こんにちは。トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の小林です。スタートアップの人事責任者をしています。過去3年間で1,000人以上の履歴書を見て、500人以上の方々と面接をしてきました。
日々、採用活動をしていると、もったいない履歴書の方々にたくさん出会います。その多くは、ピカピカの経歴や優秀なスキルを持ちながら、よくわからないまま、スタートアップ企業へ転職してしまい、うまく適応できず、逃げ出すように転職してしまう、というパターンです。
その主因は、以下の理由により、転職者と採用企業の間に、かなりの情報の非対称性があることだと感じています。
◆転職者:企業の情報量が少ない(特にスタートアップの場合、良い情報しか世の中に出回っていない)
スタートアップに憧れているため、一時的な想いが先行してしまう
過去にスタートアップ企業への転職経験がないため、判断基準がわからない
◆採用企業:優秀な人材を採用したいがあまり、ネガティブな情報をほとんど出さず、
実態以上に、大きく、良く会社を見せてしまう
採用を急ぐあまり、転職者と企業とのカルチャーフィットまで考慮する余裕がなく
転職者のスキル以外の情報を見ていない
今回は、スタートアップ企業への転職の失敗を防ぐために、一部ではエンジニアの視点も交えながら、押さえたいポイントをまとめました。
前篇「スタートアップに行ってOK?その実態を知る」、
後篇「その転職先でOK?決断する3つの軸」です。
前篇:スタートアップに行ってOK?その実態を知る
≪目次≫
① 正しく理解しよう!スタートアップへの転職のメリット・デメリット
② 自分の軸に合った企業選びを
③ 年収ダウン!?その時は?
④ ストック オプションで一攫千金?
①正しく理解しよう!スタートアップへの転職のメリット・デメリット
一般的にスタートアップに転職するメリット・デメリットは、以下のようなことが挙げられます。
(そんなことわかっているよ…という方はサラッと流して読んで下さい。)
加えて、エンジニアの場合は下記のようなメリットもあります。
・任される範囲が広い = フルスタックエンジニアになる
・事業や数字(KPI)に直に触れる = 経営の視点から物事を見れる
・技術力があると優秀な起業家と組める(起業家が非エンジニアの場合、いきなりCTOなんてことも)
②自分の軸に合った企業選びを!
これは、スタートアップ企業への転職に限った話ではないと思いますが、何を求めて転職するのか。自分の軸や優先順位をハッキリさせておく必要があります。
転職先に求めるものは、働きがいや年収、 ポジション、 キャリアアップなど、人によって様々だと思いますが、基本的に、すべての項目を満たす企業はないと考えておいた方が良いと思います。
そのため、まずは優先順位を決めることが重要で、その後、優先順位に合う転職先を探していくのが良いでしょう。どんなに技術的に魅力があっても、アーリーステージの企業であれば年収ダウンは避けられないでしょう。年収アップが重要であれば、レイターステージの会社を選ぶ必要がありますが、一方で裁量は小さくなる可能性が高くなるでしょう。
(例)
・年収1,000万円ほしい ⇒ レイターステージの会社
・CTOになりたい ⇒ 創業まもないスタートアップ
・技術を極めたい ⇒ テクノロジー型のベンチャー企業
・社会貢献したい ⇒ 社会課題解決型のベンチャー企業
・面白い人と働きたい ⇒ ユニークな創業者のいる会社
・将来、起業したい ⇒ 経営陣の近くで成功体験を積めそうな会社
こういった具合に、何を転職の軸として、どれを優先すべきかによって企業の選び方が変わってきます。
③年収ダウン!?その時は?
