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NOT A HOTELの建築チームには新たな土地を探し、ビジネスを設計する事業開発や、建物管理を包括的に担うライフサイクルマネジメントをはじめ、7つの部門がある。なかでも、プロジェクトの総括責任を担うのが、今回紹介するプロジェクトマネージャー(以下PM)だ。
設計・デザインのみならず、不動産、コスト管理、時間管理、事業モデル、運営...プロジェクトのあらゆる側面の責任者であるPMは「プロジェクトの経営者」とも言い換えられる。
NOT A HOTELでPMを担う平井慎一郎は新卒で入社した竹中工務店にて、大学や病院、オフィスビルなどの建築設計に従事。NOT A HOTELの世界的なスケールの大きな構想に共鳴し、2023年にジョイン。入社以降、すでに6つのプロジェクトに携わってきた。
平井は「ゼロから事業をデザインできること」がPMの醍醐味であると語る。自身が携わったプロジェクトの具体的なエピソードを紹介してもらいつつ、現在進行形で取り組んでいるチャレンジについて聞いた。
人生で、いくつの建築に携われるだろう?と考えた
ーまずは自己紹介を含めて、現在担当しているプロジェクトについて教えてください。
2023年7月、NOT A HOTELに入社しました。それ以前は新卒入社した竹中工務店で12年間、意匠設計を行っていました。NOT A HOTELに入社後は主にNASU、 AOSHIMAをメインにPMを担当。他にも、HIROOの改修や、先日発売を開始したKITAKARUIZAWA 「MASU」、来年販売予定のMIURAにも携わっています。
平井 慎一郎(Project Manager):京都大学大学院修了。竹中工務店にて中高、大学、病院、オフィスビルなどの建築設計に従事。2023年7月NOT A HOTEL参画。一級建築士。
ーわずか一年でこれだけのプロジェクトに携わるのも珍しいですよね。
はい、自分でも驚いています(笑)。
ー前職である、竹中工務店ではどんな仕事を。
建築設計としてデザインや設計取りまとめを行ってきました。入社当時はリーマンショックだったこともあり、私は少々、普通の設計者とは異なる初期のキャリアを歩みました。通常であれば新人が現場を担当するのは3ヶ月程度なのですが、当時は人手不足だったこともあり、入社後に約3年間現場監督をやっていました。
仮設事務所の設置から、掘削、鉄筋、RC、鉄骨、内装、一連の管理を担当し、その後に設計に異動になったんです。苦しい時期もありましたが、結果的には現在の私の礎となる学びも多くありました。
ーというと?
たとえば、実際に自ら鉄筋を組んでみることで、配筋の仕組みを体感できましたし、のちに設計をする際、構造体を自然にイメージできる」ようになりました。また、現場の職人さんとの会話を通じて、施工者さんが何を考えているのか、建築のプロセスを肌で知ることができましたね。
最初のキャリアに竹中工務店を選んだのも、意匠に特化した設計施工のゼネコンであり、デザインや細部にこだわる棟梁精神を持った設計集団だったためです。現場経験を経てから退職まで9年間ほど設計を担当しましたが、現場での経験があったからこそ自分が担当した建築作品ができたと思います。
ー当初、思い描いていた意匠の仕事に存分に取り組まれていたなか、NOT A HOTELへの転職にはどんな経緯があったのでしょう。
あくまでも私の感覚ですが、大学や病院の領域は“やり切った”と思えたことが大きかったですね。これまでトライしたことがない、新たな領域に挑戦してみたいなと。そんなタイミングで、偶然NOT A HOTELのイベントに足を運んでみたんです。
代表の濵渦さんからNOT A HOTELの世界観、デザインに対するこだわりや世界を股にかけたスケール感を聞いて、深く共鳴しました。特に世界的建築家・ビャルケ・インゲルス率いるBIGとの共同プロジェクトであるSETOUCHIが印象的でした。スケールが大きく、島全体をデザインするという独自のアプローチを見て、この体験はNOT A HOTELでしか生み出せないと思いました。
