―私が転職を決めた理由<第3弾>―
今回はFinatextグループの技術部長である今井さんを紹介します。
職人気質で頭がめちゃくちゃ切れるという印象を持つ傍ら、面白いことを言った後輩に鋭くツッコミを入れて笑いをとるようなおちゃめさもある、皆から愛される今井さん。
総務省で国家統計を作っていた今井さんが、なぜ創業間もないベンチャー企業に転職を決めたのか?その理由を紐解いていきます。
システム開発からフィールドワーカーのマネジメントまで国家統計に関することは何でもやった
大学時代は筑波大学理学部数学科で数学を学ぶ傍ら、警視庁心理捜査官を目指して犯罪心理をひたすら勉強していました。動機はシンプルに格好良いから。
昔から自分が格好良いと思ったことにはこだわりたいタイプでした。
当時の心理捜査官の採用枠は年に1人。採用試験には残念ながら落ちてしまい、自分のキャリアをどうしようかと迷った結果、大学で学んだ数学の活かせるだろと総務省統計局をファーストキャリアとして選びました。
総務省統計局では、人口統計を計算するプログラムの開発に6年携わりました。主にチームの中で補完手法の確立から、統計の計算アルゴリズムの実装までを担当していました。
その後、人口統計の担当チームから物価指数の担当チームへと異動しました。
ここでの経験がNowcastに入社することに繋がってきます。
物価指数は全国約1200人の一般の方にフィールドワーク(スーパーなどでの物価の調査)をしてもらい、それを元に計算されるんです。今考えればかなりアナログですよね。笑
物価指数の部署ではその業務オペレーションの全体統括と、データ入力システムのリプレースを任されました。
全国の一般人(近所のおばちゃんを想像してみてください)をモチベーティングし、手戻りの許されない指示を出す傍ら、SIerと協力し約1200台のタブレットを管理するシステムの構築を1人で行いました。
その頃からなぜか省内で「今井はシステムがわかるやつ」と認識され始め、数億円するオンプレサーバーを業者から購入してきて、システムが動くようにチューニングするという仕事もなぜかやっていました。笑
システムのリプレースが落ち着き始めた頃、日本のODAプロジェクト担当として、カンボジアに派遣され、人口統計を作ってこいと上司から言われました。
派遣できる人数は限られていたため、現場のオペレーションマネジメントから、統計の計算システム構築まで一気通貫して行えるスキルが評価されたようでした。
異国の発展途上国でゼロから国家統計を作ることは本当に大変でしたが、なんとかやり切り人生で最も達成感を感じたプロジェクトの一つになりました。
総務省時代を駆け足で振り返るとこんな感じです。
その他のところで言うと、趣味でDBの参考書を出版したり、マイクロソフトのデバッグコンテストで表彰されたりもしました。
創業者 渡辺努と出会い研究の道へ
カンボジアのプロジェクトが終わり帰国して間もなく、当時POSデータを用いた日次物価指数の研究を始めたばかりだった東京大学の渡辺努教授と出会いました。後のNowcast創業者です。
初めは、渡辺先生からの物価指数の質問に対しての担当者という形で出会ったのですが、話しているうちにすっかり意気投合しました。
ちょうどEUでPOSデータを用いた日次物価指数の研究がちらほら出始めた時期で、彼らより早く日本でそれを実現してやろうと共同研究を始めました。
作っていた本人が言うのもあれですが、当時、既存の物価指数の作り方には課題意識を持っていました。
全てのデータ収集を人力に頼りすぎていたんですよね。レジのデータには膨大な商品の価格情報が眠っているのに、それらは全く活用されていなかった。
基本となる物価指数の計算はPOSデータベースで迅速かつ正確に行い、ラストワンマイルの人の判断が必要なところに調査員は集中する。そんなオペレーションを確立したいという思いが私の原動力でした。
当時、物価指数に関する研究領域では日本のプレゼンスは極めて低い状況。
しかし、4年間かけて数本論文を出していくうちに、少しずつ海外の研究者から「日本も頑張ってるじゃん」と思ってもらえるようになりました。
物価指数の研究では約60カ国の統計の専門家が集まる2年に1回の重要な会議があるんですが、私達の研究成果が実り、初めてその会議を日本に誘致することに成功しました。
会議の議長は部長クラスの人間が担当するのが通例となっていました。でもなぜか、当時係長クラスの私が議長に任命されたんですよ。いい経験でしたね。
自分の創ってきた国家統計を外から革新する道を選ぶ
会議を無事終えて少し経って、渡辺先生が起業することを聞きました。
その頃私は物価指数の研究を進めるうちに、総務省の中からではなく、外から全く新しい統計を作るアプローチに希望を見出すようになっていました。
研究者へキャリアチェンジすることも考えましたが、やはり自分には「ものづくり」が性にあっていると思い、創業したてのNowcastに1人目のエンジニアとして参画することを決意しました。
余談ですが、私は感覚的に仕事で大きな成果が出るのは10年に1回くらいだと考えています。
今振り返ると、統計局の13年間ではカンボジアの国家統計を作ったり、国際会議の議長を務めたりとある程度の成果は残せたので、次の10年は新天地で挑戦したいという思いもあったんだと思います。
意気揚々と転職した私ですが、テックベンチャーが必ず直面すると言っても良い「死の谷」に苦労することになりました。
死の谷を、身をもって痛感
Nowcastに転職してすぐに、日本初の日次物価指数である東大日次物価指数をビジネスに転換し,「日経CPINow」をリリースすることに成功しました。
リリースした当初は私達の指数が日銀総裁に参照されるなど、順調な滑り出しを見せました。しかし、次第に顧客数の伸びは次第に弱まり、当初想定していた売上目標をなかなか達成できませんでした。
