「未経験からエンジニアへ」──この言葉が約束してきたキャリアの入口が今、大きく変わり始めている。米国では、AIの影響を受けやすい職種に就く22〜25歳の若手労働者の雇用が、2024年以降約20%減少したという分析も出ている。そんな時代に、あえて「内定者スパルタキャンプ」という名の入社前育成プログラムを外部企業にも開放したエイトビット。グループ代表の茂手木雅樹に、その真意と、これからキャリアを始める人への本音を聞いた。
「未経験歓迎」の裏側で、何が起きているのか
──率直に伺います。いま、未経験からエンジニアを目指すのは無謀ですか。
茂手木:無謀ではありません。ただ、10年前と同じ感覚でいたら、かなり厳しいと思います。まず現実から話しましょう。
AIが、新人がこれまで担ってきた仕事を代替し始めています。定型的なコーディング、テスト、単純な運用作業──これらは長い間、未経験者が「働きながら学ぶ」ための訓練台でもありました。その訓練台の一部が、いまAIに置き換わり始めています。
米国では、AIの影響を受けやすい職種に就く22〜25歳の若手労働者の雇用が、2024年以降約20%減少したという分析があります。一方で、30歳以上の層の雇用は増加している。ビルの一階だけが崩れて、二階から上は残っているような、奇妙な崩れ方です。
さらにSignalFireの分析では、大手テック企業における新卒人材の採用人数は前年比で25%減少し、採用全体に占める新卒比率は約7%まで低下しています。解雇のニュースは大きく報じられますが、私がより注目しているのは、その手前で起きている変化です。
誰かがクビになるという目に見える変化だけではなく、新しく労働市場に入る人のための仕事そのものが減っている。あなたがこれから入ろうとしている扉が、音もなく細くなっているんです。
──日本ではどうですか。
茂手木:時差はありますが、同じ構造変化は始まっていると思います。最初に変化が表れたのは、仕事を細かく切り出して発注するタスク型の市場です。単純なライティングやデータ入力など、生成AIで代替しやすい業務では、人がゼロから作るのではなく、AIが作ったものを人が確認・修正する形に変わってきています。当然、求められる仕事の中身も、そこにつく価格も変わってくる。
私は、こうした市場を労働市場における「炭鉱のカナリア」だと見ています。
そしてIT業界には、もう一つ大きな構造変化があります。IT人材の世界には「人月」という独特の単位があります。スキルレベル、人数、期間などをもとに仕事の価格が決まっていく。長く続いてきたこの商慣習では、「何人が何ヶ月稼働するか」が非常に重要な意味を持ってきました。
ところが、AIが定型作業を吸収し始めると、発注する側の問いも変わります。
「その仕事は、本当に人がやる必要があるのか?」
「人がやるのであれば、その人は何ができるのか?」
つまり、頭数だけではなく、「その人が提供できる価値」が今まで以上に問われるようになる。これが未経験者にとって何を意味するでしょうか。
かつては、未経験でもまず現場に入り、実務を経験しながら少しずつできることを増やしていくキャリアが成立しやすかった。現場そのものが、育成の場として機能していたんです。でも、その最初の仕事の一部をAIが担うようになれば、「現場に入ってからゼロから覚える」ことを前提にしたキャリアの入口は狭くなっていく。
厳しい話ですが、これが2026年に起き始めている変化だと思っています。
──一階が崩れたら、誰も二階に上がれなくなりませんか。
茂手木:その通りです。それがこの問題の本当の怖さです。企業が新人を育てなくなれば、当然、その先の中堅人材も育たなくなる。1社だけを見れば、「即戦力を採用すればいい」という判断は合理的かもしれません。でも、すべての企業が同じ判断をすれば、誰も次の世代を育てなくなる。だから私は、未経験採用そのものをやめるべきだとはまったく思っていません。
むしろ逆です。一階が崩れ始めたのであれば、別の階段を架ければいい。私たちが「内定者スパルタキャンプ」をやっている理由は、ここにあります。現場から少しずつ消え始めている「最初の一段」を、入社前につくり直す。会社に入ってからすべてを学び始めるのではなく、入社前から学習を始めて、現場に立つための準備をしておく。
順番を少し変えるだけです。私たちが今回、外部企業向けに提供するプログラムも、まずはインフラエンジニア領域を中心に設計しています。CCNAの資格学習やネットワークの実務習得など、現場配属から逆算した学習を入社前から積み上げていきます。
「未経験だから現場で育ててもらう」だけではなく、「未経験だからこそ、現場に入る前から準備を始める」。これからは、そういうキャリアの始め方が必要になると思っています。
AIが未経験者に問うのは、「今のスキル」よりも「学び続ける意思」
──では、AI時代、未経験者に最も求められるものは何でしょうか。
