最近、Wantedlyのフィードで「フルリモートより、出社できる人の方がキャリアのチャンスをつかみやすい」という趣旨の記事をいくつか見かけました。転職を考えているエンジニアと話していても、「結局、出社した方が評価されるんですか」と聞かれることが増えています。出社回帰の流れがニュースでも取り上げられる中で、自分のキャリアにどう影響するのか、不安に感じている人が多いのだと思います。
私はSESと受託開発を準備中の会社をやっていて、メンバーはリモート中心の現場にいることもあれば、客先に出社して働くこともあります。どちらの現場も近くで見てきました。その上で正直に言うと、「出社だから伸びる」「リモートだから伸びない」という分け方は、私の実感とはずれています。伸びる人と伸びない人を分けていたのは、働く場所そのものではありませんでした。
「リモートか出社か」で、伸びる人と伸びない人は分かれない
私が見てきた範囲では、出社している人の中にも伸び悩んでいる人はいましたし、フルリモートの現場でぐんと力をつけた人もいました。逆も同じです。出社して周りから良い刺激を受けてどんどん成長する人もいれば、リモートで黙々と作業して数か月たっても最初とあまり変わらない人もいる。
だから「場所」を変数の中心に置くと、説明がつかないことが多すぎるんです。たとえば、同じチームに出社で入った二人が、半年後にまったく違う育ち方をしていたことがありました。片方は周りを巻き込んで質問も提案もする、もう片方は与えられたタスクだけを静かにこなす。席が隣同士でも、ここまで差がつくのかと思いました。
出社を勧める記事の言いたいことも分かります。同じ空間にいれば情報が入ってきやすいし、ちょっとした相談もしやすい。ただ、それは「出社すれば自動的に手に入るもの」ではなくて、出社という環境を使って何をしているか、の話だと思っています。
場所はあくまで条件のひとつです。同じ条件を渡されても、そこから得るものは人によって大きく変わる。その差がどこから来ているのかを、現場で見てきたことをもとに書いてみます。
出社が効くのは、雑談と「横で見て覚える」が起きるとき
出社の良さを一番感じるのは、設計や進め方で迷ったときです。隣の席の先輩に「これ、どう書くのが普通ですか」とその場で聞ける。画面を一緒に見ながら、なぜそうするのかまで含めて教えてもらえる。この「ついでに理由まで聞ける」体験は、確かに成長を早めます。テキストで質問を書く手間がない分、迷っている時間も短くて済みます。
もうひとつは、人のやり方を横で見て覚えられること。ベテランがどういう順番で調べて、どこで手を止めて考えているのか。完成したコードだけ見ても分からない部分が、隣にいると自然と目に入ってきます。エラーが出たときにまず何を確認するか、ログのどこを見るか。そういう手順は、教えてもらうというより、見て盗む方が早いことも多いんです。
それから、雑談の存在も大きいです。休憩中に「あの案件どうなってるんですか」と聞いたひと言から、自分の現場では使っていない技術の話を知る。雑談は一見むだに見えて、視野を広げる入り口になっていることがあります。
ただ、ここで差がつきます。同じ環境にいても、自分から聞きにいく人もいれば、聞かずに固まってしまう人もいる。横の動きに興味を持って見ている人と、自分の画面しか見ていない人。雑談に入っていく人と、イヤホンをして黙々と作業する人。同じ空間にいても、やっていることはまるで違います。出社が効くのは、その場を使って人とやり取りをしている人にとってであって、席に座っているだけで身につくわけではないんです。
リモートでも伸びる人は、聞き方と見せ方がうまい
一方で、リモート中心の現場で着実に力をつけている人もいます。その人たちに共通しているのは、聞き方と、自分の状況の見せ方がうまいことでした。
リモートだと、黙っていると「順調そうだ」と思われてしまいます。実際は手が止まっていても、誰も気づけない。伸びている人は、ここを分かっていて、早めに声を上げます。「この部分で詰まっていて、自分はこう考えたけど、合っているか見てほしい」と、自分の考えを添えて聞いてくる。これだと答える側も状況をつかみやすいし、やり取りが一往復で終わります。逆に「分かりません」とだけ送ってくると、答える側は前提から聞き直すことになって、お互いに時間がかかります。
見せ方も同じです。今どこまで進んでいて、何で悩んでいるかを、こまめにテキストで残す。チャットに「ここまで終わりました」「次はこれをやります」と一行書いておくだけで、周りからの見え方はずいぶん変わります。これができる人は、離れていても状況が伝わるので、必要なときに手を差し伸べてもらえます。出社なら表情や様子で伝わる部分を、リモートでは意識して言葉にしている、ということだと思います。
