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それぞれのDesign Leadership #04 - 収益を上げるR&D(Research & Development)

「Design Leadership」部門は、複数の要因とステークホルダーがからみ合い、一方向からでは解決がままならない硬直化した現状に対して、変革を促すためのシナリオ・プランニング、組織デザイン、新規事業創出などのファシリテーションやリードを行っていくチームです。
そのメンバーは、これまでどんなキャリアを積んできたのか。その1人であるプロデューサーの加川大志郎に、これまでのキャリアを振り返りながら、現在のDesign Leadership部門の活動について話を聞きました。

/登場人物:株式会社コンセント|プロデューサー、プロジェクトマネージャー 加川大志郎
大規模ウェブサイトや100サイト超のウェブサイト群のガバナンス、ウェブを中心としたデジタルマーケティングに関するコンサルティング、プロジェクト推進に従事。事業計画におけるウェブ領域の役割定義から、日常のオペレーション業務の効率化までをトータルでコーディネートできる守備範囲の広さに定評がある。近年はDX推進やマーケティング組織開発支援、デザイン人材育成支援に領域を拡げている。

「ウェブガバナンスのちょっと先」で、人と人を繋ぐ役割を担う

—現在、ウェブサイト運営を起点に非常に幅広い領域の業務をカバーしていますよね。

はい。ただ、自分の仕事を「業務領域」という形ではあまり捉えていなくて、「クライアントにどんな価値を提供できているか」という観点で捉えるようにしています。今は組織のコミュニケーション活動や、デジタル活用の推進といったことを、その仕組みづくりとから支援することが多いです。具体的には、3つのプロジェクトをメインで進めています。1つ目は、グローバル企業の各国サイト(30カ国 、20言語)の共通フォーマット構築と各国個別事情への対応、そのルール拡張。2つ目は、40社200サイトを統合管理するサーバ・CMS基盤の運営事務局と各社デジタルマーケティング推進支援。最後は、グループ会社10サイトの運営支援とその拡張、そもそものビジネスモデルや事業戦略の整理・見直し。この3つがメインです。イメージ的には、ウェブガバナンスのちょっと先の部分に携わっている感じですね。

—「ウェブガバナンスのちょっと先」というのは?

ストレートな回答ではなくて恐縮なんですけど、この仕事を始めて間もない頃、とあるマルチベンダー体制のプロジェクトで、最初に僕はUX/UIの部分を担当していたんです。でも、その体制をよく見てみると、フロントエンドとバックエンドを繋ぐ役割の人がいなかった。プロジェクトがスムーズに回らなくなってきたあたりで、頼まれてはいなかったけど僕が中に入って繋ぐ役割を担ったら、その動きをクライアントから非常に重宝がられたんですね。

以来、そういう人と人の繋ぎ目になることを他のプロジェクトでも担うようにしていくと、次第にクライアントにプロジェクトを検討する初期段階から意見を求められるようになっていって。そこでウェブガバナンスを構築する体制をつくるための予算取りや、社内体制のつくり方などを学ぶ機会に恵まれて、自然とクライアント側に踏み込んで仕事をするようになりました。ウェブガバナンスの要件が明確になる前だったり、整えたあとの適用だったり、スコープの前後を俯瞰して担うイメージ。だから、「ウェブガバナンスのちょっと先」なんです。

楽器メーカーの開発で実感した、現場の悩みを解消するモノづくりへの思い

—デザイン領域の仕事をするようになったきっかけは何だったんですか。

10代の頃からギター好きで音と電気に興味があったので、大学は工学部の電気電子工学科に進学したんです。それで大学院の修士まで進んで音声や画像の解析を研究して、最初の就職先は楽器メーカーの開発部門を選びました。でも、それまでソフトウェアのことしかやっていなかったのに、なぜかハードウェア部門に配属されて。回路図がびっくりするぐらい読めない上に、はんだ付けの作業がめちゃくちゃ下手だったので、当時は信じられないぐらいの挫折感を味わいました(笑)。

