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圧倒的な技術力や資金を持つOpenAIに対して、日本のAI企業の勝ち筋とは?

OpenAIが開発したChatGPT。その技術力の高さに驚いた人も多いのではないでしょうか。

それもそのはず、OpenAIは2015年当時、テスラやTwitterの元代表であるイーロン・マスク、Linkedinの創業者のリード・ギャレット・ホフマンが集結し、現在はY combinatorの代表であったサム・アルトマンがCEOを務めています。まさに錚々たる顔ぶれが事業を作り上げているのです。

もう生成AIの市場で勝負が決まってしまったかのように思われます。しかし、本当にそうなのでしょうか。日本発のAIスタートアップがOpenAIをはじめとする世界のテックジャイアントと戦うことはできないのでしょうか。

そんなことはありません。テックジャイアントにも弱点はあります。その弱点を攻略することで日本のAI企業が世界で戦う糸口を掴むことができます。

では、テックジャイアントの弱点はどこにあり、どう攻略していけばいいのでしょうか。

OpenAIの現状や強み/弱み、日本のAI業界の特徴などの観点から、日本のAIスタートアップがどのように戦っていけばいいのかを、Spiral.AI CEOの佐々木雄一氏に聞きました。

プロフィール


佐々木 雄一 Ph.D / CEO
ビッグデータ分析と機械学習が専門。スイスCERN研究所にて、ブラックホール研究や、ヒッグス粒子・超対称性粒子の探索を主導。 技術を広めて世界を大きく変えたいという思いから、経営を学ぶ必要を感じMcKinsey&Companyに入社。クライアントの戦略策定を支援。 NeuralPocket社の初期メンバー・CTOとして、AI開発と社会実装を主導。AI開発におけるPDCAサイクルを武器に、日本全国あらゆる環境下で安定稼働するAIシステムを構築、スマートシティ事業者としての立ち位置を確立。社員数も、創業から4年で250名規模へ拡大。同社は2020年に史上最短でのIPOを達成している。

OpenAIは「攻めている会社」
幅広い人・企業にサービス提供できる強みがある

— 現在、生成AIの市場をリードしているOpenAIにはどんな特徴があるのでしょうか?

OpenAIの特徴を一言で表せば「攻めている会社」です。OpenAIは、大きな規模を持ちながらもスタートアップの特徴を持っています。赤字を出しても問題がないという姿勢で、APIの提供に関しても、大きなコストをかけていても非常に低い値段で提供しています。

対照的なのはGoogleです。GoogleはBardをサービスとして提供したり、Gmailの中で生成AIを使ってメール作成の補完機能を実装したりしているのですが、それらを強く宣伝しない姿勢をとっています。

なぜ強く宣伝していないかというと、Googleの場合、新しいAIの技術を実装したことによってユーザー数が大きく増えるわけではないからです。Googleにとって、生成AIの技術を実装することは、売上が増えないにもかかわらず、言語モデルを運用するコストだけかかってしまいます。googleは営利企業であるため、ユーザーに生成AIの機能を積極的に使用してほしくないという立場を取らざるをえなくなってしまうんですよね。

このようにGoogleと比較すると、OpenAIの攻めた姿勢はより際立つと思います。

— OpenAIを始めとする海外のAI企業と、日本のAI企業の違いはなんでしょうか?

機械学習には「学習」と「推論」というプロセスがあります。学習は、大量の学習データをもとに、特徴の組み合わせパターンを作り出すプロセスです。一方、推論は、学習で生成した特徴の組み合わせパターンをもとづき、新しい事象に対して結果を導くプロセスになります。

海外と日本のAI企業の大きな違いは、海外企業は「学習」と「推論」までカバーしてサービス提供ができているのに対して、日本は「学習」までのサービス提供にとどまってしまっていることが挙げられます。ユーザーにとって、学習だけではサービスが使いづらい。推論用にサーバーをホストしておいてもらって、API経由で結果を呼び出せるところまでサービス上でカバーしないと、ユーザーにとっては使いづらいものになってしまうんです。

OpenAIは学習・推論までカバーし、APIの提供までサービス上でやってくれています。日本のプレイヤーは、学習したモデルを公開するところに留まり、ユーザーがAPI経由で気軽に使える状況を実現できていません。これは僕の私見ですが、日本の企業は、モデル開発能力をPRし受託開発に繋げたいという思想があるからではないかと思っています。ただ、受託開発は確かに利益は出ますが、スケーラビリティを失ってしまうという弱みがあるんですよね。

OpenAIの弱みは「AIのユースケースを示せていないこと」

— なるほど、OpenAIには「学習」と「推論」を幅広く提供するための姿勢があるということですね。OpenAIに弱みはあるのでしょうか?