実際に、入社して間もないころは日本語でのやり取りに不安があると話していたメンバーが、リモートの現場で着実に信頼を得ていったことがありました。その人がやっていたのは、難しい言い回しを使うことではなく、短くてもこまめに状況を共有することでした。「ここまで終わった」「ここで迷っている」を、たどたどしくても毎日書く。それを続けるうちに、現場の人が自然と気にかけてくれるようになっていきました。流ちょうさよりも、見せ方の積み重ねの方が効いていたんです。
つまりリモートで伸びる人は、場所のハンデを、聞き方と見せ方の工夫で埋めているわけです。これは才能ではなく、やるかやらないかの習慣の差ではないでしょうか。そして、この習慣は出社していても同じように効く。結局のところ、場所が変わっても効く力というのは、こういう地味なところにあるのだと思います。
SESの現場で見えた、環境よりも効いていたもの
場所の話を一度離れます。私はもともとエンジニアで、いくつもの現場を渡り歩いてきました。その経験と、経営者になってメンバーの現場を見るようになってから気づいたことを合わせると、成長に一番効いていたのは「その案件で、どこまで中身に関われているか」でした。
言われた通りに作るだけの役割だと、出社していてもリモートでも、伸び方は鈍くなります。なぜこの仕様なのか、なぜこの設計になっているのかを考える機会がないからです。私自身、若いころに指示通りに画面を量産するだけの時期があって、半年たっても自分が何を学んだのか説明できなかった覚えがあります。手は動かしていたのに、頭はあまり使っていなかったんだと思います。
逆に、小さくても「どう作るかを自分で決める」部分がある現場では、人は早く育ちます。ここはこういう理由でこう作りました、と言える経験が一回でもあると、次の現場での向き合い方が変わる。判断する回数が、そのまま経験の濃さになるからだと感じています。
だから案件を任せるときに私が気にしているのは、勤務地やリモート可否よりも、その人が中身に関われる余地がどれくらいあるか、です。テストだけ、調査だけ、で長く置かれると、場所がどうであれ成長は止まりやすい。ここは会社側が意識して動かないと変えられない部分なので、経営者の責任が大きいと思っています。本人の頑張りに任せきりにしてはいけないところです。
面談で確かめるなら、場所より「中身」を聞く
転職を考えている人に向けて、もう少し具体的に書きます。カジュアル面談で働き方を聞くとき、「リモートできますか」だけで終わらせるのはもったいないです。そこに加えて、いくつか中身に関する質問をしてみてほしいんです。
ひとつは、入って最初の三か月で何を任される想定か。ここで「まずは慣れてもらってから」としか返ってこない場合は、役割が固まっていない可能性があります。もうひとつは、いま動いている案件で、設計や進め方をどこまで自分で決められるか。具体的に答えられる会社は、人を中身に関わらせる気がある会社だと思います。
それから、リモートと出社が混ざっている場合、どういう基準でどちらになるのかを聞いてみる。「案件次第」で終わらず、その判断の理由まで説明できるかどうかで、会社が働き方をどれくらい真剣に考えているかが見えてきます。答えの具体度に、その会社の姿勢が出ます。
もうひとつ付け加えると、困っている人がどう助けられているかを聞くのも有効です。リモートで詰まった人がいたとき、どうやって気づいて、どう手を貸しているのか。ここに具体的なエピソードが出てくる会社は、離れて働く人のことをちゃんと見ています。逆に、ここがふわっとしている場合は、入った後に自分が孤立しないか、少し気をつけて見た方がいいかもしれません。質問はこちらが選ばれる場であると同時に、こちらが会社を見極める場でもあります。
結局、効くのは「中身に関われるか」だった
リモートか出社かは、答えがひとつに決まる問いではありません。集中して手を動かしたい時期はリモートが向いているし、新しい技術を一気に吸収したい時期は出社で人の近くにいた方が早い。人によって、時期によって、合う形は変わります。どちらかが絶対に正しい、という話ではないはずです。
ただ、どちらを選んでも共通して効くのは、自分から聞きにいけるか、状況を周りに見せられるか、そして案件の中身にどこまで関われているか、この三つでした。場所はそれを後押しもするし、邪魔もする。でも主役ではない、というのが今のところの私の結論です。
転職を考えるとき、「リモート可かどうか」は確かに大事な条件です。でもそれと同じくらい、「その現場で自分が中身に関われそうか」を見てほしいと思っています。場所は入った後でも調整できることがありますが、関われる中身は最初の役割でだいたい決まってしまうからです。
私たちもまだ創業して間もない会社で、整っていないところはたくさんあります。それでも、メンバーが中身に関われる現場をどう増やすかは、ずっと考え続けているテーマです。もし「環境より、何に関われるかで次の現場を選びたい」と感じている方がいたら、一度カジュアルに話せたらうれしいです。受託開発の立ち上げを一緒に進めてくれる仲間も探しているので、下の募集ものぞいてみてください。