茂手木:一つしかありません。学ぶ意思です。誤解しないでほしいのは、「今持っているスキル」だけで人の可能性が決まるわけではないということです。
プログラミングスキル、資格、ツールの知識。もちろん、あるに越したことはありません。ただ、AIの時代は、スキルの賞味期限がどんどん短くなっていく。今日評価されている技術が数年後には当たり前になり、さらにその先ではAIの標準機能になっているかもしれない。
だから、今持っているスキルだけで自分の価値を測り続けることには限界があります。むしろ重要なのは、環境が変わったときに、もう一度学び直せるかどうかです。企業側も、これからはそこを見る必要があると思っています。面接で「何ができますか」と聞くことはもちろん大切です。でも、それと同じくらい、
「知らないことに出会ったとき、学べる人なのか」
「変化したときに、自分をアップデートできる人なのか」
を見る必要がある。ただ、ここに採用の難しさがあります。学ぶ意思は、面接だけでは分からないんです。誰でも「成長したいです」「学ぶ意欲があります」と言えますから。では、どうやって確かめるのか。私は、実際に学んだ事実を見るしかないと思っています。
──先ほどの「人月」の話とつながりますね。
茂手木:つながります。頭数そのものに価値がついた時代、未経験者は「一人月」という単位で数えられました。入口は広かった。ただ、その人が何を学び、どんな可能性を持っているかまでは見られない。良くも悪くも、中身は問われなかったんです。
中身が問われる時代は、その逆です。厳しくなる部分はある。でも、一人ひとりが「頭数」ではなく「個人」として評価される。そこで効いてくるのが、何を学び続けてきたかという記録です。だから私は、この変化を悲観だけでは見ていません。
匿名の一人月としてキャリアを始めるより、自分が積み上げてきたものを持った一人の人間としてキャリアを始める。そのほうが、私は健全だと思っています。
──だから、内定期間を活用するんですね。
茂手木:そうです。内定承諾から入社までの期間を、私たちは社会人になるための「徒弟期間」と捉えています。ただ入社日を待つ期間ではなく、自信の根拠を積み上げる期間にする。講義を受け、毎週伴走する人がいて、資格取得を目指す。学習の進捗も記録として残していく。
外部企業向けのプログラムでは、本人と採用企業がその進捗を共有できる形にしていきます。つまり、入社までの期間を通じて、「学びたい」という言葉を「実際に学んできた」という事実に変える。社会人1日目を、完全なゼロからではなく、1つでも2つでも積み上げた状態で迎える。
私は、この差は大きいと思っています。入社式の日に突然スタートラインが引かれるわけではありません。キャリアは、その前から始められるんです。
「スパルタ」の本当の意味
──「スパルタ」という名前には賛否がありそうです。実際、厳しいのですか。
茂手木:厳しいと思います。ただ、誤解されやすいので先に言っておくと、厳しさの正体は「量」ではありません。逃げずに、自分のキャリアに向き合うことです。
課題を大量に積んで、「あとは自分でやってください」と放置するプログラムなら、それはスパルタではなく、ただの丸投げです。私たちは違います。
毎週、伴走する人がいる。進捗が止まれば、「なぜ止まったのか」を一緒に考える。理解できないのか、時間の使い方なのか、モチベーションなのか、それとも別の理由なのか。私たちはこれまで自社で運用してきた中で、学習が止まりやすいポイントも少しずつ分かってきています。
だから、一人で悩み続ける状態をつくらないことにはかなりこだわっています。厳しいのは、ごまかしが効かないことです。学習したことも、できなかったことも記録として残る。「やると言ったけれど、やらなかった」ということも含めて、自分自身と向き合うことになります。
楽ではありません。でも、そこで積み上げたものは、誰かに言わされた「やる気」ではなく、自分自身が行動した証拠になります。そして入社する企業側も、そのプロセスを知ったうえで本人を迎えることができる。
単に「未経験の新人」としてではなく、「ここまで学んできた人」としてキャリアを始められる。私は、その差は最初の配属や立ち上がり、その先のキャリアの選択肢にもつながっていくと考えています。
「学生生活を犠牲にしてまでやるものではない」
──入社前から学ぶとなると、卒業論文や研究、部活動、アルバイトなど、学生生活との両立が難しい人もいるのではないでしょうか。
茂手木:もちろんいると思います。だから、私たちは「内定者なのだから全員一律でやりなさい」という考え方ではありません。
学生には学生の生活があります。卒業論文や研究がある人もいる。部活動を最後までやり切りたい人もいる。アルバイトをしなければならない人もいる。
