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【外出し社内報 #1】 「自分デザインノート」~作家・はあちゅうさん~

こんにちは。パーソルキャリア広報部の乾です。日頃パーソルキャリアの社員に発信している“ウェブ社内報”の中から、社外の皆さんにも役立つ情報をピックアップしてお届けします。

初回は「“自分プロ”直伝自分デザインノート」。私たちは、「はたらく人生を自律的にデザインできる」、そんな社会を目指しています。そのためには、自身を知ることが重要です。働く人生を自律的にデザインできるよう、“自分を知る“プロの方たちにお話をうかがいます。今回は作家のはあちゅうさんです。

自分の人生すべてをコンテンツに「目の前のことに命を燃やしていたら、たどり着くべき場所にたどり着く」~ワークもライフもはあちゅうスタイル~

特別なスキルを持っているわけでもなく、学者に勝る知識を持っているわけでもない、はあちゅうという存在。私たちが頑張れば手が届きそうな生き方をしているように映る。だからこそ、彼女の生き様を伝えたい。大手企業で働く意味、ベンチャー企業でのやりがい、フリーランスでの精神的な自由、すべてを知っているからこそ、語れることがある。はあちゅうの、“自分デザインノート”とは――。

「電通に入社したから 自由になれた」次々と“昭和的価値観”を脱ぎ捨ててきた人生

――本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは場を温める意味で、簡単な質問からさせてください。“はあちゅう”の由来はなんですか。

はあちゅう:2歳のとき、母と祖母が私のことを春ちゃん(はるちゃん)と呼ぶのが‟はあちゅう“と聞こえて、自分の名前は‟はあちゅう”だと思い込み、「はあちゅうはね……」と話し始めたのが起源です(笑)。

――SNSをスタートする時にも“はあちゅう”の名を使ったのは愛着があったんですか?

はあちゅう:私が大学生だったころは、まだSNS上で本名や所属を明かすことに対して敏感で、ハンドルネームをつくることが普通でした。「何がいいかな」と考えたときに、本名の「春香」(はるか)というのはちょっと平凡だし。

“はるたん”とか‟はる“など、どう文字ったとしても、誰かとかぶってしまう可能性が高いなと。そのときに、‟はあちゅう“を思い出しました。

――幼いころの思い出、ブロガーとしての名前という2つの意味があるんですね。

はあちゅう:今は「ネット上でのアイデンティティ」という意味が大きいですが、家族の中にいるときの“はあちゅう”は子ども時代の私という意味合いを持つことがあります。いまだに家族から「はあちゅう」と呼ばれると、そっちの自分に戻ります(笑)。

――はあちゅうさんのご家族は“昭和的”ですよね。お父さまは商社マンで、お母さまは専業主婦。「非常に昭和的な家庭環境で育ったこともあって、今のご自身がある」と著作で書かれています。自らは新しい生き方を模索してきたはあちゅうさんから見て、平成約30年間の日本社会の変化をどう感じていられますか?まずは「働き方」という観点からうかがってみたいです。

はあちゅう:自由で型にとらわれないような働き方ができるようになってきていると思います。

――大きく変化している、と?

はあちゅう:うーん、捉え方によると思います。「昭和」という時代はひとつのレールが敷かれている時代だった。私たちの多くも、「ルールの中で生きていくこと」がインプットされてきましたよね。よい学歴、よい会社、その中での出世みたいな。だから会社員ではないキャリアや、転職することに対してハードルを感じてしまう人は、実際にはまだまだ多い。

一方で、「もっと流動的に自分のスタイルに合わせて仕事を変えた方がいいじゃん!」とか「好きなことを仕事にするのがいいじゃん!」という人は、少しずつ増えているような気もします。

もしかしたら、私がたまたまそういう環境にいて、周りに自由な生き方をしている人が多いから、増えているように感じるだけかもしれないですが、昔よりは自由な生き方を選べる時代が近づいてきているのではないでしょうか。

――はあちゅうさんが過去に想像していた「未来はこう変わるだろう」というイメージと、今の日本を比べてみるとどうですか?

