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野菜×ITで新しいマーケットを開拓! 八百屋さんが目指す、野菜を切り口に広がるビジネスとは

アナログ業界におけるDX推進の事例をご紹介するセミナー「攻めと守りのDX化!?」の第2弾では、八百屋さんを取り上げたいと思います。


*攻めと守りのDX化!?第1弾、Tokyo Bento Laboの関さんのお話は以下からご覧いただけます。

システムを導入するだけではダメ! システムを使いこなし、事業を大きく変革できる「攻め」のDXとは?



お話しいただくのは、株式会社つま正の小山さん。地元メディアでも多数、紹介された「ドライブスルーde野菜」の開発秘話から今後の展開まで、存分に語っていただきました。

また今回は特別ゲストとして、「つま正DX(※)」を目指す株式会社Music&Aroma Intelligenceの佐藤さんにもお越しいただきました。三者三様のDXへの取り組みを、ぜひ、ご覧ください。


小山 正和(こやま まさかず)
株式会社つま正 取締役統括部長

1979年生まれ。株式会社つま正取締役統括部長。築地市場で7年の産地取引の仕組みを経験後、つま正に入社。業務野菜卸ながら、コロナ禍で密を防ぐ一般向け野菜販売として「ドライブスルーde野菜」を皮切りに、事前決済システムを導入した商業施設、自動車販売会社での販売も展開中。自社の畑では自ら土に触れ、美味しく良質な野菜が育つ秘訣を日々研究している。「調理師免許」「野菜ソムリエ」「日本食育指導員講師」の資格も持つ。

HP:https://tumamasa.jp/


佐藤 奈央(さとう なお)
株式会社 Music&Aroma Intelligence
医療法人社団 湘南太陽会 医療事務

医療法人社団湘南太陽会に入社し医療事務の経験を経て、2018年より株式会社Music&Aroma Intelligenceに転籍。シンガープロデュース、ラジオディレクター、イベント企画を行う。「フィトセラピーアドバイザー」「ハーブティーソムリエ」の資格を持ち、アロマ部門でハーブティー『A-MA-CHA』を販売している

HP:https://www.m-a-i.jp/


小坂 武史(こさか たけし)
株式会社イノベーションプラス CEO 兼 Innovation Producer

新卒でインターネットプロバイダ事業を行う外資系企業に入社し、2007年に株式会社イノベーションプラスを設立。ベンチャーから大企業まで、新規事業を創出する企業のコンサルティングや支援のほか、ストラテジー支援、エクスペリエンスデザイン、プラットフォーム提供を行う。アイデアのタネから事業を生み出す、いわゆる0→1を得意とする。

HP:https://www.innovationplus.jp/


※本記事では、セミナーの内容を抜粋・編集してお届けします。動画をご覧になりたい方は、以下のURLからご覧ください。

【アナログ業界のDX変革セミナー 第2弾】八百屋さんが攻めと守りのDX化!? 攻めのDXと守りのDXの2つの課題にどうチャレンジしたか、トコトン話します!

https://youtu.be/PwyIhEr0Z3c


第1部:周りの人みんなをハッピーに! コロナ禍で実現した八百屋さんの攻めのDX

業務用の野菜が売れない! BtoBからBtoCへの事業転換

イノベーションプラス・小坂武史(以下、小坂):

小山さんのお話をお聞きする前に、DXについて簡単に復習しておきたいと思います。DXというと、ホームページを作るとか、エクセルに自動で入力できるようにするといったことを連想する方も多いと思います。これもたしかにDXではあるのですが、コスト削減とか効率アップといった「守りのDX」だけでは、なかなか新しいことにはつながりません。

たとえば当社のお取引先でもあるアシックスでは、「ASICS Sports Complex TOKYO BAY」(※)という低酸素のトレーニング施設を運営しているのですが、コロナ禍で利用できない人が増えてしまったんです。そこで始めたのが、トレーニングのオンライン配信です。こんなふうにITとアイデアを組み合わせた「攻めのDX」をつくるお手伝いもさせていただいてますので、ぜひ、お声がけください。

※ASICS Sports Complex TOKYO BAY
プロのアスリートが行う高地トレーニングができる都市型低酸素環境下トレーニング施設

それでは、たいへんお待たせいたしました! 八百屋さんこと株式会社つま正の小山さんにお話しいただきたいと思います。

株式会社つま正・小山正和(以下、小山):