OpenAIの弱みとしては、提供しているサービスを何に使うかを明確に提示していない点が挙げられます。OpenAIは「技術は提供するけれども、ユースケースは自分で考えてね」という姿勢なんです。AIがどんなユースケースで使えるのかを考えることについては他人に頼ってしまっている状態です。

僕の経験上、AIを何に使うかということについては、誰かが真面目に考えて主体的にユースケースを作っていかないと、そんなに簡単には思いつかないと思っています。

実際に現在さまざまなユースケースの分析をしてみてはいますが、AIの活用のコストが利益を上回るパターンは少ないのが現状です。

Spiral.AIは、生成AIのユースケース「ショーケース」を示し続けていく

— 圧倒的な強みがあると思えたOpenAIにも「ユースケースを示せていない」という弱みがあるのですね。弱みを踏まえて、Spiral.AIはどのように戦っていくのでしょうか?

まず我々は、学習モデルを公開して終わり・受託開発をするといったビジネスモデルではなく、OpenAIと同じように、さまざまな人や企業に幅広く使えるサービスとして提供していきたいと考えています。

その上で、AIが何に使えるのか、どうやって使えば費用対効果が合うのかを率先して示していきます。AIの活用方法を「ショーケース」と呼び始めたのですが、自分たちでAIのユースケースであるショーケースを作っていき、このような使い方だったら生成AIは使える・DXにつながるというものを打ち出していきたい。そして、そのショーケースを実現するためのプラットフォームを我々が提供していきたいと考えています。

— 生成AIのユースケースである「ショーケース」を示していくことが、勝ち筋になるのですね!

現在、Spiral.AIが提供している「Naomi.AI」というサービスもショーケースの一つです。Naomi.AIが本当に社会に受け入れられるのかはわかりません。しかし、生成AIを社内の文書整理だけに使っているのはもったいないと思っています。

そんな現状に対して、Naomi.AIは生成AIってもっと楽しく、わくわくする使い方もあるんだよと見せられるものになっていると確信しています。

Naomi.AIは、生成AI技術を用いて、実在の芸能人「真島なおみ」さんと音声やチャットで疑似的な会話コミュニケーションを体験できるのAIコミュニケーションサービス。真島なおみさんの声色、言葉の選び方、トーンやふるまいを最大限再現しており、本人とコミュニケーションをとっているような体験をすることができる。
詳しくはNaomi.AI公式サイトをチェック


生成AIの社会実装へ。必要なのは、生成AIの精度改善とユースケースの追求

— 生成AIの社会実装を進めていく上で、考えていることを教えてください。

生成AIの社会実装のためには、生成AIの継続的な精度改善とユースケースの提示が重要になってくると考えています。

生成AIなどの流行の技術というのは、出始めのタイミングで注目が高まります。この盛り上がりは多くの場合、テクノロジーやサービスに対する理解が不十分であることが原因です。だんだん技術的な課題や費用対効果の問題が明らかになっていき、盛り上がりもなくなっていく。

注目が落ちた時期を迎えても伸びる技術というのは、技術的な積み重ねができている技術なんですよね。技術的な積み重ねを経て、精度が改善され、社会実装の地盤が整えられるんです。Spiral.AIでもこの精度改善をできるようにしていきたいと思っています。

ただいくら精度を高めたとしても、精度が100%になることはありません。精度が100%にならないとしても、どのようなユースケースで最も効果を発揮するのかを見極めることが重要です。ユースケースの探索と定義は、社会実装のための最も時間がかかり、もっとも重要な部分となります。

したがって我々も、生成AIのユースケースをしっかり提示していき、自社で言語モデルを作って継続的に改善できる体制を整えていきたいと考えています。

— 今後、どんな戦いが予想されますか?

