全20回シリーズでお伝えしています「教えて吉田先生!これからの健康経営を考える」。前回は「健康経営の民間サービスの紹介(1)保険など」でした。今回は「健康経営の民間サービスの紹介(2)SaaSサービスなど」をお送りします。
インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。
―――前回に続き、健康経営に役立つ民間サービスに関して、本日はSaaSを中心に教えてください。
ユーザーである企業側からすると、自社の従業員の健康関連情報や健康診断の進捗状況、それに最近はストレスチェックなどの個人情報を、クラウド上に保管することに対して及び腰であった時期が長くありました。
ようやくここ数年、給与計算や労務管理などの分野のクラウド化と歩調を合わせて、従前のオンプレミス型サービスからSaaSに移行してきている状況です。
本日も私の知る限り、との前提ではありますが、健康経営に関連するSaaS業界の動向や、注目しているサービスに関してお伝えできれば、と思います。
その1:健康診断や保健指導管理のSaaSサービス
国際的に見ても、我が国では早くから職場での健康診断が義務づけられていたため、インターネットが普及する以前より、書類ベースでのアナログ的な手法で従業員の健康情報が管理されていたことは、容易に想像がつくと思います。
2000年代中盤以降にSaaSの概念が広がるずっと以前から、企業の健康管理部門を顧客とする、健康診断や保健指導管理サービスは存在していましたが、当然それらは、今で言うオンプレミス型のサービスで、健康診断の結果データの取り込みも不十分なままでした。
これらのサービスは主に商社やインフラ企業系のIT企業が開発し、最近はベンチャー企業も参入して、業務のIT化やペーパーレスに合わせ、SaaS化がスピードアップしてきているようです。
その2:パルスサーベイ
次が、やや手前味噌にはなりますが、弊社も開発・提供してるパルスサーベイです。下の画像はウォール・ストリート・ジャパンのTwitterリンクですが、日付に注目してください。
2014年12月の記事、と言うことは、2015年12月に日本で労働安全衛生法改正に基づきストレスチェックが義務化される、ちょうど1年前ですよね。
我が国では「年1回以上、57問のアンケート結果を集団分析して職場風土改善に結びつけましょう」と謳うストレスチェックですが、米国のトレンドはずっと先を行っていて、社員の個別の声を、短いスパンで定点観測的に収集し、職場改善に活かし始めていた、と言うことですね。
これだと圧倒的に速いスピードで社員の声をダイレクトに集められますし、個別の対応もはるかに簡単になります。そもそも職場のストレスの多くが業務内容や量、それに職場の人間関係である以上、ストレスチェックの高ストレス者対応のフローに任せても、「傷みつつある」社員に正しくアプローチすることは難しいのが現実です。
むしろパルスサーベイのような頻回の記名式アンケートを導入し、人事部門が主導して産業保健スタッフがフォローするという形が望ましいように私は思います。
弊社で開発したパルスサーベイのFairWork pulseの場合、人事労務スタッフと産業保健スタッフの両者が、協力しながら社員の課題解決にあたることを想定しています。
その3:AIチャットボット
最後に挙げるのが、個人的にもかなり期待しているAIチャットボットサービスです。欧米でも日本でも研究が進んでいるようで、特に米国ではベンチャーキャピタルからの資金調達も盛んに行われています。
例えばハリウッド映画には、頻回に「精神分析医との面談」のシーンが出てきますし、欧米のビジネスの世界では「コーチング」が受け容れられていて、病的な悩みであれビジネス上の悩みであれ、専門のカウンセラーに相談する、という文化が確立しているように思えます。おそらく、教会での告解のように自分の心の奥深い悩みを他人に聞いてもらう習慣があることが、影響しているものと思われます。
翻って日本では、メンタルヘルス問題で専門的なカウンセリングを受けることに抵抗感を持つ方が、圧倒的に多い。しかし「対人間」だと悩み相談に心理的な抵抗を感じる人も、「対機械」や「対AI」であれば「これを打ち明けると相手にどんな風に思われるだろう」などの忖度は不要ですから、良い意味で割り切って、カジュアルに相談できるはずです。
例えば、我が国における認知行動療法の大家で、国立精神・神経医療研究センターで認知行動療法センター所長を務められた大野裕先生が「こころコンディショナー」というサービスを開発されています。AIチャットボットにもいろいろな開発パターンがあるでしょうが、AIがクライアントの悩みに自然言語で回答可能になるまでにはまだまだ時間がかかると思われますので、現時点では認知行動療法のスキームでAIが初期対応し、一定レベル以上の悩みであれば、臨床心理士や保健師・産業医・精神科医に引き継ぐ、というサービスが現実的に思われます。
(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介)