こんにちは。広報の見原です。今回の記事は、フォルシアが大切にしている「脱・人月」という考え方についてのお話です。
人月って何?
「人月」という言葉。建築系・IT系のお仕事に関わられていればご存じの方も多いかと思いますが、それ以外の業界や職種に就かれている方、学生の方には馴染みの薄い言葉だと思います。
人月とは、業務の工数を測る際に使う作業量(工数)を表す単位です。たとえば、5人で6ヵ月かかる仕事であれば、「5×6=30」で「30人月」ということになります。また、「Aさんは一か月あたり100万円」というように労働者の商売単価を時間で測ったものが人月単価となり、人月とかけて費用を見積もったり、請求したりします。古くから、土木・建築業界で利用される一方、比較的新しいとされるIT業界でも多く活用されている尺度です。
フォルシアの価値は人月では測れない?
IT業界に身を置いているフォルシアも例外ではなく、お客様のWebサイトの開発を行う際の費用算定に人月を使うことが多々あります。
しかし、フォルシアの開発スタイルは完全な受託ではありません。汎用的な技術基盤があり、それを活用してお客様からの要望に適った開発を行います。そのため、「Aさんが一人で3か月かけて開発したから300万円」というような単純計算がしづらいのです。
創業者の一人であるCOOの屋代(以下、COO)は自身もエンジニアであったことから、この人月の考え方はフォルシアのビジネスにはマッチしにくいと考えました。開発スタイルの問題だけではありません。
人月ではエンジニアが生み出したものに対する適正な価値がわかりにくいため、エンジニアに自身の価値を認めながら生き生きと働いてほしいと願うCOOにとってはもどかしさを感じる指標でした。
「フォルシアのエンジニアが提供する価値を正確に測れるようにするにはどうしたら良いのか」。創業時からずっと「脱・人月」の思いと向き合い続けているCOOに話を聞きました。
COO屋代哲郎インタビュー
「脱・人月」の構想は前職外資系金融時代の経験が元
ー 日本のIT業界では長年費用算定に人月を使うことが一般的とされており、フォルシアでも使用しています。COOが「脱・人月」の考えをもつきっかけとなった出来事を教えてください。
21年前にフォルシアを起業してIT系の仕事を始めて、ITの世界では「人月」という尺度が一般的に使われているということを知り、驚くと同時に違和感を覚えました。前職での評価軸とはまったく異なっていたからです。外資系金融時代は成果主義が考え方の中心で、問われるのはあくまでも「成果」としての「稼いだ収益」。「時間」が尺度になることはありませんでした。なぜかというと、「成果」を「収益」として定量化しやすい指標として測ることができたから。なので、成果をあげている=たくさん稼いでいる社員は、極端な話、始業時間にオフィスにいなくとも、はたまた終業時間前にオフィスからいなくなっていようとも、それを咎める様な考え方はありませんでした。
ー 「成果」が評価される世界にいたら、「時間」が尺度になるのは「違う」と感じると思います。特に違和感を覚えたポイントはどこですか?
お客様から「何日でいくらですか?」と初めて人月での見積もりを求められたときには戸惑いました。本来的に問われるべきなのは、「かけた時間」ではなく、「製作したソフトウェアの品質」ではないのかと考えていたからです。ソフトウェアのような「無形商材」を作る場合において、「かけた時間」というのはどのような意味をもつのか。「〇時間作業しました」と言っても、それがどれくらいの成果につながったのかの尺度として正しいのかは疑問が残ります。
ー COOの前職である金融もITも成果物が「無形商材」という点は同じですね。一方で、ITの世界で製作したソフトウェアやプログラムの出来を見て、客観的に品質の価値を測ることも難しいように感じます。開発する側はどのような点を意識すべきでしょうか?
納品時にお客様の要求仕様を同じように満たしたプログラムでも、保守性・耐障害性・拡張性などの観点での大きな差異が発生することがあります。ただそれは、表面的にはわからないことが多いのも事実です。特に、ソフトウェアの世界においては「将来起こりうることをあらかじめ予見したコードを書くことができる」かどうかが非常に重要です。たとえば今は一見無駄だと思われるようなコードでも、それが将来役に立つときが来ることを予見して書かれたのであれば非常に価値は高い。そういった価値の創出が積み重なってお客様との信頼関係は構築されていきます。
エンジニアにおける「属人性」は必ずしも悪ではない
ー 「無形商材」だからこそ、表面的にはわからない価値を生み出すことは他社との差別化につながりますね。ただ、そういった価値を創出できるかどうかは、個々のエンジニアの経験や力量による部分が大きいかと思いますが、開発の上で属人性が発生することは問題ないのでしょうか?
