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≪product/service(私たちの製品とサービス)≫世界最高クラスのAIスマートカメラ「Iシリーズ」「Rシリーズ」。その誕生の秘密に迫る!
世界最速・最小・最軽量クラスのAIスマートカメラ。それが私たちが手掛ける製品です。HMSは、ここ福岡から世界を狙うグローバルスタートアップ企業として2018年に創業しました。「Iシリーズ」「Rシリーズ」は当社ブランド「SiNGRAY(シングレイ)」の中でも最初にリリースされた思い出深い製品です。誕生の裏にはきっと面白いエピソードが隠れているはず!そんな思惑から今回は海外拠点とオンラインで結び、当時の関係者にインタビューを実施。開発時のことを振り返ってもらいました。
■話者PROFILE■
Pan ZiYi
上海支社副社長。2019年入社。浙江大学ダブルディグリー取得。IoT業界で豊富な製品設計と製造経験。2019年上海支社R&Dマネージャー就任。2021年より上海支社常務副社長。
――まずは自己紹介からお願いします!
Pan ZiYiです。製品の開発と生産が順調に進むよう、ハードウェア開発部や生産本部、資材購買部門の管理を行っています。社長の補佐と会社全体の経営管理も重要な仕事のひとつです。この上海支社には20人以上のメンバーがいますが、その半数以上がエンジニア。まさに開発主体の会社といった感じですね。
――Panさんもエンジニア出身なのでしょうか?
はい。私はもともとあるIoT企業に勤めるハードウェア系のエンジニアで、機器の自動化を専門に担当していました。これからトレンドになるであろうAIの会社に入りたいと思っていたところ、HMSに出会ったんです。社長のジェームスは当時すでにAIの世界で20年以上の経験があり、人柄も魅力的だったのですぐに入社を決めました。「Iシリーズ」「Rシリーズ」の開発は入社直後に私が任されたプロジェクトです。
「まだ見ぬ世界一のカメラを」。始まったプロジェクトは、業界に先駆けた大きな挑戦。
――つづいて「Iシリーズ」「Rシリーズ」についても紹介をお願いします。
Iシリーズは高解像度のRGBセンサーを内蔵する産業検査用のAIスマートカメラです。主にものづくり業界の生産工場で表面検査等に応用されています。非常に解像度の高い画像を撮ることができるので、たとえばLEDの表面に気泡やキズがないか、異物が入っていないか等、人の目には見えないレベルの微細な欠陥まで見極めることが可能です。
RシリーズはRGB+ToFのデュアルセンサーを搭載した3Dカメラになっています。こちらも同じく工場や物流拠点で用いられることが多く、ロボットの目となって自らの位置や姿勢、対象物を認識することが可能です。
おかげさまでたくさんのご評価もいただいてまいりました。たとえば、福岡県IoT認定制度に基づいた認定取得、さらに電子情報技術産業協会JEITAベンチャー賞、StartupGo!Go! 日本IBM賞、FGN NTTドコモ5G協創ピッチ最優秀賞…などなど、改めて振り返ってみても非常に光栄ですね。
――すごい受賞歴ですよね。従来品との違いはどういう点にあるのでしょうか?
どちらもとてもコンパクトで放熱性も高く、計算のスピードが早いという点が挙げられます。従来品はそもそもカメラ側ではなく、そこに接続されたサーバー側で計算を行っていましたが、これではたびたび遅延が起きてしまうんですね。その点、当社製品はカメラ側でも計算処理ができるエッジコンピューティングを採用し、そこにAIを組み込んでいるので処理速度にかけては比べ物になりません。それでいてインストール方法は非常に簡単。独自に開発したGPT(Graphical Programming Tool)を使えば、PC端末上でマウス操作し、ドラッグ&ドロップでブロック状の要素を繋げていくだけで誰でも簡単にプログラムが構築できるんです。
――なるほど、良いことばかりですね。開発しようと思ったきっかけは?
2018年後半に遡ります。AI技術は当時からすでに発展していてさまざまな業界や領域で使用されていました。ところが、組み込みのAIカメラとなるとほとんど見られず、先ほども触れたようなカメラ+サーバーという形式ばかり。私にはこれらがとても複雑なアーキテクチャーで構成されていて非常に不便に感じられました。AIのディープラーニングのトレーニングも、知識を持っている人でなければなかなかできない分野だったのです。
ただ、それゆえに「いいチャンスだな」とも思いました。世界を見渡してもこんなカメラをつくろうとしているメーカーなんて、あまりありませんでしたから。コンパクトで、なおかつエッジ側で計算できるような簡単なアーキテクチャーでできていて、データを高速処理できる。そんな世界一のカメラ開発に業界の先頭に立って挑戦したいと思ったのがきっかけです。
プロトタイプは火傷レベル!?エンジニアの総力で課題に立ち向かう。
――世界に存在しないものをつくる、と。苦労も大きかったんじゃないでしょうか?
