全20回シリーズでお伝えしています「教えて吉田先生!これからの健康経営を考える」。前回は「メンタル不調って何ですか?」でした。今回は「ストレスチェックって何?」をお送りします。
インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。
―――ストレスについて教えていただけますか?
ストレスという用語は、もともとは外的な圧力によって歪みが生じた状態を指します。風船を凹ませた図に例えてみると、風船を押さえる力をストレッサーと呼び、ストレッサーによって風船が歪んだ状態をストレス反応と言いますが、皆さんも職場の研修などで、風船が拳で押さえつけられた図を見たことがあるかも知れませんね。
医学や心理学においては、外部から心身への刺激をストレッサーと呼び、ストレッサーに適応しようとして、こころや体に生じたさまざまな反応をストレス反応と言います。心身に対するストレッサーは、暑さや寒さ・騒音や混雑などの「物理的ストレッサー」、有害物質・薬物・低酸素や一酸化炭素などの「化学的ストレッサー」、それにもちろん人間関係や経済問題・家庭問題などの「心理・社会的ストレッサー」などあらゆる事柄ですが、通常私たちが「ストレス」と言う場合、この「心理・社会的ストレッサー」のことを指しますね。また職域においては、仕事の量や質、対人関係をはじめ、さまざまな要因がストレッサーとなるのはご存じのとおりです。
とは言え、ストレスは必ずしも忌避するべきものではありません。個人的・組織的な目標を達成しようとする際には当然に適度なプレッシャーが必要ですし、それをクリアしようと努力するからこそ、達成時の喜びや成長実感を得られるのです。一方で、ストレスが過度になると押しつぶされてしまったり、燃え尽きたり、果てはメンタル不調になる場合もありますので、何事もバランスが大切、と言うことになりますが。
いずれにせよ、各人においてこれぐらいの負担感や負荷状況で業務に取り組むのが適切、という均衡点があるはずので、そのバランスをうまく取れるよう支援するのが、企業側のストレスマネジメントではないでしょうか。
―――義務化されているストレスチェックとはどのようなものでしょうか?
「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票(4者択一)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査を指します。「労働安全衛生法」の改正により、労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から、毎年1回、この検査を全ての労働者に対して実施することが義務付けられたものです。
実施の目的は、労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスを溜めすぎないよう対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接指導を受けて助言をもらったり、会社側に仕事の軽減などの措置を実施してもらうなど、職場の改善につなげることで、メンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。
我が国の高度成長期を支えた第2次産業の中心である工場では、いかにムリ・ムダ・ムラなく効率よく生産活動を行うか、という考え方があったと思います。各職場において改善活動を実施する中で、心身の負担が大き過ぎると逆に生産効率が落ちてしまうという考え方が出てきました。各地の好事例を体系化する調査を始めたのが約20年前になります。現在のストレスチェックで標準的に用いられている、職業性ストレス簡易調査票57問版が公表されたのが2005年のことです。
―――ストレスチェックはどのような企業に課されてされているのですか?
法改正により義務化される以前から、大企業では自主的にストレスチェックに取り組むところが多くありました。なので大企業にお勤めの方は、ストレスチェックや社員満足度調査を含む社員アンケートとして、以前からなじみがあったと思います。
改めて労働安全衛生法に規定されたことにより「50人以上の従業員を雇用している事業所ではストレスチェックを実施すること」となりましたので、基本的には上場企業はほとんど該当しますし、非上場でも50人以上の事業所が1つでもある企業の場合、基本的には全社的にストレスチェックを実施するケースが多くあります。現在、日本に被雇用者が約6,000万人いる中で、ざっくり半分ほどの方はストレスチェックを受けているものの、残りの中小零細企業勤務の方はストレスチェックを受けていない状況だと思います。
議論としては現在「50人以上の事業所」とされている基準をいずれ「30人以上」としてストレスチェックの対象となる労働者の割合を増やす、等がありますし、おそらく別の機会にお話しすることとなる「新職業性ストレス簡易調査票短縮版80問版」が、ストレスチェック義務化6年目を迎える2020年12月以降は、標準質問セットとなる可能性もあります。
(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介)