はあちゅう:その観点からみると、「思ったより技術の進歩が早くて、人の心の変化は遅い…」ですね。

――デジタルテクノロジーが発達しても、人は意外と変わらないという印象でしょうか。

はあちゅう:変わらないですね。たとえば、最近結婚をしまして。事実婚(※1)の形をとりましたが、ポジティブなリアクションが多かった一方で、拒否感をあらわにする人もいて。

「事実婚は愛人が使う制度」とか「結婚しないというのはかわいそう」とか。男尊女卑的な発言をする人もいました。欧米では事実婚が“新しい絆の形”として認められているし、法的に婚姻していなくてもさまざまな権利を認める「パートナーシップ制度」も充実してきている。

世界の潮流は明らかに変わりつつあるのに比べると、日本はまだまだ“昭和的な価値観”から抜け出せなくて、人の心や感情が追いついてきていないな、と感じました。

――意識は変わりつつあるのだけれど、生き方を試すことに一歩踏み出せない人も多いのかもしれません。

はあちゅう:その点に関しては、ロールモデルの不在が大きいと思います。先ほど働き方については増えてきているとお話ししましたが、まだ絶対数が足りない気がします。

たとえば、今はユーチューバーになりたい人は増えていていますよね。ソニー生命保険の2017年の調査だと、男子中学生の将来なりたい職業の3位がユーチューバーです。ですがほんの数年前まで、「この人たち、今はいいけど今後、どうやって食べていくんだろう⁉」と揶揄されていました。

成功して幸せそうな人を見ると、自分もやってみたいという人が増える。今は過渡期ですね。

――新しい生き方や働き方を試している人たちが、幸せそうであるということが伝播していくといいですよね。

はあちゅう:そう、「時代が変わってきているよ」とか「自由でもいいんだよ」といった説得では人は動かない。私も意識しているのは、「楽しそうでいることと幸せである」こと。あの人は外れた生き方をして楽しそうだなって思わせることができたら、社会は変わっていくと信じています。

「自ら道を切り拓いていこう」というタイプがもともと日本には少なくて、失敗をすることに対してネガティブなイメージがあるのかなとも感じます。結婚に関しても「離婚したらバツイチ」という風に、ネガティブなイメージがあって、「離婚=結婚の失敗」と思われてしまう。

これを「新たなステップ」「次への一歩」「アップデート」と捉えられるような考え方が広がったときに、初めて新しい時代を切り開いていくリーダーが出てくるのかな、と思います。

――「失敗」ということに関しては、はあちゅうさんの場合、全部ダダ洩れですよね(笑)。先端を走っている立場として、失敗も含めて、「全部世の中に発信しちゃえ」と意識的にされているように思います。

はあちゅう:私の場合は「もったいないから」失敗もコンテンツにしています(笑)。同時に、失敗もコンテンツになることがもっと広まったらいいな、とも思っています。失敗した人を徹底的に叩くような文化を薄めたいんです。

芸能人や政治家などのさまざまなスキャンダルに対してTwitterやネット上のコメントを見ていると、「謝罪しても許さない」「死んでも許さない」みたいなコメントが多くて……。もちろんネットは感情の増幅装置なので、コメントしている人たちも本当はそこまで感じていないのかもしれませんが。

「自分も何か失敗したらこう言われるのか……」と思うと、一歩踏み出すのが怖くなりますよね。そういう意味では「失敗しても大丈夫だよ」というロールモデルにはなりたいです。

――とはおっしゃいますが、はあちゅうさんは良い大学に入って、新卒で良い会社に就職されていらっしゃる。「自由な働き方、自由な社会、常識を疑う」など生き方の多様性に目覚めたのは、いつごろなんですか?

