公開日: 2024.05.29 visionsさんで掲載いただいた記事を引用しております。
「Make the World Smile for Peace」をビジョンを掲げ、コンパッション溢れるOneness(ワンネス)な世界を創るべく、ベトナムやカンボジア、インドで30数店舗を運営するグローバル ピザレストラン“Pizza 4P’s”。昨年11月には麻布台ヒルズに東京店もオープン。現在、予約が困難な状態が続いています。経営するのは元サイバーエージェントの日本人ご夫妻。人に誠実、人生にまじめ、とはいえ自分たちが心から楽しむことを忘れない。力が抜けているのに伸びていく。ふたりの経営観を聞きました。
想いをビジネスで表現することに、しばらくためらいがありました
──はじめにベトナムでPizza 4P’s(以下、4P’s)を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
益子陽介さん(以下、益子さん):
2011年に4P’sを創業する直前まで、サイバーエージェントの投資部門で働いていました。起業したいという想いはあったのですが、自分がテーマにしたいインナーピース(内なる平和)をビジネスで表現することに、ためらいと恐怖心があったんです。
当時はまだウェルビーイングという言葉も社会に登場しておらず、心の在り方をビジネスを通してメッセージすると、多くの人にとって宗教的に聞こえる部分もあるんじゃないかと思っていました。サイバーエージェントで経験を積んだのは、描いた理想を絵空事で終わらせないため。今の社会システムである資本主義から目を逸らさず、一度、どっぷり浸かっておく必要があると考えたんです。
大学時代、ヒッピー文化に影響を受けたこと、イギリスへ留学していたこともあり、海外で働きたい想いも強くありました。運よくハノイのポストが生まれ、一路、ベトナムへ。取引先のひとつにモバイルゲーム会社あったのですが、主に、ゲームへの粘着性をいかに高めるか、いかに課金させるかに従事していました。
ただ、子どもが産まれて、この先、自分の子どもが大きくなったとき、課金してまでゲームに熱中してほしいか、次第に葛藤が大きくなっていきました。子どものためにも、自分が心から誇りに思える仕事がしたい。以前から頭の中で描き続けていたビジネスを形にするなら今かもしれない。そうしてそのままベトナムで、妻と一緒に起業することにしました。
楽しみながら人や自然との繋がりを学ぶ「エデュテインメント レストラン」
──2024年現在、ベトナムで33店舗(5、6月開店予定の店舗を含む)、カンボジア、インド、東京にも出店。創業から十数年の間に4P’sが次から次へとおこすアクションは、エデュテインメント(教育と娯楽の融合)とサステナブルの文脈で注目を集めるようになっていきました。
高杉早苗さん(以下、早苗さん):
私たちがつくるのはピザ屋なのか、はたまた八百屋なのか?という議論はありましたが、「独立するなら一生かけてやりたいことをやろう」「生産者や食材のストーリーがたっぷり紹介されていて、ついつい買ってしまうような、遊び心のあるお店にしたいね」という方向性は一致していました。
▲Pizza 4P’s Xuan Thuy店内にある菜園。店舗から出る食料廃棄物をミミズコンポストで堆肥化し、その堆肥を利用して育てています。
また、私自身、赤ちゃんを授かって、人生に食が与える影響を、プリミティブなレベルで日々感じとれるようになったことも大きく影響しています。ベトナムで安心な野菜を手に入れる情報が手元になく、不安な時期もありました。でも、ひとつひとつ、食べられるものが増えていくさま、美味しそうに食べる笑顔をみるにつれて、あんまりストイックに考えすぎてもしょうがないなとも思いました。私も彼も食べるのも飲むのも大好きですし、レストランが真正面から「教育(EDUCATION)」を掲げると、お客さまもリラックスできないですからね。
「エデュテインメント」のコンセプトは最初に大きく描きながら、足元は堅実に、1店舗1店舗、本当に美味しい料理をご提供したいとがむしゃらにやってきた。それが正直なところなんです。お店が増えて、未来に投資できるお金がちょっと増えたら、やりたかったことを実現して。そんな風に一歩一歩、4P’sは歩んでいます。仲間が増えて、進むほどに使える道具が増えて、パーティー全体がパワーアップしていく。RPGみたいな感覚です。
平和のためのピザ。そのルーツは、自宅の裏庭に作ったピザ窯
──「Make the World Smile for Peace(平和のために世界を笑顔にする)」という壮大なビジョンをかかげる4P’s。そもそもどうしてピザと平和がつながったのか、その原点をお聞かせください。
益子さん:
実は20代前半、うつ病を患っていたんです。自分が本当にやりたいことはなんだろう。幸福とはなんだろう。世界中を彷徨い続けて、インドではヨガや瞑想の修行も行いました。親友が自殺で亡くなるというショッキングな出来事もありました。ハンサムで、映画賞も受賞していて。心からリスペクトしていた彼が、ある日忽然とこの世からいなくなってしまったのです。
I am not good enough, こんなんじゃ足りない。自分への不足感がずっとつきまとっていました。そんな折に当時の彼女が「ピザ窯でもつくってみたら?」となんの気無しに提案してくれて。東京の自宅の裏庭に、友人たちとピザ窯をつくり始めたんです。
ひとり、またひとりと、そこに友人がやってきて、小さなピザパーティーをすることが増えていきました。それぞれ食材を持ち寄って、生産者さんの共有もしたりしながら、オリジナルのピザをふるまう。そんな他愛のない時間を、みんなが笑顔で楽しんでいる。
