今回は、Kids Publicが提供する「産婦人科・小児科オンライン」のサービスを大阪府で初めて導入していただいた、藤井寺市のご担当者である、健康福祉部 健康課の近山様にお話を伺いました。
——この度は取材をお受けいただきありがとうございます。まずはぜひ、藤井寺市の特色についてお聞かせください。
藤井寺市健康福祉部 近山様(以下藤井寺市):藤井寺市は大阪府の南部にあり、面積は決して大きくないですが出生数は年間400名程度あり、大阪の都心部・天王寺まで電車で約15分という立地のベッドタウンです。大阪初の世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」を構成する古墳が市内に点在し、名所旧跡も数多くある歴史深い市でもあります。ぜひ足を運んでみてください。
——確かに天王寺駅からすぐに着いてとても便利だと思いました。藤井寺市様が「産婦人科・小児科オンライン」を導入するきっかけは何だったのでしょうか?
私が令和2~3年度に大阪府に出向して「公民連携」を学び、帰任してからも公民連携の手法を活用した企業の皆様との連携による課題解決を模索していました。そんな中で「大阪スマートシティパートナーズフォーラム(以下OSPF)」の紹介でKids Publicさんとつながり、意見交換を重ねて当市の課題を共有、実証実験の提案を受けました。2022年7月から実証実験として導入させていただき、多くの市民に利用されたことから、2023年4月から正式に導入させていただきました。
——その節は素晴らしい出会いを本当にありがとうございました。子育て支援では色々なサービスがあると思いますが、「産婦人科・小児科オンライン」をお選びいただいた理由は何だったのでしょうか?
橋本さん(KP代表)のプレゼンテーションで私の印象に強く残ったのが、「あくまで私達はオンライン医療相談であり、市民に一番近い行政担当者の対面サポートが一番大事と考えている。しかしそれだけでは届かない部分や、隙間を埋めるサービスとして提供している。」という言葉でした。新型コロナウイルスの流行もあり、現場で訪問などを行う保健師も「対面を前提としたサポートだけでは届かない不安や孤立感を抱えた家庭が増加している」という課題を感じていたところでした。
私たちは日々市民の皆様に様々なアプローチをしています。しかし24時間は対応できませんし、どうしてもタイミングが合わないことや、対面での支援を重いと捉えられてしまうこともあります。オンラインでの相談は、24時間自分のタイミングで相談できますし、気軽に安心感を持って使っていただけると感じました。
私自身も親として、子育ては夜に突然“ふっ”と不安になるようなことがあると思うのです。そんな時に相談できる、という安心感は、行政だけでは提供できるものではありません。
——なるほど、行政による対面の支援がもちろん大事であるという前提のもと、それだけでは届かない部分もあり、補完するサービスとして選んでいただけたのですね。実際に利用して、どのように感じられましたか?
2023年3月までの9ヶ月で141件の相談が寄せられました。本格導入後は8ヶ月で300人の方にお使い頂きましたが、出生数が400件ですから、かなり多いと思います。また半数近くの方が夜間(18時〜翌朝9時)にご利用いただいています。行政の相談は日中しか受けていなかったので、潜在的なニーズに対応いただけているのは強く感じました。SNSなどにははたして本当かどうかわからない情報もあふれる中、しっかりと医療者が名前も出して答えてくれることによる安心感がある、といった声も市民の皆さんからいただきました。
大阪府では初めての実証実験でしたが、市民に周知するためのチラシ作成など、自治体としての事務作業を可能な限り減らしてくださり、市としても大変助かっています。自治体の予算は限られており、真に効果の高いものを選んでいく必要がありますが、国の補助金で1/2の補助が出ることなどの情報も、Kids Publicさんから教えていただきました。導入にあたっての予算の捻出では課の予算の見直しも行い、実証実験の結果も併せて、『子育て・子育ち支援の充実』を掲げる市長にもご納得いただき、本格導入になりました。
藤井寺市健康福祉部 近山様 ご提供資料(2023年9月作成)
——逆に利用してみて意外だった点はありますか?
