「バスがなくなったら、どうやって病院に行けばいいのか」
地方を訪れるたび、そんな言葉に出会う。
駅から遠い。
バスの本数が少ない。
タクシーを呼びたくても、ドライバーが足りない。
移動の問題は、単に「交通が不便」という話ではない。
病院に行けない。
買い物に行けない。
学校に通えない。
観光客が地域に来ても、目的地までたどり着けない。
つまり、移動がなくなることは、暮らしの選択肢が一つずつ消えていくことだ。
私自身、これまでKDDIといえば「通信会社」というイメージが強かった。
けれど、今回の取材を通じて見えてきたのは、通信だけにとどまらない、地域の暮らしを支えるKDDIの姿だった。
こんにちはライターのセシルです。
今回お話を伺ったのは、2026年7月にCommunity Mobility株式会社から商号変更したKDDIスマートモビリティ株式会社(以下、KDDIスマートモビリティ)。
自動運転やAIオンデマンド交通、公共ライドシェアなどを通じ、持続可能な地域交通の実現を目指す同社の代表取締役社長、松田さんにお話を伺いました。
話を聞いていくと、そこにあったのは「自動運転の未来」というだけではなかった。
むしろ、その先にあるのは、もっと静かで、もっと人の暮らしに近い未来だった。
※取材中の様子
自動運転の、その先へ。地域の移動をどう守るのか
KDDIスマートモビリティの設立背景には、日本各地で深刻化するドライバー不足と交通空白がある。
これまでKDDIグループでは、AIオンデマンド交通や公共ライドシェアなど、地域交通を支える取り組みを進めてきた。
そこに加わったのが、自動運転だ。
けれど、松田さんの話を聞いていると、自動運転そのものが「ゴール」ではないことが分かる。
地域によって、抱えている問題は違う。
ドライバーを確保できる地域もあれば、すでに人手不足が限界に近づいている地域もある。
だからこそKDDIスマートモビリティでは、
「AIオンデマンド交通」「公共ライドシェア」「自動運転」を、地域交通を支える重要な選択肢として捉えている。
そして、この3つですべてを解決するのではない。
公共ライドシェアにAIオンデマンド交通を組み合わせるなど、地域の課題に応じてそれぞれを柔軟に組み合わせながら、今後も新たな手段を加えていく可能性がある。
一つの技術ですべてを解決しようとしない。
その地域に今、何が足りないのか。
その問いから逆算して、必要な移動手段を組み合わせていく。
そこには、「自動運転ありき」ではない、地域の現実を見つめる姿勢があった。
※自動運転車両の実証実験風景
「つながる」を支える通信が、移動を支える
では、なぜKDDIなのか。
その答えとして、松田さんが何度も口にしたのが「通信」だった。
自動運転車両には、複数のカメラが搭載される。
前方の道路に何があるのか。
対向車はいないか。
車内にいる乗客に異変はないか。
忘れ物はないか。
そうした情報をリアルタイムで遠隔監視センターへ送り、安全な運行を支える。
車両が走りながら「ライブ配信」をしているようなイメージだという。
その映像を支えるのが、KDDIの通信網だ。
自動車メーカーやスタートアップなど、さまざまなプレイヤーと組みながら、通信や遠隔監視といった「運行を支える仕組み」を担っていく。
そこで見えてきたのが、通信とモビリティの、意外なほど深い共通点だった。
「通信もモビリティも、時間と空間の制約を突破するものなんです」
通信によって、人は離れた場所にいる誰かとつながることができる。
モビリティによって、人は離れた場所へ行くことができる。
そして、どちらも大切なのは「つながりを止めないこと」
通信の世界では、設備が壊れることを前提に、ネットワークを二重化したり、別の回線へ切り替えたりする。
交通も同じだ。
バスが止まったらタクシーで補う。
自動運転が難しい状況なら有人運行へ切り替える。
一つの手段にすべてを委ねるのではなく、複数の選択肢を持つ。
それは、効率化というよりも、地域の「レジリエンス」をつくる考え方なのだろう。
※遠隔監視センターイメージ
本当に必要なのは、「移動」ではなく、その先にあるもの
取材の中で、特に印象に残った言葉がある。
地域にとって、本当に必要なのは「交通そのもの」だけではない。
その先にある、医療や福祉、観光、子育て支援。
病院へ行きたいから、移動する。
買い物をしたいから、移動する。
誰かに会いたいから、移動する。
そう考えると、交通は主役ではないのだと思う。
人が「したいこと」をするために存在する、生活の土台なのだ。
だからこそ、これからのMaaSも「検索・予約・決済を一つにするアプリ」というところで終わってはいけない。
地域にあるバス、タクシー、オンデマンド交通、公共ライドシェア、自動運転などを、その時々の需要に合わせて組み合わせる。
いわば、地域全体の移動を調整する「オーケストレーター」だ。
そこには、KDDIが持つ人流データも活用されていく。
いつ、どこに、どれくらいの人がいるのか。