食べものも、生きものも、人も、すべての存在がひとつのつながりの中にいて、今この目の前の時間があることに気づきました。実は自分はもう十分なんじゃないか、という感謝とともに、勝手に背負いこんでいた人生の肩の荷がおりていく感じがしました。自分がビジネスを通して想いを形にするなら、あのとき、あの瞬間そのものの幸福感をデザインするような事業がしたい、と思ったんです。
早苗さん:
その彼女が私だったら美しいストーリーなのですが、それは元カノです(笑)。でも実は私たち「よし独立だ、すぐにピザ屋をつくろう!」とそこは一直線に至ってなくてですね。お店の物件探しではなく「島探し」というステップを経ているんです。ちいさな島をひとつ購入して、あらゆるつながりの中で人は生きているということを体験できるような「場」をつくろう。そんなビジョンからスタートしました。目指したい世界を決めて、そこへ行き着くためのやり方がピザ屋という手段だったんです。なので、私も益子も、もともとお店はひとつでいいと思っていたんですね。
目の前のひとりの幸福を見つめる。それが4P’sの仕事観
──お店はひとつでいい。その想いとは裏腹に、出店の引き合いが増えていく4P‘s。創業からおよそ5年間は、お店を増やすかどうかをずっと悩み続けながら歩んでいると聞きました。
早苗さん:
店舗数を増やしてきたいちばんの理由は、働いているパートナー(社員)のためです。
仕事は人生の土台です。みんな自分のお給料をアップして、生活も豊かにしたい。私たちふたりの意向でミニマムなサイズにとどめたら、新しいポストも成長機会も増えません。
幸せをシェアするつながりの輪には、仲間たちの幸福もちゃんと入っていて、その幸福も循環していかないと、どこかで無理がきてしまいます。ふつうは、ビジネスの拡大のために人が必要なんだと思いますが、4P’sはすこしニュアンスがちがって。あくまで人々の幸福のためのツールとして、ビジネスを拡大しているという感覚です。今でも単純にスケールさせていくことに葛藤はあります。お客さまの幸福と仲間たちの幸福、いつも偏りすぎないようにバランスを注視しています。
──4P’sでは業務のIT化も進んでいます。多くの飲食店が苦労する社員の働きやすさや生産性をどのように捉えているのでしょうか。
益子さん:
人間でもロボットでもどちらでも良い部分はテクノロジーを駆使して効率化し、お客さまの満足度やスタッフのモチベーションに大きく影響するところはあえてアナログを残すようにしています。ひとりひとりのバリューを高めて給料をアップしていくためには、人は、人の心が価値を見出せる仕事に集中したほうが良いと考えているんです。
ただ、僕たちにとってのテクノロジーは、単純に効率化を進めるためのものではありません。たとえば、どの商品が人気で、どの商品が不満足なのかをリアルタイムで把握する、顧客からのフィードバックシステムがあるのですが、楽しみにご来店いただいた誰ひとり、不満を残していただきたくない、という想いから開発したもの。
データを見て、売れ筋の商品だけを残せばラクなんだと思いますが、それだと商品ラインナップが「マス化」してしまいます。4P’sのデータは、少数でも熱いファンの人がいる商品ならば残す、という判断をするために活用しています。
どこまでいっても僕たちが形にしたいのは、裏庭のピザ窯、そのつながりの風景。その輪から外れるような人をつくりたくない。だから非効率なことも多いのですが、非効率でも4P’sが貫くことは続けていくため、判断するためにITを活用しているんです。
▲Pizza 4P's Tokyoのみなさんと。
遊び人も、レベル20になると、賢者になれる
──さいごに、今回のライフスタンスエキスポのテーマである「はたらく」について、おふたりの考えをお聞かせください。
益子さん:
RPGのドラクエに遊び人という職業がでてきます。途中までは使いものにならない、パーティーのお荷物。そんな遊び人も、突き詰めてレベル20を超えると賢者に転職できるようになって、とても頼りがいのある仲間になるんです。
エデュテインメントの考えにも通じていくことですが、遊ぶように夢中になっている時期にしか経験できないこと、気づけない本質ってたくさんあると思うんです。そうした意味で経営すること、生きることも、自分自身どこかゲームだと思っていて、基本的には楽しいから続けている状態が、理想的な「はたらく」なんじゃないかなと思います。
早苗さん:
仕事は文化祭、といつも言っているんですけど、「はたらく」は、仲間達とみんなで作り上げていくお祭りだと思っています。めちゃくちゃ真剣だからこそ楽しくなる。それぞれにタレントがある人たちが集まって、必死になってやる文化祭。
益子さん:
遊びだからこそ、何をやるかの前に、誰とやるのか、誰と歩んでいくのかが大事だと思っています。純粋な遊びなら、価値観やフィーリングの合う人たちと楽しむもの。4P’sは、彼女や親友、さらには子どもたちまでも巻き込んだ文化祭です。
早苗さん:
インドに出店するにあたり、家族でベトナムから引っ越したのですが、もう慌ただしすぎて、住む部屋を内見せずにとりあえず決めて。ようやく部屋に到着したらシーツを郵送するのを忘れていて。まぁいっか、って、みんなでバスタオルを敷いて横になって寝て。大好きな家族や仲間たちと、RPGみたいに、本当にこの世界を旅しているみたいです。経営はやればやるほど真剣になるので、真面目になりすぎず、これからも遊び心いっぱいの4P'sをつくっていきたいと思っています。
*「Lifestance EXPO 2024」では、これからの「いい会社」とは何かを考え、実践する企業の共同体「PARaDE」参画企業が出展し、各社のライフスタンスを体感できるコンテンツが用意されています。visionsからも、カードゲームやワークショップを通して「はたらく」を捉え直すブースを出展予定。