窓口での相談件数が減るかと思っていましたが、現時点でははっきりとした傾向はみられませんでした。グラフでお伝えしたように、半数近くが夜間の相談で、このような相談はこれまで「どうしようもなかった」相談です。これが全て昼に行政窓口に来ても対応できませんし、今までであれば見過ごされていた不安・問題にリーチできているのだと考えています。仕事をしていて夜間に育児参加することが多いお父さんにとっては、このような相談ができるのに救われる、という声もありました。「窓口や病院に行くほどではないけど、気になること」が相談できることが大きいと感じますね。
——確かに日中仕事をしていたら行政窓口にも病院にもなかなか聞けないですよね。それぞれ補完できている、というのは弊社としても大変嬉しい限りです。
相談事業だけでなく情報提供もしてくださっているのも地味に嬉しいポイントです。本格導入後は周知場所も増やし、多くの登録をいただいていますが、登録件数や相談件数が増えれば良いというものでもありません。登録することにより、何か妊娠・出産・育児について困ったり、知りたかったりする時に「産婦人科・小児科オンラインジャーナル」などで必要な情報を知っていただき、節々の相談したいタイミングでご相談いただく、そんな流れができるとよりよいと思っています。
——まずは必要な情報だけ知るところからオンライン相談、そして行政窓口での相談、支援と重層的にあるとより市民の皆様も助かると思います。私達も様々なアプローチで情報・支援を届けていくことを意識しているので、まさにご提案のような使い方を広めていきたいです。
タッチが複数ある、というのは本当に大事だと思います。電話とか対面の支援も重要だと思っていますが、どうしても身元がわかってしまうので、すぐに虐待などを疑われてしまうのでは?と気になさる保護者の方もおられ、聞きにくいこともあると思います。Kids PublicさんのLINEなどを用いたオンライン相談は、顔を見せずにチャットや音声通話で相談することもできるので、胸の内を打ち明けるハードルも低く、より相談しやすいのだと思います。
——私たちは行政との情報連携なども大事にして、本当に行政の個別の支援が必要な事例などは、しっかりと情報提供・対応いただく形を取っております。藤井寺市様側も深刻な悩みへの対応の体制を整えていらっしゃるので、弊社としてもいざという時に適切な対応ができそうです。
行政側からすると、保健師など行政専門職の相談にもKids Publicさんが乗ってくれるのがすごく助かっています。最近3歳半の健診で子どもに性別を聞くべきか、について行政内で検討したのですが、聞くにもやめるにもしっかりとした理由が必要です。他の自治体に聞いても、確固たる何かがあって聞いているわけではありませんでした。ふとKids Publicさんに伺ったところ、今の学術的な知見に基づいたどんぴしゃな答えを返してくださり、自信を持って方針を決めることができました。今では保健所や近隣自治体にもこの答えを共有しています。
——ご活用いただきありがとうございます。サービスとして、直接相談に乗るオンライン相談事業がメインではありますが、行政や保育の現場のサポートをするのも大事にしています。幅広くアプローチできる現場を増やし、より良い支援ができるように、後ろから支えることができていてよかったです。
私は専門職ではなく、事務職としてこの母子保健領域に携わっています。市民の皆さんに直接的な支援を行う立場ではありませんが、直接向き合う保健師さんなどを裏で支え、より上手く回るシステムを作るという立場です。よりよい裏支えをご一緒いただき、ありがとうございます。
——弊社も表で相談する医療職と、その相談システムを支えるプロダクトマネージャーやエンジニアがおります。彼らは医療職ではありませんが、日々「妊娠・出産・育児のインフラを作る」と奮闘してくれています。その意味では近山様と近い立場かもしれませんね。
そうですね。直接的な支援が大事なのは言うまでもありませんが、裏で支えるのもとても大事な仕事だと思っています。私達が頑張ることで、子どもの健康を守っているんだと、世界がうらやむ母子保健と言われますが、更に頭一つ抜けていくんだぞ、という意気込みでやっています。
——改めて皆さんの想いをお伺いし、我々ももっと良いサービスにしていこうと想いを新たにいたしました。今日はお話をお聞かせいただきありがとうございました。ぜひ引き続きよろしくお願いいたします。