私たちカケハシの提供する服薬指導支援ツール「Musubi」が2019年度のグッドデザイン賞を受賞しました! 患者さんと薬局・薬剤師の関係をより良いものにすることを目指して開発されたMusubi。そのコンセプトやデザインがどのように生まれ、磨かれていったのか。サービスデザインに関わるメンバーに、広報の高橋が話を聞いてみました。
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患者さんと薬剤師が“同じ画面を見る”という新しいコンセプト
ーー今回のグッドデザイン賞でも「患者とのコミュニケーションを支援する」というMusubiのコンセプトを評価いただいていましたが、そもそもこれはどのような背景で生まれたものなんですか?
井出:私がジョインしたのは2016年7月なのですが、ちょうどMusubiのコンセプトを議論するタイミングで。「薬歴記録ツールではなく、“今までにないサービスを実現する”には、どうしたら良いか?」と長い時間かけて話し合っていました。
患者さんの健康のため、薬剤師が価値を提供できる場の一つに服薬指導があります。その服薬指導にフォーカスし、”服薬指導支援ツール”としてのコンセプトでサービスを開発できないか、初期段階から探っていました。
MusubiのUXデザインを担当する井出。MusubiのUX定義からUIデザインまで担当
永瀬:私は少し遅れて2017年1月から。薬剤師として調剤薬局に勤めていた経験をもとに、現場の目線でMusubiの仕様やデザインに関わってきました。「薬剤師の道しるべとなるようなデザインに」という話から、“患者情報→処方→薬歴”という現在の仕様にしました。
細かいところでは、患者さんが見る画面と薬剤師が使う画面とできっぱりと線引きして、文字のフォントサイズなどそれぞれの観点で配慮していきました。実際、Musubi上で表示される指導文と薬歴の文章の文字サイズは違います。
井出:実際に薬局の現場を見学し、薬剤師の方々が困っている点をヒアリングしながら、「薬局における理想の業務フロー」を探っていきました。
ーー服薬指導と薬歴作成を同時に、というアイデアはその頃から?
井出:そうですね。スタートアップを名乗る以上、新しい価値を提供しなければなりません。まず「今よりもっと簡単に薬歴が作成できないか?」「画面をタップするだけで薬歴を作れないか?」という視点から、「薬剤師が患者さんに服薬指導しながら画面に表示されている指導内容をタップすれば、それがそのまま薬歴として記録されるようになると良いのでは」というアイデアが生まれたのですが、一方で、薬剤師が画面に表示された情報と首っ引きになるのは違うのではないか、という議論もありました。
その中で、Musubiの画面はあくまでもサポート、患者さんと薬剤師の会話を促進する位置づけで、「一緒に画面を確認する仕様にしたら患者さんと薬剤師の目線が合うのでは?」と。いろいろと紆余曲折はありましたが、そのような議論を経て、患者さんと薬剤師が同じ画面を見るという現在の仕様に落ち着きました。
SaaSのメリットを生かしてアップデートを重ねるMusubi
ーー永瀬さんの薬剤師としての視点はどんな部分に生かされているんですか?
永瀬:そうですね、特にこだわっているのは操作性でしょうか。例えばテキスト入力に関しても、利用シーンによって画面タップのほうが良い場合と、キーボード操作を前提としたほうが良い場合があります。Musubiは、薬剤師が薬局で日々使う基幹業務システム。利便性には妥協できないという思いは強くありますね。
Musubiプロダクトオーナーの永瀬。薬剤師の経験を生かし、Musubiのプロダクト企画を担当
永瀬:実は薬局に勤務していたとき、カウンターに据え置かれたモニターが、たまたま首が回転するタイプのものだったので、患者さんにどうしても見てほしい添付文書などがあった際は、首を回して患者さんに画面をお見せしていたんです。
患者さんにお見せすべき情報はどれか、あえてお見せしないほうがいいものはどれか、そのあたりの整理には現場での経験が強く反映されていると思います。
ーー実際にプロトタイプができたのはいつ頃でしたか?
井出:2016年秋頃、イベント向けにスライドショーのように画面が切り替わるだけのサンプルを作ったのが最初ですかね。基本的なコンセプトは今のMusubiとほぼ同じ。実際にシステムとして動かせる形になったのは2017年春頃です。といっても、実は最初は満足に動かなかったんですよね。デザイン以前の問題。これでは薬局業務に支障をきたすということで、大変な時期がありました。
永瀬:そうですね。最初の数カ月間は、システムのチューニングにひたすらテコ入れを。
井出:なかなかデザインを洗練させるところに着手できない状況でしたよね。とはいえ、いくらでもアップデートが可能であることは、SaaSのメリットでもあります。順次さまざまな重要機能を追加し、システムの安定性向上も適宜行っていますので、総合的なユーザー体験はかなり向上しています。デザイナー視点で見ると細かい作り込みの余地がまだまだありますけどね。
患者さんのために進化を続けるMusubiのこれから
ーーこれからのMusubiはどのような進化を?
三宅:直近で進めているのは、“服薬指導画面を患者さんにお見せしなくても薬歴作成できるようにする”ことです。これまでのお話と矛盾するように思われるかもしれませんが、そうではなくて。実は現状の課題として、Musubiが提案する業務のコンセプトと、薬局の現場の現状との間にギャップが生じている部分があるんです。例えば、患者さんが大勢いらっしゃって混み合っているときなど、時間をかけて服薬指導をすることが現実的に難しいことも多々あります。そうした場面でも問題なく使えるものへと、Musubiを進化させる必要がある。
Musubiプロダクトマネージャーの三宅。デジタル x UXに強みを持つ前職での経験を生かし、Musubiのさらなる進化の可能性を探る
具体的には、現場の薬剤師が日々の忙しい業務の中でも簡単に使えるようにしたうえで、その場の状況にあわせて必要な時に理想的な使い方ーーつまり患者さんと一緒に画面を見ながらの服薬指導ーーが選択できると良いのではないか、と考えています。
実際の薬局の現場を観察すると、忙しいタイミングか否かが非常に重要な要素だと感じます。業務が忙しすぎると、どんな薬剤師でもまずはスピーディーに業務を終わらせることが優先になりますし、患者さんにとっても待たされるより早いほうが嬉しい。忙しい業務に対応できるよう、まずは柔軟に使えるUIを実現したいと考えています。
今までのMusubiの開発は、まず必要となる最低限の機能実装を最優先にしていました。今後は、ユーザビリティを高め、薬剤師にとってとにかく使いやすいものとなるようデザインを磨きこんでいくことで、患者さんに意味のある医療体験を提供しうる服薬指導を、薬剤師が過剰な負荷を負うことなく実現できるようにしていきます。
完全にストーリーが見えているわけではないので、多くのユーザーの声を聞きながら、理想的な業務を実現するための現実的なステップについて常に考えを巡らせつつ動いています。来年にはMusubiの主要画面を改善できる予定です。
ーー1年後のMusubiは、かなり変化しているかもしれませんね! 患者さんに価値を出すという基本のコンセプトは?
三宅:もちろん、そこはぶれません。
井出:薬局の現場は日々のオペレーションを回すところで精一杯。「患者さんと一緒に画面を見ながら服薬指導したいけれど、まずは薬歴を早く書かなきゃ!」というニーズが想像以上に多かった。まずはそこからケアしていかないと、服薬指導の充実や患者さんとのコミュニケーションの拡充が実現されませんから。
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患者さんと薬局との関係をより良いものにするべく進化を続けていくMusubiのこれからに、ぜひご期待ください!
(こちらはカケハシのブログに加筆修正を加えたものです)