※今回はポロックグループのクオーツについての記事となります。
「事業成長」と「デザイン」。一見、関連のない職種に思えそうですが、この2つをバランスよく繋げてデザインの可能性を広げ、クライアントからの厚い信頼を得ているweb制作会社がクオーツ社です。今回の記事は、代表取締役CDOの白石諒さんから、会社を起ち上げた経緯、そして「全社員が、職種に関わらずにデザインとデザイナーの目線を持つべき」という考え方や、ビジョンについて語っていただきました。
白石 諒 / 代表取締役CDO
株式会社クオーツ代表取締役CDO。大阪芸術大学デザイン学科卒業。2010年、大学在学中からフリーランスとして、webデザインの仕事に携わる。2016年に共同経営者の松江翔輝氏(同社取締役CEO)とクオーツ社を立ち上げる。スタートアップ企業から上場企業まで、年間100以上のwebサイト・サービス・ブランディングの開発に関わっている。
「あくまでデザインは事業成長の一手段にすぎない」デザインの社会的地位向上に向けて
――大学時代はどんなことをされていましたか?
芸術系の大学でデザインを学んでいたのですが、その一方で、個人事業主の方や中小企業のweb制作をお手伝いする仕事にも熱心でしたね。専門知識が必要な仕事だったので、学生にしてはそこそこの稼ぎがありました(笑)。またweb制作をしていた流れから、その頃に一般化し始めたスマホアプリにも興味を持ち、「ITやデザインで何か面白いモノやサービスが作れないかな?」などとも考えていました。
――大学を卒業されてすぐに起業されたとのことですが、この頃の経験が大きく影響しているのでしょうか?
学生ながら企業を相手にした仕事をし、現実社会の一端を覗かせていただいていたので、世の中に出ていく恐怖心は、少なかったかもしれません。最初は、フリーの技術者という形でやっていこうかと思っていました。
――共同経営者でCEOの松江翔輝氏との出会いも大きかったのでしょうか?
そうですね。松江とは、私が学内で、後輩たちにwebデザインを教えていた時に、知り合いました。彼は建築を学んでいて、デザイン学科の私とは通う校舎も違い、本来は知り合う可能性も低かったのですが……。彼が、会いにきてくれたんですよね。
松江は最初から視野が広く、デザイナーの社会的な価値を上げることや、デザインという考え方やサービス自体を世の中と繋げていくことへの関心も高かったです。それに加えて、世の中的にもスタートアップへの追い風がありまして。ゼロから会社を起こす生き方もアリなのかなと。2016年に、彼と一緒にクオーツ社を立ち上げました。
――創業当初は、今とは少し違う方向性で経営をされていたそうですね。
はい。最初期のクオーツ(社名変更前は株式会社ガシューという会社名で運営)は、クリエイターのためのポートフォリオサービスを開発し、運営する会社でした。でも創業から2年ぐらい経ち、「これは少し違うのではないかな」と。主に感じたのは、クリエイターの自己表現と、クライアント側が求めるデザインとのギャップです。松江や私は芸術系の学校出身だったこともあり、クリエイターが持つ価値観や世界観を支援するつもりで起業しましたが、ビジネスの世界に身を置いてみて、デザインとは、あくまでも事業成長の"一手段"にすぎないということを嫌というほど実感しました。デザイナーが"創りたいものを事業成長”にどう落とし込めるかが重要なんだと。
それならば、自分たちでデザインの受注を行い、デザインを事業成長へと落とし込む役割までこちらでやってしまう。その結果としてデザイナーの社会的な立ち位置を上げて行く会社にしたほうが早いのではないかという話になりました。「デザインと事業成長の共存」、今のクオーツ社のスタイルですよね。その基盤が出来たのが、今から約4年ほど前のことです。
デザインの力がビジネスに貢献する度合いを証明するために
――「デザイン」「制作会社」というと、どうしてもセンス重視の世界で、特別に秀でた感性がないと難しい仕事、ましてや、デザインとは程遠そうな営業の方は、どこで役立てたらいいのだろうと思ってしまいがちですが……。
そうですね。一般的なビジネスパーソンの方には、そう思われている方がたくさんいらっしゃると思います。でも私は、センスは生まれつきのものだけではなく、経験や知識、そして外部からの影響によって培われる部分も大きいと思っていますし、実際にくまモンを創ったことで有名な日本を代表するクリエイティブディレクターである水野学氏もそう仰っています。(水野学出版:センスは知識からはじまる)
特にビジネスの分野でデザインの力を活かす、となれば、クライアント側が「何を」、「どう」、可視化して変えたいのかを理解し、その方向性をお伝えし、着地点を共有する力が一番大事なのではないかなと。何か、おしゃれなwebサイトのデザイン案をご提案すれば、クライアント側の抱える問題が全て解決する、というわけではないんですよ。むしろクライアント側の目指す内容によっては、尖ったものよりも親しみやすいデザインのほうが合致する場合もありますし。必要のないデザイン投資やリニューアルに関しては「そこではないところに予算を回しませんか?」とはっきりお伝えしてしまう場合もあります。
――まるでコンサルティングのようですね。
はい。まさに私たちが目指しているのは「プロジェクトや事業設計のお手伝い」という部分も含めてのデザインです。そこにはゼロから始まるイメージ作りもありますし、もちろん、今あるものを新しく変えていくリブランディング案件もあります。となると、具体的なデザインのスキルも重要ですが、硬軟織り混ぜてクライアントが抱えている問題の解決と、最終的に目指していきたいゴールを明確にすること。そしてその調整が、言葉と言葉のやり取りでもできる、営業的なスキルが高い人材ももっと必要だなと感じているのが現状です。
――特にクオーツ社の場合は、クライアントとの直接取引をする会社、というのが、他のデザイン会社や制作会社とは大きく違っていますね。
はい。代理店からの2次受け、3次受けではなく、クライアントと直にイメージ共有するのを信条にしています。そのほうがクライアント側からのよりリアルな悩みに向き合えますし、問題解決に向けての具現化や、新たなプランのご提案も素早くできます。「とりあえずwebを作ればどうにかなるのでは?」とお考えの企業も多いのですが、実際にはweb以外の方法のほうが、事業KPIの達成に近づく場合もあったりするんです。その匙加減を弊社の営業、デザインチームと共に共有し、クライアント側へフィードバックしていく。それが弊社の大きな特徴であり、他のweb制作会社とは大きく異なる点だと思います。お陰様で、一社お仕事をさせていただくと、「こちらの問題解決もお願いしたい」と、つながりのある企業を紹介いただくことも多いですね。
――デザイン業界自体で、同じような取り組みをしている会社はありますか?
