椎茸と市場
椎茸の値段が一年でどう動くか、ご存知でしょうか。
東京の市場のデータを見ると、はっきりした波があります。
一番安いのが7月。一番高いのが12月。その差は3割ほど。
同じ椎茸が、季節によって1.3倍になったり戻ったりしている。
年末年始なんかはもっと価格に差が出ます。
理由は単純で、鍋の季節だから。
11月から翌1月にかけて、正月需要も重なって値が上がる。
夏は逆に、誰も椎茸のことを考えない。
この波の中で、椎茸農家は何を考えているか。
まず、いつ出荷するかという話ではありません。
椎茸は保存の効く作物ではないので、採れたら出す。
米のように、値上がりを待って倉庫に寝かせるという選択肢がない。
だから考えるのは、いつ採れるようにするか、です。
菌床栽培は、菌床を仕込んでから収穫まで数か月かかります。
つまり、秋冬の高値に合わせるなら、その何か月も前に手を打っておく必要がある。
今この時期に動いていることの結果が、年末に出る。
先を読む仕事だな、といつも思います。
しかも読む対象は市場だけじゃない。
菌床の状態、その年の気候、人手の余裕。
どれかひとつ外れると、計画通りには出せません。
去年うまくいった段取りが、今年も通用するとは限らない。
うちが特に神経を使うのは、量の読み方。
需要が上がる時期に出荷が足りなければ、一番おいしいところを取り逃す。
かといって、作りすぎれば余る。
余った分を安く出せば、市場全体の値を下げることにもなりかねない。
しかもこの判断、うちだけの話ではありません。
椎茸の産地は全国にあります。
徳島、岩手、群馬、そして秋田と日本中。秋田県は生産量で全国4位です。
同じことを考えている農家が、他の産地にもいるわけで、みんなが秋冬に向けて増産すれば、当然ながら値は思ったほど上がらない。
市場というのは、そういう場所です。
こうしたように自分の努力だけではどうにもならない部分があります。
いい椎茸を作っても、その週にたまたま入荷が多ければ値は下がる。
逆に、他産地が天候で崩れた年は、こちらが何もしていなくても高く売れる。
理不尽といえば理不尽ですが、そういうものだと受け入れるしかない。
自分の畑の中だけを見ていても、答えが出ない。
よその産地の動き、輸入品の量、天候の影響。全部が絡んで、最終的な単価が決まる。
面白いのは、ここに戦略の余地があることです。
うちは黑椎茸という商品を作っています。
普通の椎茸とは違う育て方をして、味も見た目も別物にしたもの。
こういう商品は、市場の相場とは別の値段で売れます。
相場に乗るか、相場から外れるか。この選択が、農業経営ではかなり大きい。
相場に乗る商売は、シンプルで、作って、市場に出して、その日の値段で売る。
手間は少ないけれど、価格を自分で決められない。
相場から外れる商売は、手間がかかります。
品質を作り込んで、売り先を開拓して、なぜ高いのかを説明する。
ただ、うまくいけば価格を自分で決められる。
価格決定権が農家にあるのが何より強いということです。
どちらが正しいという話ではなく、両方必要だと思っています。
相場に乗る商品で量を作り、外れる商品で利益を取る。
その組み合わせをどうするかが、経営の話になる。
秋になると、この検討が本格化します。
年末に向けてどれだけ出せるか。どの商品にどれだけ振り分けるか。
来年の仕込みをどうするか。数字を並べて、判断する時期になる。
農業は天候の仕事だと思われがちですが、実際にやっていることの半分くらいは、こういう計算です。
そして計算の前提は、毎年少しずつ変わっていく。
去年と同じやり方で、今年も同じ結果が出るとは限らない。
そこが難しくて、たぶん面白いところなんだと思います。