Apple Vision Proで拡張するスポーツの未来——Graffity × TAFDATAが描く、「次世代トレーニング」の新標準
スポーツのトレーニングは新時代へ。
競技レベルを問わず、選手一人ひとりにとって「画一的な教え方」では届かない領域が広がりを続けています。だからこそ、感覚とデータの両方に向き合う、トレーニング体験が求められています。XRとAI技術を活用し、スポーツや教育領域のUXを再構築する挑戦が始まっています。今回の対談では、Graffityと株式会社TAFDATAが進める共同開発プロジェクトの裏側に迫りました。Apple Vision Proを活用した実証実験、UI/UXのこだわり、そして「個別最適な未来型トレーニング体験」をどう実現していくのか。現場視点と開発者視点が交差する中で見えてきたのは、“先駆者”としての責任と可能性。テクノロジーが支える「身体と向き合う」新しい学びのかたちを、ぜひご覧ください。
▪️インタビューイー
株式会社TAFDATA
代表取締役 山田 将大さん
Graffity株式会社
PM 金井 一馬
エンジニア 濱田 脩人
デザイナー 小野瀬 萌
スポーツのトレーニングは新時代へ。
◾️プロダクト概要
本プロダクトはプロテニス選手のフォームをボリュメトリックビデオとして再生し、Apple Vision Pro上で目の前に3D表示することができます。ユーザーは身体を動かしながら、さまざまな角度からフォームを観察・トレースすることで、従来の2D映像では得られない身体感覚に基づいた理解を深めることが可能です。さらに、ボリュメトリック映像は再生スピードや表示位置を直感的に操作でき、Apple Vision Proの空間コンピューティング技術を活用することで、「目の前でプロのフォームを体感する」というこれまでにないスポーツ学習体験を実現します。
TAFDATAが描く、スポーツテックの進化と今後の展望
——まずは御社の事業内容をお聞かせください
山田さん:弊社は、アスリートの動きを映像から解析し、個々に最適なフィードバックを提供するスポーツテックサービスを開発・提供しています。
具体的には、撮影された映像をもとにプレイヤーの動きをAIが分析し、その選手に合った改善アドバイスを自動で提示する、という仕組みです。
——今回、御社と弊社でコラボ開発を進めるにあたっての経緯を伺えますか?
山田さん:もともと森本さん(Graffity代表)と知り合いから始まったつながりで、試験的に話を進めてみたのがきっかけです。実際に会話を重ねる中で、方向性も噛み合い、自然な形でプロジェクトがスタートしました。
ニュースなどでApple Vision Proの新技術の存在自体は知っていましたが、「実際の使い心地がどうか」というのはわかっていなかったので、期待もありました。
——実際に完成したコンテンツの使用感はどうでしたか?
山田さん:使用感としては、「わかりやすい、楽しく使える」という感想が多かったです。特にデバイスの設計に関して、ボリュメトリックビデオならではの「臨場感」や「自然さ」が大きく影響していて、ユーザーによって反応が異なることもわかってきました。
例えば、技術的な詳細よりも「見た目の変化」に興味を持つ方もいれば、「もっとリアルに、正確に見たい」というニーズもあります。ユーザー層によって、見たい・感じたい体験の軸が違うのです。
——弊社とご一緒して印象的だった点などあれば教えてください。
山田さん:一番大きかったのは、こちらが「こうしたい」と思っていたことに対して、Graffityさんがきちんと意図を汲み取りながらも、UXや体験設計の視点でプラスアルファを提案してくれたことです。「ただ開発する」ではなく、「どうすればユーザーが迷わず気持ちよく使えるか」に重きを置いてくれたことで、体験としての質がグッと上がった実感がありました。 実際に、技術面の制約を踏まえての落とし所も提案してくれたので、スピード感と柔軟性のバランスが素晴らしかったです。
——今後の展望とサービスアップデートを伺えますと
山田さん:我々は「完全オーダーメイド型トレーニング体験」を目指しています。従来はビッグデータで「多数の傾向」を抽出して最適解を導く手法が主流でしたが、今後は「個別の傾向」にフォーカスしていく方向です。
たとえば、その人がどういう言い回しに反応しやすいか、どんなコーチングスタイルに拒否反応を持つのか。そうした個別特性に応じたフィードバック設計が、次のステージだと考えています。さらに将来的には、「過去の自分のベストフォーム」と「現在の自分のフォーム」を比較できるような仕組みも構想中です。
Graffityの開発視点——Apple Vision Pro開発の挑戦と裏側
——UI/UXでこだわっているポイントは?
Graffity小野瀬:今回の開発において、UIやUXの設計でもっとも大切にしたのは「迷わず操作できること」でした。本プロダクトは、まだ検証段階ということもあり、複雑な機能はあえて避け、シンプルで直感的に操作できる設計を意識しました。UI上で「何をすればいいのか」がすぐわかる、というのはすべてのユーザーにとってストレスのない体験です。特にVR・ARは、ほんの少しの違和感や手間が没入感を損なってしまうため、「一目で理解できる構造」を重視しました。また、普段使用していないユーザーさんでも、ボタンや操作のミスが起きにくいデザイン、誤動作しない構造にも配慮しています。
——AppleVision Proでの開発は、最先端ならではの苦労もあったのでは?
Graffity濱田:かなりありましたね。とくに映像の再生処理の部分で、ボリュメトリックビデオのデータの重さをどうApple Vision Proに向けて改善していくかの難易度が高く、理想どおりに動かすには工夫が必要でした。システム内部ではかなりの負荷がかかっていて、特に人間のような滑らかな動きや形状を再現には試行錯誤が続きました。また、「没入感」や「自然さ」が損なわれると、体験の質に直結にします。今後は、より映像のクオリティを保ったまま軽量化し、複数のデータを同時に再生できる使用にするなどアップデートを続けて行きたいです。
——今回、PMとしてどういった部分を意識して進行されていましたか?
Graffity金井:TAFDATAさんの中にある技術的な強みや解決したい課題と、Graffityがこれまで培ってきたUX・空間設計の知見を、どううまく掛け合わせるかは常に意識していました。特にApple Vision Proという新しいデバイスだからこそ、単なる再現ではなく「実際にやってみたくなる体験」をどう作れるかが肝でした。
仕様調整では「それって、ユーザーにとってどう感じるか?」という視点を持って議論をファシリテートするよう心がけましたね。開発だけでなく、対外発信に向けた言語化なども含めて、プロジェクト全体がユーザーに届く形になるよう意識していました。
——今後は、どういった方向に展開していきたいとお考えですか?
山田さん:まず、AIを活用した「個人最適化トレーニング」の精度をさらに高めたいと考えています。
現在は、ひとつの3Dモデルに沿って全ユーザーを導く形が主ですが、今後はその人の癖や過去のフォーム、さらには「自分が一番調子が良かったときの映像」をベースに、自分自身をコーチとするような設計ができたらと構想しています。
Graffity金井:TAFDATA様との共創を通して得た学びと可能性を、今後さらに多くのプロダクトに活かしていきたいと思います。
「スポーツ × テクノロジー × 個別最適化」という掛け合わせが、今まさに現実になろうとしています。誰でも手軽に「自分だけのコーチング体験」を手にできる——その第一歩として、今回のコラボ開発は大きな意味がありました。スポーツに携わるすべての人にとって、より自由で、自分らしい成長の道を描ける時代がすぐそこにあります。これからの展開にもぜひご注目ください。