はあちゅう:実はわりと最近なんです。学生時代からブログを書いたりはしていたけど、新卒で広告代理店の電通に入社します。電通に入ったことは、私の中では、人生の中で大きなものをつかんだできごとだったんです。

私も元々、昭和成分いっぱい(笑)なので、「良い会社に入るのが良い人生」という価値観が刷り込まれまくっていました。とりあえず大学を出て、会社に入ることで、いったんひと区切りがつくというイメージ。その意味で、電通に入れたことで、肩の荷が下りた。「これであとは自由に生きられる」という感覚が手に入ったんです。

その後、狭い領域の中で過当競争をするよりも、「みんなが狙っていないところで、自分がルールをつくったほうが勝者になれる」と気づいたので、どんどん道を外れ、レールを外れることを選ぶようになりました。

――電通に入社された後、出会いがあって、トレンダーズに転職(※2)されました。もし、その出会いがなかったらもしかしたらまだ電通で働いている可能性もありましたか。

はあちゅう:あります、あります!ブロガーとして副業しながら働いていたかもしれないですね。ただ自分としては入社してある程度活躍できた時点でいったんゴールテープを切ったような感じがあって。

自分に乗っかっている“期待”やら“従来の価値観”を脱ぎ捨てることができた。だから辞められたのだと思いますし、すごく身軽になって、そのあとは、「なんでも挑戦できる」という気持ちになりました。


「自分の中に多様性を」なりたい・ありたい姿だけでなく、“どうしようもなく引き出されちゃう姿”も大切に

――その後さまざまな経緯を経て、作家・フリーランスとして活躍されています。いろんな働き方を経験しているはあちゅうさんですが、“会社勤め”や“フリーランス”といった働き方は自分の実現したいことをするための手段ですか?

はあちゅう:働き方は、わたしにとっては人生そのものです。目的なのか手段なのかと言われると難しい。働き方や生き方が自分そのものという感覚なんです。なにせ生き方をコンテンツにしているわけですから(笑)。

――出すコンテンツも生き方も含めて”はあちゅうという商品”であり、自分の人生であると。アーティストのようですね……。たとえば自ら発信すること、代理店でクリエイティブディレクターとして価値を出すことの違いをどう感じられていますか?

はあちゅう:クリエイティブディレクターは、企業やブランドのメッセージを代弁する仕事です。自分自身のメッセージを届けるのではなくて、誰かのメッセージを社会に届けるお手伝いをすることです。はあちゅうでいるときの私は、私自身のメッセージを社会に届けています。自分自身が発信したいことがあるので、2つはまったく違う仕事です。

――ただクライアントの仕事を受ける場合でも、クリエイターとしての味つけを入れこむことはできて、その工夫を楽しむ感覚もあると思うんです。はあちゅうさんは丸ごと自分を出していかないと自己表現ではないと感じていらっしゃる?

はあちゅう:“余白”の中で自己を表現することでも働き方としてはもちろんアリだと思います。尊敬しているビジネスパーソンの中にも、自分の想いを会社での役割にのせている人もたくさんいらっしゃいます。

私の場合は、仕事の成果を自分の名前で出したいという気持ちが強いのかもしれませんね。会社の場合は、組織とかチームというもので成果を分けますよね。私は小さいころから、ソロ競技のほうが合っていて、どっちかといえば自分で進めたい気持ちが強い。それに対しての報酬や責任も自分で引き受けたい。ですから、個人の働きかたを選んでいます。

――ブログ、Twitter、テレビなど、発信媒体によってご自身の位置づけに違いはありますか?

はあちゅう:媒体によって見えている私は違いますよね。テレビは「台本がつくられた中で役割を演じる」と思っているので、自分自身であるのは難しいかな……。TwitterやインスタなどのSNSでも、見ている人が違うので発信の仕方も変わります。

――インターネット上のいろいろなソーシャルアカウントでキャラを使い分けることや、副業のブームが起きたりと、自分の中にさまざまな顔を持つことが潮流ですよね。

はあちゅう:SNSを日常的に使っている人たちだけでなく、みんなそれぞれ「いろんな自分」を持っていると思います。家族の中の自分と同僚に見せる自分は違いますよね。相手との相性によって引き出される自分もいる。「自分がどうありたいか」ということに加えて、自分に内包されているものを使い分けることも楽しいことだと思っています。