数えきれないほど多くの問題にぶつかりました。まず産業用として使うには、コンパクトでありながら、あらゆる現場環境で動作できる丈夫さも持ち合わせていなければいけません。ものすごく暑いところもあれば、逆に寒いところもある。振動や衝撃を受ける可能性もあるし、照明などのノイズが激しいところも…。あらゆる環境を想定して、時にはカメラが実際に使用される現場環境を実験室の中に再現。そこでテストを繰り返すこともありました。
特に温度の問題には苦労させられましたね。動作温度が高すぎると、カメラは長時間使用に耐えられません。ところが、プロトタイプの時点ではチップの温度が90℃にも達していました。カメラの表面温度にしても70℃以上。もう人の手ではとても触れないレベルです。
――90℃!頭もオーバーヒートしそうな課題ですね。どうやって解決したんでしょうか?
絶対なんとかしてみせようと、ハードとソフト、双方の開発部で一緒になって改善案を出し合いましたよ。そうして2ヶ月ぐらい経ったころでしょうか。ようやく解決策が見えてきました。ハードウェア上はなるべく電力消費量が低い仕様に変更し、カメラ全体の構造も最適化してより放熱しやすいデザインに改めました。ボディに刻まれた深い溝も、表面積を増やすための工夫ですね。ソフトウェア上ではより効率的に動作するコードを設計し直し、機能ユニットのスリープをより簡単に制御できるよう改めました。努力と創意工夫はやがて実を結び、常温環境で30~40度にまで下げることに成功。みんな疲れていましたが、この日ばかりは「お祝いだ」と連れ立って食事に出かけことを今でもよく覚えています。
――日本で言う打ち上げですね(笑)。プロジェクトにはどれくらいの人員と期間が注がれたんでしょうか?
上海にいたのは6名ですが、フランスの拠点でもアルゴリズムのエンジニアが3名ぐらい参加していたので計9名ですね。プロトタイプの最初期バージョンができるまでが5ヶ月。そこから改善・改良が半年くらいは続いたと思います。着手して1年足らずでリリースまで漕ぎつけられたので、プロジェクトとしてはかなりうまくいったほうではないでしょうか。優秀なメンバーばかりでしたからね。組み込み系のソフトやスマホの開発経験がある人も多かったですし。米国のAIチップメーカーであるAmbarella社から技術サポートも得られていましたので、その恩恵も大きかったと思います。
産業界のDX化を加速する。AIにできることは、もっとあるはず。
――まさに血と汗の結晶として生まれた製品ですが、これらは世の中にどんな価値をもたらしたと言えるんでしょうか?
ひとことで言うなら「産業界のDX化に貢献できた」という点ではないでしょうか。製品は横浜で開催された国際画像機器展2019でリリースしたんですが、おかげさまで大好評。たくさんの方がこういう製品を待っていたんだな、とリアルに実感したものです。また、あるお客さまからは「ここ5年ほど悩んでいた問題がこのカメラで解決できた」なんて嬉しいコメントを頂戴できました。私自身も非常に感動しましたね。
メーカーとしては、価値ある製品をお客さまの手に届けられることが何よりの喜びです。今は経営寄りの業務が中心で、お客さまと直接やりとりできる機会も少なくなってきましたが、営業担当からのフィードバックを通して、みなさんの声を把握するよう努めています。交通状況の監視システムや駐車場の管理システム等、自分がつくった製品を街中で目にすることもしばしば。誰かに貢献できた喜びを噛みしめています。
――今後はどういう展開を考えていますか?
AIスマートカメラをターミナルとした、クラウド+エッジ+ターミナルの全体的なAIソリューション。その構築に取り組み、さらなるDX進化を支えていきたいと考えています。そのためにもまず心掛けたいのは、AI技術とディープラーニングを専門家だけのものにしないこと。より多くの人たちがこの技術を利用できるようにするのが重要です。
当社では独自に開発したディープラーニングのネットワーク「SiNGRAYNET」をご用意してユーザーの導入支援もスタートさせました。たとえばそのひとつ、分類専用の「ClassNet」を使えば、成熟した赤いイチゴとそうでない緑のものを分類することが簡単にできるようになります。また、たとえば外観検査専用の「SegNet」では自動車製造の分野ですごく小さなキズや汚れ、異物等を検出できるようになるんです。これらを運用するまでに、もう数万枚ものデータサンプルを苦労して用意する必要はありません。
冒頭でご紹介したGPT(Graphical Programming Tool)もありますし、ある程度の知識がある方なら2~3日、そうでない方でも1週間ほど使い方を勉強してもらえばディープラーニングのトレーニングができるようになるでしょう。これからの時代、AIはもっともっと身近なものになっていくべきです。
無限の想像力を解き放とう。その手で、その力で、さぁご一緒に。
――AIがより身近な存在に。未来が楽しみですね。では最後に、転職を検討されてる読者のみなさんにメッセージをお願いします。
HMSの技術者には同じ信念があります。それはすなわち、社会に貢献し、お客さまの悩みを解決できるような製品をつくりたいという思いです。若い人もいればベテランもいて、国籍もバラバラな彼らですが、この信念をもってみんな仕事に取り組んでいます。活発でダイナミック。知識や経験をシェアし合う風土は、きっとあなたにとっても心地よい環境であるはずです。AIはこの先10年・20年のトレンドになる分野。私たちといっしょに世界を変えるような製品づくりに取り組んでいきましょう。
――ありがとうございました!
最後にひとつこぼれ話を。ブランドネーム「SiNGRAY」は、シンギュラリティー【singularity】に由来しているんだとか。特異性・独自性のある製品開発を希望する方にぜひ知っていただきたいエピソードでした!