日本で初めて完成するBIG建築「NOT A HOTEL SETOUCHI」
建築の道を志して以降、私は建築をつくりながら、「建築ではなく、風景を残す」という思いで仕事に取り組んできました。そのため、一設計者として土地選びや土地との調和に重要性を感じていたんです。日本が残すべき風景を丁寧に次の時代に引き継いでいけるのは、NOT A HOTELならではだと感じました。
もう一つ感じたことがあります。冒頭でも触れましたが、建築に携われるプロジェクトの数です。規模の大きな案件を担当するゼネコンの場合、必ずしもゼロから竣工まで一気通貫で見届けられる訳ではありません。実際、私が10年で関わったプロジェクトの内、最初から最後まで見届けたのは半数ほど。長い人生のうちに、携われる建築をもっと増やしたいと思っていた自分にとって、NOT A HOTELはまさにフィットする環境でした。もちろん規模が違うため単純比較はできないものの、NOT A HOTELでは入社から一年ほどで、すでに6つのプロジェクトに携わっています。
意匠ではなく、事業をデザインする
ー意匠設計からPMにキャリアチェンジをされた経緯についても教えてください。
実は、キャリアチェンジしたという意識があまりないんです。というのも、前職である竹中での意匠設計は半分がデザイン、もう半分がPMのようなものでした。プロジェクトを最初から最後までまとめ上げるのは意匠設計の役割という癖がついていました。その経験を踏まえ、NOT A HOTELでは、より上流からビジネスに関わりたいと思い、明確にPMを名乗るようになったわけです。
NOT A HOTELは事業者であるため、それこそ土地探しから建築づくりがスタートします。その意味で、ゼロから事業自体をデザインすることができる。事業者のPMになることで、建築の意匠から領域を拡張し、さらにスケールの大きな仕事ができると思ったんです。
ー実際にNOT A HOTELのPMとして働くなかで、何かサプライズはありましたか。
まずはじめに驚いたのは、濵渦さんをはじめ、メンバーが持つ意匠へのこだわりや造詣の深さですね。また、判断のスピードの速さにも驚きました。通常であれば1〜2週間かけて検討したり、役員会議を行う事柄も、瞬時にジャッジし、Slack(コミュニケーションツール)上で決まることが少なくありません。もちろんその分、変更も早い。
たとえば、今年4月に竣工したNASU 「CAVE」。元々NASUには谷尻誠さん、そして吉田愛さん率いるSUPPOSE DESIGN OFFICEが設計を担当したMASTERPIECEとTHINKという非常にデザインの優れた2棟がありました。さらに3棟目に計画されたのが、このCAVEです。
CAVEは既存の2棟よりも、高低差のある地形に沿うように建っています。優しい風景に馴染むように、モールテックスという樹脂系左官材を床、壁、天井すべてに塗り込んでいます。まるで建築が土地から這い出てきたかのような出立ちです。
私はこのCAVEの着工後のタイミングから関わり始めたのですが、外壁と内壁をカラーコンクリートからモールテックスへと変更するタイミングでした。よりCGパースのイメージに近づける判断だったかと思います。すぐに金額や工期、耐久性も含めた検討・検証を行いました。
ー冷静に話してますが、この変更はとても大変だったのではないでしょうか。
外壁も内壁もすべて変更するので大変です(笑)。当時の私は入社して間もなかったこともあり、正直毎日のように頭を悩ませていました。ただ、逆にそこでギアが入ったというか、「この変更は建築がもっとよくなる可能性がある」と信じて、走り切ることに決めたんです。SUPPOSE DESIGN OFFICEさんのデザインもすべて検証しました。
とにかく地道にやりましたね。それこそ一人ひとりの立場に立ち、一つひとつの問題をクリアにしていきながら、共通のゴールを探っていきました。ただ、最後は私たちだけでなく設計者や施工者をはじめステークホルダー全員が「絶対にこれをつくりたいんだ」という同量の熱意を持てたこと。これがCAVEの完成度を押し上げたと思いますね。
CAVEのテラスにあるトップレールがない手すり。リビングからの風景が損なわれないよう横桟をなくすという斬新なアイデアを模型やCGで検証し、採用された
