全20回シリーズでお伝えしています「教えて吉田先生!これからの健康経営を考える」。前回は「幸福度とは?」でした。今回は「健康投資はもうかるの?」をお送りします。
インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。
―――健康投資の推進により、企業にはどのような経済的リターンがあるのでしょうか。
健康投資の経済的リターンについては、ジョンソン・エンド・ジョンソンの研究が有名です。同社は、第2次大戦中に制定したクレド(信条)の中で安全で衛生的な職場環境に言及し、「社員の衛生、安全、および健康に関するガイダンス」を掲げていました。同社はそれをいかに実現するかということに対して、たゆまぬ努力をしてきた企業であると評価されています。
グローバル企業である彼らは、全世界で働く従業員に対する健康投資の調査をした結果、約3倍のリターンがあるというエビデンスを出しました。これは論文としてもアクセプトされており、医療経済学的な評価を得ています。近年は日本企業でも同様の研究で似たような結果が出ており、やはり3倍程度のリターンがあるとされています。
もちろん、企業が健康投資の果実を得るまでにはある程度の時間がかかりますし、一時的にせよ支出が増える部分もあるのですが、近年注目されているSDGの流れに沿って社会を変革していく運動としては、非常に大きな意義があると思います。
―――健康投資により企業の業績はアップするのでしょうか?
最近、何人かの専門家の方に話を伺ったところ、業績との関係性は、実は現時点ではよく分からないのだそうです。私も、短期利益などの業績そのものにはダイレクトに結び付かないと思っています。
しかし、企業価値という意味では、すごく意味があると感じています。短期的な利益には結び付かないかもしれないし、すぐに目に見える成果としては導き出せないかもしれないけれど、やはり従業員に幸せに働いてもらう、幸福な社会活動を送る従業員を増やし、企業自身も「良き企業市民」であろうとする、という意味で、健康投資には非常に価値があると思います。
各企業がガバナンスの健全性や、世界にもたらす良き価値などを通じて、間接的にかもしれませんが、いずれ業績との関係性も証明されていくのではないかと思います。
―――労働市場と健康投資の関係性を教えてください。
経済産業省と東京証券取引所が出しているデータで、就活生と就活生の親世代に対する、就職先に望む勤務条件等のアンケート調査があります。
大変興味深い結果ですが、就活生の親世代で1位だったのが、「(自分の子どもには)従業員の健康や働き方に配慮している」企業に就職してほしいという回答です。就活生自身へのアンケートでもこの項目は2位でした(1位は「福利厚生が充実している」)。
おそらく親世代は50歳前後で、自身の健康問題が気になっていたり、身の回りに自らの健康を害したり親の介護を担ったりして思う存分に働けない同僚がいらっしゃるのでしょう。自分の子どもたちにはこんな会社で働いてほしい、というランキングで最上位になったのが「従業員の健康や働き方に配慮している」でした。この結果からも、人生100年時代を迎える今、長期に亘り職場で能力を発揮し、地域社会の一員として社会参加し、世の中に価値を提供することが幸せな人生である、との認識が広まってきていると感じます。
短期的な業績アップには結びつかなくとも、人的資源に対する適切な健康投資をおこない、健康経営優良法人などの認定を取得することは、優秀な人材獲得を目指すリクルート効果上、有効な手段であると考えられますね。
(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介)