収入って、やっぱり大事ですよね。ほんと大事です。
ただし、ここで認識しておいていただきたいのが、スタートアップ企業に飛び込む場合には、年収アップは稀なケースだということです。スタートアップ企業の場合、年収は現職・前職をベースに決まるのではなく、その会社のステージや従業員の水準に応じて、自分自身がどれくらいのバリューを発揮できるかによって決まります。そのため、スタートアップ企業への転職を視野に入れる場合、現在の年収は参考としつつも、こだわらないことをオススメします。
◆絶対年収アップさせたい人
(そもそもスタートアップ企業向きではないかもですが)以下のような会社を回るべきかと思います。
・レイターステージの会社
・既に利益が出ている会社
・テクノロジーに積極投資している会社
・巨額の資金調達を実施している会社
◆年収ダウン覚悟で飛び込もうとしている人
とは言え、やはり収入は大事な話なので、以下の項目を考えてから決断するといいと思います。
・許容できる年収の下限ラインを決めておく
・3年後には、いまの会社に3年いるよりも年収アップの可能性がありそうか
・リスクを取った分の見返り(ストック・オプション等)があるか
・うまくいかない場合でも、参画する価値があるか(キャリアにとってプラスになるか)
だいたいのスタートアップの事業は、そう簡単にうまくいきません。そのため、事業がうまくいかない状況の中でも、かつ年収が下がったままでも耐えられるかというポイントは、転職前から覚悟をしておくことをオススメします。
例えば、エンジニアであれば、たとえ事業がうまくいかなくても、その会社で培った技術力が次のキャリアに活きるか(次の転職時に評価されるか)、技術的に新しいことにチャレンジすることに意義を見出せるか、テクノロジーの力を活用して世の中(業界)を変えたいというミッション・ビジョンなどに心から共感できるか、などです。
ここの覚悟が決まっている方は、冒頭に述べたような逃げ出すような形での転職はせず、諦めずに挑戦し続けることで、仮に事業が失敗したとしても、きちんとしたスキルを習得して、次のキャリアに着実に結びつけているケースが多いように感じます。
④ストック・オプションで一攫千金?
年収が下がる見返りとして、ストック・オプションを付与して、従業員の貢献に報いるスタートアップ企業は多いです。
転職先のスタートアップが順調に成長して、IPOまで実現した場合、数年で数千万円、場合によっては、数億円、数十億円という巨額の利益を得る可能性があります。うまくいけば、年収が数年下がったとしても、それ以上のリターンを得ることも夢ではありません(ただし、うまくいくスタートアップ企業は、ほんの僅かだということをお忘れなく)。
また、ストック・オプションを、①誰に、②いつのタイミングで、③どの程度付与するかは、原則、創業者の思想(意向)によるため、入社したから、必ず付与されるというものではありませんので、事前の確認が必要です。面接などで確認しにくい場合、その会社の登記簿謄本(法務局で取得可能)を見ると、これまでどの程度、ストック・オプションを発行しているかわかります。
よくある誤解で、ストック・オプションを発行済株式総数の保有比率だけで考えてしまう方が多いですが、保有比率だけではなく、EXIT時の時価総額(成長可能性と言えるかもしれません)も同じくらい重要です。例えば、EXIT時の時価総額100億円に対して保有比率1.0%(1億円の価値)と、 EXIT時の時価総額1,000億円に対して保有比率0.3%(3億円の価値)では、後者の方が価値が高いわけですから、きちんとそのスタートアップ企業の成長可能性を見極めることも重要です。
参考までに掲載しておくと、一般的なストックオプションの付与比率としては、日本の場合、全体で10%前後を目安とし、その中での役職別や貢献度、入社時期などに応じての配分となるケースが多いです。
◆一般的な例(あくまで一例)
・ CTO/COO:3%前後
・ CFO/その他役員:1%前後
・ 部長/事業責任者:0.5%前後
・ マネージャー:0.3%前後
・ 一般社員:0.1%前後
※企業ごとの事情、入社時期や貢献度に応じて大きく異なる
ただし、やはりストック・オプションの恩恵を受けることができるスタートアップ企業は、本当に一握りなので、本質的には、自分の軸に合った企業選びを優先することをオススメします。
いかがでしたでしょうか?スタートアップ企業に転職するイメージが少しでもリアルになれば幸いです!
次回は、後篇:企業選びのポイント「その転職先でOK?決断する3つの軸」をアップする予定です。