一方、その会社で良いこともあったんです。30人程度の会社だったので、ソフトウェア以外の開発はハード部門が全部担当するんですが、そこでハードウェアのUI設計や取扱説明書制作のディレクション、生産ラインでの品質管理なども経験できたんです。感慨深かったのは、音楽をやっているバンドマン目線で「現場のニーズが絶対にある」と思ってある機能を提案したときのこと。その案自体は上から却下されたんですが、実は数年後に大手メーカーで同様の機能を実装したエフェクターが発売されて。そのときの体験がずっと自分の中にあって、次第に「現場からのボトムアップで困りごとを解消するモノづくりがしたい」と考えるようになっていったんです。

—このときが、まさにデザイン領域の仕事との出会いだったんですね。

ですね。あと同時期に、たまたまある専門学校のメルマガで社会人向けウェブプロデューサーコースの募集を見かけたのも大きかったと思いますね。細かいことは忘れちゃったんですが、たぶんそのメルマガの中に「顧客リサーチ」「市場ニーズから企画を立案」というような文言があったんだと思います。そこで、「これはおもしろそうだ」と思ってその学校に通うようになりました。

その後、会社を退職して、中途未経験でディレクター、プロデューサーとして働けるウェブ制作会社に転職しようとしたんです。でも、業務経験がないと全然採用してくれない。それで、友人伝いで小さな制作会社に転がり込んだんですが、あまりにもブラックで……。途中、以前から憧れていた制作会社に受かることができたので、逃げるように退職しましたね(笑)。

新しい会社に来てようやく当時興味があったウェブ標準などに携われると思ったんですけど、今度は客先出向で単純なLPとメルマガをひたすら量産するという仕事ばっかりだったんです。単純な作業ですし、内容もルーティンワーク化していたので、「今の環境のままだとやりたかったことができない」と危機感を覚えるようになって、社外勉強会などに参加するようになっていっていきました。そうしているうちに社外のネットワークが広がっていき、そこで新しい知見を得るようになって、会社の仕事にだんだん物足りなさを感じるようになっていったんです。そこで、経営者と面識があった数社との面談・面接を経て、コンセントに入ることになりました。

「効率的に稼ぐ」方向への舵切りが、クライアントから信頼を得るきっかけに

—コンセント入社後は主にシステム開発を伴うウェブサイト構築プロジェクトに携わり、2019年にはDesign Leadership(以下、DL)部門の所属になります。DLに入るターニングポイントはあったんですか。

「効率的に稼ぐ」方向に舵を切ったことが大きいですね。というのも、入社後の数年間というのは、稼働量と成果、チームビルディングのバランスがうまく取れなくて、スキルセットと活動量に見合う利益貢献に至らない期間が続いていたんです。そんな状況に疲れてしまって、あるタイミングで「やりすぎもよくないんだな」と思い始めたんですよ。そのあたりから、なぜか以前より活動量を抑えても仕事がスムーズに進み、利益もついてくるようになっていって(笑)。

—非常に逆説的なエピソードですね。

自分も「楽をしよう」として顧客の課題や要望の仮説立案を先んじて行うようになったんですが、実はその方が効率的だとわかったんです。同時に、それがクライアントからの「わかってくれてる」「親身になってくれてる」という評価につながって、リピートオーダーが安定してくるし、クライアントの社内や、マルチベンダー体制の中でキーパーソンになれるようになりました。

—まさに、先ほどの「繋ぐ役割」の立場ですね。

そうですね。「無駄なことはやらない」「自社より適した会社がいれば、プロジェクトは譲る」という姿勢でいると、クライアントの投資判断の相談も受けられるようになりますし、予算計画の検討時点から伴走することもできる。そういう流れでいい塩梅に知見が蓄積されて、クライアントのさらなる信頼にもなっていったという実感があります。

とはいえ、僕の仕事というのは成り行きで広がっていくことも多い(笑)。興味本位でいろんなところに首を突っ込んでいったら、ウェブだけじゃなくて、コミュニケーションや組織、ビジネスの見直し・推進にデザインでアプローチするようになったという感じですからね。