教科書的には「属人性」は排除されるべきであるということが言われますが、それはあくまでも「顧客」もしくは「経営者」「管理者」の立場から言えること。長く第一線のエンジニアとして仕事をしてきた身からすると、「やりがい」は「属人性」から派生することが多いということも感じています。上述したような「将来的な拡張性のことまで考えて一見無駄だと思われるコードをあえて書く」行為、あるいは「このコードは自分にしか書けない」と思える瞬間は、エンジニアにとって一番面白く、快感や達成感があるものなのです。
私自身のエンジニアとしてのキャリアにおいても、「自分にしかできない」コードを書くことこそが仕事の原動力となり、エネルギーとなってきたと言うことが出来ます。一方で属人的なコードを書いてしまうと、将来的な保守性や拡張性の制約となってしまうことも事実です。単純な二元論に陥ることなく、バランスを取ることがソフトウエアの世界でビジネスを進めるうえで大切なことだと考えています。
ー エンジニアのやりがいを感じる瞬間は必ずしも第三者からの評価と直結しているわけではないのですね。現時点では、IT業界における最も優れた指標は人月なのでしょうか?
顧客や株主等、いわば「社外の第三者」に対して、その「成果の客観的な尺度」を示す必要があるという意味では、人月を使うことには妥当性があります。あるいは、現時点において人月以上に「一般的に公正妥当と認められる」尺度は存在していないと言っても過言ではありません。世の中のビジネスの仕組みは人月でまわっているので、やむなくそれをせざるをえないことは現実問題としてあります。しかし、それは必ずしも「最善」というわけではありません。私はフォルシアのポリシーとして「脱・人月」を持っていますし、それを堅持していく姿勢こそが大事だと思っています。
「脱・人月」の考えは社内評価にも
ー COOが考える「脱・人月」の思いは社員に十分浸透していると思いますか?
折に触れて、伝えてはいます。さりとて、社員もそれぞれ様々な思いをもって、仕事をして社会生活を営んでいるはずですので、私の考えを一律で強制するつもりはありません。ただ、社員の重要な評価指標として用いている「3Cレビュー(以下、3C)」の考え方は「脱・人月」の思いを具現化したものであると考えています(参考:フォルシア評価制度)。
ー フォルシア独自の評価制度3Cでは、一般的な360度評価では補いきれない、全社員(全方向)からの評価を総合的に判断して最終的な評価を行います。定量的な面だけでなく、定性的な面も見ることができるという点は、COOの理想の評価指標と言えるのでしょうか?
そうですね。「客観性」や「妥当性」は大切ではあるものの、定量的な指標に過度に依存してしまうと、本来は成果を公正に測る為の指標であるべきなのに、「その指標を効率良く改善する為にどうするか」という本末転倒な方法論に陥ってしまう危険性があります。実際、3Cを導入したときに、定量的な指標を入れた方が良いという意見があり、試してみたことがあります。
しかし、エンジニアの定量的な指標としてはコミットの数とか書いたプログラムの行数くらいしか思いつきませんでした。ならば、売上金額であれば成り立つのでは?と思いますが、そうでもない。たとえば、たまたま売上金額としてはそこまで大きくない案件にアサインされたけれども、本人はすごい仕事をしていたり、その逆のことが起こったりして・・・。結局納得のいく結果は出ませんでしたね。長時間働けば良いわけでも、たくさん売り上げをあげれば良いわけでもなく、では何をしたら評価されるのか、という点を追求していくことが目的に近いところにあります。その点で、3Cは「定性指標」と「定量指標」を適度にバランスさせることによって上手く成り立っていると言えます。
(上記イメージ)フォルシア独自の評価制度3C
「〇〇が言うならそうだよね」と相手を納得させるビジネスセンス
ー 定量的な指標はわかりやすいと思うのですが、定性的な指標という点で言うと、評価される側はどのように価値を創出したら良いですか?
これは社内の評価制度である3Cにおいても、対外的なビジネスにおいても同様だと思うのですが、「フォルシア(or 社員名)が言うならたしかにそうだよね」と顧客や相手が納得してくれる状態が理想です。
会社自体や本人自身に説得力が付帯する魅力がないと、「なぜこの値段なの?」と聞かれたときに「これ作るの大変だったんですよ」という説明になってしまい、結局人月で価値を測るしかありません。3Cの考え方であれば、普段のその人の働きや振る舞いを相対的に見ることができるので、「〇〇が言うならそうだよね」が通用しやすい。3Cがワークしているのは、社内評価というドメスティックな環境での方法だからであって、「対外的な尺度」として取り扱う事には無理があります。対外的にも、理由を言わずとも「フォルシアが言っているのであればこれだけの価値がある」と納得してもらえるような状態を目指すために試行錯誤していきたいですね。
ー お客様にとっては成果がすべてですからね。お客様に「フォルシアが言うならそうだよね」と思ってもらえるために、具体的に私たちが今できることは何ですか?