はあちゅう的キャリア論 目の前のことに命を燃やしていれば、たどり着くところにたどり着く

――いろんなところで「やりたいことをどう見つけたらいいですか」という質問をされていると思います。はあちゅうさんの場合は、やりたいことの優先順位や色づけをすることはありますか。

はあちゅう:「“本当に”やりたいことは何か」と考えるのは、無駄だと思っています。素直に、自分がやりたいことにしかやる気が向かないんですよ。たとえば、YouTubeは見たいけど、仕事は行きたくない。でもある一定の時間YouTubeを見たらほかのことをしたくなる。ずっと消費ばかりしていると生産がしたくなる、とか。

そういうことは本能的にインプットされていると思うので、自分で意図的に色付けをするというよりは、単純に〆切的に間に合わせないといけないということに加えて、そのときの自分の優先順位が入れ替わりながら存在している感じですかね。あとは、私の場合は、書くことをレベルアップするために小説はやっておきたいとか、キャリアのためにやっておきたいことはあります。

――キャリアを考えるときに、5年後、10年後の自分、中長期的な目標は設定していますか。

はあちゅう:自分で達成できるものじゃないと、目標と言わないと思います。「芥川賞を獲る」「本屋大賞を獲りたい」というのは、審査員の人たちの裁量によって変わるものなので、目標とは言いません。目標というのは1日10枚原稿を書くとか、来年絶対に本を出すとか、自分の頑張りによってなんとかなることで、そこに関しては目標を持ちます。

賞を獲りたいとか、チヤホヤされたいとか、フォロワー数が何万人行けばいいなとか、自分でコントロールできないものは、神さまがご褒美としてくれるもので、運命的に授けられるものという気持ちがあります。

――「10年後のなりたい自分を考える必要がある派」の人もいれば、「目の前のことをしていれば、結果はついてくる派」の人もいます。

はあちゅう:後者ですね。目の前のことをしていたら、たどり着く場所にたどり着くと思っています。予測を立てて、仮説を立てて、それに向かって行動するのはある意味、大事だとは思いますが、気にしすぎてもコントロールできませんよね。私は、今を見つめることのほうが未来につながっていくと思うんですよ。だから今に集中しています。

――すると対象が自分であっても社会でもあっても、つくりたい未来が明確にあるというよりも、目の前のことに集中して時を重ねる、と。その中で、はあちゅうさんにとって、「書く」というのはどんな存在ですか?僕もライターですが、「書く」は自分が実現したい世界へのひとつの手段でしかない感覚があります。

はあちゅう:書いている時間や言葉を掘っている時間が純粋に楽しいです!書いてみて初めて使えることが出てきたりもするので、書くことに重きを置いています。

確かにいろんなメディアが発達してきて、自己表現の方法もさまざまだと思います。写真でもYouTubeでもできる。でもあえて書くことを軸にしているのは、書くこと自体が目的になっているからだと思います。手段だと割り切っているなら、もっとほかの活動が多くなるんじゃないかな……。

――「書く」ことに対する愛がすごいです!それくらい没入できるコトでないと「好きを仕事に」は難しいのでしょうか。

はあちゅう:難しいです。「好きを仕事にする」というのは人生を捧げることだと思います。好きだからずっとやっちゃう。私は、仕事で人生を終わらせたい。ただ、ある意味険しい道でもあります。「書く」のが好きな人は私だけではないですから。

――たとえそれで稼げなくても?つまり“売れない劇団員”でもいいから、好きなことをやり続けるほうが幸せ、と……。

はあちゅう:そうそう!いつか売れるかもしれないと、夢を見続けたまま死ねるじゃないですか。好きなことをしている時間が一番楽しい。本当は演技をしたいけど、お金を稼ぐためにほかのことをするのは、もったいない生き方です。命を燃焼したほうがいい。

もちろんいろいろな考え方はあると思いますよ。でも、好きなことをしているのが幸せであって、お金を得ることは幸せじゃない。私にとっては。確かに成功したらお金が入るし、名声が得られますが、富と名声がもたらす喜びや興奮は、本当に一瞬です。