100年後に、価値が残る建築を
ー「CAVE」が完成し、那須の景色に溶け込む姿をみて感じたことはありますか。
この建築が50年後、100年後どうなっているのかはわかりませんが、この土地が持つ魅力や価値を建築を通じて残せたら嬉しく思います。広大な土地に一棟だけ建築し、しかも泊まれるのは一組だけ。一見、NOT A HOTELは非効率なことをやっているようにみえるかもしれません。しかし長い目でみれば、風景に溶け込む建築をつくることで、土地自体の価値は向上するはずだと信じています。
実際、AOSHIMAがある青島エリアは、宮崎県内の土地の上昇率で2年連続でトップを記録しました。もちろんNOT A HOTELだけの力ではありませんが、その一助になれたことを誇りに思っています。
NOT A HOTEL AOSHIMA
観光客や地域のみなさんからの好評を受け、2024年秋頃には増築するかたちでAOSHIMA 2.0が販売される予定です。すでに開業されているお部屋をさらにブラッシュアップするだけでなく、共用部もバージョンアップしています。バスケットボールやスケートボードが楽しめるエリアが新設されたり、レストランも改修してウェディングができる仕様になる予定です。宿泊施設のみならず、青島エリア全体をもっと盛り上げていきたいと思っています。
今年秋に販売予定のAOSHIMA 2.0。奥に青島を望む
その思いはAOSHIMAだけでなく、KITAKARUIZAWAも同様です。KITAKARUIZAWAには、すでにBASEやIRORIといったハウスが存在しますが、オーナーさんからの好評を受け、片山正通さん率いるWonderwall®がMASUを、柴田陽子事務所がプロデュースするWELLNESSを新たにつくることになりました。MASUは4棟から成り、それぞれの棟ごとにまったく異なるコンセプトになっています。
インテリアデザイナー・Wonderwall®︎ 片山正通氏が、多様な趣味を楽しむ“現代の数寄者”のためにデザインした4棟の建築「MASU」
人口減少が加速する今、多くの都市や地域はシュリンクしていくことを迫られています。それでも、NOT A HOTELが各地域にユニークな拠点をつくり、インフラも引いて開発していく。それにより、人がそこに住みつづけ、より街が活性化していく。その意味でも、風景を残すことがNOT A HOTELの本質的な価値なのかもしれないと私自身は考えているんです。
ー最後に、建築PMとして平井さんの今後の目標を聞かせてください。
一言でいえば「事業もつくれる建築家」になりたいですね。その土地でしか得られない体験を描き、それを実現するために各部門と連携し、事業にまで昇華させられるマスターアーキテクトのイメージです。そのためには熱量や好奇心を周囲に伝播させるほどのPMになりたい。
ー熱量、好奇心ですか。
そうです。スキルや経験よりも大切です。これは濵渦さんも常々言っていることですが、熱量や好奇心さえあれば、そこに付随する必要なスキルは後からでも付いてきます。熱は関わる人に必ず伝播する。結果的に、その熱は建築のディテールにも現れ、小差が大差になります。
そして最後に一つだけ。NOT A HOTELは人を大事にする会社です。少数精鋭な組織だからこそ、人が持つ可能性やオリジナリティを最大限発揮できる環境があります。一人ひとりのやりたいこと、目指す姿を尊重してくれる器の大きさがあるので、もしNOT A HOTELで働くことを検討している方は、気軽にドアノックしてほしいと思いますね。
イベントのお知らせ
PMの平井も登壇する採用イベントを開催します。
今回のイベントでは、インテリアデザイナー片山正通氏率いるWonderwall®︎が手掛けた北軽井沢の新ハウス「MASU」と、青島に増築される「AOSHIMA 2.0」にフォーカス。
プロジェクトマネジメントや建築デザイン(意匠設計)の観点から、この2つのハウスを解説していきます。ぜひご参加ください。
採用情報
現在、NOT A HOTELでは複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。