はじめまして。八百屋の小山です。まずは、僕たちの事業について説明させてください。八百屋といっても、商店街に店舗を出しているようなものではなく、レストランやホテルなどに野菜をお届けする、いわゆる「卸」をやっています。

ですが、みなさんもご存知のとおり、コロナ禍で外食産業に元気がなくなってしまって、さて、どうしようかと考えまして。一般の方たち向けに販売するにはどうやったらいいか…ということを模索して、2020年の5月からはじめたのが、「ドライブスルーde野菜」です。オンラインで注文して、車で受け取りだけできるように、サイトも立ち上げました。

小坂:

これがホームページの注文画面ですね。



小山:

サイトの立ち上げだけでなく、小坂さんにはいろいろ相談に乗っていただいて。おかげさまで、3,000セットの野菜を販売することができました。こうした実績をつくれたのはもちろん嬉しかったのですが、これまでレストランやホテルといった業務用のチャネルしかなかったのが、一般の方向けのチャネルを開拓できたというのが、なによりも大きな収穫です。



野菜を起点に広がる、新しいつながり、新しいビジネス

小坂:

「ドライブスルーde野菜」について、もう少しくわしく教えていただけますか?

小山:

本社の建物の1階・2階部分(写真でグレーになっている部分)が冷蔵施設になっていまして、2階で商品をピックアップして1階で車に載せるという形になります。

注文はオンラインで完結しているので、こちらではお渡しして現金をいただくだけ。「トランクを開けますか? それとも後ろの座席に置きますか?」とお聞きして、車に載せるところまでやっています。



(ドライブスルーde野菜の様子/本社前)


小坂:

すごい! まるでコンシェルジュですね。

小山:

言われてみれば、そうですね(笑)

小坂:

野菜はセットで販売しているんですね。どんな野菜が入ってるんですか?

小山:

18種類の野菜が入っているのですが、一般の家庭でよく使うものがほとんどです。そのうち1〜2割だけ、業務用のちょっと変わった野菜を入れています。

イノベーションプラス・西林(以下、西林):

実は、ハンマーヘッド(※)で購入したことがあるのですが、半分くらいはみたことのない野菜だったんですよね。

※現在は、ハンマーヘッドでの販売は終了しています

小山:

そこでいうと、ハンマーヘッドや横浜ベイクオーターでは100%、エッジのきいた(ちょっと変わった)野菜にしているんです。あえてこうすることで、野菜がとても好きな方たち向けの(販売)チャネルをつくることが狙いです。加えて、地元の青果業者さんたちとバッティングしないようにといったことも考えた結果、このような形にしました。

西林:

なるほど!

小坂:

共存するというわけですね。

小山:

その通りです! ただ、ちょっと変わった野菜だと、調理方法や食べ方がわからないという方が多いので、先行してサイトに食べ方を載せるといった工夫もはじめました。こうすれば密にならずに伝えられますからね。

小坂:

横浜ベイクオーターでの販売では、さらにDX化を進めているとか。

小山:

振っていただき、ありがとうございます(笑)。横浜ベイクオーターでは食品を販売する業者さんを集めて、月1回、「いいものいっぱいマルシェ」を開催しています。ここでは、オンラインで注文・決済まで完結、受け渡しのみを行うという形にしています。


(写真右端がつま正の小山さんです)


小坂:

横浜駅直結だから、便利ですよね。便利といえば、最近は野菜以外も販売しているんですよね?

小山:

実は、「ドライブスルーde野菜」をはじめて1、2カ月経ったころから、「野菜だけだと…」という声をいただいて。それで、干物のセットもはじめました。あとは、仲の良いマグロ屋さんにも賛同いただいて、冷凍のマグロも扱っています。

小坂:

注文ページのところに魚が載っていたのは、そういうわけなんですね。野菜と一緒に買えるんですか?