そりゃ人並みにお金はほしいですよ。疲れたらタクシーに乗るとか……、そういう意味では便利でありがたいと感じることはあります。

でも本当に大切なものはお金で手に入らないものばかり。たとえばもっといい作品を書きたいという欲望・願望は、お金で買えません。お金と引き換えに若さや時間など大切なものを売っている人が多いと思います。私も昔はそうでしたが、自身でそれなりのお金を手にしてみて、価値観が変わりました。

――「書く」ことについても、トレーニングを積んだり、道を究める中でツラい時もあると思います。“好き”を保ち続ける工夫はありますか。

はあちゅう:工夫とか努力はいらないんです。好きなものは好き。リンゴが好きというのに努力はしないじゃないですか!好きな人を嫌いにならない努力をしても、嫌いになったら嫌い(笑)。好きは運命めいたものだと思っているのかな。

だから、好きなうちは頑張るけど、好きじゃなくなったら、その気持ちは捨ててもいいと思っています。目の前に大きな好きなものがあったらそっちを優先させるかもしれないし、時が来たらまた好きになることもあると思うので、それが今の自分にとっての正解なんだろうなって思います。

なかなか変わらない日本の中で、自由な生きかたをするためには

――「はたらく」を中心に、はあちゅうさんの未来観を教えてください。前半「多様で自由」というキーワードがありましたが、働き方や生き方が多様化している社会というのは、そう遠くない将来、実現しそうでしょうか。

はあちゅう:10年20年で起きる変化ではないと思います。

――えっ?20年後も就活して相変わらずエントリーシートを書いていそうということ……?

はあちゅう:おそらく少しずつ制度が変わってきて、新卒一括ではなくて経験者採用だけにしようとか、会社も柔軟になるとは思います。でも今の新卒一括採用は教育制度からの連続でなっている気がするんですね。大学4年間通って、大学3年くらいから暇になるから就活して、会社員になるみたいな感じで。

レールが全部続いているところでの就活なので、就活だけを変えたところで、どこかに軋みが来ると思います。根本的に大改革をするなら30年40年、もっとかかるかもしれない。現在までも戦後教育のままできていて、システムはずっと変わってないことを考えると、社会的な大きな変化は大変だと思います。

――あー分かります……。僕もメディアや銀行などもっと企業が入れ替わると思って社会に出ましたが、そんなに変わらない……。というか、就職先人気ランキングなんて10年前、20年前と顔ぶれが一緒。

はあちゅう:そうそう!私も、電通もトレンダーズも潰れる可能性があると思って危機感を常に持っていました。でも企業って本当に潰れないですね。

――日本社会がなかなか変わらないことを前提にしたとき、たとえば学生から、「はあちゅうさんのような生き方もしたいけど、大企業に入ったほうがいい気もします。どうしたらいいですか」という質問があったら、なんと回答しますか。

はあちゅう:まずは大企業に行かせますね。

――そうきますか!

はあちゅう:日本の大企業で使える人材になることは、初等教育みたいな部分があります。もし新卒で大企業に入れるチャンスがあったとしたら、まずは大企業に入って、企業の仕組みを知るといいと思います。いろんな人がいて、社会はこう回っているんだと。社会を知るために大企業という選択はいいと思います。

ちなみに私は高校時代に「マクドナルド」でのアルバイトを通して、社会の裏表が見えたことに感動したことがあります。マクドナルドって、どんなに要領が悪くてもポテトやハンバーガーを提供できる素晴らしいオペレーションシステムがあることを知ったんです。

どの会社にも仕組みがあって、会社が続いてきた理由があるんです。そういうことを社会科見学気分で体験するといいと思います。

――「社会科見学気分」っていう言葉は、気軽でいいですね。

はあちゅう:私は結構会社勤めが好きなんですよ。会社員のほうが自由な時間は持てますよ。フリーランスでいると、「自由な時間」という概念がなくなるので、人生が全部仕事になっちゃう。私はそういう生き方が好きだけど、おすすめはしません。

――「はあちゅう、社員になる」とかあったら特ダネですね。

はあちゅう:ないですよ!ありがたい話でいくつかの会社からスカウトいただいたこともありますが……。

――オフィスが嫌いとか?

