山本代表にビデオ通話でインタビュー!「東南アジアで」「日本と東南アジアをつなぐ」マーケティングとは?東南アジアで働く魅力とは?そして、プラップグループの仲間となってのこれからとは――変化の時代に現地の第一線で活躍する山本さんの思いをうかがいました。
筆者:加納崇徳。プラップジャパン21年卒内定者。人生を通じてフットワークを軽くすることが目標。
山本紘章: PRAP POINTS Group CEO、PRAP POINTS Singapore Managing Director。2003年より日本の広告代理店に勤務、2012年よりシンガポールに居を移し、現地責任者として駐在員事務所、現地法人の立ち上げを行う。2016年に独立し、POINTS.SG PTE LTDを創業。シンガポール在住、娘を持つ一児の父親。
震災を機に、憧れであった世界へチャレンジ
―――まず、これまでどのようなお仕事をされてきたんですか?
実は、大学生の時にニューヨークやパリを飛び回る洋服のバイヤーの方と出会って、海外で働くことにすごく憧れたんですよね。ただ、まずは経験を積もうということで国内の中小広告代理店に入社して、対外的に認められるプロジェクトを実現する、という目標に向けて必死で働き、自分なりにそれを達成しました。
次のステップに何しようかと悩んでいた頃、東北の震災が起こりました。これを機に、改めて海外に挑戦したいという気持ちが湧いてきて、2012年にシンガポール国立大学に入学するのと同時に、当時の会社の現地法人を立ち上げました。前職を辞めて仲間と一緒に現地で会社を立ち上げたのが2016年の4月のことでした。
日本の地域と東南アジアの地域をつなぐ
―――立ち上げられた会社について教えてください
日本企業の東南アジア市場に向けたマーケティングサポートを行っています。シンガポール生活が長くなってきた頃、例えば福岡・仙台からマニラ・ホーチミンにダイレクトに進出しようとする日本企業に対して、本当に手伝える日本人はどれだけいるんだろう?と思い始めました。現地に根を張ってネットワークを持っていて、日本語・現地の言葉でコミュニケーションが取れることが、クライアントのマーケティングパートナーとして価値があるなと。同時に、日本企業のマーケティングを成功させることで、現地の人たちも新しい価値を提供できる。そんな風に日本と東南アジアの地域・サービス、点と点をつなげられることに意義があると思ったので、POINTSという社名にしました。
―――シンガポールのマーケティング会社と日本のPR会社だと一見遠い気がしますが、どのような経緯でPRAPとの提携に至ったのでしょうか?
POINTSで3年やってみて、今のままの規模感で創業の使命が実現できるのか?と感じ始めました。お金もそうですけど、特に志を共にする仲間が足りない。東南アジアのような新しい市場って急に立ち上がってくるので、それを受け入れるキャパシティやケイパビリティがないとやりたい仕事も受けられなくなるな、と。そこで日本のパートナー開拓を始めて、その延長線上でPRAPと出会ったんです。最初は案件ごとの連携から始まり、だんだんそれが増えていって、業務提携を経て最終的に資本提携に至った、という流れです。
引用:PRAP JAPAN HP (https://www.prap.co.jp/ir/presentation/)
日本との価値観の大きな違いに苦労
―――シンガポールに拠点を移されて、大きく変わったことは何でしょうか?
マネジメントのやり方ですね。日本人って、特有な価値観や考え方を持っていると思います。国内では日本人の文脈の中でしかマネジメントしていなかったんですけど、日本の価値観での「これはこういうことだよね」をシンガポールの部下にそのまま言っても分かってもらえない。これまでのやり方では通用しないんだなと感じましたね。
―――なるほど、価値観の違いですか。実際にどんなことがありましたか?
イベントプロモーションの仕事で、日本の場合だとブースにごみが落ちていたらそれが自分の仕事かどうかは考えずに拾うじゃないですか。でもシンガポールでそれを言うと、「いや、ゴミを拾うのは私の仕事じゃなくて、ゴミを拾う人の仕事です」と返ってくるんですね。どちらが正しいとかではなく、「~だから私はこう思う」というのを一人ひとり話し合いながら進めていく必要があります。
―――広告やPRを取り巻くメディア環境には変化はありましたか?
シンガポールでは、新聞・出版系だとSingapore Press Holdings (SPH)、TVであればMediacorpというテレビ局が大きな勢力で、2社とも政府と近い企業なんです。なので記者は、同じPRネタでも我々とは違う視点を持っています。例えば、シンガポールという国、政府の方針にリンクするようなポイントがあると取り上げてもらいやすいですし、逆に一般企業がトレンディな商品を出したという情報をメディアに取り上げてもらうのはかなり難しいです。
だから、日本でやっているのと同じようなやり方だと、うまくいかない場合が多いので、価値観の違い、メディア環境の違いをきちんと把握して顧客に共有することが重要ですよね。
コロナ禍がなければ、これほど短期間で協業が進まなかった
上:オンライン会議の様子。コロナ禍によって、ボーダーレスな相談・協働が日常に。
―――2020年からPRAP POINTS Singaporeとして新たなスタートを切りました。
2月3日にプラップジャパングループの会社になり新たなスタートを切ったタイミングで、新型コロナの流行に見舞われるというちょっとアンラッキーな感じで、ロックダウンなど大変な時期ではありました。
―――コロナ禍によってビジネス環境に変化はありましたか?