「ビジネスセンスを磨く」の一言に尽きます。お客様が何に価値を感じるかを提供する側が知っているということが非常に大事です。お客様に言われたことを「はい、仰るとおりです」と言いながら作るのでは大きな価値を生み出すことはできません。ビジネスセンスがある人は「これを作ったらきっとお客様のビジネスに役立つし、喜んでくれる」という肝をわかっている。それを実際にお客様へ提供したときに喜んでもらえることが嬉しいし、仕事をしていて楽しい瞬間でもあります。
関係者みんなが幸せな状態を実現するために
ー お客様が何に価値を感じるのかを理屈ではなく感覚でわかるようになるということですね。ビジネスセンスが研ぎ澄まされた社員が増えていったら最強な会社になりそうです!COOは、今後フォルシアをどのような会社にしていきたいですか?
どのような会社にしたいかという具体的な姿はまだ見えていません。ただ、働いている人たちみんなが楽しく仕事をして、お客様や株主も喜んで・・・という形を実現するためにどうするかというのを考えるべきだとは常々思っています。そのバランスが崩れてしまうことは良くありません。バランスを保つ手段として人月という評価指標やそうでない指標を活用して試行錯誤しているところなのです。ここには簡単な解決策はない、という前提で関係者みんなで模索し続けていくことが大切なことだと思っています。
(上記写真)全社会議の様子
以上、20年以上「脱・人月」と向き合い続けてきたCOO屋代の思いをご紹介しました。
ここからは、COOの「脱・人月」の考えをもとに現場で働くエンジニア社員Kさんに話を聞きます。Kさんは前職の大手SIerで「THE 人月ビジネス」を経験してきました。エンジニアの立場から見て、働く上での違いはあるのでしょうか?
フォルシア エンジニア社員Kさんの声
市場から求められるようなサービスを自分の裁量で作り出せる
ー 前職では人月ビジネスを経験されましたか?
前の会社は大手SIerで、請負契約の仕事、準委任契約の仕事どちらもありました。人月型というのかはわかりませんが、どちらの場合も人月が見積もりの際の大きな根拠となっていたことは確かです。 私はずっと準委任契約のプロジェクトに属していたので、一人当たり1か月〇〇円での労働力提供というような人月ビジネスそのものを経験しました。
ー 仕事のやりがいはどのような部分で感じられていましたか?
お客様が実現したい機能がたくさんあり、それらに対してスピード感をもって開発を進めていくことを常に意識していました。その結果、お客様に喜んでいただけたので、充実感がありました。また、数十人規模でチームを組んでいて売上額も大きかったので、部の稼ぎ頭チームとしてのやりがいもありました。
ー フォルシアは「脱・人月」をポリシーとしていることを知った上で入社されたのでしょうか?
入社前には大きく意識していませんでした。ただ、前職の仕事では作成するシステムはソースコード含め納品して顧客の所有物ということになるのが一般的でしたが、フォルシアの技術基盤であるSpookはソースコード自体はあくまでフォルシアが資産として所有していて、その利用料としてライセンス料をいただくというビジネスモデルなので、その点に魅力は感じました。そういったビジネスモデルの紹介から、フォルシアが「エンジニアの時間を売る」のではなく、成果物のバリューで勝負できていることは潜在的に感じていたように思います。
ー フォルシアでの「脱・人月」の考え方において、良いと感じる点や難しく感じる点はどこですか?
人月はサービスや製品の価格の根拠として、見積もりを提示されるお客さんとしても納得しやすい便利なツールではあると思っています。「脱・人月」となるとそれは根拠として提示できないため、説得力のある魅力的な製品・サービスを作り続ける必要があり、その部分は難しいと思います。
一方、 市場から求められるような素晴らしいサービスを自分の裁量で作り出せる舞台であるともいえるので、エンジニアとしての達成感ややりがいは十分にある環境だと日々実感しています。
さいごに
今回は、フォルシアで「脱・人月」の思いと向き合い続けるCOOと、その思いを受けてビジネスを推進しているエンジニア社員Kさんの声を紹介しました。
人月は長年ITの世界で使われている指標なので理にかなっていると言えます。すなわち、現在のIT業界においては、人月でないと開発したサービスの価値を測るのは難しい。
それでもフォルシアは、エンジニアに自身の価値を見出してより仕事のやりがいを実感してもらうために、そしてそれをより良いサービス・プロダクトを創り出す活力とするために、何をどうしたら良いのかを追求し、挑戦し続けます。
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この記事を書いた人
見原 麻里子
経営企画室・広報担当。第二子の育休復帰から4か月が経過。
今朝外を歩いていたら金木犀の香りがほのかに漂った気がしました。