はあちゅう:私のやりたいことは書くこと。また人生そのものをコンテンツにしていく実験をしていきたいので、物理的に時間がない。副業という手もあるけど、気持ちのシェアもある。ほかの会社やプロジェクトに時間をあまり捧げたくないです。

――先ほど中長期的な目標は立てない主義とうかがいましたが、イメージだけでも、はあちゅうさんが最終的になりたい姿ってどんな形なのでしょう。

はあちゅう:新しい職業をつくりたいです。“インフルエンサーとしての道”かもしれないですが、書くことは軸にしていきたいと思いつつも、自分の人生をコンテンツにしていくことに対しての挑戦を18歳からしているので(※3)、それを極めたいです。「あの人は人生を売り切って死んでいったね……」みたいな記憶のされ方をしたいなあ。

――発言力が大きく影響力のある立場として、こういう社会にしたい、世界観をつくりたいという野望はありますか。

はあちゅう:巷の“影響力のある人たち”が思い描くような、理想の未来はないんです。

もっと多様性が認められたり、意見を言う人に対して寛容になったり、暮らしやすい社会が実現したらいいなとは普通に思います。もっと挑戦する人が増えてほしいし、自由に生きて、常識からはずれていい。自分の子どもにはそういう未来で生きてほしいし、そういう世界で生きてほしいです。

――具体的にはどんな人が出てくるといいでしょうか。

はあちゅう:今の社会なら、大学も行かなくていいと思いますし。なんなら私は高校、中学、小学校くらいの義務教育くらいから行く必要があるんだろうかって思っていました。小学生の先生って選べませんよね。選べない環境の中で、最高の教育を受けてきたわけでもない。

もしかしたら小学校とかも行かずに、自分の好きなことをし続けた方が、そっちの業界で花開いていたかもしれないです。

でもそういう風に考える人は、日本には少ないと思っていて、もっと前提を疑うことが世の中で浸透したらいいと思います。今の世の中の型にハマれなくて生きづらさを感じている人たちが、生きやすくなり楽しくお金を稼げるようになるといいなと思います。

(おまけ)どんな質問にもよどみなく答えちゃうはあちゅう そのきっかけとなったのは、18歳までの後だし人生への後悔

(以下、写真撮影しながら)

――これまでお話を聞いてきて、どんな質問に対しても間髪入れず答えをいただけるのがすごいなあと思っています。

はあちゅう:取材をされる人はそうじゃないですか。

――でも「ええとー」とか「う~ん」とかあるんですよ。はあちゅうさんはスピードが速い。

はあちゅう:これ、政治家のしゃべり方なんですよ。言葉と単語を全部ぶつけることで相手が処理している間に考える。しゃべりながら考えています。

――ブレない芯があるのでしょうか。

はあちゅう:訓練されたのもありますよ。ブログを始めた18歳から、何を考えているのかを日々問われるような経験が積み重なってきたので、意見がなくても絞り出すという習性がつきますね。実は、だいたい意見なんてないんですよ……。

「このニュースに対してどう思いますか」と聞かれているのを見て、自分だったらどう答えるのかなと考えてみたときに、「ムカつきますね」くらいしかない(笑)。でもそんな答えではダメだから、無理やり意見をつくろうとします。意見は、自然に生まれるのではなくて、頭の中から押し出してつくるようにしています。

――やりたいことや好きなことを発見されていて、積んでいるエンジンが違うのかなって思います。

はあちゅう:欲が深いことがひとつと(笑)、幼少期に自分のやりたいことを我慢してきた結果、人に取られるという経験をしていることが大きいです。小さいことから言うと「答えがわかっていても手を挙げないからほかの人が答えて、ほかの人が褒められる」みたいな体験が多かった。自分を出さないことを繰り返してきたんです。

やりたいと思ったらすぐに手をつけたり、発信しないと誰かに取られていくのだ……という危機感が18年かけて怨念のように大きくなりました(苦笑)。

――18年もため込んできて……。何か爆発させるきっかけが?