日本人って基本的に情報をタダだと思う傾向があるんですよね。欧米だとこういった指標にお金を払って活用するという考え方は割と馴染んでいるんですが、日本市場の特徴を甘く見積もっていたことが原因でした。
そうなると新しいプロダクトを作らないといけない。そこで会社の方針についての会議があーだこーだと毎日行われるわけですが、そうなるとプロダクトの開発方針も月単位で変わるんですよね。
総務省では、どんなに小さなプロジェクトでも基本的には6ヶ月単位で計画されます。当たり前ではありますがベンチャーのスピード感を保ちながらプロダクトを作ることには大変苦労しました。
加えてリソースが全く足りていなかった。新たなプロダクトの開発だけに集中できれば良いのですが、当時は既存サービスの維持管理も一人で行っていたため、気づけば新プロダクトの開発時間が無くなっている日なんてのはざらにありました。
転職して数カ月はそんな状況の中で、会社を守るために必死で働きました。
多分人生で一番働いたんじゃないでしょうか。もう一度やれと言われれば絶対断ります…笑
創るだけの人間から、創って届ける人間へ
そんな苦しい状況の中で、このまま進んでもジリ貧だと思い、思い切って方針転換をすることにしました。
今まで、営業と開発は全く分離していたのですが、私自身も営業や広報活動に出ることにしたのです。技術的知見を活用することでお客さんにより私達のプロダクトをより深く知ってもらうことが狙いでした。
もちろん、その間は開発が止まりますのでこれは一種の賭けでした。
開発と営業を行いつつ、様々なカンファレンスに登壇しビジネス人脈を築くことに集中し。様々な企業様に全力でNowcastは何ができて、何を目指している会社なのかを愚直に説明し続けました。
すると、徐々にですがいつくかの企業様から一緒に何かできないかと引き合いをいただけるようになりました。その中に一社が現在のビジネスパートナーであるJCB様であり、そこから生まれたのがNowcastの2つ目のプロダクトである「JCB消費NOW」です。
それまで、自分は職人であり、ひたすら良いものを創れば良いのだと考えていました。
その経験から職人だからこそ使う人が何を考え、どんなものを創れば喜ぶのかを理解することが重要なのだと学びましたね。
その後、Nowcastが軌道に乗り始めた頃にFinatextと経営統合の議論を開始し、会社が今のかたちに落ち着きました。
統合後は企業の業績予測サービスやCCC様との提携など、複数プロジェクトをリリースし、今では安定的な黒字化も達成しています。
国際比較可能な世界初の統計を創りたい
現在、Nowcastのデータサイエンティストも所帯が少しずつ増えてきました。
そんな中で、私は徐々にプロダクトを全体管理する立場に回っています。どれだけ理論を使いこなせてもそれだけではお金になりません。収益を生むにはプロダクト化して運用しないといけませんよね。
私は13年間、国家統計というミスの許されないプロダクトを提供し続けていたので、高品質なものを安定的に提供する力には自負があります。
私が土台となり、その上で若くて才能のある若手データサイエンティストが思う存分力を発揮する。Nowcastをそんな会社にしていけたらいいなと思っています。
と言っても、私にもまだまだ夢はあります。
数年の間に、国際比較可能なビッグデータドリブンのマクロ指標を創りたいと思っています。
例えばGDPはよく国際比較されますが、その集計基準って意外と国によってばらばらなんですよね。そんなものを国際比較して、重要な議論を進めていくのは非常にナンセンスだと感じています。
そこで、ビックデータから統計を作れば、原理的には世界中同じ手法・基準・分類で集計を行うことができ、真に国際比較可能な統計を作ることが可能です。
例えば、物価指数が国際比較出来ると為替の分析が飛躍的にやりやすくなったりします。
一流の刀を鍛える刀鍛冶職人をWanted!?
新しく入る人にはこだわりを持ってほしいですね。若手には普段から「職人気質であれ」と言い続けています。
Nowcastの挑戦する市場には、基本的に先例がほとんど存在しない。なおかつ、扱えるデータは一介のベンチャー企業がアクセスできる量を超えています。
そのため、私達のプロジェクトは大変自由度が高いんです。悪く言えば地図が存在しない。
そこで、コンパスとなるのが一人ひとりの「こだわり」です。自分は誰のために、何のために、どんなものを作りたいのか?と問い続けることが重要です。逆にそれがないと道に迷ってしまう。
だからこそ、Nowcastでは一人一人のこだわりを尊重しています。
ちなみに私は、私自身のことを鉄の採掘まで行える刀鍛冶だと思っています。
データサイエンスのプロセスである、「データ収集→クレンジング→分析」という流れは、刀作りにおける「鉄の収集→鉄の精錬→刀の鍛錬」という流れに非常に似ています。
鉄を精錬したり、刀を鍛えるスキルはもちろん重要ですが、最も大切なのは刀を使う人が何を切りたいのかを十分に理解することです。
例えば、料理に使うのか、戦いに使うのか、装飾用に使うのか、用途によって最高の刀の定義は変わりますよね。
使う人の性別、力の強さ、身長、性格なんかもとても重要です。
世の中には思ったよりも、ここを理解せず自分の作りたい刀を作ってしまう人が多くいます。単に切れ味の良い刀を創るだけでは自己満足で、利用者が使いやすい刀を作ることが重要です。
これが私のこだわりですね。
最後に…
今のNowcastは黒字化を達成し、新しいデータソースが増え、海外の顧客とのネットワークも広がり、次の飛躍へと準備をしているフェーズです。とても面白いフェーズだと思います。
こだわりを持って働ける仲間も絶賛募集中です。この記事を見て少しでも興味の湧いた方は是非ご応募いただき、一度お会いしましょう。