「デザインの力を証明する」をミッションに置かれている、グッドパッチ(https://goodpatch.com/)さんは近いかもしれません。今、多くの企業がビジネスの中でデザインの重要性を認識していますが、実際のところ、デザインのビジネスへの貢献度は、具体的に量るのが難しいのが現状です。だからこそ、デザインと事業成果との相互関係を明らかにできるように、納品物だけではなく事業成長にコミットし、弊社もまた、デザインの力を証明しデザイナーの社会的地位を上げたいと考えています。まだまだ、道半ばにいる状態で葛藤することも多いですが、このような考えに共感いただける方がいればぜひ一緒に叶えていきたいですね。
盤石な組織体制を創り、本気で第二創業期を駆け抜ける
ーー「デザイン」に非常にこだわりがある印象ですが、ここまでこだわっている理由を伺いたいです。
結論、やはり事業成長にとってデザインは欠かせないと信じている点と、ビジネスとしても勝算があると考えているためです。
デザインという単語は日本には2回輸入されているというのは有名な話ですが、1度目は「設計」、2度目は「意匠」という意味でした。最近では1番目の設計という意味にフォーカスが当たっていますが、ここでいう設計の対象とは「プロジェクト」自体であることが多いです。
目標に対して現在との差分を可視化し、そこに至るまでのtodoを決めて、関係者との合意を作っていく作業は、すぐには代替できないと思いますし、むしろそれができるリソースが企業側に少なくなっていくと思うので、市場価値は上がるんじゃないかと考えています。
また、ビジュアルデザインの分野はクラフトマンシップ(職人の技能)的な要素が求められることが多く、学習と教育のコストが高いのですが、ベテランの会社やデザイナーが現役で活躍していることもあり、参入障壁が高く市場規模で見ても新規参入者がビジネスとして成立しづらい。変わってビジネスの文脈でデザイン会社として参入するのは比較的再現性も持たせやすく、市場の需要があるのでビジネスを成長させるという文脈に適しているのかなと考えています。
――事業拡大に伴い採用に力を入れていますが、どういった人材を求めていますか?
セールス職のお話で言うとソリューション営業に興味がある方、と言えば分かりやすいかもしれません。具体的には、相手の悩み・思い込みを取り外してリフレーミングしていける人。デザインというとどうしてもクラフトマンシップ(職人の技能)的な仕事を想像しがちですが、本髄は「新たな価値創造」です。そこには業種は関係ありません。また私たちデザイン業界は同業者同士のつながりが強く、それはそれで風通しは良いんですよね。ただし会社を取りまとめる身の一人としては、弊社の強みである「事業成長に紐づくデザイン」の考え方を、社内でより強化したいんです。そのためにも今は、クライアントとのコミュニケーションの始まりであり、主軸・ゴールになる営業の部分から、クオリティを上げていきたいと考えています。
営業の規模を大きくして質を高めていけば、より多くのプロジェクトに取り組む体制作りへと繋がりますしね。デザインの仕事は飽和状態とも言われますが、経営者の目線からすると、デザインとビジネススキルの高い人材を育成できれば、まだまだ社会の中で大きなお手伝いができる場所は残っていますし、伸びしろのある分野です。応募して下さる方には「今まで営業一本でやってきたから、自分にはクリエイティブな思考はできない」と考えるのではなく、デザイン的な思考は誰もが持ち得るものだと感じてもらえれば、充分だと思います。
それから、起業した頃の「デザインに関わる人の社会的な価値を高めたい」という気持ちは、今でも変わっていません。デザイン業界は、長らく雇用形態や労働環境を含めて不透明な部分も多いのが当たり前とされてきた経緯があります。弊社としてはそういった部分も、リデザインして変えていきたいですね。正社員雇用をすることで、働き手の立ち位置をきちんとさせ、より高いパフォーマンスを出せる場所を作り出す。幸福度の高い働き方も、弊社で新たに構築できればいいなと思っています。