はあちゅう:飽和状態だったというのはあります。義務教育をダラダラと続けていく中で、毎学期毎年、「人気者になろう」とするんですが、毎回失敗するんです。大学の4年間でもし変われなかったら、私の人生は敗者のままだと強く思った時に、スイッチが入ったんだと思います。

――どんな風に行動して変わったんですか。

はあちゅう:ブログを始めて、新しい自分を夢中で探しました。

――今まで人生ですごく迷った経験は?

はあちゅう:レストランのメニューとかはしょっちゅうですが(笑)。人生の経験では、あまりないですね。そんなに悩んでないです。

――選ぶポイントは?

はあちゅう:素直に気持ちが向くかどうかですね。林真理子さんの「やったことの後悔は日に日に小さくなるけど、やらなかったことの後悔は日に日に大きくなる」という言葉を、座右の銘にしています。迷ったとき、やろうかな、やらないにしようかなと思ったことは「やる」と決めています。

たとえば、トレンダーズに転職しようか悩んだ時、もし行かないことを選んだとしたら、「転職したらどんな人生になっていたんだろうと、ずーっと思いながら電通で働いている自分」が見えた気がしたんですよ。だったら失敗してもトレンダーズに行こうという気持ちになりました。

――仕事は気持ちだとして、食べ物はどう選んでいますか。すみません、ちょっと個人的に気になっちゃって(笑)。

はあちゅう:食べ物はすぐに結果が見えるじゃないですか(笑)。キャリアとか人生の決断はとらなかった場合の結論が見えにくい。「もしあの時別の道を選んだら」がよくわからないんです。料理はすぐわかる。「一緒に来た人の頼んだものの方がおいしそう。負けた……」ってよくありません?

――ありますね(笑)。でも人生も自分が選ばなかった道を選んだ人を見て、うらやんだりは?

はあちゅう:それはないですね。選ばなかった方の結果は分からない、つまり選んだ道を成功させるしかない。取り得た選択肢に関して考え続けると後悔しかないので、考えませんね。

――ご飯に戻りますが……「ご褒美ご飯」は?

はあちゅう:「肉」です。焼肉に行きますね。あとは、お寿司かな。ただお寿司は1カ月に1回かなと思うんですよね。週に2回だときつい。ご飯が多いし、喉が渇く(笑)。

私は“胃袋シェア”をすごい気にしていて、食べることはとても貴重なので、おいしいもので満たしたいんです。

――はあちゅうさんは、お酒は召し上がるんですか。

はあちゅう:ぜんぜん飲めないです。1杯飲めるか飲めないかですね。

――なんか意外です。最後にもうひとつだけ! 迷ったときに相談するメンターはいますか。

はあちゅう:メンターはいないです。ただ、考えたことを途中までで誰かに発表したりはします。Twitterで吐き出したりすると、思考を先に進めてくれるヒントになるようなことを言ってくれる人はいるので、そこから自分で改めて考えてみる。だから思いついたことはなるべく早く口にしたり、これで迷っているんだけどという状態で、そばにいる人にしゃべりながら考えています。

――思考を先に進めるために話す……すぐマネできそうです!本日は本当にありがとうございます!

はあちゅう:ブロガー・作家。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに読者と直接つながって言葉を届ける未来の作家の形を摸索中。著作に『とにかくウツなOLの、人生を変える1か月』『半径5メートルの野望』『通りすがりのあなた』など。月額課金制マガジン「月刊はあちゅう」が好評。

(※1)2018年7月、AV男優のしみけんさん(39)との事実婚を公表。(※2)2009年、慶応大学卒業後、新卒で電通に入社。2011年にはベンチャー企業であるトレンダーズに転職。ドクターエステ・コスメ専門サイト「キレナビ」の編集長を務めた。2014年9月に退職。(※3)慶応大学在学中に始めたブログが人気になり、初の書籍『さきっちょ&はあちゅう恋の悪あが記Super edition』(2005年)も出版された。

構成/パーソルキャリア”外出し"社内報編集部 撮影/柳沼涼子

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