メディア・情報への接し方に関して、幅広い層においてレベルが上がったと思います。シンガポールで言えば、COVIDの情報を政府がインスタグラムやYouTubeで配信して、幅広い層にアクセスを促しているんですね。それによって、一部の若い世代だけではなくて今までSNSなんか使わなかった人たちが、情報源としてインスタをフォローしてシェアして、みたいなことが普通になってきました。最新の情報に敏感な人たちが増えたと思います。
―――それは興味深いですね。そんな変化の中で、PRAPとの協働はどのように進んでいるのでしょうか?
むしろコロナによって、マーケティングとか仕事のあり方がボーダーレスになりました。東南アジアの案件以外にも、PRAPが持っている強みと我々が持っている強みを国境を越えて組み合わせながら提案に活かすことができています。もうPRAP本社のありとあらゆる部門と一緒に仕事していますけど、これほど遠隔がスタンダードにならなかったら、本社からすれば「シンガポールにいる山本っていう人」くらいの認識だったかもしれませんよね。
―――強みの組み合わせ、ですか。
私は広告、プロモーション、制作のバックグラウンドを持つ一方で、PRAPのメンバーはPRパーソンなので、けっこう違った文化なんですよね。企画書一つ書くにしても、大事にしたい部分が若干違ったり。そんなPRAPメンバーと一緒にここ数か月仕事をして、「ここはそんなデータが出せるんだ」みたいなPR会社の強みが分かってきました。逆に、PRAPがあまり扱っていなかったクリエイティブとか制作の案件を、POINTSは結構やってきているんです。だから最近は、「山本さん、東南アジアの案件じゃないんですけど、クリエイティブとPRをミックスしたプランの企画、一緒に考えませんか?」みたいな感じで我々の強みを活かすプロジェクトも増えてきましたね。
「若い」東南アジアはイノベーションが生まれる土壌
―――東南アジアという市場の可能性は何だとお考えですか?
「若い」国だということですね。若い人たちが多い。これから人口ボーナスで経済が伸びて彼らの所得は上がっていくでしょうけど、もらった収入に対する消費のムードが違うんですね。先進国はすでに経済成長も謳歌して、あらゆるマーケティング活動に対する反応が成熟しているんですよね。商品を注意深く見て、値段も比較して、ブランドのストーリーなど様々な情報を吟味してようやく買う、みたいな。でも1970年代80年代の日本って違ったんです。次々新しいものが出て、どんどん買う、その流れの中で消費者も見る目が養われ、そして製品のイノベーションが起きる、そんな時代だったんですけど、それがこれからの東南アジアに来る。あらゆる情報に対する接触態度がフレッシュで「反応が大きい」ので、マーケティングのやりがいがある国だと感じます。
―――なるほど。そんな東南アジアではどのようなことできそうですか?
新しいマーケティングやPRを生み出す可能性があると思います。先進国では、メディアが発達してきた長い歴史があって、その中で優れた手法が確立されていったんですけど、一方で悪く言えばシステムが出来上がってしまっている。「この値段じゃなきゃダメ」とか「ここを通さないとダメ」とか。そういう意味で言うと、東南アジアって、メディアが発達する前にインターネット・SNSがドカンと出てきてしまった。そんな新しい環境・価値観の中で「じゃあ何が出来るか」って考えると、まだまだ新しいやり方がある。日本ではできないことが東南アジアではできる可能性があると思いますね。
先進国では生まれにくいイノベーションが生み出される土壌が東南アジアにはあります。若い皆さんが日本でいろいろ勉強してキャリアを積んで、チャレンジングなことに挑戦する次のステージとして選ぶ価値のある市場だと思います。
上:ベトナムの様子(筆者撮影)。若くて活気のある国はマーケティングのしがいがある。
最後に
山本さんが語る東南アジアでのビジネス、いかがでしたでしょうか?東南アジアがいかに高いポテンシャルを持っているかをお感じいただけたでしょうか。筆者自身はこの記事を書きながら、もっと言えばインタビューをしながらワクワクしてしまいました。海外で働くことの動機や目的、キャリアの積み上げ方はもちろん人それぞれですが、この記事がそれを考えるヒントになれば、と思います。
それから、ポインツとプラップジャパンの協働の様子にもご注目いただけましたでしょうか?2020年は大変困難な年になりましたが、プラップポインツにとってはグループ会社としてのスタートの年であり、プラップジャパンとしても創立50周年を迎え新たなスタートを切った年です。今後のプラップジャパンとプラップポインツが生み出すコラボレーションにご期待ください!!