「AIの進化によって、いつか人がいらなくなるのではないか」
昨今、世の中で語られるAI活用の多くは、コストカットや人員削減といった「効率化」の文脈に終始しています。100人で担っていた仕事を1人で回すような、いわば「1/100に効率化する組織」を目指すことが最適解であるかのような風潮さえあります。
NOT A HOTELも創業期から、さまざまなAIツールを現場に取り入れてきました。しかし、私たちが目指すのは、人を減らすための「1/100の組織」ではありません。今ここにいる仲間の力を拡張し、一人のプロフェッショナルが100人分の価値を発揮できるような「100倍の組織」です。
なぜ今、組織のあり方そのものを変える必要があったのか。この組織変革をリードする上級執行役員CTO・大久保貴之に、経営、建築、そしてホスピタリティの現場で始まっている変化の裏側を聞きました。
経営陣の思考から変える
━━今回の組織変更で、はじめに取り組んだ事を教えてください。
大久保:まず取り組んだのは経営陣の意識改革です。NOT A HOTELは土地開発から建築、サービスなど幅広い分野のトップが集まる経営組織です。そのため、AIに関する興味やリテラシーもバラバラ。そこを問答無用で「Claude Code」の研修を入れ、全員がアプリ開発できるレベルまで引き上げました。普段PCすら使わない役員も含め、黒いターミナルの画面を開いて開発する姿を見て社内でも「AIやるぞ」という機運が徐々に高まっていきました。
━━そのうえで「全経営陣に専属エンジニアを配置する」という意思決定に至ったと。
大久保: そうです。現在NOT A HOTELにいる15名の経営陣それぞれに対して、一対一の専属のエンジニアを配置しました。 一般的にエンジニア組織は、プロダクト開発部門などに集約されることが多いですが、今回はエンジニア自身がそれぞれの経営の現場に入り込み、横に並んで動くかたちをとっています。 各部門の責任者が抱える課題に対して、隣にいるエンジニアがAIを武器に即座に解決策を提示していく。いわば、経営の判断をAIで力強く支えるための体制です。
━━その体制を敷いた、最大の狙いはどこにあるのでしょうか。
大久保:経営陣の思考を変えたうえでの話ですが、彼らがずっとアプリ開発をしていては経営に支障が出ます。経営陣は「課題の抽出」に注力し、それを専属のエンジニアとAIエージェントがアプリケーションを完成させ、即座にチームへ導入していくというかたちです。そうすることで経営判断にレバレッジが効き、スピードも一気に上がります。それを繰り返し、進化させることで、同じ社員数でも100倍の規模のチャレンジができる会社にできると考えています。
大久保 貴之:上級執行役員 CTO。九州工業大学博士課程修了。博士研究員を経て、2012年株式会社カラクルを創業。2017年M&Aにより株式会社ZOZOグループ入り。株式会社ZOZOテクノロジーズ執行役員に就任。2021年10月、NOT A HOTELに参画。
建築設計期間を、一年から一日へ
━━この取り組みは始まったばかりですが、各領域で掲げられている理想や状態があれば聞かせてください。
大久保:建築部門については現在、採用を大幅に強化しています。この春には100名体制、来年度中には200名体制を目指す計画です。そこで掲げている目標は、シンプルに「200名のチームで2万人分の業務を行う」という、一見すると無謀とも思える挑戦です。
たとえば、大規模な建築の詳細設計には通常、数ヶ月から年単位の時間がかかります。そこをAIの力を借りることで、一日に短縮させる世界を本気で目指します。ただ、ここで勘違いしてほしくないのは、作業をゼロにすることが目的ではないということです。
単純な作図や計算、整合性のチェックといった「作業」をAIに委ね、そこで浮いた時間を、「コンセプトづくり」や建築現場での「ディテールの追求」に100%注ぎ込めるようにする。
━━あくまでクリエイティビティを最大化するための時間を創出するのですね。
大久保: その通りです。確固たる専門性を持ちながら、AIを自在に操って隣接する領域へと裾野を広げていく。そんな組織へと成長させたいと考えています。
ソフトウェアエンジニアやプロダクトマネージャーをはじめとしたソフトウェアチームが約50名へ
アナログな領域こそ、ポテンシャルの宝庫
━━ホスピタリティを担う、ホテルマネジメント部門ではいかがでしょうか。
大久保: 実は、最もAIから遠いと思われがちな「運営」や「現場」こそ、最大のポテンシャルを秘めています。
ホテルマネジメントチームには、支配人やシェフ、ソムリエなど、それぞれの道のプロフェッショナルが所属しています。彼らは「お客さまにとっての最高の体験をつくり出すこと」に一切の妥協を許さないプロですが、その裏側には、どうしても避けて通れないアナログな確認作業やルーチンワークが数多く存在しています。
たとえば、客室の清掃チェック(インスペクション)です。これまでは熟練のスタッフが一部屋ずつ目視で確認し、チェックシートに記入していましたが、今後はスマートフォンで室内を撮影するだけで、AIが即座に清掃状況を採点し、不備を指摘する仕組みを導入するなど、アナログな現場作業の解像度をAIで一気に引き上げていきたいと考えています。
━━AIが入ることで、サービスの質が「機械的」になる懸念はありませんか?
大久保:スタッフが裏方の事務作業やチェックシートの記入、あるいは二重三重の確認作業に追われている間は、お客さまの些細な表情やニーズの変化に気づくことができません。
AIが黒子として裏側の「作業」を徹底的に担い、自動化していく。そうすることで、スタッフは全神経を「ホスピタリティ」そのものに集中できるようになります。
建築士、弁護士、宅建士、会計士、マーケター、編集者、シェフ、ソムリエなどそれぞれの道のプロが在籍し、NOT A HOTELをつくっている
ホスピタリティ業界No.1のAIカンパニーへ
━━今回募集を強化する「エンジニア(AI)」のポジションに期待されることはなんでしょうか?
大久保: AIによってエンジニアが不要と言われる時代になってきましたが、私はそうは思いません。特に我々のようなホスピタリティ業界や建築業界はまだまだアナログで「伸び代が無限」にあります。一人のエンジニアが経営や現場の意思決定のすぐそばにいて、次々に改善していく、そういう「手触り感のある面白さ」を感じる事ができると思っています。
━━NOT A HOTELはAIを活用してどこに向かっていくのでしょうか?
大久保:目指すは「ホスピタリティ業界No.1のAIカンパニー」です。NOT A HOTELの国内拠点の拡大、海外進出だけでなく、NOT A GARAGEや新しい事業も準備中です。私たちはAIによる効率化で1/100の組織を目指すのではなく、100倍の組織を目指します。そのためにはエンジニアの力が必要です。ぜひ一緒にその世界を目指していきましょう。