小山:

もちろんです! だから、その日の献立を考えなくてもよくなっちゃいます。野菜、干物、マグロと、どれをとってもいいものが手に入る。そんな環境がつくれました。

小坂:

わたしも神奈川県人なんですけどね。フロム横浜、フロム神奈川、いいですね。



カーディーラーと八百屋さんの、“おいしい”関係

小山:

せっかくの機会なので、もうひとつとっておきの話をさせていただこうかな、と。本社と横浜ベイクオーターのほかに、トヨタや日産の店舗でも野菜を販売させていただいているのですが、「え? なんでカーディーラーと八百屋さんが?」ってなるじゃないですか。この部分をお話ししてみようと思います。

ここでちょっと、カーディーラーと一般の方との関係性を考えてみたいのですが、車を買うって、一生のうちに10回もないですよね? そのほかの接点と言ったら、点検や修理もありますが、これも1年に1、2回程度です。つまり、圧倒的に接点が少なく、(接点を持つ)タイムサイクルもかなり長くなってしまいます。

これをぎゅっと短くすれば、カーディーラーにとってメリットがありますよね。そこで、野菜を購入してもらえる環境を一緒につくってみませんか、というご相談をさせていただいた、というわけです。

野菜セットはだいたい1週間くらいで使い切れる量なので、1週間ごとにカーディーラーに来ていただけるようになります。来店回数が増えれば、コミュニケーションやビジネスのチャンスも生まれます。さらにトヨタでは、野菜を買っていただいた方にワックス洗車のサービスもしていただいているんです。僕たちとカーディーラー、そして、一般のお客さま、全員の利益につなげることができました。

小坂:

それは嬉しいサービスですね。

小山:

足元の利益を得るだけでなく、多面的に事業を進めていくというすばらしい経験もできましたし。この経験を踏まえて、この仕組み自体を広めていけたらいいなと思ってます。

西林:

可能性がどんどん広がりますね。八百屋さんでありながら、新しいチャレンジをどんどんしていらっしゃることについて、小坂さんはどう感じていますか?

小坂:

最初にお会いしたのはコロナ禍になるずっと前なのですが、新しいことにチャレンジする、ITに取り組むという前のめりな姿勢に大きな魅力を感じています。まだまだ、やれること、やりたいことはたくさんあると思うので、これからが楽しみですね。



第2部:パネルディスカッション〜オンラインとオフラインを活用した新ビジネスで、この先の展開は?〜

つま正DX!? 「いいものいっぱいマルシェ」での出会い

西林:

ここからは株式会社 Music&Aroma Intelligenceの佐藤さんも交えて、お話をお聞きしたいと思います。

株式会社 Music&Aroma Intelligence・佐藤奈央(以下、佐藤):

ありがとうございます。簡単に自己紹介をさせていただくと、シンガープロデュース、ラジオディレクターというメディアのお仕事をしながら、アロマ、フィトセラピーのアドバイザーと、ハーブティーソムリエとしても活動しています。

小坂:

小山さんとは、野菜つながりですか?

佐藤:

当社のアロマ部門でハーブティーをつくっていて、「いいものいっぱいマルシェ」でご一緒させていただいています。



小坂:

ハーブティーは、どんなハーブティーなんですか?

佐藤:

関連グループの医療法人に在籍するドクターと薬剤師監修のメディカルハーブティーです。

西林:

そのハーブティーをマルシェで販売されている中で、お知り合いに?

佐藤:

きっかけはラジオ番組の取材だったんです。そこで、八百屋さんがマルシェを主催しているとお聞きして、興味を持って。小山さんにはいろいろご相談に乗っていただいて、出店させていただくことになったんです。

小山:

僕らでいうところの「ニッチな野菜をどうやって売っていくのか」という部分が、(メディカルハーブティーもニッチな商品なので)重なると思ったんです。商品の良さをどうやって伝えて、どんなふうに引き込んでいくのかが大事なので、この点で一緒にやってみたいと思いました。

実際、サイトでメディカルハーブティーのことを知って、マルシェにお越しいただいた方がコンビニのバイヤーで、コンビニにもおいてもらえる、みたいな話にもつながってますもんね。

佐藤:

なりましたね。

小坂:

つながってますねー。

佐藤:

オンラインとオフラインのどちらでやるのか、両方やるのか、みたいなところは、みなさん悩まれていると思うのですが、そこのバランスがちょうど良かったのが、つま正さんが主催されているマルシェなんですよね。「つま正DX」って言ってるんですけど(笑)

小坂:

すごいじゃないですか!