DLに求められるのは、“圧倒的な属人性”で未知を切り開いていく力

—そもそも、加川さんにとってDLはどのようなものなんでしょうか。

定義されていない領域を対象に、「仕事として、もしくは世の中に対する価値として確立することができるのか」ということを実際に社会にぶつけながら整備して、その上で再生産がしやすいように枠に収められるような形にしていくのが僕たちの役割なのかな、と。いわば「収益を上げるR&D(Research & Development)」です。単にやりたいことを実験していくのではなく、ちゃんと社会に対して意義があることを確認しながら、対価が伴う形で研究開発を行っていますから。

ただ、このような動きをしていくためには、与えられた何かではなく、自らの興味関心や社会に対する問題意識を徹底的に掘り下げていく“圧倒的な属人性”をもって、未知のジャンルをどんどん切り開いていく力が必要になる。その点、DLのメンバーは会社や業種・業態という範囲で業務を捉えることがなく、社会課題や理想の未来をどう捉えて、どう対応していくかを中心に考えています。そのようなメンバーばかりが集まっているので、ちょっとした雑談でも視野の広い情報が飛び交うので、非常に刺激的ですね。

—DLはちょっと特殊なポジションなんですね。

そうですね。コンセント社内には「技術マトリクス」というスキルマップがあるんですが、実はDLに求められるスキルはそれに収まってちゃいけないんです。……というか、僕たちは「既存の枠には収まらないけど、外に出さないのももったいない」ということで集められた部分もありますし、「あえてカテゴライズされない」存在なんですよね(笑)。

ただ、このような存在を新たに社内で再生産していくということを考えると、非常に難しい側面もあります。DLに必要なスキルがあるとしたら、それは「枠からはみ出せるかどうか」。例えば、仕事をする上で管理されることというのは、実は心理的負担が少ないじゃないですか。でも、DLが支援するプロジェクトというのは、そういうところから外れる仕事ばかりなんですよね。そのため、「変化することを平然として受け止められる」というような、ある種の胆力や覚悟が必要なんです。……って、そういうことばかりを言っていると話が精神論になってしまってよくないんですが、それって、会社の仕事の中で学んだり、経験したりして培われるようなものばかりではないですよね。むしろ「10代、20代のときにどんな生き方をしてたのか」というようなところが試される感じもありますし。

10代からもち続けるマインドセットが、DLで活動する胆力に繋がっている

—DLメンバーになることを目指す場合、どんなことが必要でしょうか。

現状を言えば、キャリアパスとして目指すべきところというよりは、「気がついたらなっちゃった」というようなものなんじゃないでしょうか。というのも、「この先、どのように成長していくのか」というとき、DLは進む先にある1つの選択肢にはなると思うんですが、それが本当にその人にとっての選択肢になるかどうかというのは、それこそ「常識や固定観念にとらわれない」マインドセットがあるかどうかによると思うんです。ただ、デザインリーダーとしての生き方は楽しいし、お金を稼ぐこともできる。そういう意味では、「こういう選択肢もあるのか」と思われるように、その姿をわかりやすく提示していく必要があると感じています。

—最後に、今後どのようなビジョンをもっているのか聞かせてください。

最後なのに、すごくかっこ悪い話をするんですが……今むしろ「バンドをやらなきゃいけない」という気持ちがすごく盛り上がっていて(笑)。元々、10代の頃からずっと音楽に携わってきていますけど、やってきたバンドがどれもあまり長続きしなくて、実はそんなにライブ活動の実績がないんですよ。ここから新しくバンドを組んで、ある程度軌道に乗せて、ちゃんとライブができるようなレベルにしていくには少なくても2、3年はかかる。そうすると、僕は48歳。そうなったら、体力的な衰えが絶対に出てくるじゃないですか。だから、今のうちにバンドを軌道に乗せるところまではやっておかなくてはいけないんです。何て言えばいいのか、このタイミングを逃したら、自分の人生の取り返しがつかない感じがするんです。

でも、それを実現していくためにも、仕事はしっかりやります。仕事の面でもIPA(独立行政法人情報処理推進機構)のデジタルスキル標準が取りまとめられたりして、めちゃくちゃいい流れが来ています。幸い高いレベルで成果は出せていますし、この状態は絶対維持します。音楽の活動ってけっこう費用がかかりますから、ちゃんと資金調達していかないと(笑)。

インタビュー/柴崎卓郎 butterflytools
写真/栗原論 〔4×5〕


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