牛たんの檸檬が大切にしている「愛着のある接客」。それは、マニュアルに書かれた言葉だけではありません。
お客様のちょっとした変化に気づく。困っている人がいれば自然と声をかける。仲間が忙しそうなら、自分から手を差し伸べる。そんな一人ひとりの小さな行動が積み重なって、今の「牛たんの檸檬」ができています。
その文化を、現場に根付かせる役割を担っているのが松井です。
「僕は、飲食店って料理だけを食べてもらう場所じゃないと思っているんです。料理はもちろん大事。でも、最後に『この店、なんか良かったな』と思ってもらえるのは、人の部分だと思っています」
◆「愛着のある接客」は、マニュアルでは作れない
松井が大切にしている言葉が、「愛着のある接客」です。ただ元気に挨拶する。笑顔で接客する。それだけではありません。
「『このお客様に喜んでもらいたい』って、スタッフ自身が思えること。それが僕にとっての愛着のある接客です」
例えば、海外から来たお客様なら、その国の言葉で一言添えてみる。料理を提供したあとに、お客様の表情を見て「味はいかがでしたか?」と一歩踏み込んで聞いてみる。決められたことをやるのではなく、「自分だったら何をしてあげたいか」を考える。その積み重ねが、お客様にとっての「また来たい」につながると考えています。
◆「最初は、仕組みを作れば人は変わると思っていました」
その文化を作るまでには、もちろん葛藤もありました。
「最初は、自分が正しいと思っていることを、そのままスタッフに求めてしまっていました」
良い接客とは何か。こう動くべき。これはやった方がいい。経験があるからこそ、自分の中にはある程度の答えがありました。でも、細かくルールを決めて、できていないことを指摘するだけでは、人はなかなか変わらない。むしろ「やらされている」状態になってしまう。
そこで考え方を変えました。
「仕組みは、人を縛るためにあるんじゃなくて、人が成長しやすくするためにあるんだと思うようになりました」
そこから、朝礼・中礼、マニュアル、サンクスポイントなど、一つひとつの仕組みを「どうすればスタッフ自身が考えて動けるか」という視点で作っていきました。
◆「褒めるって、思っている以上に人を変える」
その中でも特に手応えを感じているのが、サンクスポイントです。仲間の良い行動を見つけたら、言葉にして伝える。一見シンプルな仕組みですが、その効果は大きかった。
「最初は、人を褒めることに慣れていないスタッフもいます。でも、誰かが誰かを褒めるようになると、それを見た別のスタッフも『自分もやってみよう』となるんです」
そして、ある時ふと変化に気づく。以前は指示を待っていたスタッフが、自分から周りを見て動いている。忙しい仲間を自然にフォローしている。さらに、その行動を後輩に教えている。
「そういう姿を見ると、仕事を覚えたというより、人として一段成長したんだなって感じます。そこが一番嬉しいですね」
◆店舗が増えても、最後は「人」
店舗が増えていけば、当然ながら人も増える。そこで課題になるのが、「どうやって檸檬らしさを維持するか」です。松井が大切にしているのは、特定の優秀な人に頼らないこと。
「店長が優秀だからできる、という状態では長く続かないんです。だから、誰が店長になっても、誰が新人として入ってきても、檸檬が大切にしていることが伝わる仕組みを作る」
ただし、仕組みだけで全てを解決できるとも思っていません。
「結局、お店を作るのは人なので。仕組みを作ったら終わりじゃなくて、現場を見て、話して、必要ならまた変える。その繰り返しだと思っています」
◆最初の3ヶ月で、「仕事ができる人」より「檸檬が好きな人」に
これから檸檬に入ってくる人に、最初から完璧を求めているわけではありません。料理経験も、接客経験も、必ずしも必要ではない。
「最初の3ヶ月で、仕事が完璧にできるようになってほしいというより、『ここで働くの楽しいな』と思ってもらえたら嬉しいです」
その上で、少しずつ仕事を覚え、自分から動けるようになる。そして最終的には、「教えてもらったからやる」ではなく、「自分だったらこうしたい」と言えるようになってほしい。それが松井の考える「成長」です。
◆一緒に働きたいのは、「素直で、人のために動ける人」
では、どんな人が檸檬に向いているのでしょうか。
「素直な人ですね。それと、人のために動ける人」
経験やスキルよりも大切なのは、もっと良くしたいという気持ち。お客様に喜んでもらいたい。仲間を助けたい。昨日より今日、今日より明日、少しでも良くしたい。そんな気持ちを持っている人なら、未経験でも大歓迎です。
逆に、「自分はここまでやればいい」という考え方の人には、少し合わないかもしれません。檸檬は、一人で完成させる仕事ではなく、みんなでお店を作っていく場所だからです。
◆「人が変わる瞬間」を、これからも見ていたい
松井が仕事をしていて一番嬉しい瞬間は、売上が上がった時だけではありません。スタッフが変わった瞬間。自分から動けるようになった時。後輩を気にかけるようになった時。お客様から「ありがとう」と言われて嬉しそうにしている時。
「飲食って、結局人だと思うんですよ」
料理を作るのも人。接客するのも人。お店の雰囲気を作るのも人。だからこそ、松井は「人が成長できる会社」を作りたいと考えています。
「店舗が増えても、檸檬らしさは残したい。でも、そのためには今いる人たちが檸檬を好きでいてくれることが一番大事だと思っています」
◆最後に、松井さんの素顔
休日は、仕事から少し離れてゆっくり過ごす時間も好き。……とはいえ、飲食が好きなので、休みの日に他のお店へ行っても、つい「この接客いいな」「こういう見せ方があるんだ」と仕事目線で見てしまうことも多いそうです。
好きな食べ物は、もちろん牛たん。そして座右の銘は──「継続は力なり」。
「結局、一番強いのは続けることだと思うんです。すぐに結果が出なくても、毎日少しずつ積み重ねる。その積み重ねが、人もお店も変えていくと思っています」
原社長が「世界」を語るなら、松井が語るのは「人」。世界10カ国を目指す檸檬の裏側には、一店舗一店舗、一人ひとりのスタッフと向き合いながら、文化を作っている人がいます。
「料理未経験でもいい。接客未経験でもいい。まずは一回、檸檬の空気を見に来てほしいですね。そこで『なんか楽しそうだな』と思ってもらえたら、それが一番だと思います」