小山:

僕も初めて聞いたんですが(笑)

佐藤:

小山さんのを真似して、MAI(会社の頭文字)DXを展開していきたいなと思ってます。



「ドライブスルーde野菜」をきっかけに、社内のDX化も進行中!

西林:

話が最初に戻ってしまうのですが、「ドライブスルーde野菜」のような斬新な発想をどうやって思いついたのか、という点が知りたいなと思いまして。

小山:

コロナ禍で飲食店とのお取引が減る中で、2020年の4月から5月、ちょうど緊急事態宣言が出た頃に、スーパーで野菜が売れまくっていて陳列棚に品物がひとつもない、みたいな状態をテレビで見たんです。

今は飲食店での野菜の需要はないけれど、一般家庭では需要がある。ならば、売る術はあるだろうと考え抜いてたどり着いたのが、ドライブスルーという形だったんです。

そこから横に広げていけたのはWebがあったからで、小坂さんのお力がとても大きいです。3年前に奇跡的に小坂さんと出会っていなかったら、今の形にはなっていなかったかもしれません。

小坂:

そういえば、お会いした当時は、まったくIT化されてなかったですよね。「ドライブスルーde野菜」をはじめたことで、社内では何か変わりましたか?

小山:

変わりました。ITに対して寛容になって(受け入れる姿勢がでてきて)、ハードルが下がった気がします。


(ドライブスルーde野菜の注文画面)


小坂:

クレジット決済を取り入れるのがむずかしい、みたいなことを(当時は)おっしゃっていましたが、今ではシステムを使った決済もしてますもんね。

小山:

ほんとうに、おかげさまで。僕自身も、社内でITに携わる人が少しずつでも増えていけば、次のステップにいきやすくなるんだ、と実感できました。

小坂:

八百屋さんって、現金のイメージが強いですもんね。でも、そういう中でもIT化を進めていくというのは、まさに「攻めのDX」ですね。また、300人の社員の意識が変化してきているのもDX化の大きな成果なんじゃないかと思います。

小山:

DX化を進めていく上でのデメリットは、クレジット決済の手数料くらい(笑)。メリットは、まだ未知数なものも含めて、無限大ですね。

BtoBからBtoCへ、新しいマーケットにチャレンジしたことで、今まで出会わなかった人たちに出会えるようになって。次は、リアル店舗とオンラインの両方を使って、飛躍的に広げていきたいと思っています。



夢は世界展開!? DX化のチャレンジはまだまだ続く

小坂:

内緒のこともあるかもしれないのですが、これからやってみたいことや、計画されていることはあるのですか?

小山:

すでに始めているのですが、野菜ソムリエの免許をとりました。今まではレストランやホテルなどプロを相手にしていたので、黒子でいなきゃいけないと考えていたんです。

しかし、一般の方に対しては、それではいけないと思ったんです。産地に行って、生産者のみなさんと向き合って、産地の情報や生産者の声をしっかりとお届けする。そのために、まずは自分を磨くという意味も含めて資格を取りました。あとはいろいろありますが、将来的には世界で展開できるような環境、仕組みをつくりたいですね。

小坂:

佐藤さんは「いいものいっぱいマルシェ」で上手くいっていますが、次も考えてますか?

佐藤:

考えてます! つま正さんが、その場にあった適切な方法で野菜への愛を伝えているのを見て、伝え方を考えるようにしています。

小坂:

佐藤さんのおっしゃるとおり、小山さんからは、野菜に対する愛情に加えて、生産者の方々に対するリスペクトが感じられるんですよね。また、さきほどのDX推進だけでなく、お父様(つま正の社長)も含めて、地元である横浜への活動にも真摯に取り組まれていて、私個人としても尊敬しています。

こういった活動が全国に広がっていくことを期待しているのですが、実は、北海道大学と提携しようという動きがありまして。北海道の野菜といえば、じゃがいもが有名ですが、小山さんのいう「ニッチな野菜」もたくさんつくっているんです。そこで「ドライブスルーde野菜」の話をしたところ、とても興味を持っていただいて。ここから全国に展開していくことも夢じゃないな、と感じています。

というわけで、本日は、小山さん、佐藤さん、ありがとうございました!

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