そこを無視して学習量だけを求めたら、本来の目的とは違ってしまいます。大切なのは、決められた量をこなすことではなく、自分のキャリアのために学ぶ意思を持って、一歩ずつ前に進むことです。だからこそ、本人の状況を踏まえながら伴走しますし、参加や学習を一方的に強制することはありません。
「スパルタ」と言っていますが、学生生活を犠牲にさせるという意味ではないんです。自分で決めたことに本気で向き合える環境を、会社側も本気で用意する。その意味での「スパルタ」です。
──途中で「自分には向いていない」と感じる人も出るのでは。
茂手木:出ます。ただ、誤解のないよう、順を追って話させてください。
まず、私たちは簡単には手を離しません。進捗が止まったら、止まった理由を一緒に考える。学び方を変える。ペースを整える。私たちができることは全部やる。それが伴走の意味ですから。それでも、学びに正面から向き合う中で、「違う道のほうが自分には合っている」という答えに至る人はいます。
その判断は、最後まで本人のものです。私たちのほうから辞退を促すことは決してありません。そして、考え抜いた末にその答えを出した人を、私たちは敬意を持って送り出してきました。
入社前の気づきであれば、まだ進路を選び直すことができます。入社してから気づくのとでは、本人が背負うものも違います。同時に、その人に私たちの伴走が届き切らなかったのであれば、会社側も振り返らなければいけない。
何が足りなかったのか。カリキュラムなのか、伴走の方法なのか、コミュニケーションなのか。毎期振り返って、変え続けています。ここは終わりのない改善だと思っています。だから、私たちのプログラムは「ふるい」ではありません。
私は「鏡」だと思っています。学習に向き合う時間は、自分自身に「本当にこの仕事をやりたいのか」を問いかける時間でもある。そこで映った答えがどちらであっても、自分で考えた結果なら、次に進むための答えになります。
その答えから見つけてほしいのは、「自分にもできる」という感覚です。ゼロから始めて、学習を積み重ねて、資格取得にも挑戦して、学んだ記録を持って入社式に立つ。
これをすべて一人でやれとは言いません。そこまで行けるように、私たちが隣で伴走します。
「選ばれる側」から「証明する側」へ
──最後に、これからキャリアを始める読者へメッセージをお願いします。
茂手木:伝えたいことは2つあります。
1つ目。
未経験であることを、恥じる必要はまったくありません。私たちは、まだ可能性を十分に活かせていない人をお預かりして、学ぶ機会や働く機会をつくり、社会から必要とされる場所で活躍できるところまで伴走する。それが私たちの事業です。未経験は欠陥ではありません。単なる出発点です。AIがどれだけ進化しても、「これから学ぶ人」の可能性そのものがなくなるわけではありません。
ただし、2つ目。
キャリアの主導権の握り方が変わってきていることを、知っておいてほしいです。かつて就職活動は、「選ばれる」ことの比重が非常に大きいゲームでした。学歴や面接での受け答え、企業との相性を見られて、企業に選んでもらう。もちろん、これからも選考はあります。でも、AI時代のキャリアでは、それだけでは足りなくなる。
私は、「選ばれる力」と同じくらい「証明する力」が重要になると思っています。自分は何を学んできたのか。知らないことに出会ったとき、どう向き合ったのか。
途中でつまずいたとき、どう立て直したのか。それを言葉だけではなく、行動の記録として持っている人は強い。学び続ける意思は、AIに代わりに持ってもらうことはできません。AIに教えてもらうことはできる。AIにコードを書いてもらうこともできる。でも、「もっと知りたい」「できるようになりたい」「昨日できなかったことを、今日はできるようにしたい」と思って動くのは、自分自身です。
だから私は、これからの時代を悲観していません。むしろ、努力の中身が以前より見えやすくなる時代になる可能性があると思っています。頭数として数えられる時代は、学歴や最初の配属、環境によってキャリアの選択肢が大きく左右される側面がありました。
中身を見られる時代になれば、「何を学び、何を積み上げてきたのか」という事実によって、市場での評価やキャリアの選択肢を変えていける。未経験からでも、逆転できる余地はある。ただ、待っているだけでは難しい。入社式の日に、そこからゼロで始めるのか。それとも、学んできた証明を持って始めるのか。キャリアは、会社に入った日に始まるものではありません。その分かれ道は、いまこの瞬間から始まっています。
エイトビット株式会社は、内定者向け入社前育成プログラム「内定者スパルタキャンプ」を2026年10月より外部企業にも提供開始します。まずはインフラエンジニア領域を中心に、CCNA資格学習やネットワーク実務習得など、現場配属から逆算した育成プログラムを展開します。共に「はたらくの未来」を作る仲間も募集しています。
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