こんにちは、創業55年のスキューバダイビング機材メーカーを継ぐことを決意して、早3年目となったのが信じられない大沼(元英会話講師)です。創業者没後の継承はなかなかに不安ではありましたが、父が人生を賭けてきた会社に存続させる価値がないとは思いたくなくて、残ってくれた社員と新たな仲間とともに、第二創業のつもりで頑張っております。
しかしながらいきおいで会社を継いだ人間に、夢や希望を瞳をキラキラさせて語ることを期待されても厳しいよなぁ~なんて遠い目してる間も時間は容赦なく経過し「30年務めた熟練の作業員さんらが次々と引退してしまう問題」などが発生して、遠い目タイムは吹っ飛ぶのですが、こんな問題をきっかけに、この会社を継続することの意味について私なりの答えに触れた気がしたのでその話をします。
上の写真は、熟練の職人さんが一昨年相次いで引退され、困っていた弊社にやってきてくれた新人(!)の中山さんです。30年にわたり弊社の製造組み立てを担っていた前任者の仕事を引き継いでくれました。しかし中山さんは元々スキューバダイバーでもなく、工場の組み立て作業の経験もありませんでした
中山さんは、長く地元で愛された畳屋さんを営んできた、畳職人でした。時代の変化に逆らえずお店を閉めることを決め、この会社の仲間になってくれたのでした。
弊社の製品はもとよりライン生産では実現できない複雑な工程で作られており、製品の品質は、担当者の手作業で決まるので、大きな製造工場に勤めた経験は必須ではないと思っていました。畳作りで培われた中山さんの細かい作業を丁寧にこなす根気や、手先の器用さなどが活かされ、今ではドライスーツの吸排気バルブなど重要な部品の組み立てを中山さんが一人でこなしています。
もちろんこの成果は、先輩の職人さんが丁寧に仕事を引き継いで、フォローも完璧にしてくれたおかげであり、感謝以外にありません。中山さんにとっては初めての会社勤めとなりますが、ここで作られた製品が海を越えオーストラリアやアメリカのダイバーたちに使われている話を楽しそうに聞いてくれます。中山さんに作業を引き継いで4か月、ドライスーツのバルブに大きな問題は起きておらず、一つの製品の製造技術が、無事に新しい担い手に引き継がれたのかなと感じています。
会社が迎える新たなステージが、時代の波に埋もれてしまいがちな古き良き日本の技術にも、新しいフェーズを提供出来ているとしたら。そう思えば、なんとなく嬉しい気持ちになります。
温故知新の精神は、今の世代にもいつか必ず訪れる「世代交代」の瞬間を、暖かく優しいものであるように、今から願うことにもなるのではないでしょうか。