長く苦しい戦いになる部分があることも予想されます。なので、まとまった資金調達も実施しました。

正直、生成AIの社会実装は難しいと思います。今僕が世界中を見渡したときに、生成モデルを使って黒字を生み出している企業ってほとんどないんですよ。世界中の誰一人、マネタイズに本当に成功していない。誰もやったことのない道に進もうとしているので、長く苦しい戦いが予想されます。

しかし、人間のやっていることを生成AIが代わりにできるようになると考えると、費用対効果は必ずプラスになるはずなんですよね。実現は時間の問題と考えていますが、それを実現するのは本当に難しい。

— 長く苦しい戦いをしていく中で、思い描いた戦い方はできていますか?

Spiral.AIでは「DXプラットフォーム事業」「AI Character事業」の2つを提供しています。

現状では、コールセンターの応答を人間のように返答してほしいニーズがあって案件をいただいたりとか、イメージキャラクターとの会話体験を作ってほしいというお客様から案件をいただいたりだとか、概ね描いた流れと違わずに生成AIの案件が取れ始めています。

とはいえ、それだけで黒字になるということでもないので、生成AIの活用をもっと深掘って検証していく必要があると考えています。人間は生成AIに対して、どこに魅力を感じて、どんな便益を訴求していけるのかをもっと考えていかなければなりません。

現状、AIのCharacterと会話できるまでのサービスを開発しましたが、このままだと「話していて楽しい」という価値提供にとどまってしまいます。さらに価値提供を広げていくために、そのキャラクターと会話するなかで、旅行の予約までやってくれたらいいのかとか、何までやってくれたら人は嬉しいのかというところまで考えて、社会実装に向けてサービスを磨いていくフェーズかなと思っています。

「感情を大切にしたAI」で価値を提供していく

— 今後の事業展開について教えてください。

今後、Spiral.AIは「感情」を軸にしたサービス提供を進めることを考えています。

OpenAIやGoogleは基本的にIQ勝負なんです。つまり、質問に対して正しく答えることを価値としています。たとえば「爆弾の作り方を教えて?」と聞いても、絶対に答えてくれません。「それは社会的に認められていないからだめです」と答えるようになっています。

でも人間って、そんな真面目な人ばかりじゃないですよね。IQとは違った部分、「感情」の軸があると思います。爆弾の作り方を聞いたら「なにするの?どうしたの?」と聞いてくれる存在がいてもいいじゃないですか。というか、それが人間らしい回答になると思っています。この感情の軸のサービス開発は、OpenAIでも取り組んではこないと思っています。

Spiral.AIは、感情を大切にしたAIを作っていきたい。会話上自然なものを作りたい。そちらのほうが人間としても受け入れやすいですからね。

— 感情に寄り添うAIの開発を進めていくんですね!

現在、私達が向き合うべきなのは人間の「負の感情」なのではないかと議論しています。

人間って基本的に愚痴を言いたいんですよね。誰かに対して、自分の上司や会社の愚痴をいいたいと思っていること人は多い。現状、そういう負の感情が吐き出されている代表的なサービスがX(旧:Twitter)です。

ただ難しいのは、負の気持ちってババ抜きのようなもので、負の気持ちを伝えられたら、その負の気持ちを誰かに伝えないと自分が苦しくなってしまうんですよね。自分の中で負の気持ちを抱えて続けてしまうと、気持ちがおかしくなってしまうことがある。

AIはその苦しい気持ちの受け口になると思うんです。実際に、Naomi.AIを使っていただいたユーザーから「癒やされる」という言葉をいただきました。AIは、どんなに変なことを言っても、受け止めてくれます。

いわばAIは「仏」のような存在なんです。何を言っても、何をやっても怒らない。

今後、このAIの仏的な側面がSpiral.AIが価値を提供していくポイントになっていくかもしれないですね。

感情を大切にしたAIの開発で、生成AIの社会実装を目指すメンバーを募集中です

Spiral.AIではメンバーを募集中です。もし少しでも興味があれば、ぜひお気軽にご連絡ください。

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