何を検索しているのか。
そうしたデータを組み合わせれば、移動の背景まで想像できるようになる。
AIによって、大量のデータを最適化していく。
そんな未来を、松田さんは描いている。
効率化の先に、失ってはいけないもの
けれど、話は「すべてを効率化すればいい」というものではなかった。
むしろ、効率化していくことに対する複雑な問いだった。
たとえば、バス停でバスを待っている数分間。
隣にいる近所の人と話をする。
元気に学校に通う子どもたちがいる。
新しいお店がオープンしていることに気づく。
そんな何気ない時間が、地域のコミュニティをつくっている。
もしAIが最短ルートを計算し、待ち時間を限りなくゼロにしてしまったら。
私たちは、便利さと引き換えに、何を失うのだろう。
スマートフォンを見ながら移動することで、窓の外にある景色や、偶然の出会いに気づかなくなっていることもある。
「最適」だからといって、それが必ずしも「豊か」とは限らない。
スマートシティという言葉の中には、ときどき「無駄をなくす」という意味が入り込む。
でも、人の暮らしには、本来、少しの無駄がある。
寄り道。
待ち時間。
偶然の出会い。
そうしたものまで含めて、まちなのだ。
だからこそ、これからのモビリティに必要なのは、「すべてを最適化すること」ではなく、人間らしさを残したまま、必要なところを支えることなのかもしれない。
※画像はイメージです。
「実証すること」が目的になってはいけない
スマートシティについても、松田さんは率直だった。
これまで全国各地で、多くの実証実験が行われてきた。
新しい技術を試す。
データを集める。
成果を発表する。
けれど、その後に「では、誰がこのサービスを続けるのか」という問いが残ってしまうことがある。
本当に大切なのは、実証した事実ではなく、その地域で、5年後、10年後も使われ続けることだ。
そのためには、技術だけでは足りない。
自治体がいる。
交通事業者がいる。
住民がいる。
観光や医療、福祉に関わる人たちがいる。
それぞれが別々の正解を追いかけるのではなく、地域全体として何を目指すのか。
その合意形成こそが、スマートシティの難しさであり、同時に面白さなのだと思う。
全国にある「リアルな接点」が、地域を変えていく
KDDIには、通信という強いデジタル基盤がある。
しかし、それだけではない。
全国に広がる基地局。
auショップ。
そして、全国に 14,630 店を展開するローソングループ
(※2026年8月時点。出典:株式会社ローソン 月次情報(2026年8月分)
参考URL:https://www.lawson.co.jp/company/ir/financial/monthly/2026/2026_8.html )
データだけでは見えない地域の温度を、実際の暮らしの中で感じられる接点がある。
「地域の中で、住民として認めてもらえるくらい入り込んでいきたい」
松田さんの言葉からは、そんな意志が伝わってきた。
通信会社だから、通信だけを見る。
モビリティ会社だから、交通だけを見る。
そんな縦割りを越えていく。
交通が変われば、観光が変わる。
観光が変われば、商業が変わる。
人が動けば、地域の経済も動く。
そして、移動できるようになることで、医療や福祉へのアクセスも変わる。
一つの「移動」を起点に、まち全体が少しずつつながっていく。
移動の未来に残したい、人と人とのつながり
取材を終えて、ふと考えた。
自動運転というと、どうしても「人が運転しなくても車が走る」という未来を想像する。
けれど、松田さんが語っていたのは、そのもっと先にあるものだった。
誰かが病院へ行ける。
誰かが買い物へ行ける。
子どもが学校へ通える。
観光客が行きたい場所へ行ける。
災害が起きても、必要な人が必要な場所へ移動できる。
そして、移動した先で、誰かと出会える。
モビリティの進化は、単に「人を運ぶ技術」の進化ではない。
人と場所をつなぎ、地域の暮らしそのものを支えるインフラへと変わっていく。
KDDIスマートモビリティが目指しているのは、そんな未来なのだろう。
「移動を止めない」
その言葉の先にあるのは、車でも、AIでも、通信でもない。
そこに暮らす、一人ひとりの生活だ。
効率だけでは測れない、人と人とのつながり。
便利さだけでは守れない、地域らしい時間。
その両方を抱えながら、どうすればまちはこれからも動き続けられるのか。
自動運転の時代に問われているのは、「車がどこまで賢くなるか」だけではない。
人が暮らし続けられる地域を、どうつくっていくのか。
KDDIスマートモビリティの挑戦は、そこから始まっている。
MaaS Tech Japanでは、モビリティや地域交通に関するさまざまな取り組みを発信しています。
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▶︎ 株式会社MaaS Tech Japan 公式サイト
https://www.maas.co.jp/