中目黒の『なかめのてっぺん 本店』で料理長を務める櫻田雄士(さくらだ ゆうじ)さんは、社歴10年目のベテラン料理人。『なかめのてっぺん』全店の料理に目を光らせる立場でもあり、その一方で新メニューの開発にも余念がありません。入社当初より独立願望を抱きながらも、MUGENで働き続ける理由と、コロナ禍において、ひとりの職人として、そしてMUGENグループとして取り組むべき課題を伺いました。
食べる人に喜んでもらいたい
−櫻田さんの入社は2012年、27歳のときです。それまでの経歴を教えて下さい。
小さな頃からご飯を作るのが好きだったんです。両親をはじめ食べる人に喜んでもらえるのが嬉しかったんですね。その食卓が僕の原風景。飲食店で働くのが好きなのは、笑顔に囲まれていたいという気持ちが原点です。
高校生になる頃には、いつかは飲食店を開きたいと考えていて、1年生のときから居酒屋でアルバイトをしていました。高校を出てからは地元・仙台の和食割烹の店で働きはじめ、それから7年間、大衆酒場や炭火焼き、マクロビを取り入れた新風和食店など系列店5店舗で働き、調理場の2番手までにはなりました。
その後、外の世界を見てみたいと上京し、つてを頼って浅草にある100席以上もある大箱の寿司居酒屋で働くことになりました。ただ、働きはじめて3日ほどで「料理では得るものがない」と思ってしまいました。それでも紹介してくれた方の顔を潰すわけにもいかないので、料理以外の面で学べることもあるだろうと2年ほど働きました。この間にふぐの免許を取ったりもしたので、得たものもそれなりにありました。
−とはいえ、料理人としては行き詰まっていたんですね
そうです。そんなとき大嶋啓介さん(居酒屋『てっぺん』創設者。NPO法人『居酒屋甲子園』初代理事長)の講演を聞く機会があって、大人たちが飲食の未来を熱く語ることにびっくりしたんです。それで、そこで学んだ人たちが実際どんなお店を作っているのかに興味を持ち、『なかめのてっぺん 渋谷宇田川町』を訪ね、ここで働きたいと思ったのが入社のきっかけです。
笑顔に囲まれて仕事できる職場
−どこが魅力的だったんですか?
僕はそれまで、クローズドキッチンで働いた経験しかなかったんです。ですが、『なかめのてっぺん』はオープンキッチンで、料理人がサービスと接客もこなしている。それが新鮮でしたし、なによりお客様の笑顔に囲まれて仕事ができる。料理はひと通りやってきた自負があったし、対面接客も経験したい、店舗運営も学びたいし、なによりいつかは独立したい。すぐに電話して、面談の約束を取りつけました(笑)。
−入社後はどの店舗に配属されたんですか?
『なかめのてっぺん 本店』です。ほどなく丸の内店のオープンに関わるようになるんですが、それを言われたのがオープン前日(笑)。めちゃめちゃ忙しかったですね。丸の内はランチ営業も行なっていて、オペレーションもまだ定まってない時期ですから、大げさでなく、営業中は顔を上げる間もないほど忙しい毎日でした。
でも、まわりはみんな元気なんですよ。当時は内山(正宏)社長も営業に入っていたんですが、エネルギッシュな分、文句もすごく言われるんです。それでもみんな元気。異様にポジティブなエネルギーに満ち溢れていました。あの修羅場はとてもいい経験になりました。
−マネジメントに関わるようになるのはその後ですね
はい、料理の責任者と兼任で、店舗のマネジメントを任されました。新卒とアルバイトばかりの環境で苦労したこともありますが、彼らの成長もあって当初は無理と思えた売上のレコードを樹立したこともあります。内山社長に「やり続けろ、考えろ」と言われて、店舗をあげて頑張った成果です。
レシピの重要な役割とは
−いまは全店共通のレシピ開発も兼任されているとか
はい、4〜5年前からはじめて、居酒屋業態のレシピの開発と整理を行なっています。でも、本当はレシピ作るの好きじゃないんです。料理人の個性を削ぐことにもなりますからね。ただ、考えてみると、レシピにはいくつも重要な役割があるんだと気づきまして。
誰が作っても安定したクオリティを保てること。店舗ごとの味の差がなくなり、ブランドが向上することと。それに、経験が浅いスタッフにも、まずは料理の楽しさを覚えてもらえる。意外かもしれませんが、ここが大きいんです。そういう意味あいを含め、うちのレシピは接客も含む内容になっています。グランドメニューで基礎を学んだら、「おすすめ」メニューで自分を表現してほしい。お客様に喜んでいたいただくのはもちろんですが、誰もが参加できるMUGENのシステムを利用して、スタッフに成長してもらいたい。今の僕にとっては、他人の成長こそが自分の成功です。
−MUGENといえば、業態を問わず料理人が豊洲市場に頻繁に足を運ぶのが特徴的です。
これは食材や旬、相場を知ることが目的で、僕たちは午前遅めの落ち着いた時間に行くので、仲卸の方々と色んな話をしつつ、関係性を築くことができるんです。内山社長の「勉強しようよ」のアイデアがきっかけで今も続いていて、興味があれば誰でも参加できます。
そうやって得た知識と関係性が元になって、2014年に「もったいないプロジェクト」が立ち上がりました。今もMUGENが全社で取り組んでいます。もとは膨大な食材の廃棄を少しでも減らしたい一念でしたが、今ではコロナの時代にあえぐ生産者や仲卸に方々に少しでも恩返ししたいと思っています。
with コロナの時代、飲食店にできること
−コロナの終息にはまだ時間がかかりそうです。飲食店にとっても厳しい時期が続きますね。
コロナになってすぐ、外販をはじめました。通常通りの店舗営業ができないかわりに、店頭で魚と野菜を売ったんです。まずは生産者さんやサポーター企業の方々に少しでも貢献するため。そうすることで、皆に元気を与え、あらためて自分たちの価値を見いだしたいと考えました。
緊急事態宣言が延長された際は、「すべての人の『幸せの力』に!!」というMUGENの企業理念をあらためてスタッフ間で共有するチャンスだと捉えました。営業が再開したときには、理念のもと結束できる集団になっていたい。自分たちの強みを深堀りし、“本物”になるための取り組みを今も行なっています。
−そういえば、独立志向はどこへ行ったんですか?
入社時に内山社長と面談したとき、「学びきったと思ったらいつでも辞めていい」と言われているんです。その時は2年後に独立かなと考えていたんですが、いまだ学ぶことが多いですから、ある意味負け続けてますね(笑)。
独立はいまだ目標です。まずはお世話になった方々に最低限の恩返しをしなければなりません。そして、これからMUGENを背負って立つスタッフが、より成長できるよう行動したい。まだまだ、やるべきことがたくさんあります。